第百九話 待ち侘びた時
第百九話 待ち侘びた時
輝が自分の記憶を探る日々が過ぎてゆき、一週間が経った。輝は自分のことをより知ることにはなったのに加え、父という存在を確認したことはよかったのだが、所詮子供の知能で、視界はぼやけ、父の顔を確認することはできなかった。とにかく、輝はベルトに言われたように自分の身体をより詳しく知ることはできなかった。
「(どうすればいいんだよ! 身体を知れって言われたって)」
その後、ボビーが輝に会いに行くことも減った。それは、試験間近だからか、諦めからかはわからないのだが、輝の元には誰も行かなかったのだ。
輝は再び暇になった。大量の本を見つけた時はどうしようかと考えていたのだが、綺麗に整理されていたのだ。まるで、誰かが整理をし直したのかのように。
「(なんか、暇だな……)」
輝は再び、壁を探って秘密の部屋がないのかと、探し回ったのだが、何もなく、ただ白い部屋があるのみ、それ以下でもそれ以上でもない。
そんなある日、ケレンが輝を訪ねた。
「テル、久しぶり。明日試験なのにあなたまだ寝てるのね。もう死んだの?」
ケレンは細い声で、心配そうに丁寧にいった。
「明日にはキリに会えるのよ! それで私が勝ってやるんだから! じゃあ、その時は報告するね」
そう言って、すぐに帰って行った。
次は、ボビーだった。
「テル、しばらく来なくて寂しくなかったか? そんなわけないよな…… 実は、あの鉱石どうにか抽出できないかなった頑張ったんだ。だけど、無駄だったみたい。やっぱり、テルぐらい高い温度の熱が出せないとな。しばらく、試験のために会いに来れなかったけど、あしたの試験が終わればまた来るから!」
そうして、ボビーは去って行った。
最後に来たのは、輝が待ちに待っていたベルトだった。
「テル、まだか? 今年の終わりにはもう死ぬって思っておけ。それまでにって思ってたけど、今回の試験に出て、ちゃんと卒業してもらわないと俺も困るんだよな。もう、サクラから聞いただろ、俺が魔法協会副会長だって。その理由はさておき、多少無理にでも、お前の意識をこの身体に定着させないといけないな」
[無理にでもって! できるのかよ! ならなんで最初からしなかったんだよ!]
輝はベルトに聞こえないとわかっていても、叫んで言った。そして、その後、伝わらないことに再度ため息をついた。
「どうせ、なんで無理にでもでいるならしなかったんだとか言ってんだろ! 聞こえねーよ。まぁ、とにかく今日はある人に無理に頼んで、弟子を借りて来た。だから、もしかしたらできるし、もしかしなければ、お前は死ぬな。まぁ、いいだろう」
ベルトは嬉しそうに笑った。ギャンブルを楽しむ中毒者のような、微笑みだった。
[誰だよ! 死ぬって、どういうことだ!]
そこで、部屋に入って来た人はローブをかぶっていた。しかし、その姿は輝には見えず、ただ聞き覚えのない足音のみが響いていた。
「(誰だ? 弟子って……)」
「じゃあ、頼んだ」
ベルトはその人に頼んだ。
「俺の電気で刺激を与えるだけでいいんだな?」
そう男の声が聞こえ、その男のあげた手を輝は確認した。細いが、力強い若々しい手が見えた。
「(電気って言ったか? おいおい、これって確か…… そうだ、心肺蘇生とかいう医療じゃねーのか?)」
[俺、別に死んでねーぞ! おい!]
「いきます!」
そして、次の瞬間、輝は身体に流れ行く電流を感じた。
[あぁ、うぅ]
「(痛てー)」
輝は身体がよろめくように感じた。しかし、輝はスクリーンから見える手を凝視していた。輝の知っている電気を魔法とする人物はライキ一人であった。しかし、輝の考えていることも関係なく、次の合図が出た。
「次、いきます!」
次の電流が輝を流れ、輝は白い床に倒れこんだ。
[……]
「(もう十分だろ……)」
輝は声も出ず、ただ激しい頭痛と痛みに襲われた。
「はい、つ」
[……]
「(……)」
輝は知らなかった。意識でさえも気絶することを。そして、輝はそこからの記憶を覚えていない。また、記憶を探る輝が知ったのは、輝が寝ている間のこと、気絶している間の記憶は記録されていないのだ。当たり前といえば、当たり前なのだが、便利とは言い難かった。
そして、輝が翌日起きると、輝は仰向けになって寝ていた。上に見えるのは白い天井だ。そして横に頭を向ける。そうして、見えるのは白い壁、右も左もだ。そして、輝は柔らかい白い床にいるのだ。
しかし、輝は違いを感じた。それは、白く柔らかいように見えていた壁や天井が、今ではただの平らなのだ。
「(どうなってるんだ? なんか、まだ頭痛いし……)」
輝は身体を起こした。そこに見えたのは、スクリーンではなく、白い壁と扉だった。
「(えぇ? どうなってるんだ?)」
輝は自分の周りを見渡した。すると、見える景色が違うことに気がついた。そう、輝が寝ているのは床ではなく、ベッドだ。
「(もしかして、俺!)あぁーーーー」
輝は大声で叫んだ。そして、感じた。叫ぶことができる喜びを。
その声を聞き駆けつけたのか、ダラクとボビー、カレンが走って来た。輝は今、足音だけでわかるのはもちろん、今は目で確認ができる。しかし、輝は他のことにも気がついた。それは、自分の左腕がないことであった。感覚がないのに加えて、まず腕の先がない。つまり、ケレンのような状況になっていた。
輝はベッドから降りようと、身体を動かしたのだが、輝はそのまま筋肉の衰えた病人のように倒れ落ちた。
「テル!」
ボビーとダルクによって輝はベッドへと起こされ、微笑んで迎えられた。そして、ボビーは輝に抱きついた。
カレンは扉の入り口で、微笑みを隠すように手を口元に当てていた。
しかし、皆が輝に優しいというわけにはならなかった。実は、B組は試験が始まる直前だったのだ。そういうことで、ボビーとカレンはダルクの指示で教室に戻って言った。
「テル。戻ってきて嬉しいのだが、お前はA組で、俺は俺の生徒がいるからな」
「は、はい。わかっています」
そう言ったそばから、サクラが病室に走りこんできた。
「テル!」
ダルクは静かに、病室を去っていった。
「テルが今日戻ってきてよかったよ。もう少しで退学だったんだよ! あと、ベルトにも会えたしね、昨日! 明日には起きるからってね」
サクラは嬉しそうに話していたのだが、急に血相をかえ、真面目に言った。
「それで、テル。ずっと筋肉使ってないから、身体が自由にうごかせなかったり違和感を感じるかもしれないけど、試験はしてもらうからね」
「えぇ……それって今日ですよね……」
輝はサクラの背中におぶられ、一階上の四階へと連れて行かれたのであった。




