表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒐集者  作者: 四谷 秋
5/8

興味

 美也子が声をかける。

 うるさい。鬱陶しい。自分勝手な善意を振りかざす美也子が、醜く思える。



 なぜだろう。人の善意というものは美しい物だと習う。それなのに、美也子の善意は美しくない。煩わしい。僕は、僕の作品がどうなろうと知ったことではないのに、なぜそんなことにこだわるのだろう。くだらないことにこだわり、僕にまとわりつく。

 不快だ。だから、醜いと感じるのだ。



 美也子は、あのお人好しも、いつか罪を犯すのだろうか。そして、あの蒐集物(しゅうしゅうぶつ)の一つになるのだろうか。罪を犯す瞬間に、人は人を超すというのなら、美也子も人ではなくなる瞬間があるのだろうか。僕にとっては煩わしくて醜い善意を振りかざす美也子が、美しくなるのだろうか。


 記録は永遠に生き続ける。だから蒐集者は自らの肉体の死を恐れない。恐れるのは蒐集が止まること。罪を勘定できないこと。蒐集者の主体は肉体ではなく記録にある。

 だから、記録が生きる限り、永遠に存在し続ける。それは、永遠の命を得ることと同じなのか。


 僕が書き、先生の名前で売った本を読む。

 くだらない。リアリティのない虚構の世界。なんだ、僕の知る世界は、僕の見ている世界は、こんなにもくだらないのか。現実は、蒐集者の見る世界はあんなにも面白そうなのに。面白いはずなのに。


 次に、僕の昔を振り返る。

 面白くない。何もない平坦な人生。僕の人生はこんなにも味気ないのか。僕は二十五年間を、無駄に生きてきたのだろうか。罪も犯さず、闇も抱えず、生きてきたのだろうか。


 罪は、美しいというのなら。

 人は罪を犯すとき、人を超えるというのなら。

 僕もそうなれるのだろうか。

 こんなくだらない僕でさえも人を超えることができ、美しい罪を生み出せるのだろうか。

 そうだとしたら、僕はどんな罪を犯すのだろう。そのとき、僕はどんな闇を抱えているのだろうか。


 蒐集者の横顔を思い出す。憑りつかれたように、おもちゃを与えられた子供のように、楽しそうに罪の記録を読んでいた。あの男も、罪を犯すのだろうか。闇を抱えているのだろうか。

 そうだとしたら、僕は知りたい。あの男が人を超えた瞬間を知りたい。


 くだらない世界を楽しむ方法も、人の美しさも、あの男はすべて知っている。僕はそれがたまらなく知りたい。あの男の罪を知りたい。あの男の闇を知りたい。


 僕は何だか、蒐集者が羨ましくなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ