プロローグ 母ちゃん、俺、異世界行ってくるわ!
プロローグのみ漢数字を用いず普通の数字を用いています。第一話以降は理由がない限りは全て漢数字にします。
プロローグ
須藤 輝17歳、現在地元の高校に通う高校二年生だ。髪は黒、肌は黄色、まさに典型的なアジアンだ。身長は175cm前後、体重は60kgとかなり細身の体型だ。
特に目標もなく毎日を過ごしている高校男児。引きこもりには至っていないことがおかしいぐらいだ。しかし、そうさせなかったのには彼の短い人生が物語っている。
輝が生まれて間も無く、輝の父はいなかった。母は輝に死んだと伝えたが真実は隠されている。それにより、母は朝から晩まで働きに働き、同時に家事や育児もこなしていた。とても再婚の余裕もなかったのだ。
輝は小学生に入った。ゲームを持たない輝は友達があまりできず孤独な学校生活であった。そして四年生になると部活を始めた。サッカー、野球と様々なスポーツを試し、日々人一倍努力した。しかし才能という子供には辛い現実が待っていた。
「てるって運動向いてないよね」
「そうかな……?」
そして中学生。地元の公立中学に入り、勉強ならと毎日必死に勉強した。努力の成果もあり中学最後の年には二百人いる全校生徒中、15位以内に入っていた。ガリ勉と影では言われ、友達はやはりできなかった。
「あいつっていつも勉強しててまじきもい」
「……」
高校は一番の公立高校に行こうと受験をしたものの、落ちてしまい、結局は地元のパッとしない私立高校に入ることになった。そして、運動にも勉強にも絶望した輝は高校生になってばかりなのにすでに人生を諦めかけていた。また、学費を稼ぐため、引越し業者でアルバイトを始めた。
「輝、テキパキ動けー!」
「はい」
アルバイトと勉強を毎日繰り返し多忙な日々を送っていた。しかし、それに耐えられたのは“ラノベ”のおかげであった。多くの本を買えるだけのお金もなく、オンラインで読める本は彼を十分に楽しませた。
毎日、バイト終わりの8時から母が帰る9時まで、輝はラノベを読む時間に当てていた。
「(最近異世界転移系多いな、まぁいいか面白いし)」
「輝、ただいま、今作るからね」
母帰ってきた。これから夕食を作るのだ。
「母ちゃん、おかえり」
輝は幼い時から、母のことを“母ちゃん”と呼んでいる。それも父を幼くしてなくしているためかもしれない。しかし、輝は一度も父を恋しく思ったことはない。
「ごちそうさま」
「スマホ貸して、勉強始めてよ」
食後は大体11時ごろまでは勉強の時間だ。受験に落ちた輝は勉強をしなくなったが、それを防ぐために母が始めた須藤家のルールだ。携帯を取り上げ、輝もラノベは読むことができない。
「(あの続きになるな)」
だが、宿題はするもののそれ以上の勉強はしなかった。ほとんどの時間はラノベの続きなどを考えていた。
そんな今日は先ほどまで読んだ異世界生活についてのラノベを考えている。
「(あの後、絶対死ぬよな。あ〜、異世界ってどんなとこなんだろ。可愛い子とかたくさんいるんだろうな)」
最近は異世界に行くことなどを輝は妄想していることが多い。異世界に行ったら、どんな子に出会えるのか、どんな魔法が使えるのかなどなど。
「(異世界行ってみたいな)異世界行きてーーーー」
「輝、なんて?」
「(やべー、マジでどうしよう)」
輝はテンパり始めた。友達がいない輝にとって人と絡むのは特に苦手で母も例外ではない。特に、恥ずかしいと思った際は混乱してしまう。
「(どうしよ、どうしよ、どうしよ…..)」
そんなことも知らず、母は輝の元にやってくる。
「輝? 異世界とか言ってた?」
「あぁ、えっと、えっとね…(マジで!どうしよう、てか、ちょー恥ずいし)」
輝の恥は最高潮に来た。
「母ちゃん、俺、異世界行ってくるわ!」
母は輝の顔を唖然としてみた。
「あのね、輝」
「(俺何言ってんだ。どうしよ?どうしよ)」
輝は母の言葉を聞かずして家を飛び出して出て行った。
「(これからどうしよ、このまま帰るのも恥ずかしいし……)」
輝は行き場を失い、ただ夜道を歩いた。今後のこと、異世界のこと様々のことを考えながら。また、ここで携帯を預けたままであったことに気づいた。つまり一文無しで通信手段はなしだ。誰も連絡を取る相手などいないが…
歩いて行くと、この街一番の有名どころハイレーン大橋にたどり着いた。有名と行っても、大昔ハイレーンという女神が洪水で渡れなくなった川に橋をかけたというホラ話だ。橋は全長一キロ程度の橋で、幅は自動車が二台通れるだけの幅がある。この橋は家からすでに30分程度の距離にある。
輝はこの橋を歩いて行って止まった。橋の上でどうすればいいか悩んでいたのだ。そして藁にもすがる思いで女神に語りかけた。
「女神ハイレーン、私はどうしたら良いかわからない。どうか道しるべを……」
すると、輝はどこから声が聞こえた。
「呼んだか?」
「えぇ?」
輝は周りを見渡したが特に誰もいない。
「上ですよ」
輝は空を見上げるとそこには白い服を着た美人の女性がいた。
「あなたが女神ハイレーン?」
「いかにも。それで何用だ?」
「私は、須藤輝と申します。私はこれからどうすれば良いかわからず……」
「それで妾にどうしろと?」
「(何も考えてなかった、どうしよ)異世界に連れて行ってもらいませんか?」
「いいぞ」
「本当に!」
「だが条件がある」
「それは?」
「死ね! さすればそのままの姿で異世界に飛ばしてやろう。最初は腹も減るだろうから、ある程度食わんでも生きていける様にしてやる、だが空腹は耐えてくれ」
輝の耳には何も入ってこなかった。ただ“死ね”という一言の重みが輝を苦しめた。
「(死ぬってどういうことだ? 俺はどうすれば)」
輝は混乱していた。輝は俯いた顔を上げると目の前には当然のことでありながら川がある。
「(そうだ。ここから飛び降りれば! でも母ちゃんは……)」
そして輝は橋から飛び降りた。
「(異世界に行けるんだ! もう悔やむことはない。なんか能力がつけたり、可愛い子がいたり……)」
だが、その現場を目撃していた人物がいた。
「輝、ダメよ!」
輝の母はテルが出て行った後、輝をつけて着た。しかし十分な距離をとっていたため、母が見たのは輝が飛び込む瞬間であった。
「ジャボーーーーーン」
輝は命日を迎えた。
母はすぐに救急車を呼んだ。
「あのすいません、うちの子が!」
「今どこにいますか?」
「ハイレーン大橋です」
「すぐに向かいます」
救急車は五分もすると到着した。輝の捜査はすぐに始まったが、どこにも彼の遺体は存在していなかった。