表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミステーション発に乗り  作者: 柳 空
第一章 前日譚
3/59

第二幕 兄弟姉妹時々喧嘩・前編

「でさ~、りょうってば酷いの…ちょっとアインス?!聴いてるの?!」

「うん…。聞いてる聞いてる…。」

肩を揺さぶる女性と、死んだ目のアインス。

さて、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


―遡ること数時間前。

昼間の、賑やかな大通りの喧騒から少し離れた路地のスナック―フルスターリにアインスとツヴァイはやってきていた。

「いらっしゃい。」

カランカランと耳触りのいいベルの音に、カウンターの女性が顔を上げた。

「こんにちは、サヨコさん。」

「おやまぁ、久しぶりだねぇ。アインス、ツヴァイ。」

スナックのママ―サヨコは、少し破顔して入店してきた二人を向かい入れた。

「レヒツちゃんとリンクスちゃんは元気かい?」

「うん、元気だよ。本当は今日の仕事がなきゃ、連れてきたんだけどね…。」

サヨコの目の前のいつものカウンター席に座った黒髪の少年―アインスに、注文されてもいないのに、オレンジジュースを差し出す。

アインスもまた、当たり前のようにそれを受け取る。

もう一人の白髪の青年―ツヴァイにも差し出すが、そちらは立ったままそれを受け取った。

「……『掃除』の依頼かい?」

その様子を見て、サヨコは苦い顔をして言った。

アインスは、そう。と肯定してから、肩をすくめた。

「悪いね。最近、『そういうの』の方が多くて。」

「うちはいいさ。それも仕事の一つなんだから。…けど…、」

サヨコは言葉を切ってアインスを凝視する。

アインスは首を傾げる。

「いや、なんでもない。…掃除だけど、亮でいいのかい?」

首を横に振り、話を戻す。が、

「あ、うん…。お願い。」

突然、歯切れが悪くなったアインスに、次はサヨコが首を傾げた。

「なんだい。何かあったのかい?」

明らかに挙動不審になったアインスに訊ねる。

「いや、まぁ、ちょっと…。」

スイッと目を逸らされてしまった。

言葉を濁すばかりのアインスではらちが明かないと思い、ツヴァイを見るが、

「本当に何があったのさ。」

あまり、動揺、緊張といった感情を表に出すことのないツヴァイですら、目線を逸らしてしたのだ。

珍しいこともあったものだと思う。

沈黙と沈んだ空気にカウンター周辺が包まれる。

「…うぅ…。…いや、実はさぁ…」

苦手だと自負している沈んだ空気に居心地が悪くなったのか、ようやくアインスが口を開こうとした時だった。

「あぁ、もう!亮ってば酷いわ!そんなに仕事が大事なの!?」

ガランガランとベルはけたたましく、バンッとドアは思い切り音を立てる。

それに負けぬ大声でなにやら文句を言いながら入ってきたのは、ツヴァイと背丈が大して変わらないほどの高身長の女性だった。

「こら、サキ。ドアは静かに開けなさいとあれほど言ったじゃないか。」

「あ、…ママ。…ご、ごめんなさい…。」

静かだが明らかに怒気どきを含んだサヨコの言葉に、怒られた金髪の女性―サキはビクリとして、慌てて謝る。

アインス達は顔を引きらせている。

「サヨコさん、仕事のことはまた連絡するよ。お金はここに置いておくから。それじゃ!」

「あら、アインスじゃない!ちょっと待ちなさいよ。」

「ヒっ!」

呼び止められたアインスの声が裏返った。

素早く身支度をし、早口でまくし立てて店を出ていこうとするアインスをサキが引き止める。

文字通り、スーツの首根っこを引っ掴んで。

「ちょっ!離してくださいよサキさん!」

アインスはサキの手を外そうとするが、体格と同じくらいサキより力の無いアインスは、手を外すどころか、ズルズルと店の奥へと引きずられていく。

「嫌よ。離したら逃げる気なんでしょう?久しぶりに顔見せたんだから、たまには愚痴はなしに付き合いなさいよ。」

一旦止まり、アインスに向かってニコリと微笑ほほえんだサキの顔は黒かった。

「~~~っ!!あぁ、もう!亮のヤツ覚えてろよぉ!!!」

バタンとスタッフルームの扉が閉まる。

「………」

「…まぁ、…ゆっくりしてきな。」

納得が言ったという顔のサヨコの言葉に、残されたツヴァイはコクリと頷いた。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


―そして、現在。

「でねぇ!亮と喧嘩しちゃったんだけどさぁ…。今回は亮が悪いよね!」

「…そうですねぇ…。」

延々と、亮が仕事ばかりで構ってくれない!という事ばかり聞かされ続けるアインスは、精神も体力も限界だった。

―今、一体何時なんだろ…。

腕時計を見たいが、見たら見たでサキの機嫌を、

「ちょっと!話聴いてるの?!」

というふうに損ねてしまうし、この掛け時計一つのないスタッフルームでは、生憎とチラッ。と時間を確認することすら出来ない。

―せめて、アイツが帰ってきてくれれば…。

覚えてろよ。なんて、八つ当たりして悪かった。だから、早く帰ってきてくれっ!と心の中で願っていた矢先だった。

「姉さん、アインスのこと離してやってよ。そいつにだって仕事はあんだよ。」

静かに開かれたスタッフルーム唯一の出入口の扉どあから、清掃員の格好をした男が入ってきた。

帽子を目深まぶかに被っていて、表情は分からないが、怒っているのか声が低い。少なくとも、アインスが聞き慣れている声よりは。

「りょ、亮!」

アインスは助けが来たと、顔を輝かせる。

「りょ、亮…。」

サキは幽霊でも見たかのように、顔を青くする。

「悪いな、アインス。また姉さんの愚痴に付き合わせて。あとは俺が何とかするからさ。」

ツヴァイが待ってるよ。と言われる。

アインスは亮が話している間にも支度をして、さっさとスタッフルームを出て行く。

「助かった。ありがとな。」

ちゃんと礼を言うのは忘れずに。

パタン…。とアインスが扉を占めると同時に、

「こんっの、バカ姉がぁぁぁぁああああああ!!!」

怒号が響いた。

「ごめんなさぁぁぁぁぁああああい!!」

サキの悲鳴も聞こえる。

が、触らぬ神になんとやら。だ。

「行こう。ツヴァイ。」

「ああ。」

「…気をつけてね。」

サヨコは苦笑いしながらアインス達を見送った。

スタッフルームから響いてくる怒鳴り声を無視して、アインス達はいつも通りの日常へ戻っていく。

既にこの時、時間は来た時より二時間は経過していた。

去り際の一瞬だけ、アインスは目線をスタッフルームへと向けていた。


・━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━━・


「「おかえり。」」

「ただいま。」

「ただいま帰ったぞー。」

スナックをあとにした二人は、仕事を終え帰宅した。

玄関を開ければ、待ち構えていたようにレヒツ達が飛びついてきた。

レヒツはアインスに。

リンクスはツヴァイに。

「夕飯、すぐ作るな。」

「ん。頼む。」

ツヴァイはすぐにキッチンへと向かう。リンクスがその後を付いていく。

まるで親ガモの後ろを付いていく、子ガモの様だ。

「…まぁ、ツヴァイは大きいからなぁ…。」

「?」

レヒツが首を傾げてアインスを見る。

―おっとっと。声に出てたか。

この二人に身長差はほとんどない。若干アインスが高いという程度の差だ。

「…アイツは俺の『弟』なんだけどなぁ…。」

「レヒツはアインスの『妹』だよ。」

言葉の意味は分かっていないようだが、とりあえず。と言ったふうに挙手をしてレヒツが主張する。

アインスはそれに、そうだな。と返す。

「どうだ?今回の仕事、進んだか?」

レヒツの頭を無でながら訊く。

「丸一日あったからね。」

胸を張ってレヒツが答える。

「じゃあ、夕飯できるまで少し進捗しんちょくのほどを聴かせてもらおうか。」

「うん。いいよ。」

そう言って、レヒツはアインスを置いてキッチンの方へと行ってしまう。

おそらく、リンクスを呼びに行ったのだろう。

その間に着替えをしてこよう。とアインスは一旦自室に向かうのだった。

ふと、頭の中にサキと亮の姉弟きょうだいが浮かんだ。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「…つまり、今回の仕事はまだ白と黒を決められないと?」

着替えを済ませ、二人の仕事部屋である和室を訪れたアインスは、二人の進捗の状況、及び今日の業務報告を聴いてそう言った。

「うん。そう。」

と、レヒツ。

「ターゲットの情報はたくさん見つけたけど、白か黒かは、まだ決められない。」

と、リンクス。

「…そうか。」

アインスは二人からPCの画面へと視線を移す。

たくさんの顔写真が映し出された画面には、同時に一人一人のほぼ全ての個人情報パーソナルデータも映し出されている。

今、何処に居て、何をしているのか。

それすらも丸分かりだ。

これらの情報から『黒』と『白』を分けるのだが、

「…まぁ、まだ期限まで時間はたくさんあるからな。慌てる必要も無いだろう。今日はよく頑張ったよ。」

そう言って二人の頭を撫でる。

二人のほんの少し不安そうだった顔が、ほっとしたものに変わる。

「アインス、レヒツ、リンクス。出来たぞ。」

ふすまが開かれてツヴァイが顔を覗かせた。

それとほぼ同時に、グーと三人分の腹の虫が鳴いた。

「…ご飯、食べるか。」

アインスは苦笑して言った。

「「食べる。」」

レヒツとリンクスは同時にそう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。

もう一度苦笑いすると、アインスも部屋を出た。

「今日は?」

「カレーにしてみた。しばらく作ってなかったからな。」

「「カレーだカレーだー!」」

リビングのそれぞれの定席に着きながら、アインスがツヴァイに問いかける。

キッチンから出てきたツヴァイは、両手にまずレヒツ達の皿を持っていた。

ツヴァイの言葉と、目の前に置かれた皿の中身に目だけ輝かせて二人が喜ぶ。

「アインス。」

「ありがと。」

ツヴァイがアインスの分も持ってくる。

全員が席に着く。

「それじゃ、いただきます。」

「「「いただきます。」」」

アインスの声に続いて、三人が声を揃える。

辛さと甘みが丁度いいカレーに、あぁ、幸せだな…。とアインスは目を細めた。

お代わり用に多めに作ってあったカレーは、余ることなく四人の腹に収まった。


━━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━━


ツヴァイは、二、三度されたノックの音に、振り返った。

視界に、扉にもたれ掛かったアインスが入る。

「…ツヴァイ、今日も寝れないのか?」

「アインス…。」

申し訳なさそうな顔でツヴァイがアインスを見る。

夕食を済ませ、風呂にも入り、レヒツ達は珍しく日付をまたぐ前に布団に入った後、アインスはツヴァイの部屋を訪ねた。

手にはホットミルクの入ったマグカップを二つ持って。

「ほい。」

直接手渡さず、窓辺へとツヴァイの分のカップを置く。

「ありがとう。」

ツヴァイは案の定、窓辺に腰掛けて、空を眺めていた。

都会の空に星は大して見えない。ネオンの明かりが他の家に反射して、夜なのに、明かりを落とした部屋の中がよく見渡せた。

空の満月は、煌々(こうこう)と輝いていた。

「「………」」

沈黙が降りる。

「………なぁ、ツヴァイ。僕達って喧嘩したことあったっけ?」

沈黙を先に破ったのはアインスだった。

「?なんだいきなり。」

ツヴァイは首を傾げてアインスを見る。

「………亮達はさ、孤児院時代から知ってるけど。…アイツら、昔っから喧嘩してばっかだったけど、仲が良かったじゃん。」

「………」

アインスの途切れ途切れの言葉に、ツヴァイは何かを察する。

「……アインス。俺はアインスに拾われた。おまえは俺の『兄』であると同時に、俺にとっては何にも変えられない存在なんだ。」

「………」

黙りこくってしまったアインスにツヴァイが言う。

ポン。とアインスの頭に手を乗せて、言葉を続ける。

「血が繋がっていようといなかろうと、兄弟というのは大切なものだ。亮達を見て不安になったんだろうが、俺達には俺達のり方がある。」

だから、アインスはそのままでいいんだ。

アインスの頭から手を退け、カップを代わりに持ち、ホットミルクを流し込みながら、ツヴァイがそう言った。

「………」

アインスはツヴァイの顔を凝視してから、ふと手元のカップへと視線を落とした。

「…そっか…。…そうだ、な。」

しみじみと呟くと、アインスもまた冷めて膜が張り出したミルクを飲み干した。

「…ん、と。」

最後まで飲み干すと、ツヴァイにジェスチャーでカップを寄越せと言う。

「すまない。」

すぐに、アインスにカップを渡すと、ツヴァイは部屋の出入り口にそっと近寄った。

「で?二人はどうかしたのかい?」

「「!?」」

アインスの言葉と同時にツヴァイが扉を開けると、寝ているはずのレヒツとリンクスが部屋の中へと折り重なって倒れ込んできた。

「バレちゃった?」

とレヒツ。

「私もホットミルク飲みたい。」

とリンクス。

盗み聞きをしていた割には―といっても大した内容ではないが―悪びれもせず、二人はアインスにホットミルクを要求する。

はいはい。今作ってくるよ。と、アインスもそれをとがめることをせず、部屋を出ていった。

「……。…?」

ツヴァイはアインスが出ていった扉の方を眺めていると、クイッ。と袖を引っ張られる感覚に、目線を下へと動かした。

「「…大丈夫?」」

表情は変わらないが、二人にも心配をかけていたようだ。

「ああ、大丈夫だ。心配をかけてすまないな。」

右手にレヒツ、左手をリンクスの頭の上に置き撫でる。

「「ん。いいよ。大丈夫なら、いいよ。」」

その言葉にツヴァイは少しだけ頬を緩めた。

しばらくの間手触りの良い髪の毛を撫でていると、アインスがレヒツ達用のカップを持って戻ってきた。

「レヒツ、リンクス。作ってきたぞ。」

「「!!」」

出来立てらしく、カップからは湯気が立ち上っている。

「熱いからな?ちゃんと取っ手のとこ持てよ?」

「ん。分かってる。」

とレヒツ。

「アインス、ありがと。」

とリンクス。

しっかり取っ手の方を握らせて、アインスはカップをレヒツ達に渡す。

レヒツ達はふー。ふー。と息を吹きかけてから、ゆっくりとカップに口をつけた。

「「!……熱い…。」」

「だから言っただろ。熱いって。」

「………」

ツヴァイはそんな三人のやりとりを黙って見ていた。

『血が繋がっていようといなかろうと、兄弟というのは大切なものだ。』

自分で言った言葉が、頭の中に蘇った。

そう、血の繋がりは関係ない。『兄弟かぞく』は大切なんだ。

「…ふ…。」

より一層頬を緩めると、滅多には出ない笑いがほんの少しだけ漏れた。

「なぁ、ツヴァイ。今日はここで寝てもいいか?」

久しぶりにさ。と突然言い出したアインスに、ツヴァイは構わないが?と答える。

「ん。…だってよ、レヒツ、リンクス。」

「…それもバレてたの?」

とレヒツ。

「…なんかつまんない。」

とリンクス。

「気付かない訳無いだろう?ほら、ツヴァイの許しも出たし、もう寝るぞ。」

ツヴァイのベッドに三人が入り込む。小さい三人だからか、狭くはないようだ。

「ほら、ツヴァイも。」

アインスが掛け布団を持ち上げてこっちへ来いと言う。

「眠れなくても、せめて布団にくらいは入れ。」

「…あぁ。」

流石に大柄のツヴァイが入るとベッドの中は狭くなったが、そんなことを四人は気にも留めなかった。

「「「「おやすみなさい。」」」」

雨に打たれ、凍えることのない屋根の下で、『家族』と共に眠れること。

四人には、とても幸せなことだった。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


『かーごめ、かーごーめー。かーごのなーかのとーりぃはー、いーつーいーつーでーあぁうー。』



ずっと羨ましかった。

ー何が?

だから、殺した。

ーどうして?





『ねぇ、一緒に来ない?』

ーどうして貴方は、…





・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「………」

まだ、部屋は薄暗かった。

アインスが目を覚ますと、両腕が上がらなかった。頭は動く。

左右の腕を見ると、右にレヒツ、左にリンクスが腕を抱き枕代わりにしていた。

よく眠っている様子に、アインスは薄く微笑わらう。

もう一度頭を巡らせて部屋を見回す。

この部屋の主であるはずのツヴァイが見当たらない。

壁の時計は、午前五時半を指していた。

―もう起きたのか?

身体を起こしたいが、二人を起こすのは可哀想だ。どうしようかと悩んでいるとガチャリと扉が開いて、見慣れた顔が覗いた。

「おはようアインス。よく眠れたか?」

「おはようツヴァイ。お前こそ少しは寝れたのか?」

既に着替えを済ませ、黒のエプロンにワイシャツを腕まくりしている姿を見るに、朝ご飯を作っていたのだろう。

「…レヒツ。リンクス。起きろ。」

「「んん…。」」

どうにか腕を二人の腕から引き抜き、頭を撫でる。

呼びかけると、反応が返ってきた。

「…ん?…おはよう。アインス。」

先に目を開けたのはリンクスだった。

口元にヨダレの跡が付いていて、髪の毛があちこち跳ねていた。

「おはよう。よく眠れたみたいだな。」

アインスが頭の寝癖を撫で付けてみるが直らない。

レヒツはまだ目を開けない。

「レヒツ。いつまで寝てるつもりだ?朝飯、レヒツの分までっちまうぞ?」

「それはダメ。」

―ようやく起きた。

というより、ようやく目を開けた。が、正しいのだろうが。

「今日は仕事が無いから、まだ寝ていたい気持ちはわかるけど、もうそろそろ起きないとな。」

リンクスとは逆側についた寝癖を撫で付けながら言う。

こちらも、寝癖は直らない。

リンクスは布団から既に出て、着替え始めていた。

自分も、着替えなくては。とアインスも布団から出ようとするが、

「……どうした?レヒツ。」

「………。」

レヒツが寝巻きの裾を掴んだまま離そうとしない。

もう一度、レヒツ?と呼びかけると、

「なんでもない。」

そう言って、レヒツもまた布団から出ていってしまった。

「…?」


「「「ご馳走様でした。」」」

三人は手をしっかり合わせて言う。

「お粗末様でした。」

それに、台所で一足先に片付けを始めていたツヴァイが、返事をする。

食器をまとめて、アインスが運んでいると、

「アインス、アインス。」

今日は珍しく仕事の入っていない日の為、ラフな格好をしたアインスのパーカーの袖をレヒツが引っ張り、リンクスが名前を呼んできた。

無表情だが、目が輝いているのはよく分かった。

―あぁ、こりゃあ…

「今日、お休みなんでしょ?」

と、袖をクイクイと引っ張りながらレヒツ。

「遊ぼ、遊ぼ。」

と、レヒツの真似をするようにもう片方の袖をグィーッと、思いっきり引っ張りながらリンクス。

アインスが考えていたことは大当たりのようだった。

アインス達は昨日、大した仕事はなかったが、この二人だけは仕事をわんさかとこなしていたのだ。

その分、自分達は急ぎではないがすぐに片付く仕事をこなしたおかげで、今日は久々に丸一日休日とする予定だったのだ。

おそらくそうなると分かっていたのだろう。

だからだろう。普段は我慢して遊ぼうなどと言わないのに、自ら遊びに誘ったのは。

「いいよ。とりあえず、二人共袖を離してくれ、特にリンクス、そのままだと袖が伸びるから早く離してくれ。」

妹達のささやかな甘えに、アインスは嬉しさを隠さずに応えた。

ついでに、袖が少し伸びたのも機嫌の良さで気付かぬふりをした。

「あ、そうだ。レヒツ、リンクス、ツヴァイ。ちょっといいか?」

「「??」」

「アインス?どうかしたか?」

突然、何かを思い出したのか、アインスが三人を集めた。

リンクスとレヒツはまさか、仕事が実はあったのではないかと内心で冷や冷やして次の言葉を待った。

「あのさ…、」


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「サキねぇ。こっち。次こっち。」

サキの右腕を引っ張りつつレヒツは、クレーンゲームを指さした。

「サキねぇ。早く。早く来て。」

既にクレーンゲームの前に陣取り、早くと手招きするのはリンクスだ。

「みっちゃん!さっちゃん!そんなに慌てないで!」

二人の愛称を呼びながら、サキはレヒツと共にリンクスの元へと小走りで行く。

少し離れた位置からは、アインスを始めとした男三人がジュースを片手に傍観していた。

「ったく、なーんで女子ってあんなに元気なんだろうなぁ…。」

来てまだ一時間と経っていないというのに、もう疲れましたと言わんばかりに、亮が言う。

普段から被っている帽子は、いつもとは逆に、ツバを後ろへと回していて、日本人らしからぬ真っ青な眼と不機嫌そうな表情もよく見えた。

「ははっ。あの三人は知ってる奴らの中じゃあ、一二を争う元気の良さを持ってるからなぁ…。」

同じくアインスも朝よりも少し顔色を悪くして、同意する。

唯一平気そうなのはツヴァイだけだった。

「はぁーあ…。…あー、悪いな。今日は、せっかくの兄弟姉妹きょうだい全員揃っての休日だったんだろ?なのにオレ達にまで気ぃ使わせちまって…。」

「ばーか。何言ってんの。お前らだって僕らの兄弟同然なんだ。気なんか使って無いし、そっちこそ気にしないでよ。」

少し申し訳なさそうな亮に、アインスがカラカラと笑って返す。

実は、今朝。―


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「あのさ、亮達のことなんだけど、あの二人も誘わない?」

「「!!」」

「?俺は構わないぞ?」

あからさまにほっとしたという態度をしたレヒツ達にツヴァイは少し首を傾げながら、アインスに言う。

「ほらさ、アイツら昨日まーた喧嘩してただろ?多分まだ仲直りしてねぇと思うから、その手伝いついで。…と、久しぶりに、レヒツ達も『姉さん』と遊びたいだろ?」

「「うん!」」

「あぁ。そういう…。」

ツヴァイは、アインスの言葉に合点がいったというようだった。

「じゃあ、すぐ連絡する。」

と、目を一層キラキラさせてレヒツ。

「メールしたよ。」

「早っ!」

送信済みという表示の携帯端末の画面をアインスに見せるリンクス。

二人は、より一層嬉しそうな顔をして、「「着替えてくる。」」と言って、部屋へ戻っていった。

「…携帯、いつの間に持ってきてたんだ…?」

ツヴァイはまた首を傾げた。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「って事があったんだよ。」

「まぁ、俺達も久々の休日オフだったし、ちょうど良かったんだけど、さ?ゲーセンってのは、どーよ?なぁ?」

はー…。と、ため息をついた亮は、アインスに同意を求めた。

「…前々から来たいって言ってたんだよ、ここ。アイツらゲームが好きだからさぁ。」

今日だけは勘弁してやってくれ。と、アインスは眉を下げて苦笑した。

すると、後ろからクイクイと袖を引っ張られた。

「「ねぇねぇ、アインス。」」

振り返ると、レヒツ達がサキと手を繋ぎながら、空いている手でアインスの袖をつまんでいた。

「サキねぇが、これから下のクレープ屋さんで女子会しようって。」

とレヒツ。

「その間、アインス達は好きなとこ行ってていいよって。」

とリンクス。

「あぁ、そっか。もう昼時か。」

アインスは、近くの壁の液晶の時刻表示を見て、納得するが、

「はぁ?女子だけで行くのか?バカじゃねーの?なんかあったらどうすんだよ。」

亮は納得出来ないのか、俺も行く。と言って聞かない。

「おい、亮。そう言う言い方は無いだろ?」

アインスが少し慌てて亮に言うが、案の定、サキがムッとした顔をした。

「何よ。あんた、女子だけの中に一人だけ男子とか、それこそバカじゃないの?それに、なんかあった時の自分の身くらい、自分で守れるわよ。こういう時ばぁっか女の子扱いして、普段なんてあたしのことすっぽかしてるじゃない!」

一息ひといきまくし立てて、サキが反論した。

「バッ…!?俺は、心配して…、つーか、普段は仕事だからしょうがねぇじゃんか。そっちの方がすっぽかすわけにいかねぇし!」

負けじと亮も反論する。が、これは非常にマズイ。

アインス達の横や後ろを通り過ぎていく人達が、アインス達を見て、ビックリしたような、迷惑そうな目線を投げかけてくる。

サキと手を繋いでいるレヒツ達は、言い合う二人の顔を交互に、どうしよう。という顔で見上げていた。

「うわわわわぁー…。」

周りの視線と、嫌いな空気感にアインスが音を上げた。

「大体」

「あー!もう、そこまで!お前らせっかくの休日まで喧嘩すんなよ!レヒツ、リンクス!」

「「分かった。」」

文句を言いかけた亮の声を遮り、二人の間へと割って入ったアインスは、レヒツ達に早く行けと目で訴える。

それを正確に受け取った二人は、

「サキねぇ、お腹空いた。」

「サキねぇ、チョコクレープ食べたい。」

さり気無くリクエストをしながら、サキの手を引っ張っていった。

サキは二人に引っ張られるがままだったが、去り際に振り向いて、べェッ!と舌を出した。

「!…あんの、バカあ」

「はいはい。僕達もどっかに行くよ。ツヴァイ、上のフロアにいいお店なさそう?」

「ファミレスがあるみたいだ。そこで食べるか?」

サキを追って走り出そうとした亮の襟首を掴み、アインスは一刻も早くこの場から立ち去りたいがためにエレベーターへと乗り込んだ。

―せっかく仲直りさせるきっかけにでもなればいいと思ったのに…。なんか、余計なことしたみたいになっちゃった。

何かきっかけでも出来ないものかと、アインスは溜め息を零した。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


亮達と喧嘩別れした女子組三人は、お目当てのクレープ屋へと来ていた。

割とサキは単純なのだろうか。エレベーターから降りると既に、サキはいつもの調子に戻っていた。

「ねぇねぇ、」

レヒツはサキの顔を覗き込んだ。

「なんでサキねぇは亮と喧嘩したの?」

サキの右隣に座ったレヒツは、サキに買ってもらったいちごクレープを食べながら、話を切り出した。

「なんで?なんで?」

レヒツとは反対に、左側に座ったリンクスも、チョコクレープのクリームを口端にくっつけながら訊く。

サキは一瞬だけ、きょとんとしたが、すぐにいつもの笑顔に優しさと寂しさを滲ませた顔になった。

「そうだねぇ…。ただ単純に、少しだけ寂しくなっちゃったからかな?」

右隣に座っていたレヒツの頭に優しく手のひらを乗せると、サキはそのまま髪をくようにレヒツの頭を撫で始めた。

「もちろん、亮が大切にしているもの全部、とっても大事だよ?仕事も、お金も、何もかも。」

レヒツとリンクスは頬杖を突いたサキの顔を見つめた。

二人ともサキの次の言葉を待っていた。

「…けど、時間と命はその中でも、一等大事なものでしょう?だから、少しでも一緒に居たいって思うんだ。」

でも、亮はそうは思ってないのかもなぁ…。と、付け加えたのか、それとも独り言なのかも分からないくらいの小さな声が最後に、サキの口から漏れた。

「「……」」

レヒツとリンクスが互いに顔を見合わせた。

「…さ」

レヒツが何かを言おうとした時だった。

「失礼します。お嬢様方。」

サキ達の背後から突如、知らない低い声がかけられた。


・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・


「ったく、んだよサキの奴…。…」

それを言ったきり、亮は口を閉ざしてしまった。

流石にまずかったと思っているのか、どんよりとした空気が亮の周りを漂っていた。

「あんな言い方するからだって。ていうか、いい加減そのどんよりをどうにかしてよ。近寄りたくても近寄りたくないんだけど。」

「…どっちなんだ?」

サキ達とは反対に、ゲームセンターのある階の上の階へと来たはいいが、如何せん、亮がエレベーター内でこのような調子になってしまい、仕方なくアインス達は一階まで続く吹き抜け近くの休憩所のベンチへと腰を下ろした。

ツヴァイを真ん中に右に亮、左に一人分の空間を空けてアインスだ。

手にはそれぞれブラックのアイスコーヒー、いちごミルク、サイダーを手に重い空気を纏った三人を、道行く人達は時折チラリと見ていく。

―マジで勘弁してくれ…。

苦手な状況下に置かれている現状に、アインスは音を上げかけていた。

誰か、何とかしてくれないか。と思い出した矢先だった。

ふと、後ろに自分達に似た気配を感じた。

「おや、これはこれは…。亮さんではありませんか。」

「!吉崎さん…!」

アインス達は、声がした方へと振り向くと、三十路を過ぎたばかりくらいだろう男が数人のスーツ姿の男達を引き連れていた。

もうすぐ夏がやって来るという時期なのに、上等な黒いスーツを着込んで、かつ暑苦しそうな同じく黒スーツ姿の男達を連れている時点で、大体どういう人間なのかはアインス達にはすぐに把握出来た。

昨日さくじつぶりですねぇ…。少々、服を買いにと着てみれば、貴方に会えるなんて、嬉しいですねぇ。」

「…嘘ですね?ここじゃあ貴方のような人に似合う服など扱ってはいないでしょう?」

「まあまあ、…私とて庶民の気持ちを全く知らないというわけにはいかないのですよ。…むしろ、庶民がどのような物を好むのか、知っておくことも重要でしょう。ねぇ?」

亮の分かり易い皮肉に、吉崎と言われた男は気付いたのか、皮肉で返してきた。

―いや、これが素だったりして。

アインスとツヴァイは亮の一歩後ろへと下がり、すぐに行動できるように体制を整えた。

相手がどうだろうと、今は嫌な感じがする。

アインスが亮から感じていたドンヨリしたものより、酷く嫌な、大嫌いな感じだ。

「あ、そういえば。あの件について考えていただけたでしょうか?折角お会い出来たのです。こちらとしても、早くお返事をいただきたいものですからねぇ…。…近くに行き付けのカフェがあるのですよ。そこで返答をお聞かせしていただいても?」

にこやかに、しかし裏があるのが丸分かりな顔で吉崎が手を差し出す。

「何度も言いますが、俺はもう殺し屋じゃあない、ただの一介の掃除屋です。その手の依頼は受けられないと言ったはずです。」

亮はそれをやんわりと形で押し返しながら、言葉ではっきりと拒絶を示した。

「ふむ、それは残念ですねぇ。…では、」

吉崎が右手を掲げた。

「実力行使で言うことを聴いてもらいますか。」

パチン。と指が鳴った。

フロアが一気に暗くなる。

ズドン!

『きゃぁぁあああああああ!!?』

爆発音が、地震に似た振動とともに響いてくる。

『うわぁぁあああああぁあああ!!』

近くで銃の連射音が耳に刺さった。

アインス達は暗さに慣れた目で辺りを見回した。

少し自分アインス達を遠巻きにしらがら歩いていた人達は誰一人としていない。

亮は近くの吹き抜けへと駆け寄り、階下を見た。

黒い何かが、所々、ぶちまけられているのが見えた。

「亮!」

アインスが駆け寄ってくる。ツヴァイだけが吉崎達と対面し続けている。

アインスも亮と同じように覗き込んだ。

一番下の階を見ると、十数名かの人達が吉崎が連れていた黒スーツと同じような男達に囲まれていた。

手に、サブマシンガンを持っているのが視認出来た。

「…ッツ!」

ふわりと下から来た風に、嗅ぎなれた鉄臭さが混じっていた。

「…てめぇ…っ!」

「おや、どうかしましたか?」

亮が吹き抜けの手すりから離れ、拳を構えて吉崎へと走り出した。

「!?ツヴァイ!」

「はい!」

「!離せツヴァイ!!」

アインスの言葉にツヴァイが即座に反応し、言外の命令をこなした。

アインスの命令通りに、羽交い締めにされた亮は暴れようとしたが、目の前を通過した銀閃に顔色を変えた。

抵抗しようとツヴァイに向けていた視線を吉崎の方へと戻すと、吉崎の前に日本刀を抜いた黒スーツが一人いた。

銀閃は彼の刀のものだろう。

「落ち着け、亮。無闇に突っ込もうとするな!」

「うるせぇ!!お前見えなかったのかよ!?あん中に姉さんが居たんだよ!!」

「「!!?」」

バッとアインスがもう一度、半分身を乗り出して階下を見下ろす。

確かに、居た。あれは、

―サキさんだ…!

「…ツヴァイ。」

今まで亮を羽交い締めにしていたツヴァイが亮を離した。

次は、吉崎を殴りに走り出すことはしなかった。

確かに居た。しかし、アインスの視力では細部までは視認出来ない。

さっきの風で確信がいっている。あのぶちまけられている黒は、血だ。

まさかとは思う、が。

近くに来たツヴァイに、確認を頼む。

「おや、ようやくお気づきになったのですか。えぇ、そうです。貴方のお姉様方はあらかじめ、部下に捕らえさせておいたのです。…人質として。」

「…っ!」

亮は額にハッキリと青筋を立てて殺気立つが、少しは頭の血が引いたのか、武器を持った相手が居る方へと突っ込んでいくような馬鹿はしなかった。

本来、あの『亮』のことだ。それくらい分かっているはずなのだ。

なまったな。

「アインス、………。」

下を見下ろしていたツヴァイがアインスに何かを小さく言った。

「!……吉崎さん、と言いましたっけ?」

「?はい、そうですが、…失礼ながら、貴方は?」

吉崎は、余裕を浮かべた顔でアインスに名乗るように促した。

「あぁ!申し訳ありません。名乗るのが遅れてしまいましたね。僕は、いちと申します。亮さんの同業者です。」

「ほぅ…、そうでしたか。」

吉崎はそれだけ返して、さして興味は無いという態度を取る。

アインスは気に留めず、続けた。

「実はですね?今日、僕の妹達も一緒にここに遊びに来ておりまして…。サキさんと一緒に居たはずなのですが、一人が、どこかへ行ってしまったみたいなんですよ。…ご存知ないですか?」

「!…察しのいい方ですね。流石は、亮さんの同業者と言うだけはあるようだ。」

吉崎は片手を上げて、何かを合図した。

「「「!!」」」

「その妹さんとは、この子のことでしょう?」

黒スーツ数人に連れてこられたのは、リンクスだった。

「リンクス…っ!」

ツヴァイが吉崎を睨んだ。

アインスは微笑えみは湛えたまま、殺気立った。

「そんな顔をなさらないでください。危害は何も加えていませんよ。この子には、少々伝言を頼んだだけですから。」

吉崎はそう言い切ると、もう一度合図を送った。

「!」

「リンクス!」

黒スーツ達はゴミでも捨てるように、リンクスをアインス達の方へと突き飛ばした。

アインスとツヴァイが受け止める。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。」

リンクスがようやく口を開いた。

パッと見た感じでは、確かにリンクスに怪我は無いようだ。

「…。吉崎さん。何が目的か…、聴かせてもらえないでしょうか?」

静観に徹していた亮が声音に怒りを混ぜながら吉崎に訊ねた。

「要件は、昨日も申し上げたじゃぁないですか。…弟を殺して欲しい。その依頼を受けていただきたいのですよ。」

吉崎の言葉に、アインスの空気がざわついた事を、亮達だけが気付いた。対して気が付かない吉崎は、言葉を続けた。

「依頼を受けていただいてからと思い、詳しくはご説明しませんでしたが…、折角ですから。」

リンクスの傍に膝を付いていたアインスが、黙ったまま立ち上がった。

「実はですね。我が社の前会長である、父が先日亡くなったのですよ。しかし、」

余裕が一変、嫌悪けんおと怒りの表情になった。

「アイツがいるせいで、アイツが生きているせいで、遺産が私の物にならない部分があるのですよ…。」

まるで今、目の前にそのアイツがいるかのような表情だ。

嫌悪と憎悪ぞうおが目の中にチラついている。

「アイツは、大して役にも立たないゴミ虫のくせに、金ばかり持って行く…。それが元々、腹立たしくて仕方なかったのですよ…。…今回だって…。」

一瞬俯いた吉崎は、すぐに顔を上げた。

表情も、元の笑みを浮かべていた。

「しかし、いい機会です。これを機にアイツを殺してしまえば、遺産も私の物になるし、ゴミの掃除もできる。ほら、年末に大掃除をするのと同じ感じですよ。大きなゴミは、きっかけが無いとなかなか捨てられないものですからねぇ…。」

亮は頭が沸騰するかと思った。

兄弟を、弟を、殺すだけでも腹立たしいというのに、ゴミ扱いとまで来た。

「それで、貴方は亮にその依頼をしたと?」

「!」

「ええ、その通りです。」

一歩前へと踏み出そうとした亮を、いつの間にか隣に来ていたアインスに片手で制されて踏み留まる。

「…そうですか…。」

吉崎の答えにアインスはそれだけ言う。亮を制していた手も下ろす。

沈黙が降りる。

何秒経っただろうか。

「会長。」

黒スーツの一人が、吉崎に耳打ちした。

「…そうか。…すみませんが、ご返答はまた後ほどということで。…いい返事をお待ちしておりますよ。」

そう言って背を向けた吉崎と黒スーツ達は去って行った。

「?」

ただ一人、日本刀使いだけが、アインスを見つめてから立ち去って行った。


楽しんでいただけると幸いです。


二週間ぶりの投稿です。

やはり、現実は忙しいです。


※第一幕は、纏めて再投稿したため、以前上げさせて頂いたものは、削除ささていただきました。申し訳ありません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ