第百十話 突然の試験日
第百十話 突然の試験日
輝はそのまま教室の扉の前で降ろされ、よろめきながら教室に入った。そこには、キリを含めた全ての生徒が揃っていた。
「それじゃあ、試験を始めるわよ」
「あの先生!」
マリカが必死に背をあげながら言った。
「試験内容も相手もまだ聞いてないのですが」
「言ってないからね。実はかなりの人数に言われたのよ、戦闘試験が良いって。だけど、テルの戦闘を許可しちゃったから、断れないのよね」
「って、ことは……」
輝は静かに呟いた。
「そうよ、戦闘試験よ!」
「「やったー」」
「「よっしゃー」」
「「きたー」」
輝とキリを除く全員が喜びにあふれていた。ケレンは落ち着いたキリを見るなり、平然と静かになった。
「でも、先生どう試験をするのですか? リーグ戦ですか?」
「それがね、試験だからもちろん受かる人もいれば、落ちる人もいるってことでしょ……」
「つまり、負けたら不合格、B組に降格ってことですね」
「まぁ、一回の敗北では流石にねって思ったから、二回中二回とも負けたらね。そして、対戦相手はランダム。あと、クラス内順位は関係なし。これで良いかしら」
全員は納得したように相槌を打った。しかし、輝は不自由な体でどう戦うのか考えていた。
「(今のままじゃ体がうまく動かせない。感覚はあるんだけどな……)」
「じゃあ、気づいたかもしれないけど、ダルク先生が改良した場所に行くわよ」
そうして、ぞろぞろと皆で個別の特訓部屋があった場所に向かった。そこには、三階の体育館のような広い空間に加えて、薄く色のついた透明な壁があった。
「見る生徒はここから見てね。それで、試験の二人は中に入って。もし、自分の部屋に戻りたいのなら、それまで待っていてね」
「あの…… 呼びに来てもらえるのですか?」
輝は小声で質問した。実際、自分の部屋に戻ろうと動き出したのはキリと輝二人だった。キリはもちろん負けると思っていないからで、輝はただ休みたかったのだ。他の生徒は、もちろん他の生徒の魔法や弱点を見るために残るのだった。つまり、強いわけでもない輝が戻ろうとしていることに輝は恥を感じていたのだ。
しかし、ケレンもキリを追うようにして、自分の部屋へと戻っていった。ケレンはキリに弱く自信がないと思われたくなかったのだ。
「大丈夫よ、あなたの試験は後に回しておくわ。しっかり休みなさい」
そう、サクラ先生が言ったのを聞いて、輝は自分の部屋へと戻った。
「(さて、どうしたもんか……)」
輝の部屋には今だにタンタル鉱石の入った箱の山がある。輝は結局何も手をつけられていないのだ。
「これ、いるな……」
輝はため息をついた。そして、魔法が使えるか試して見たのだ。
「(体から押し出すように……)」
輝は自分の指先に伝わる熱を感じた。
「これが法力で……」
「(次は気を抜いて自然に……)」
輝は薄く手のひらを覆うようにして広がる微熱を感じた。
「これが機力だ! よし、忘れてない!」
そして、輝はボビーの言っていた鉱石の分別方法について思い出していた。
「(千三百度と千六百度、二千五百度、三千百度! ちゃんと覚えてる!)」
輝は一つの箱から鉱石を取り出し、右手で覆うようにした。
「千三百度!」
すると、鉱石から何かしらのメタルが溶け始め、輝は箱へと分別した。実際、輝は温度調節の極意を学んでいたのだ。輝が知ったのは、法力は五百度単位で熱を出せるのに対して、機力は百度単位で熱を出す代わりに最大出力は五百度程度なのだ。つまり、千三百度は二単位分の法力と、三単位分の機力の合成熱であるということだ。
輝は今まで、出せるだけを出していたのだが、自分自身の記憶を戻る中、熱についての情報が詳しく記載されていた。どのように熱が発生し、どのように体へと伝わっているのかなどなど。輝は不自由さはあるものの、魔法技術は上達していたのだ。
「千六百度!」
これも同様にたやすく、次から次へと、三千度まで終わらせた。しかし、タンタルが溶けきった鉱石にはまだ、溶けていない物質があった。
「(三千度でも溶けない、なら!)」
輝は力を振り絞って、四千五百度まで熱を上昇させたのだが、その物質には変化がなかった。輝は不思議に思いながらも、余った箱に入れ、他のタンタル鉱石に取り掛かった。
「終わった!」
輝の目の前にあるのは、前とは比べものにならないほどのタンタルだった。鉱石によっては多少違いはあったものの、タンタルの量は実物大ケレンが作れるほどあったのだ。
そして、輝はもちろん作った。髪の毛の一本一本まで精密に思い出しながら、描き、タンタルの塊は、ケレンへと姿を変えた。
「おぉー」
輝は自分自身の仕事に満足し、そのまま寝てしまった。
「テル! テル!」
誰かが輝の名を叫んでいる。それも部屋の外からだ。輝は目をこすりながら、扉を開くとそこにいたのはケレンだった。
「試験が……」
ケレンが唖然と見たのは輝が眠り始める前に作ったケレンの像だった。
「いや、ただ練習で作っただけで、別にやましいこととかは……」
「すごいじゃん! なんか私そっくり!」
「だ、だろ」
輝は焦りながら、タンタルの像を片手で触れて、形を崩した。
「それで試験だって、早く来て!」
ケレンは足早に大空間へと向かった。
「ちょっと待ってって!」
輝の足はまだ自由ではない。足の筋肉の衰えにとって、歩くのがやっとだ。それもゆっくりと歩くことで。
「テル、遅かったじゃない!」
「すみません、でも!」
輝は自慢げに輝が溶かして動かして来たタンタルの塊を見せた。
「なんでそんなことしてるの?」
「いや、重すぎて引きずることもできなかったので…… それよりも試験の相手は誰ですか!」
輝は周りの生徒を見渡して見た。すると、ローブ越しでもわかる微笑みが伺えた。そう、その相手はあのキリだったのだ。
「キリ……」
輝はあれほどキリと戦いたいと願っていたのに対して、いざ戦うとなると恐怖を感じていた。あのボビーが瞬殺されたのだ。そして、輝の意識を飛ばすほどの電力を持っていることを輝は知っていた。
加えて、輝は電気魔法の恐ろしさを見にしみて分かっていた。その速さ、その強さ、そして体さえも動けなくなる、有能さ。どれをとっても最強と輝は思っていた。そして、勝てるはずがないとさえも。




