第百六話 終焉の朦朧
第百六話 終焉の朦朧
レイキの太刀の鋭さはその輝きが物語っていた。確かに、輝の短剣もなかなかの鋭さだが、それでも劣っていたのだ。
「結構やるみたいだな、レイキ」
「結構ってか…… いいぜ、やってやんよ」
とは言ったものの、二人の戦いは硬直しているに変わらなかった。熱によって上昇した速度では輝が上を行き、レイキは輝に掠ることも許されなかった。対して、輝の攻撃は、レイキの氷結による硬化によって剣が通らなかったのだ。確かに、輝の熱を送り込むこともできるのかもしれないのだが、輝はそこまでに達していなかった。常に、同時に様々なことを考え行動する、それは経験からでしか学ぶことはできないのだ。
「このままじゃ、終わらないぞ」
「魔力が尽きるまででいいじゃねーか」
「そんな持久戦なんて、さっさと終わらせようぜ、レイキ」
「じゃあ、降参でもしてくれ! どうせ負けるんだからな」
輝は黙った。そして、その沈黙の中に、どうすればいいのかという考えをめぐらしていた。対して、レイキには余裕があった。魔力と機力ともに輝の上をいっていることは知っていたのだ。
「(どうすれば! 俺は熱することができるだろ。つまりは、あいつの逆! でも、そんなことはわかってんだよ!)」
しかし、輝は攻撃をやめたのだが、レイキの攻撃は止まない。輝には、考えが断片的になり、ただでさえない頭を使っているのに対し、さらに困難を要した。
「(熱がもっとコントロールできれば! そしたら、あんな剣なんてすぐに溶けるのに!)」
[困ってますね]
「(トクは黙ってろ! これは俺の戦いだ! 気づいたんだ、俺がやらないといけないってな)」
[良い心行きですね]
「(だから黙れ!)」
[でも、負けていいのですか?]
「(だから今考えてんだろ)」
[きましたよ!]
「(わかってるよ!)」
輝は足に熱を込めて、レイキからさらに距離をとった。
「いい加減に懲りろ! 俺には追いつけないのろまなんだから!」
「おい、今ノロマっていったな?」
「あぁ、違うんか? だって、冷たいと細胞の働きは遅くなるからな。馬鹿でもわかるぞ!」
「だから、お前は馬鹿なんだよ! ほんとは使いたくなかったんだけどな。そろそろいけるかな」
その瞬間、レイキは一瞬で輝の元に移動した。輝は今までのように熱を足に込めて、距離を……置くことができなかった。輝が逃げた瞬間に、レイキも輝に追いつく速さで、太刀で輝を斬りつけた。
「うぅ…… いて……」
輝の左手が斬り落とされた。腕からは血が勢いよく吹き出し、輝は痛みにくらついた。
「おぉ、おぃ! どういうことだ!」
「敗者に用はねーよ」
観客席にいるダルク、サクラ、そしてボビーたちB組の生徒も驚きと戸惑いにおどおどと他を見ていた。
「テル! レイキ、もういい、お前の勝ちだ!」
「いや! (いてー、でも……) 俺はまだやれます!」
輝は残った右手の手のひらをダルクに向けた。そこには、絶望、痛み、そして希望があった。
「いや、俺がやります!」
輝は腕のなくなった左肩部にタンタルを溶かしてつけた。
「(これで出血は止まるか……)」
[諦めてください。持ちません! これ以上魔法を使うと、タンタルでこうしても漏れてきますよ!]
「(なんだ、心配か! そんな暇があるなら、俺が勝てる方法でも考えてろ!)」
[でも、さっき自分でやるって……]
「(あぁ、お前も俺の一部だろ! お前も俺だ! 頼るななんて言わせねーからな!)」
しかし、レイキはあくまで冷静だった。輝を心配する様子は少しもなく、輝をどうして殺すかと考えていたのだ。彼の熱使いに対しての執念はものすごいものだったのだ。そうした劣等感が彼に道徳的感情を忘れさせていた。
「レイキ!」
「あいつは降参してないから、やめるつもりはありませんから!」
ダルクはレイキにやめるように叫ぶのだが、レイキは止まらず輝に急速的な速度で攻撃を繰り出していた。
「くどいな」
「さっさとくたばれ!」
「あの時はお前の速さをなめてただけで、今なら避けれんだよ!」
「あぁ、さっさと魔力を使い切るんだな」
しかし、この場でいくら出血を無理に止めたとて、逃げられないものもあった。止めた傷口からは血が動くたびに漏れていたのだ。そして、輝は頭痛に悩まされた。意識もを失うほどの、ひどい頭痛に……
「(いたい! いたい! いたい!)」
[だから降参をって!]
「(いや、絶対にそれだけは! 今負けたら恥ずかしいだろ!)」
[恥ですか! いつもかいてるじゃないですか!]
「(いや、俺は決めたんだ! キリに負けるまで絶対に負けないってな! だから、その挑戦権もなくなるんだぞ!)」
[あの……提案があるのですが……]
「(なんだ!)」
[いや、その……]
「(早く言え! もう…… 痛みで朦朧としてんだよ)」
輝の疲労は目に見えるものであった。フタフタとよろつく体を抑えながら、なんとかレイキの攻撃を避けていたのだ。
「(早く!)言えーーーーーーーー!」
観客席には驚きが一瞬、そしてその後は同情が垣間見れた。この輝の言った言葉はまるで、降参を自分自身に迫っている、健気な感情だったのだ。言いたくても言えない、そんなように輝は見られていたのだ。
[ですが、私がどうなるか……わかりません……]
「(どういうことだ?)」
[後、あなたがどうなるかも……]
「(なんの話をしているんだ! とにかく頼む! どうすればいいんだ……)」
[一度気を抜いてください]
「(気なんて抜いたら、もう気絶するぞ!)」
[とにかく! 早く!]
「(わかったよ! ……)」
輝はその瞬間、意識が遠のくことを鮮明に感じていた。まるで、海に沈んで行くのかのように、だんだんと、明かりがなくなって行く。そして、暗闇の中に沈んで行くのだ。
……
なんか……
……
……
……
俺どうなんだろ……
……
……
トクは何をしたかったんだ……
……
……
……
まぁ、これでゆっくり……
輝は雲の上にいるような心地で眠っていた。丸一日、意識が戻らないまま。ただただ、沈んでいった先にある、白い世界があった。
「(ここはどこだ? なんか、気持ちいいわ……)」
……
「(なんか、ぼーっとするな。でも、すごい楽だわ)」
……
……
「(どうなってるんだろ…… そろそろ意識も……)」
……
……
輝はそうして意識を戻さないまま、数日、数週間過ぎていくことも知らず、気持ちよくどこかにいたのだった。




