罪の告白
「私は罪を犯したことはございませんよ」
宮内は言った。
「だって、私が罪を犯したら、その罪が記録されたら、もう私は蒐集者ではなくなるじゃないですか。蒐集者は蒐集者であって、当事者であってはならないのです。だから、蒐集者は罪を犯してはならないのです。罪を数えるだけ、罪を記録するだけなのです」
そうか。蒐集者は蒐集者であらねばならないのか。人を越してはならないのか。それならば、くだらない僕でもできるのだろうか。
いくら主体が蒐集物にあっても、意志は肉体に縛られる。宮内も高齢だ。宮内が死んでしまったら、そこで記録は止まってしまう。人の罪の歴史が死んでしまう。だから僕に声をかけたんのだろう。僕に続きを綴ってほしいから、くだらない僕を呼び止めたのだろう。
「あなたも蒐集に興味がございますか」
僕も、罪を綴りたい。罪を数えたい。人の闇を読み解きたい。永遠の命の一部となりたい。
蒐集しなければ。集めて、集めて、その罪を数えなければ。生き続けなければならない。人の罪を知りたい。人の罪を数えたい。人の闇に触れたい。人の闇を愛でたい。
だから、大丈夫。あなたが蒐集者でなくなっても、代わりの蒐集者は目の前にいるから。だから、罪を告白してもいいのだよ。すべてを話していいのだよ。さあ、語ってごらん。
僕はあなたの罪を記録したいのだ。
「何を馬鹿な。私は、罪など犯していない。私は蒐集者であって罪人ではない。私の心に闇は存在しない。だから、だから私は蒐集者をつづけられているんだ。誰にも、誰にも蒐集物は渡さない。誰にもこの役目は譲れるものか」
じゃあ、ここにある蒐集物を、あなたは殺すのかな。それもまた、罪にはならないだろうか。
大丈夫。恐がらなくてもいいのだよ。
僕はくだらない人間だから、闇を抱えていないから。だから僕は知りたい。あなたの犯した罪を、あなたが人でなくなった瞬間を。
あなたを蒐集者に変えた物を、僕は知りたい。
僕は、思わず宮内の肩を掴んだ。宮内は、なぜか怯えていた。
罪を隠しているのかな。
それとも、蒐集者でなくなることを恐れているのかな。それほどまでに彼はこの部屋を埋め尽くす蒐集物に魅了されているのかな。
いいじゃないか。蒐集できなくても。あなたの罪は、あなたの闇は、蒐集物の一部になる。そして永遠の命を得ることができる。それでいいじゃないか。
永遠に生きていたいのだろう。僕がかなえてあげるから。
僕が、あなたの罪を数えてあげるから。
さあ、言え。罪を告白しろ。僕に罪を数えさせろ。
「や、やめろッ!」
急に、宮内の姿が遠のいた。いや、僕が遠ざかったのか。
部屋の中が反転して、冷たい床の感触が頬に張り付く。ああ、突き飛ばされた。
机の角に額をこすり、ぱっくりと切れている。血が流れた。
ねえ、宮内さん。これは罪になるのかな。
どうしたの宮内さん。顔が蒼い。恐れているのかな。それとも、思い出しているのかな。
「私は、私は……蒐集が好きだ。この部屋を満たす蒐集物が好きだ。だから、だから欲しくなった。私も罪を数えたかったのだ。人の闇を読み解き、人の闇に触れて、人の罪の歴史をつづりたかった。だが、私が蒐集者に出会ったとき、彼はまだ若かったのだ」
ああ、思い出してくれたみたいだ。
宮内さんの顔がどんどん変わってゆく。きっと、罪を犯した当時に戻っている。
「私は欲しくてたまらない。蒐集したくてたまらない。今すぐにでも彼の蒐集物が欲しかった。だから、私は、彼を……
階段から突き落とし、殺したのだ」
ああ、やっぱり罪を犯していたのだね。
それも殺人。この部屋を満たす蒐集物に憑りつかれ、欲しくてたまらなくなってしまったのだね。
僕も同じだよ。僕もこの部屋の蒐集物が欲しくてたまらない。だから、蒐集者になりたい。
あなたは十分に蒐集をつづけられたでしょう。そんな年になるまで、続けていられたでしょう。もう十分でしょう。僕はまだ若い。まだまだ蒐集を続けられるよ。
「ああ、ああ……言ってしまった。語ってしまった。思い出してしまった」
大丈夫ですよ、宮内さん。
「ここに罪がある。ここに闇がある。記録しなければ、綴らなければ。だが、私は当事者だ。公平に罪をつづれない。記録できない」
だから僕がいるのです。
「君、真田君。早くこの罪を記録してくれ。蒐集者になってくれ。記録はし続けなければならないんだ。もう私は、蒐集を続けることができない。私をこんなにした責任は君にある。望むものはくれてやる。だから、蒐集してくれ」
欲しいものはここにある。
ねえ、宮内さん。
僕はあなたの蒐集物のすべてがほしい。




