第四幕 災いのプロローグ①
楽しんで読んでいただけたら幸いです。
お金が欲しいです。
ゲームと本と、アニメのDVDが欲しいです。
バイトが出来ないって、意外と(お金面が)苦しいですね。
…なんて、下らない事を考えてる今日このごろ。
「おかえり。早かったね。」
Kはそう言うと、アインスの後ろに居たツヴァイにお茶を出すためか、スズを呼びに店の奥へと消えていった。
「おかえり、アインス。…何かあったのか?」
亮が店のカウンター前の椅子に座ったまま、身体だけ反転させて訊いてきた。
心配させない為にと、仮面を被っていた筈なのに。
亮は本当に目敏いなと溜め息を吐いた。
「…ああ。少し…ね。」
それだけ言うと、奥からスズを連れて戻ってきたKに近寄った。
「K、ごめん。頼みたいことがあるんだけど…。」
「なんだい?」
アインスとKが話している間に、おかっぱ頭に作務衣の少女―スズがツヴァイに麦茶を渡す。
「あっ、スズ。ちょっと待って。」
そのまま、戻ろうとするスズをKが呼び止めた。
スズは少し首を傾げると、Kの元へと小走りで走り寄った。
「すまないんだけど、ちょっと占ってくれないかな?」
「…はい、分かりました。」
眉を下げて言うKに、ハッキリとスズが返事をした。
そのままパタパタと、彼女は店の奥へと消えていった。
「『占い』?」
亮は立ったままのアインスを見上げた。
「うん。占い。…案外侮れないんだよ。スズの占いは、よく当たるから。」
「へえー…。」
―この機械のご時世に、『よく当たる占い』、なんてねぇ…。
亮がそんな事を思っているうちに、スズが小さな箱を持って店の奥から戻ってきた。
箱の中には何枚かのカード、それから一冊の本。
「何を占いますか?」
「………」
涼の言葉に、アインスは少し黙ってから、
「…近々、『氾濫』があるかどうかを、占って欲しい。」
そう告げた。
「「!!?」」
亮とスズの表情が驚きに固まる。
ツヴァイとKには、驚いた様子は無い。しかし、ほんの少しだけ眉を寄せていた。
スズは動揺を落ち着かせるために深呼吸をして、それからゆっくりと、カードを手に取った。
カードを並べていく。
亮はまじまじとスズの真剣な表情を眺めた。
カードを動かす音と、時折、本の頁を捲る音。それから、壁に掛けられた古い柱時計の秒針の音だけが響く。
「………」
ピタリとスズの手が止まった。
しばらくすると、占いを終えたのか、涼が静かに言った。
「……確かに…。…近々、この街で大きな『氾濫』があるようです。…けれど、」
涼が顔を顰めた。
「それがどれくらいのものなのか…。『あの時』と同じくらいなのか、それとも、放って置いても平気なものなのか…。それはまだ、分かりません。お力になれず、すみません。」
スズは悔しそうに顔を歪めてアインスに頭を下げた。
「ううん。そんな事ないよ。」
アインスは首を横に降った。
「『氾濫』があるって分かっただけでも僕らには大きな進歩だよ。スズがいなきゃ分からなかった。だから、謝んないで?ありがとう。」
アインスは俯いたスズの頭に手を乗せて言った。
「……すみません…。」
「違うよ?スズ。こういう時は?」
一拍、間が空く。
「…どうい、たし…まして…。」
「ん。」
アインスはスズの頭を一撫でして手をどけた。
スズは少しはにかみながら、撫でられた頭に自分の手を持っていった。
「…一、これだけでいいの?他は大丈夫?」
Kの言葉に、アインスは微笑う。
「スズに無理はさせられないよ。…あとは、自分達でどうにかする。」
ツヴァイを振り返って言うと、ツヴァイは応えるように頷いた。
「…さて、」
パンッ。と空気を変えるように手を打ったアインスに視線が集まる。
「用事は済んだし、そろそろ帰ろっか。」
お代、お代。と、アインスはベルトポーチから財布を取り出す。
涼が慌ててカウンターを片付けると、アインスからお金を受け取る。
ツヴァイは携帯を取り出して、何処かへ掛けながら外へと先に出て行く。
亮とKは、それを眺めていた。
「…あぁ!そうそう。亮君、亮君。」
Kは何かを思い出したように、メモ帳を取り出して何かを書き込んでいく。
「はい、これ。お姉さんに渡してくれない?」
「はい?」
書き終わったのか、二つ折りにされた小さなメモを渡される。
「亮君は見ちゃいけないよ?お姉さんに、渡してね。」
Kは優しく言っていたが、有無を言わせない雰囲気があった。
正直なんなのか気になるが、ここは見ない方がいい。と訴えてくる本能に従うことにした。
「あと、これは亮君に。」
そう言って、Kが亮にだけ聴こえるように耳元で告げた。
「亮くん。お姉さん、泣かせたらダメだよ?涙は血で出来ているのだから。」
「?…はい。」
亮は首を傾げた。
意味が分からない。が、サキを泣かせるのは言われるまでもなく嫌なので、返事はハッキリとする。
そんな事、するはずも無いし、する気も無いという意思を込めて。
「うん。分かればよし。」
Kはその言葉に満足そうに頷いた。
「亮ー。話し終わったかー?」
丁度会計を終えたのか、アインスがスズの頭を撫でながらそう言った。
「あぁ、終わった。」
「ん。じゃ、またなスズ。」
「うん。アインスも、…亮も。またね。」
スズも少し恥ずかしそうに、亮の名前を付け足しながら返す。
バイバイ。と店先まで出てきて見送ってくれたKとスズに、アインス達は手を振り返して、すっかり暗くなった街の闇に溶け込んで行った。
「…『また』…ね。」
―遊びに来る以外での『また』。でなければいいけれど…。
今日初めて会った少年を思い出し、Kは内心で呟いた。