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蒐集者  作者: 四谷 秋
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蒐集者

 後日、男の倉庫を訪れた。倉庫といってもアパートの一室を借りたものだ。

 そこには、様々なものが保管されていた。絵画、小説、音楽、捜査資料、そして一台のパソコン。データディスクが棚に整理されている。

 生活に必要なものは何も置かれていない。ただ蒐集物(しゅうしゅうぶつ)だけがこの空間に存在している。


「これらすべてが、私の蒐集物。罪の記録です」


 僕は初めて、怖くなった。ただの絵なのに、ただの紙の集合体なのに、その一つ一つに誰かの悪意が、罪が記録されているのだと思うと、体が震えた。

 本当にこれだけの量を、一人で集めたのだろうか。


 手始めに近くの資料をめくる。三十年前に起きた一家惨殺事件。確か、犯人は見つからないまま、世間に忘れ去られた事件だ。だけど、そこには犯人が記録されていた。


「私の患者がね、お亡くなりになる前に語ったのですよ」


 宮内はかつて医者だったという。人は死の間際に、己の罪を告白することがある。だから、宮内は医者になり、終身医療の現場にいたのだという。多くの患者を看取り、多くの罪を聞き出すために。そのためだけに、医者になった。

 そんな昔から、宮内は蒐集(しゅうしゅう)を続けているのか。


「人はね、とても醜い。だからこそ、愛おしいんですね。醜ければ醜いほど、その不完全さがいとおしい。罪を犯す瞬間に、人は人を超えるのです。だからこそ美しい」


 ここにある記録はすべて、人が人を超えた瞬間を表したものです、と宮内は言った。

 絵も、音楽も、小説も、その瞬間を切り取り表現したもの。だから、僕は恐れているのだろうか。この部屋には、人の罪、人の闇が充満している。

 その部屋の中心で、宮内――蒐集者(しゅうしゅうしゃ)は笑っている。


「もっともっと、記録を続けたい。罪を数えたい。罪を眺めたい。永遠に記録を続けたい」


 でも、人は死ぬ。人の命は有限だ。


「そんなこと、どうでもいいんです」


 蒐集者は笑った。くだらないことだと言った。


「主体を間違えるからいけない。重要なのは、記録をつづける事、この部屋にある記録が生き続けることです。私の主体は、宮内陽介ではない。私の主体はこの部屋の蒐集物にある。肉体など朽ちたところで構わない。私の意思が滅びようが関係ない。ただ記録が続けられればそれでいい。私の次の蒐集者が現れれば、それでいいのです」


 蒐集者(しゅうしゅうしゃ)

 ああ、宮内はもう人をやめたのか。蒐集者になったのか。

 そして、蒐集者の主体は蒐集物だ。蒐集物がなくては、蒐集者は蒐集者でいられない。ならば、蒐集物さえあれば、蒐集者はどうなっても蒐集者だ。

 たとえその体が朽ちても、魂が滅んでも、蒐集者なのだ。


 蒐集者は、次の蒐集者を探している。だから、僕に声をかけたのだろう。

 宮内は高齢だ。姿勢も気位も若いけれど、肉体は老いている。日本の平均寿命に照らし合わせたら、きっともう長くはないのだろう。

 宮内が死ねば、蒐集者は蒐集を続けられない。蒐集物は死んでしまう。だから、焦っているのだろうか。


「蒐集物があるかぎり、蒐集物が生きる限り、私は永遠だ」


 ああ、狂っている。


 僕は蒐集者が、恐ろしくなった。




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