第五幕 閑話休題、そして始動②
今回も、平和な話で終わりそうです…。
なので、ゲーセン部分をどうにか戦闘シーンに近づけたい!
楽しんで読んでいただけたら幸いです!
「は?風邪?」
亮は、サキの言葉に顔を顰めた。
「うん。最近忙しかった上に、色々な事が重なりすぎちゃったから、多分そのせいじゃないかって。医者が。」
「ふーん…。」
―あの馬鹿元気が風邪、かぁ…。
亮は頭の中で思い浮かべてみるが、想像出来ない。
それくらいありえないことだと思っていたのに。
「…で、姉さんが面倒見に行くことになったんだ。」
「そ。次いでに亮も来る?」
「?なんで?」
よいしょっ。と桃缶やら、おかゆやらを詰め込んだカバンを持ち上げたサキに、亮は首を傾げて訊ねた。
「風邪引き次いでよ。ツヴァイ達だってまだ体調崩してないってだけで、いつ倒れちゃうか分かんないんだから。息抜きに、こないだ行けなかったゲーセンでも行ってきたら?」
「あぁ。なるほど。じゃ、そうさしてもらうよ。」
サキの言葉に納得ついでに、甘えさせて貰うことにした亮は、また考えることに戻った。
―アインスって、風邪引くとどうなんだ?
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「ひっっくしゅんっ!…うー…。ズッ…。」
「アインス、鼻を啜るな。ちゃんとかめ。」
そう言って、ツヴァイはティッシュ箱をアインスに手渡した。
「おー…。ありがと。」
鼻声のアインスは、顔を紅くして、少し苦し気に呼吸をしていた。
「………」
大丈夫か?とは問いたいが、問えば大丈夫。と返ってくるうえ、仕事に戻る。とまで言うだろうことは、なんとなく分かる。
お陰でただ黙って傍に居ることしか出来ないツヴァイは、早くサキが来ないかと考えていた。
「うー…あー…。…ん。大丈夫かな?」
「…は?」
今日のお昼以降の仕事の間、アインスと、レヒツ達をどうしようかと悩んでいたツヴァイの耳に、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
顔を上げると、アインスが布団から抜け出そうとしていた。
「お、おい!何しているんだ!?」
ツヴァイにしては珍しく声を荒らげ、アインスを布団に戻そうとするが、
「ツヴァイ、今日の午後からの仕事は僕もちゃんと行く。から、そろそろ支度しないと。」
フラフラしながらツヴァイを押し返すアインスに、何故か強く出ることが出来ず、ツヴァイはオドオドとすることしか出来なかった。
「どーしたの?」
「ツヴァイ、どーしたの?」
珍しいツヴァイの声に自室で仕事をしていたはずのレヒツとリンクスがマスクをしっかり付けて、アインスの部屋を覗き込んできた。
「「!?アインス、何やってるの!?」」
ツヴァイと同じ反応をした二人は、慌てて、ツヴァイに加勢してアインスを布団に戻そうとした。
「ちょっ!何だよ、三人とも!これから仕事があるんだけど!?」
「ダメだよアインス!今日はダメ!」
何故自分が布団に戻されているのか分からないのか、抗議するアインスにレヒツがダメと連呼する。
「アインス、今日は熱あるの!熱ある人は、ちゃんと寝ないとダメなの!」
「熱?あぁ、もう下がったよ。熱くないし。むしろちょっと今日寒い?」
「アウト!」
完全に熱がある証拠だ。
リンクスは精一杯の力でアインスの背中を布団側へと押した。
「アインス、今日は俺だけで行く。だから、頼むから休んでくれ。」
「おいおい…。ツヴァイまでなんなんだよ…。」
困り果てたという声のツヴァイに、そこまで自分では体調が悪いとは感じないのに、周りは過剰なほど心配してくることに、アインスは困惑した。
実際、熱は三十八度を超す高熱なのだが、熱で頭をやられてしまったのか、アインスは自分の体調を正しく認識できていなかった。
「ちょっと、三人とももう離してよ。そろそろ真面目に支度しないと…。」
「「ダメだってばぁ!!」」
「おい、何やってんだよお前ら。」
レヒツとリンクスがアインスの腕に抱き着き大声を上げると、扉の方から聞き慣れた声が掛かった。
「「あ、亮!」」
「おいおい…。アインスが風邪引いたっつうから来たら、誰も出てこないし、鍵は空いてるし、騒がしいから見に来て見りゃぁ、何やってんだよ。」
扉にもたれ掛かっていた亮が、部屋へと入ってくる。
「あ、亮。丁度良かった。ちょっと三人引き剥がして、早く支度しないと」
「「だから、ダーメー!!」」
レヒツとリンクスがアインスの言葉を遮る。
「は?お前何言ってんの?」
が、亮にははっきりと届いたのか、目を見開いてアインスに訊ねた。
「何って、だからしご」
「お前、確か今風邪引いてんだよな?」
「?もう治ったよ。」
「はぁ?」
どう考えたって治ってねぇじゃねぇか。
その言葉は、アインスの顔を見て飲み込んだ。
―こいつ、熱で頭やられたのか…。
滅多、どころか風邪を引いたのがおそらく初めてなのだろうアインスは、仕事、支度と連呼してばかりだ。
「おい、布団に戻れ病人。そんなんじゃ、自分の仕事が出来ないどころか、他人の仕事の邪魔と迷惑にしかなんねぇぞ?」
近寄って肩を掴んでそう言うと、アインスの動きが止まった。
「…迷惑は掛けない。掛けたくない。…だから、仕事行くんじゃないか…。」
「はぁっ!?」
亮が声を荒らげた。
「…あー、ったく…お前ってヤツは…っ!」
それは違うだろう。
亮は、グッ!とアインスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「少しはツヴァイやレヒツ達のことを考えてやれよ!お前がぶっ倒れたら、アイツら自身に影響があるんだぞ!それこそ、仕事になんねぇだろうが!!」
「!!…ちょっ…!やめ!揺さぶ!…んな!」
ガクガクと前後に揺すられ、赤かったアインスの顔面が、青くなる。むしろ白くなる。
「亮!アインス死んじゃう!!」
「死んじゃう!死んじゃう!」
アインスの顔色に、レヒツとリンクスまで顔色を変えて叫び、亮の両腕を、半ばぶら下がるように掴んだ。
「…お前が…っ!お前が倒れたら、みんな、心配すんだよ…っ!だから無理すんじゃねぇよ…!」
ピタリ。と揺さぶりをやめると、亮が絞り出すような声で言った。
表情も、苦しそうに歪んでいた。
「…あのさ、…シリアスな雰囲気で説教してくれた、けど、…状況からして、…全然シリアス感、無いん、だけど…。」
完全に白くなったアインスは、擦れた声でそれだけ言うと、昇天した。
「「「………うわぁあああああああああっ!!?」」」
「た、魂抜けてる!?」
どうしようどうしよう!と慌てるレヒツ。
「死んじゃった!?アインス死んじゃった!?」
亮に、涙目で訊ねるリンクス。
「わ、悪かった!悪かったって!!」
起きろって!マジで!と、パニックになった亮がまたアインスを揺さぶる。
「「亮、揺さぶっちゃダメェ!!」」
「ブッホォ!?」
パァンッ!と亮の頭に綺麗に二人の平手打ちが入った。
「………はぁ…。」
一気に緊張感を失った空気に、ツヴァイはまず、アインスを三人の中から引っ張り上げるべく、動いた。
「…何やってるのかな…?」
キッチンでおかゆを作っていたサキは、一人騒がしい音を聞きながら、冷蔵庫から梅干とネギを取り出した。