第六幕 猫の子子猫、獅子の子子獅子③
第六幕これにて終幕です。
明日も世間は休みなわけですが、学校という名のブラック企業に、休みなどあってないようなものなのです!
(…つまり、明日は、学校。いつも通りの月曜日なのですよ…。(ヽ´ω`)トホホ・・)
楽しんで読んでいただけると幸いです!
「…あれ?」
「?どうしたの?」
リンクスの声に、レヒツが振り返った。
ふたりが自室兼仕事部屋としている四畳ほどの和室は、何台ものパソコンが置いてある。
が、配線がごちゃごちゃしたりはしていない。
理由としては、ツヴァイが定期的に掃除をしてくれるお陰なのだが。
「レヒツ。アインス達との無線が切れちゃった。」
リンクスが背もたれの付いた置き椅子にもたれながらレヒツに言った。
「どーいうこと?」
レヒツは、椅子から這ってリンクスの使っていたパソコンの画面を見た。
そこには、確かに『通信切断。もう一度接続しますか。』と出ていた。
「何回やっても、切れたままなの。」
とリンクス。
「…今までそんなことあったっけ?」
とレヒツ。
ーまさか、狙って通信妨害してる?
二人は顔を見合わせると、すぐに立ち上がった。
「今日は、アインス達はどこに行ってるんだっけ?」
とレヒツ。
「ルアの所。ノッテディルナ?ってビルだって言ってた。」
とリンクス。
二人は、外へ出る時は必ず来ているお揃いのパーカーを羽織った。
「亮の所に行こう。」
とレヒツ。
「そうだね。それがいいよね。」
とリンクス。
二人は外へ出た。
鍵を占めるのは忘れずに。
「「何も無いといいんだけど…。」」
二人同時に呟いた言葉を合図に、二人は走り出した。
ー急がないと。
嫌な予感に、胸の中がザワついていた。
そんな二人に、影が忍び寄った。
・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・
スタッ。
三人が三人とも、音を立てることなく着地した。
真っ白で広い部屋だった。照明も少し眩しいほど明るい。
部屋に在るものは、出口であろう扉と、影を作らないように設計されているのだろう、照明だけだった。
他には何も無い。
「…完全に、分断されてしまいましたね…。」
辺りを見渡しながら、卯は少しだけ眉を顰めた。
「試験がどうと、言っていましたね。」
「この分かれ方では、主人と従者、それぞれの実力試し…というところでしょうか?」
春、ツヴァイもそれぞれの意見を述べた。
「…どちらにせよ。一刻も早く、若様達と合流しなくては…。」
卯の言葉に二人が頷いた時だった。
『第一試験を開始します。皆様、武器を構えてください。』
ブーというブザーの音と共に、無機質な女性の声が部屋中に響いた。
言われたとおりに、三人は武器を構えた。
ツヴァイは短刀。
春は刀。
そして卯はトンファーだ。
「!皆さん、来ます!」
卯の言葉が言い終わったかどうかの刹那、
「!?」
「春ちゃん!」
「春さん!」
春が吹っ飛んだ。
「っ!!大、…丈夫ですっ!」
ダンッ!と壁に何とか足を着け、床に着地した。
春は自分の状況を整理した。
怪我は無い。
しかし、吹き飛ばされる瞬間に防御したはずの両腕に、ピリピリと痺れた感覚が残っている。
相当な、力で吹き飛ばされたことが分かる。
しかし、吹き飛ばしてきたはずの敵が『見えなかった』。
「気を付けて下さい!次がすぐに」
春が言い終わらない内に、次は卯とツヴァイが同時に吹き飛ばされかける。
「グッ!?」
「っ!!」
何とか持ち堪えるものの、押してくる『何か』は全く『見えない』。
ーこれは、『正解』だったな…っ!
普段、銃を好むツヴァイにしては珍しく、短刀を所持していたのが幸いした。
ツヴァイは内心で呟くと、体重を乗せ、卯に目で合図を送った。
「はぁっ!!」
「やぁっ!!」
同時に『何か』を押し返せば、すぐに武器から伝わってきていた重さがなくなった。
自分達と少し距離を開けた場所から、ズンッ。と『何か』が着地する音と、振動が伝わってくる。
しかし、やはり、『見えない』。
ーとなると、…
「…光学迷彩か…。」
「そうでしょうね。」
二人の元へ戻って来た春が頷いた。
確かにそこに居るのに『見えない』。
となると、この白い部屋と眩しいくらいの部屋を利用して、光学迷彩を使い、見えなくしているのだろう。
「普通の部屋なら、ほんの少しの空間の歪みで見抜けたのに…っ。」
春が悔しそうに爪を噛んだ。
完全に部屋を上手く使ったやり方だ。
普通の部屋なら、いくら上手く『隠れ』ても、身体と空間の間に生まれる若干の違和に気が付けるのに、今自分達のいる部屋は気が狂ってしまいそうなほどの白一色。
これでは違和に気が付けないのも無理は無い。
が、戦法が分かってしまえば、後は簡単だ。
三人とも武器を構え直した。
「皆さん、分かっていますね?」
「言われずとも、ちゃんと承知しています。」
「分かっています。援護します。」
「「「照明を壊してしまえばいい。」」」
春は、刀の他に持ってきていた拳銃を抜くと、素早く照明を打ち抜いた。
すると、
「!卯さん!」
「大丈夫です!」
卯さきに向かって右の拳を振りかぶった、部屋の天井に届きそうな程巨大な機械人形の影が、現れた。
ドゴォッ!と床が音を立てて割るが、それを卯は飛んで避けるとすぐに、床を踏み込みトンファーに仕込んでいた刃で機械人形の腕を切り落とした。
バランスを崩した機械人形が右へと倒れる。
しかし、そのまま残った左腕で、そのまま頭を限り刻もうと視界に入ってきたツヴァイを掴もうと手を伸ばす。
「ツヴァイさん!」
春が叫ぶ。
「甘いな。」
言われるまでもない。と。
瞬時に気付いたツヴァイはその手を切り刻むと、勢いのまま頭を両断した。
手を無くしてなお、残った腕でツヴァイを攻撃しようとしていた左腕が地面に力無く落ちた。
「終わった…。」
春がホッとしたように呟いた時だった。
『いやー、本当にお疲れ様。まさか、こんな速く終わるなんて、思ってもみなかったよ!』
パンパンパンッ!という拍手とともに、ルアの声が響いた。
三人はバッと扉の方へと目を向けた。
そこには、膝から下の無いルネが居た。
「…ホログラムか…。」
ツヴァイが眉を顰めた。
『そう。君達の前になんて生身で出たら、殺されてしまうからね。』
そう言って笑うルアに、春が怒鳴った。
「よく言うわ!早くここから出しなさい!第一に、夏様達には手を出していないでしょうね!?」
『おおっと、怖い。…銃をしまってくれないかな?春さん。怖いじゃないか。』
ルアはホールドアップの姿勢を取るが、自身はホログラムだ。こちらからの攻撃は効かない。つまり、
「貴方、馬鹿にしているの?ふざけていないで」
『ふざけてなんかいないさ。』
苛立ちが転じて怒りにカタカタと震えていた春の荒らげた声をルアが遮った。
先程までのおどけた声から一変、冷たい声だった。
スッと血が引いていく。
『ふざけてなどいないさ。私は至極真面目にこの試験を用意した。まずは、君達の主たる三人が、本当に『アイツ』と戦えるだけの力があるか、確かめる為に。…もう一つは、…』
ルアは三人を指さした。
『もう一つは、君達があの三人の隣に、本当に立てるだけの実力があるのかを、見るための試験だよ。』
卯は、頬に汗が伝うのを感じた。
ツヴァイは黙り込み、春はつばを飲み込んだ。
『…ま、第一試験は突破してくれたから。君達は合格だよ?』
おめでとう。とまたパチパチと拍手する。
ー…どこまでが本気なんだ?
コロコロと変わる口調と表情、空気に、ツヴァイ達は警戒態勢を解けないでいた。
『まぁ、合格なんだけどね?第一試験は。』
「!ツヴァイさん!」
春の叫び声が聞こえたような気がした。
「!?ガ…ッ!!」
気付けば、頭を切ったはずの、倒したはずの機械人形の左腕によって壁に押し付けられていた。
咄嗟のことに反応出来ず、圧迫された腹の中で内臓が傷付いたのか、血を吐き出す。
持っていた短刀がカランと地面に落ちた。
「ツヴァイ君!!」
卯が叫ぶが、機械人形の足が伸びてきて、それを避けるためにツヴァイの下へと向かえなくなる。
『第一試験は合格だけど、まだ二次試験があるから頑張ってね?』
「あんたっ!!」
笑うルアに、春が銃を向けるが、傷つけられないと分かっているため、発砲出来ない。
機械人形の足が、春にも伸びる。
『今のそいつは、予備の司令塔に切り替わってる。少し弄ってあるから、力加減が出来ないし、馬鹿にもなってるけど、弱点は同じだし、君達ならすぐに倒せるだろう?』
恐らく、首に残った頭の中で、赤く光る部分がそうなのだろう。
が、機械人形の無差別攻撃を前に、弱点に気付いたところで近づくことが出来ない。
ギリギリと徐々に増す力を感じているツヴァイは、マズイと内心で呟く。
『あぁ、そうそう。君達の主様達の事だけど…、』
言い忘れていたというように、話し出したルアが掻き消えた。
「な…っ!」
春は突然消えた事に、驚く。
パチパチと機械人形に踏み潰された床から火花が散る。
「…っ!なんなのよ、もうっ!!」
「…マズイですね…。」
機械人形がルアの言葉通り、暴れ出した。
ツヴァイを抑えているせいと、右腕が失いせいで、足で辺りを蹴り、踏みつぶすばかりだが、その足元にいる卯達からしたら、絶体絶命のピンチというものだった。
一方、ゴポッ。とツヴァイは血を吐き出しながらも冷静だった。
幸い、中を怪我をしただけで、外からの怪我は大した事は無い。
頭の中では既に打開策が組み上げられ、後は、
ーあの刀さえ、手元にあれば…っ!
「カハッ。…ハッ…。」
強くなり続ける力をなんとか押し返して和らげつつ、ツヴァイは叫んだ。
「ハッ…、卯、さんっ!!…刀を…っ!!!」
「ツヴァイ君!?」
機械人形の攻撃を避け続けていた卯は、ハッと辺りを見渡して、ツヴァイの短刀を探した。
ー!あった!
短刀はなんとか踏まれずにあったが、依然として暴れ続ける機械人形の攻撃を避けながら近づけるほど、近くに無い。
でも、
ーきっと、ツヴァイ君が考えている事が、今は一番最善だわ…。…どうにか、短刀をツヴァイ君に…っ!
「…春ちゃん!援護して!」
「は、はい!」
卯はその返事を合図に、刀に向かって一直線に走った。
フッと辺りが陰る。頭上に足が迫ってくる。
が、
「卯さんにっ…近づくなっ!!!」
春が足を斬り付け、機械人形のバランスを崩す。
そのほんの少しの隙に、卯は刀を拾い上げ、
「ツヴァイ君っ!!」
ツヴァイに向かって投げた。
ツヴァイは、ガンッと真横の壁に突き刺さった短刀を引く抜くと、機械人形の腕を切った。
圧迫していたものが無くなり、ツヴァイは地面に落ちた。
「グッ!」
圧迫感が突然消失したために、抑えられていた血がせり上がって来て、気持ちが悪い。
が、そうしている内にも、機械人形の足がツヴァイを狙って振り下ろされようとしていた。
「ツヴァイ君!」
「ツヴァイさん!」
卯と春が叫ぶ。
ー間に合わないっ!!
ここからの距離では、ツヴァイが踏み潰される方が先だ。
絶望感に、指先が冷たくなっていくのを感じた瞬間だった。
「邪魔をするなよ…。」
低く低く、ツヴァイがそう呟いた。
次の瞬間に、機械人形の足が地面に落ちた。
「…えっ…。」
春が驚きに声を上げた。
「ツヴァイ君っ!?」
卯はツヴァイの気配を辿って、顔を上げた。
その先には、機械人形の頭を貫いたツヴァイが居た。
「俺は、あの人に…、アインスに誓ったんだっ。絶対、共に在り続けると…っ!」
―だから、邪魔をするなっ!
パキンッ!とランプが割れ、機械人形の動きが止まった。
『第一試験、第二試験、合格。』
無機質な声が響く中、倒れていく機械人形から、ツヴァイが放り出される。
「ツヴァイさん!」
春がなんとか下から受け止めるが、女の身体で男であるツヴァイの、しかも大柄の身体を受け止め切れるはずもなく、床へと倒れ込む。
「…ハッ…ハッ…。…すみません、春さん。…無事…ですか…?」
「大丈夫です。ツヴァイさんこそ、大丈夫ですか?」
「はい…はんとか…。」
そう言いながらも、ゴホッゴホッと血混じりの咳をするツヴァイ。
どう見ても大丈夫ではない。
「…ツヴァイさん、手を…。」
そう言って、機械人形が今度こそ沈黙したかを調べていた卯が手を差し伸べてきた。
「…すみません…。」
腕を肩に回してもらい、ようやく立ち上がる。
春も立ち上がり、ツヴァイを卯の反対から支えた。
「…両手に花、…ですね…。」
ツヴァイは、少しだけ頬を緩めた。
「ふふっ。こんな時でなければ、嬉しい言葉ですね。」
ゆっくりと、開いた扉へと向かっていく三人。
「ここを出たら、簡易ですが手当をします。それまでは我慢してください。」
「…ありがとう。」
その会話を最後に、部屋を出た三人。
巨大な機械人形の残骸を残し、部屋の扉は閉まった。
・━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━・
「『絶対共に在り続ける』…か…。…いいねぇ、俺も一度は誰かに言われてみたいよ。」
モニターを眺めていたルアは、笑いながらも、何処か悲しげにそう言った。
他のモニターも見ると、そこにはアインス達と、残骸と成り果てた機械人形が映っていた。
そちらからも、第二試験合格の放送が流れた。
「…第一試験、第二試験。共に合格。…あとは、役者を揃えるだけか…。」
ルアは携帯を取り出し、掛けた。
「どうだい?そっちは。上手くいったかい?」
『はい。ご命令通り、レヒツ、リンクス両名を捕らえました。』
「そうか。では、戻って来い。最終試験がもう少しで始まる。」
『はい。すぐに。』
ピッ。と通話を切ると、ルアは立ち上がり、フッと笑った。
「…さぁ、セプテット。今度こそ、刀を抜いて貰おうか…。」