第百七話 度々の訪問
第百七話 度々の訪問
輝がついに意識を取り戻した。彼が、それに気づいたのは音からであった。
「テル! テル!」
輝にはボビーの声が周りから呼応するように聞こえた。
「(聞こえる! ボビーだ)」
「テル…… やっぱりダメか……」
そうして、輝が耳にするのはボビーのため息と歩き去っていく足音だけだった。しかし、輝には音しかこの時点では聞こえていなかった。
その後もいくらかの物音が聞こえるが、人の声はボビー以来行くなった。
そして、聴覚を頼りにする輝に入った情報は、信じられない事実であった。それは、ボビーがある日言った言葉によって知ることになった。
「テル…… まさか、あそこでテルが勝つなんてね…… 本当に無理して…… なんでさ……」
そのため息と詰まる声の中には、輝が勝ったという言葉があった。何に勝ったのかそう考えていても、レイキ戦以外に考えられなかった。
[ボビー!]
そう、輝は話すことができるようになったんだ。しかし、ボビーに伝わらないようで、輝が叫んでも返事なく、定期的に輝に会いに来ているみたいであった。
[おーい、誰かー!]
返事がない。しかし、それだけではなかった。輝は自分自身の声がボビーの声のように呼応するような感覚を得たのだ。
「(エコー? 俺は、どこか部屋にいるのか? 部屋の外から話しかけられて、部屋の中からは声も聞こえてないってか?)」
輝は当惑しながらも、少しずつ感覚意識を取り戻していった。声の次に得たのは、嗅覚であった。しかし、無臭であるには変わらなかった。ボビーが来る音とともに、違う香りがするということには気づくのだが、それ以外では嗅覚が実際に戻っているのかもわからない状態であった。
そして、視覚が戻った際に、輝は全てを受け止めおえなくなった。輝がいたのは、小さな部屋のような場所だったのだ。輝の感じた雲のような感覚は間違っておらず、白い柔らかい部屋に輝はいるのだ。そして、輝の目の前には、近代的なフルスクリーンの映像が流れていた。
そこには常に天井のような趣のない風景なのだが、明かりがてかてかと付いたり消えたりを繰り返していた。そして、ついにボビーの顔を確認することもできた。その前方百数十度程度の範囲をそのスクリーンでは見ることができたのだ。
あたりを見渡すこともできず、ただ変わらない光景、変わらない香り、変わらない物音、それぞれの感覚を敏感にして、少しでも情報を得ようと輝は頑張っていた。しかし、その頑張り虚しく、得られる情報などなかったのだ。
そんなある日から、それまでの生活が変わり始めた。ボビー以外の来客が増えたのだ。
輝の元への最初の来客は、ケレンだった。
「あのさぁー、テル。今日は許可もらって来たんだけど、聞いた通りの感じだね。まぁ、ざまーみろって言ったらそうなんだけど、私はなんか言えないな。なんか昔を思い出すよ。腕をなくして私、ほんとどうしようって思ったんだ。だから、テルもきっと大丈夫だよ。いや、別に慰めてるわけじゃないけどね。だってキリが一番だし、でもテルが二番でもいいかな、なんて思っちゃうこともあってね。まぁ、こう言えるのもテルがこうだからかな。早く意識取り戻してよ!」
そうして彼女は去って行く足音とともに消えた。輝にわかったのは、自分自身があのまま腕を失ったという高い可能性だった。ケレンの物言いは同情地味な部分もあり、あのままダルクか誰かが止めたのではないのかとでも思ったのだが、ボビーの言っていた、勝ったという言葉に輝は引っかかっていた。
「(でも、ケレンが二番って! なんか嬉しいな。本音聞けて! まぁ、このままよくわからないここにいたら意味ないけどな……)」
そうして、数日後輝の元に訪れたのはカレンであった。カレンは最初、輝の視界の端をうろうろと動いていたのだが、心に決めたように、輝の元に駆け寄った。
「テル! って、聞こえてないよね。いや、聞こえてたらぶっ殺すわ。まぁ、とにかく災難だね。ほんとはもっと早くって思ってたんだけど、ボビーが結構来てるからね。ちょっと来づらかったんよ。でも、とにかく早く治って! なんか、この間、偶然ケレンとあってね。あんた、こうなってもケレンを泣かすんだね。でも、もういいと思うの。なんか私も悔しかったんだ、妹の方ができるし、あなたも何かとできるしね。だから、ケレンには上を見ろって言ったんだけど、テルもテルなりに頑張ってるみたいだし…… あの、勝ち方は尋常じゃないよ! 私、あれには驚かされたわ。突然人が変わったようにさ」
[えぇ、なんのこと!? カレン!]
しかし、もちろん輝の声を届かない。カレンは話を続け始め、輝は一息ついた。
「あれどうなってるの? もう死にかけててさ、腕押さえながら倒れたじゃん。だけど、レイキは容赦ないよね、もう倒れてるあんたをやろうなんて! でも、それからやばいじゃん! ふらっと立ち上がったと思えば、急にさ」
[だから、急に何? って一回倒れたって? えぇ、意味わかんない!]
輝はカレンに訴えかけるように叫ぶのだが、声は部屋で反響するのみだった。
「急にパッて! …… やばい!」
それは聞き慣れている輝にはわかったボビーが来ているということが。
カレンはすぐに気づいて、姿を突然消したが、扉を開く音がボビーやケレンが入って来るときのようになかったことから、輝のいる病室かどこかに隠れたように輝は受け取った。
そのもとに来たボビーは不思議そうな顔をして、輝の方を覗き込んだ。
「テル? いま、誰かの話し声が聞こえなかった? 答えれないよね…… 輝が起きたかもって思ったけど、まさかそんなわけないか……」
そう言ってボビーはすぐに去ってゆき、カレンは話を続けず、ボビーがさった後、時間を置いて扉を閉める音が輝にカレンの退室を知らせた。
そうして、何かわからない感覚のみの不思議な空間にある輝はついに全てを解く最初の一筋がある人物の来室によって起こることになる。
その日、輝はまばらに聞こえる二つの足音を耳にした。それは、ボビーのものでも、かと言いカレンやケレンなどでなく、男性しかも成人男性の足音だった。重々しく、かと言って揃っていない。
「テル、どうしてる?」
「(えっと…… ダルクだ)」
輝には確証はなかったものの、ダルクがテルの方を覗き込んだことで認識できた。
そして、二人目と思われる男も輝を呼んだ。
「テル、さっさと起きろよ!」
その声の主はすぐに誰の声か輝にはわかった。




