第九十九話 新学年の始まり
注:サクラ→サクラ先生になりました。あと、四国戦争編を読まなかった読者のため、軽くふれています。読んでいただいたかたがたには申し訳ないです。
第九十九話 新学年の始まり
テルこと須藤輝、十八歳、H級魔導師は魔法界学法都市ジクール・魔導師専門学校の二年目を迎えようとしていた。
「(トク、授業始まるだろ!)」
[寝坊したのは私のせいではありませんよ]
自室を飛び出た輝は部屋に配られた朝食も食べずに、教室へ直行した。
「はぁはぁ……」
「テル! 初日から寝坊?」
「すいません、昨日の疲れが……」
「まぁいいわ、早く席について」
昨日の疲れとは、彼が休みの間一ヶ月長楽しんでいたイアホン式ヴァーチャルオンラインゲームE-gameからだ。『四国戦争』という魔法戦争模倣ゲームをプレイしていた。
「何人かはまだいないみたいだけど、今日の授業を始めるわ」
教室には本来いるべき十人のうち、輝を含めた六名が出席している。ケレン、マリカ、チリキ、メイス、そしてノアの全員女子だ。対して、カイ、クラーク、サノル、そしてキリの男子全員が全員遅刻のようだ。そして、ケレン、マリカ、輝以外の全員が黒色のローブを纏っていた。
「まずは一年に何をやったか復習するよ! B組では何をやったかな、マリカ?」
「えっと、前期は機力について、そしてそのコントロールを、逆に後期は法力についてしました」
「やってるね。それで、今回の前期A組は、各力の集中を学んでいきます」
すると、チリキが元気よく手を挙げた。
「チリキ、なに?」
「(どうしてフード被ってんのにわかるんだよ)」
[確かにそうですね。まぁ、手をあげるメンバーは大抵決まっていますよね]
「(それもそうか)」
「あの、去年A組集中やりませんでした?」
「やったね」
「じゃあ、なんでまた? この新しいやつらのためですか?」
「いや、そうじゃないよ。そんなやつらなんて……とにかく、去年の集中は体の大まかな部分だったでしょ」
「指とかもやりましたよ」
「だからその上をいくの。髪の毛一本とか、魔機の一点に機力を集中するとかね」「なるほど……」
「(そう言や俺の機力結構上がってるだろうな)」
[結構しましたからね]
輝がそう、思っているのもE-gameのおかげであった。E-gameの動力源は機力つまり、機力がないとプレイができないゲームなのだ。それは、サクラ先生に教師としてのアドバイスとして輝がプレイしていたものだったのだが、最終的には賞をもらうほどに打ち込んでいたのだ。
「それで先生、何をするのでしょうか?」
マリカは早くも授業に参加し始めていた。
「やる気があっていいわね。これは一人一人違ったプログラムを準備しているわ。この休みの間にも仕事をしたからね」
サクラ先生は輝にウィンクをするのだったが、片耳でうっすらと聞いていた。
「(嘘だろ)」
[まぁ、しながらでも考えていたんじゃないですか?]
「(トク、お前いつからサクラ先生の肩持つようになった? お前もしかして……)」
[何をおっしゃる! 私はあくまでプラグラミングですよ]
実際、サクラは教師でありながら、輝とともにゲームに没頭していた一人であった。そして、彼女は輝の守っている国に勝利し、『四国戦争』の勝利メンバーとして名を飾ったのであった。
「じゃあ、一人一人呼び出して行くから、それを実行していってね」
実際、この魔法専門学校の授業は教えることが少なかった。なぜなら、ギルドで戦う魔導師を育成するための学校とされており、戦闘訓練や技術上達を主にしているからだ。つまり、ほとんどは教えるというよりは個人の努力次第という面が大きかった。後は、唐突にある試験を合格していれば卒業そして、G級魔導師の称号を手に入れることができるのだ。
「えっと、テルはね……」
「魔機の特訓ですか?」
「それもそうなんだけど……どうするかよね」
「集中をするって?」
サクラ先生は頭を抱えて悩みこんでいた。サクラ先生はどうやら輝の言うような抽象的なものよりも具体性を増したいという思惑があったようだ。
「なら、あのなんだっけ? あのメタル?」
「えっと、タンタルのことですか?」
「それそれ。それで……あぁ、いいこと考えたわ! ケレン!」
ケレンは突然呼ばれて急いでサクラ先生の方へ駆け寄った。
「(やっぱり可愛いなぁ)」
[集中してください]
輝がケレンを見つめていると、ケレンは嫌そうな目で輝を見た。
「あの、先生。それで、私は何を?」
「あのね、あなたたちには二人でやってもらうことになるわ?」
「えっ? 先生、なんでですか?」
「わかりました(よし!)」
ケレンはまさに嫌そうな顔を、対して輝は笑みがこぼれでいるほどの顔をしていた。
「二人にしてもらうのは、お互いにテーマを出し合って想像するってこと。テーマはなるべく詳しくね。例えば……」
サクラ先生は悩みに悩んで結局……
「まぁ、とにかく! ケレンには氷で、テルにはそのタンタルを使ってより精密に模型を作ってもらうわ」
「あの、そのぐらい私にはできるのですが……なんでこんな弱いのとしなければならないのですか? もっと、あのキリみたいな……」
ケレンは目を泳がせた。
「キリの魔法は全然系統が違うからね。後、キリはここにはいないよ。彼の師匠はA+級以上だから師匠の元で学ぶことで学校には試験だけでいいの」
「そんなら俺だって!」
輝がそう言ったのは、彼の師匠ベルトことベルトリアルがA+級魔導師だと知ったからである。
「彼は別ね。確かにそうだけど、だってまず弟子をとっただけでかなりの驚きよ! いつもパッと現れたと思ったらすぐにいなくなっちゃうのよね。ほんとベルトは! いつも忙しそうししてるし、ほんとクールだし……」
サクラ先生のベルトトークは長らく続いた。
「先生って、ベルトのこと好きなんですね」
サクラ先生は顔を赤らめて否定した。
「とにかく、二人にはそうしてもらうから! 後、慣れていきたら、ケレンは大きさを大きくしていって。さっきもうできてるっていってたけど、どこまで精密にできるか、考えること! わかった!」
「あの……俺のタンタルはこれ以上ないんだけど……」
「わかったわ、何か良さそうなのを買っておくわ」
「はい(絶対俺のあの金を使ってだよな)」
あの金とは輝が賞を取ったことで手にしたゲーム内通貨のことである。そのゲーム内通貨はもちろんゲーム内の着せ替えや、他のゲームを買うなど以外にも、実際のショッピングもできるのだった。
そうして、ケレンと輝の魔力集中特訓が始まることになった。




