第五幕 閑話休題、そして始動①
第五幕です。
部屋のクーラーが壊れてしまい、大変部屋が暑いです。
扇風機が欲しい…。
楽しんで読んでいただけたら幸いです!
「では、始めようか。」
議長―ルアは円卓を見回して静かに告げた。
フルスターリの二階。個室に分けられたその階の一室に、アインスとツヴァイは居た。
川内達がやってきたその翌日、急遽決まった組合の会議。
定例会にはほとんど顔を見せないはずの組合員すら集められた会議で、アインスは責められるような、いや実際責めているのであろう目で周囲から見られていた。
「早速ですまないが、セプテット。君に質問がある。」
「…いいけど。その呼び方さぁ、何度言ったらやめてくれるの?」
腕を組んだルアと向かい合うように座っていたアインスは、面倒くさそうに背もたれにもたれ掛かった。
それに反応し、米神を引き攣らせたのは、後ろで控えていたルアの部下だった。
「口を慎め、小僧。議長に向かってどういう口の利き方を」
「ブラン。」
ルアが振り返って止める。
「構わないよ。」
「………」
部下は黙った。
「…そうだね。君が問題を、二度と持ってこないと誓えるのなら…考えてあげてもいいけど?」
白い手袋をした手を円卓の上で組み、ルアは笑みを浮かべる。
アインスは、聞き捨てならないと言うように、顔を顰めた。
「いつも言ってるけど、その厄介事とやらは僕のせいじゃない。」
「はぁ!?じゃあ誰のせいだっつーんだよ!」
バンッ!と机を叩いて立ち上がったバンダナをした青年―子が声を荒らげる。
「その通りだな。」
「いつだって厄介事の原因はあいつだ。」
「自覚がないなんて、質の悪い。」
子の言葉を皮切りに、あちこちでアインスを非難する言葉が上がる。
「大体、今回も、『あの時』の事も、全部お前のせいなんだろ?」
「いっそ、殺しちまえばいいのに。」
「追放しちまえば?」
「そんな甘いもんでいいのか?」
「ほんとは、川内と手ぇ組んでじゃねぇのか?」
段々と、ヒートアップして大きくなる声。
ツヴァイはそれに耐えかねて口を開こうとした。
「いい加減に」
「おい、いい加減にしねぇか?」
ツヴァイの言葉を遮ったのは、アインスの隣に座っていた金髪の青年だった。
視線が青年に集まる。
「寄って集って、子供に責任押し付けて、恥ずかしくねぇの?なぁ、おっさん方。」
「おっさ…っ!?」
子がショックを受けた顔をした。
青年は気にせず続けた。
「こいつは、誰よりも早く、情報を掴んで裏で何とかしようと四苦八苦してたっつーのに、あんたらは呑気に、裏で生きてるくせに、裏で何が起こってるかも気付きもしなかったっつーのによ。それで?事が発覚した途端、自分達のことは棚に上げてよぉ?何様だよ。そんなに責めたきゃ、自分の馬鹿さ加減の方を責めてろよ。」
一気に捲し立てた青年の言葉に、アインスを責め立てていた者達は口を噤んだ。
「な、なら、お前はどうなんだよ。なぁ、夏?」
「は?」
おっさん扱いにショックを受けていた子が聞き返した。
「俺らが馬鹿なら、あんたも同じ馬鹿じゃねぇか、なぁ?」
「そうだな。」
金髪の青年―夏が肯定すると、子はニヤリと笑った。
「じゃあ、人のこと言えねぇなぁ、あんたも。人のこと散々馬鹿にしてっけど、同じ馬鹿なら、その理屈じゃあ馬鹿にできねぇんじゃねえの?」
「………」
夏が黙る。
子はさらに調子付いた。
「なんだよ、言い返せないのか?ハハッ!だっせぇー!言い返せもしねぇなら、最初っから黙ってりゃい」
「なぁ、おまえ、何調子付いてんの?」
「は…っ!?」
ひゅっ。と子の横を何かが通り過ぎた。
カンッ。という音に振り返ると、そこには、壁に突き刺さったダガーナイフがあった。
頬に生暖かい何かが伝う。
「俺が言った意味分かってる?別に俺は、お前らのことを馬鹿にしようと思って言ったわけじゃねぇ。たんに、人を責める前に、自分のやってた事を振り返れっつってんの。…言っちゃ悪いけど、多分お前だけだよ?ここに居る連中の中で、意味理解出来なかった馬鹿は。」
夏は、はぁー…。と溜息を吐いた。
子は、頭の中で何かが切れる音がしたのを感じた。
「……テンメェ…。いい加減にしろよ!このヒヨコ野郎が!!」
「ヒヨコは、テメェだろ?」
子は、持っていた銃を夏に向かって突きつけた。
夏も、応戦すべく銃を構えた。
それぞれの部下達も含め、室内が一触即発に包まれた。
「両者とも、そこまでだ。」
ルアが拳銃を取り出した。
「今は話し合いの場だ。武力行使をするならば、同じ方法で成敗させてもらうが、どうする?」
口元に笑みは称えたまま、ルアは形式だけ問う。
本心は、一歩でも動いたら、殺す気なのが雰囲気だけで十分に伝わった。
「チッ!」
「ふん…。」
子は舌打ちをし銃を収め、夏は部下に武器を下ろすよう、右手を挙げ命令した。
「賢明だな。」
ルアはそれを見届けると、拳銃を仕舞い、アインスに向き直った。
「さて、君のおかげでこの通り。早速厄介事が起こってしまった。」
「いつもでしょ、この二人のは。僕のせいにすんなっての。」
あからさまに困った顔をつくったルアに、アインスが返す。
「いいや、君のせいだよ。君さえ居なければ、起こらなかったことだ。」
ルアは、徹底して譲らない。
「しかし、だ。今回の本題と、今の事は、別件だ。今は本題に集中しようか。」
ルアは立ち上がった。
「各々思うところはあるだろうが、今、セプテット以上に川内達に関する情報を持っている者は居ない。…それは間違いないな。」
沈黙。
この場では、肯定を意味する。
「ふむ。…つまり、現状で彼を追放するのは、『あの日』の再来を放って置くことと違いない。…それも、間違いないな。」
「それはっ!」
「おい馬鹿!やめろ!」
どこかで声が上がるが、すぐに静かになった。
「……肯定で、いいな?」
沈黙。
それに満足そうに笑ったルアは、席に座り直した。
「では、今日の会議の結果を。…セプテット、お前が今回の指揮はお前が取れ。」
「…は?」
「!?貴様っ!なんてことを言い出すんだっ!!」
誰かが、叫ぶように言った。
ルアの突然の言葉に、アインスですら、唖然とした。
無論、アインスの組合追放を押すほとんどの者は、動揺を隠すことが出来ずに、ルアに口々に野次を飛ばし、沈黙が一変。瞬く間に室内は騒がしくなった。
「静粛に。」
ルアが右手を挙げた。
「これは議長決定だ。異論は認めない。第一、撒いた種は自分で回収するのは、『大人』として当たり前のこと。…そうでしょう?皆さん?」
最後は、わざと丁寧にしたのだろう。
全員が口を噤む。
怪しく光るルアの目は全体を見回し、最後にアインスへと辿り着く。
「………」
アインスは、それを見つめ返す。
静まり返った室内。
誰も、反論はしなくなった。
「…満場一致だな。」
ルアは笑った。
「後日セプテット、及び私が選んだ組員は、私の所へ来るように。以上だ。」
ルアは部下を引き連れて、そのまま部屋を後にした。
「……チィ…ッ!」
ルアが出て行ったのとは別の扉から、子を初め、その場に居た者達が、さっさと出て行く。
夏もまた、居心地の悪さに退室しようとしていた。
「夏。」
「…何か用?」
アインスはそれを引き止めると、頭を下げた。
「すまない。庇うようなことをさせて、悪かった。」
表情は見えないが、言葉ははっきりと申し訳なさを含んでいた。
言われた側の夏は一瞬、は?という顔をするが、すぐに舌打ちを一つした。
「別に、ただアイツらがウザったかったから、言いたかったから言っただけだ。お前の為でも何でもねぇよ。」
「だけど、」
アインスは顔を上げて、何か言おうとした。
「あーあーうっるせぇなぁお前も。何度も同じ事言わせんな。第一、お前らが自分で抱えようと、こっちは知ったこっちゃぁねぇんだよ。」
嫌そうに顔を歪めた夏が言う。
一歩、アインスに近づき、胸元に人差し指を突きつけた。
「あくまで、俺達の関係は仕事の中だけだ。今はたまたま、助けたように、庇ったように見えた。そんだけだ。別に、お前らがアレコレ抱え込んで自滅したって、こっち回ってくる仕事が増えてくれるだけの話だ。むしろ、利益が上がっていいんだよ、その方が。」
アインスは目を見開いた。
夏はそれだけ言うと、アインスに背を向けた。
「だから、謝んじゃねぇ。謝るくらいなら、今度こっちに仕事回せ。」
「……あぁ。」
フッ。とアインスは笑った。
ふと、ツヴァイと夏の目が合った。
「…ふん…。行くぞ、春。」
「はい。では皆様、お先に失礼致します。」
夏の代わりに、控えていた部下が頭を下げ、夏は部屋を出て行った。