第百三話 進まない一本橋
第百三話 進まない一本橋
輝は昨夜遅くまで、サクラ先生の購入したタンタル鉱石の分別に励んでいた。まず初めに、輝は熱を出しきった。が、ケレンとの特訓のせいか、輝にはほとんど法力が残っていなかった。
「(これじゃあ、いつになっても……)」
[何も溶けませんからね。千度程度じゃ]
「(そういえばトクって何度までわかるんだ?)」
[わかりませんよ]
「(えぇ?)」
[だから温度は適当に言っています]
「(えぇ? いや、待って……えぇ?)」
[そんな正確な温度がわかるわけないじゃないですか! ただ、体の細胞の活性化を記録化して、何度程度か計算しているだけです]
「(すげーな)」
[それはあなたですよ! ほんとはとうに死んでいてもおかしくないんですから]
「(それもそうだけど…… へぇー)」
[なんか照れますね]
「(なんだよ、プログラミングには感情はないんだろ!)」
[私も一様はIAですからね。学ぶんですよ]
「(いや、学ぶって実際ではないんだろ!)」
[それはそうですけど。ただ、こういうときに人間はこういう感情になって、こういう態度、こういうことを言うなどとデータからあたかも己の感情があるようにしているんですよ]
「(なんか企業秘密みたいなこと言ったな)」
[何を言っているのですか? 私のクリエーターは……]
「(そうだよ、トクの生みの親って?)」
[知りません……]
「(俺の父ちゃんと同じだな)」
[まぁ……]
そうして、二人の真夜中の気の抜けた魔力制御の特訓が始まった。しかし、ケレンとの制御の特訓とは違い、これは全体量の制御。そして、ケレンとは法力・機力の比率の制御なのだ。
ノーベンバー 二日
今日もケレンが輝に一生懸命に教えている。
「だから、イメージするのよ! こっちに法力を最大出力のこれだけを、機力のこれだけをこっちにってね!」
「それって!」
「えぇ、サクラ先生から聞いたわ。制御もできるようになりたいって」
「あぁ……」
「まぁ、結局することは似てるから同時に教えるわ」
「ありがと」
「お礼なんかいいから、さっさとして!」
「やってるって!」
「できてないじゃない!」
輝にはわからなかった。ケレンは確かに熱心に輝を教えているのだ。輝からしてみれば嬉しい気持ちでいっぱいなのだが、キリが好きなのであれば、いくらキリが教えられる女性が好きだったとしても…… と輝は困惑していた。
「なんか他のこと考えてたでしょ!」
「いや」
「いやって、わかるんだからね!」
「ケレンのこと……」
輝は恥ずかしそうに言った。
「何よ、気持ち悪い!」
「いや、なんでこんなに必死に教えてくれるのかなって」
「知ってて言ってるんでしょ!」
「いや、知ってるけど、それだけじゃないような気がしてね」
「何勘違いしてるの? 私があんたみたいな弱い奴を好きになるわけがないじゃない!」
「カレンが何を言ったかは知らないけど、俺はそれで構わないよ(いつかキリをぶっ倒してやるからな)」
「はいはい、切り替えて! そういうことは制御できるようになってから言って」
ケレンの言い草は多少、無理に強気になっているようにも輝は感じた。まるで大きい声を荒げることで、自分自身に抵抗しているのかのような……
ディッセンバー 一日
そうはあれ、二人の特訓の日々は瞬く間に過ぎて行き、試験まで一ヶ月をきった。
法力と機力のコントロールはケレンの教えを辿ってできるようになったのだが、輝の手元にある鉱石たちには手も出せていなかった。つまり、魔力の出力比率は変えられるが、出力量は変えれないということだ。
「ケレンはできるのかよ」
「何を? 温度の調節?」
「だから、冷たい氷とそれほど冷たくない氷とか」
「それはまだまだだけど、着々とやってるわ。覚えてない? 私があなたの熱を耐えれるように試行錯誤していたの」
「自分のことに集中し過ぎてて、あんま覚えてないわ」
「私だってちゃんと特訓はしてるんだから! まぁ、どちらにせよあなたの先輩ってこと」
「俺より若いのに……」
「実力の差よ」
ケレンは嬉しそうに微笑んだ。輝も微笑んでいた。そう、二人の関係は少しずつ近くなって行っていたのだ。少し、また少しと。
しかし、それの終わりが告げられたのはそう後ではなかった。二つのことに変化が起こったのだ。まず、一つ目は輝がB組に戻って訓練するということだった。それは、サクラ先生がダルク先生に話をつけたらしかった。
「ケレン、寂しくなるな」
「何よ、別にあんたなんかいなくて! 清々するわ! やっと自分の訓練に勤しめる!」
そして、二つ目は輝が移ってからの数日後にキリが帰ってきたことであった。余裕としたキリの風貌は、堂々としており、また恐れを抱くほどであった。しかし、ケレンはというと、訓練に勤しむどころか、キリのことばかりを考えており、集中が途切れていた。
「キリ……強いし、絶対かっこいい!」
また、他の生徒も訓練していなかったわけではもちろんない。それぞれがサクラ先生に出された課題を着々とこなしていったのだ。そう、輝やケレンだけじゃない。全員が全員、あの一年最終試験の時よりも強くなっていた。あのキリさえも……
B組に戻った輝は同じような光景を目にした。確かに、皆に個人の訓練部屋があるわけではないのだが、体育館には多くの人がいる。また、ダルク先生が教員ということもあり、それぞれにあった訓練場所が体育館内に用意されていた。つまり、体育館に入っても体育館とは思えないような内装なのだ。
「あの……」
輝は階段を降りて三階へ向かった。教室には誰一人いなかったために、体育館だろうと、体育館の扉を開いた。
「あのー……」
誰一人目に見えず、誰からの返事もなかった。そして、次は少し大きめの声で言った。
「あのー、ダルク先生いますか!」
やはり返答がない。様々な音はしているし、人がいることを輝は知っている。しかし、誰も返事しないのだ。
「あのー! テルです! サクラ先生に言われてきました! ダルク先生はいますか!」
輝は叫ぶように言った。いや、叫んだ。すると、音が止まったと思えば、十人の生徒が輝の方へやってきたのだ。中には、ボビーやカレンなどの懐かしい顔もあり、知らない顔もいた。
「(なんか、見られてる……恥ずかしい……)」
「みんなどうだ!」
すると、輝の後ろから扉を開けてダルク先生が入ってきた。輝は驚きのあまり、そのまま気絶してしまった……




