第六幕 猫の子子猫、獅子の子子獅子①
今回は、がっつり、戦闘書きます。
今回では、くだらない言い合いしか出てきませんが、次から戦ってもらいます。
死ぬヤツがいっぱい出そうです。
楽しんで読んでいただけると幸いです!
「アインス、風邪はもういいのか?」
「あぁ、うん。なんか、もう治った。むしろ、なる前より今の方が動きやすい。」
初風邪騒動の翌日。
ルネの元へとやってきたアインスは、夏の問いにケロッとした顔で答えた。
「風邪ってさ、なった時はつっらいけど、治るとこんなに体が軽くなるもんなんだなっ!」
「いや、たんに疲れが溜まってただけだろ…。」
身体をラジオ体操のように動かすアインスに、夏は溜め息混じりにツッコんだ。
ツヴァイ自身も内心では、もう一日休ませてあげたかったと思っているが、口にはなんとか出さないでいる。
ー十数年も病気と無縁ってぇなると、こうも常識から外れたこと言うようになるんだな…。
内心で、そんな事を思うが、あれ?そもそも、自分達のような存在に『常識』なんてねぇよな…。と思い、思考をやめた。
これ以上、そんな難しいこと考えたら、頭が可笑しくなる。
ーいくら、これから大っ嫌いな奴に会わざるを得ないとしても、それで、現実逃避したくても、どうしようもなくしたくても、ダメだ。例えば、
「チッ。…んでお前までいんだよ…。そこの問題野郎だけで十分だろうが…っ。」
ーみたいな登場をするだろうドブネズミ
「あ゛ぁっ?」
思考を止め、夏は振り返った。
もちろん居たのは、
「はーぁあー…。まっじ最悪…。うわー、俺、明日空から降ってきた槍に突き刺さって死ぬのかも…。そしたら、てめぇのせいだから、責任取れよな?」
出来ることなら一生会うことなく、存在も知ることなく、かつ認識することもなく殺して、ーいっそ、本当に明日槍が降って、それに突き刺さって死んでくれれば一番なのだがー存在そのものを無かった事にしてしまいたい人物が立っていた。
「は?何言っての?そんなの勝手に死ねばいいんだよ。俺知らねぇし。あ、死んでも死んだなんて言いに来なくていいから。…てか、挨拶も無しなんて失礼じゃねぇの?格下の癖に格上への礼儀、なってねぇんじゃねぇの?」
「は?誰が格下だって?馬鹿言うなよ。お前の方が格下だろ?」
バチバチと火花を飛ばし合う二人、その横では、
「久しぶりだねー、卯。元気にしてた?」
「えぇ。幸い病気も怪我もなく…。アインス様は先日初めて風邪に掛かられたとか…、もうお体の方は宜しいのですか?」
「うん。大丈夫。むしろ風邪ひいて、前より元気になったくらい。」
「そうですか。」
微笑ましいとばかりに子の直属の部下であり、側近の花顔柳腰な女性ー卯が微笑んだ。
「春さん、ツヴァイさんもお久しぶりです。御二方も、他の方々もお元気でいらっしゃいますか?」
次にツヴァイと夏の部下である栗色の髪をしたの女性ー春に訊ねた。
「ええ。みんな元気です。…その、この間のお菓子、ありがとうございました。夏も美味しいと言っていました。」
春が少しだけ、照れたような顔をして言った。
「こちらも、アインスが風邪を引いたくらいで、リンクスもレヒツも、もちろん私自身も元気です。」
ツヴァイも丁寧ながら、穏やかな口調で返した。
「そう。良かったわぁ。また、作ってみるわね。…たまには、ツヴァイ達もお休み取りなさいね?元気に見えても、ただの『深夜テンション』なるものなだけかもしれないんだから。」
―きっと、理想の母親というものは、こんな人なんだろうな。
嬉しそうに微笑みながらも、心配に少しだけ顔を顰める様は、確かに優しい母親のようなのだ。
あの子にして、この卯有り。
出会ってから今尚ギャンギャンと夏と言い合う子に対し、穏やかで気品も良い卯。
似ても似つかない二人だ。とアインスはいつも思っているのだが、
「はぁっ!?もういっぺん言ってみろ!!」
夏が今にも掴みかからん勢いで、夏にほぼゼロ距離で怒鳴った。
「あぁ、何度だって言ってやるよ!!お前のが馬鹿だっつってんだよ!!」
それに、子もゼロ距離、どころか完全にガツンッ!とデコをぶつけて言い返した。
それに、いち早く反応したのは、卯だった。
「こらっ、若様っ!夏様に対して何という口の利き方をしているのですか!!」
「ひぇっ!!」
今の今まで、威勢良く夏に食い掛かっていた子が、卯の言葉に縮み上がっ猫のように、背を丸めた。
「だ、だって夏が…、」
「言い訳無用です!」
ツカツカと子に歩み寄った卯はそう言って、子を小脇に抱えた。
「えっ!?ちょっ、待って!それだけは…っ!!」
何をされるか理解したのか、子が声を上げたと同時だった。
「ふっ!」
パァンッ!!
「あぁぁああああああああああっ!!」
―いい音がした。
その場の卯と子を除く全員が思った。
音源は、子の尻だ。
つまり、お尻ペンペンだ。
アインスと春は笑ってはいけないと解っていても、笑いそうになる口元を隠した。
ツヴァイのみ、ピクリとも表情筋を動かさない。鉄壁だ。
「うっわぉ…っ!…ふっ、いい歳してお尻ペンペンされるとか…ぶっくく…だっせぇー。」
笑いが堪え切れないという様子で、夏がわざとらしく馬鹿にした。
「う、うっせ!ダセーとか言うな!」
「若様っ!!」
パァンッ!!
「痛ぁあああああっ!!」
先程よりさらにいい音がした。
お尻ペンペンから子が開放されたのは、五分後のことだった。
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「っ痛ーー…っ!!まじで卯のヤツ、もう少し手加減来てくれっての…。」
「ふっ…。お尻ペンペン…、お尻ペンペン…。ぶっは…。」
「う、うっせ!」
ようやく、卯のお尻ペンペンから開放された子は、夏の弄りに対して、小声でしか反論できなくなっていた。
六名はそのまま、待ち合わせ場所としていたルアが持つビルの中へと入っていった。
しかし、
「…受け付け…、誰もいらっしゃりませんね…。」
卯が無人のカウンターを覗き込んだ。
「確かに、不気味なくらい、誰もいませんね…。」
春もまた、辺りをキョロキョロと見回した。
「…アインス、傍を離れるなよ…。」
アインスにさらに近寄ったツヴァイが、アインスの耳元で言った。
「分かってる。」
アインスは、目の前だけ見て返事をした。
「「………」」
夏と子は、持ってきた自分の武器に手を掛けた。
全員が辺りを警戒している中、放送が鳴った。
お決まりの、ピーンポーンパーンポーンという音が、受け付けのフロアに木霊した。
『ようこそ、僕の館に。』
何かしらのエフェクトがかけられた様な声が、フロアに響いた。
「ルアか!?」
真っ先に声を上げたのは子だった。
『そう、正解。察しがいいねぇ?それとも、ただ耳が良いだけかな?』
「うっるせぇ!」
「若様っ!」
「はっ!!」
挑発するようなルアの言葉にまんまと乗ってしまった子は、卯の声に顔を青くした。
「説明して貰おうか?ルア。わざわざこうして出向いたというのに、誰一人として、ましてや出迎えのもの一人寄越さないなんて。非常識じゃねぇか?」
『おや、私達のような、常識を外れた存在に、常識を説くのかい?…随分と、変わってるようだね。』
「………」
今のは、自分でさえそう思った。
夏は内心で、やってしまった…っ!と落ち込む。
「そんなのはどうでもいいよ。それより、ほんとに誰もいないのはなんで?なんか理由でもあるの?」
黙り込んでしまった夏の代わりに、アインスが声だけのルアに訊ねた。
先程から、アインスの視線は一点を見つめたままだった。
ルアのクスクスと笑う声が、全てのスピーカーを通してフロアに響く。
『ふふっ、…まぁ、理由と言っても、そんな大層なものではないよ。』
パチン。とスピーカー越しに音が響いた。
パカリと床が開いた。
「は?」
「嘘だろっ!?」
夏は一音だけ漏らし、子は目を見開いて叫んだ。
「嘘…。」
「っ!!」
春は体勢を崩し、卯は一瞬だけ驚くと、すぐに子に手を伸ばした。
六人は全員重力に従って落ちていく。
「「………」」
アインスとツヴァイだけ、言葉を一言も発さず、かと言って互いに目を合わせることもしなかった。
『これから君達に、試験を受けて貰うため。理由はそれだけだよ。』
開いた床が閉まる直前。
ルアの笑い混じりの声が聴こえた。