ある朝
「おっはよー!」
「ふぎゃ!?」
何だ何だ何だ何だ?こんな朝っぱらから人の部屋に侵入してきて、おまけに大声出してたたき起こしやがって。どこのどいつだ・・・っていっても、こんなことするやつなんて決まってる。
「何回言ったら分かるんだ、近所迷惑だろ。」
「じゃあ、こっちも言わせてもらおうかな。何回言ったらわかるの?寝坊するなって。」
・・・え、まだ朝方じゃ・・・。慌てて窓のカーテンを開けると、眩しくて目がちかちかした。
「ほら。急がないと朝ごはんに送れるよ?」
「なっ・・・、こ、これはだな・・・・。その・・・、昨日セットしたはずの目覚まし時計が鳴らなかったからであって、だから・・・。」
「言い訳はいいから、早く来なよ?」
「ぅ・・・・・・。」
本当に鳴らなかったんだってば。
「・・・それと・・・、その目覚まし、壊れたってこの前言ってなかったっけ?」
「うわああああ、もういいから先行っててくれ!」
何とか部屋から追い出した。なんで女っていうのは、こうもお節介なのか・・・。本人の前で言ったら絶対ぶん殴られるな。
自己紹介をしよう。おれはルアザス。えっと・・・、男。十五歳。親いない。あとなんかあったっけ・・・。うん、多分ない。で、さっきのがライア。女。歳はおれと一緒。両親はいるらしい。いっつも朝、おれを起こしに来る。あと、おれの部屋に勝手に入ってくる。
それから、場所の説明。ここはおれの部屋。・・・じゃなくて、ここは・・・えっと・・・・、何とかって国のイーラーっていう首都の真ん中らへんにある、・・・うーん・・・、訓練所っていうかなんというか・・・。まあ、そんなとこ。
・・・説明になってないな。
「はーやーくーっ!」
「だあああ、分かったってば。」
食堂まで下りるのか・・・。めんど。
「わー、もうほとんどいっぱいだ。」
「いざとなったら立ち食いで・・・。」
「却下。」
「・・・・・。」
速攻却下。いくらなんでも酷いだろ。
大量の長テーブルの間を行ったり来たりして、とりあえず空いている席を探し回っていたとき。一人で隅っこに座ってる奴を発見。なぜか、そいつの隣と前、斜め前の席が空いている。
「なぁ、ライア。あそこ、空いてるぜ?」
すると、ライアは顔をしかめた。
「うーん・・・。」
「あいつの近くはなんかあるのか?」
「・・・あの子ね、剣術コースの、確か、片手長剣クラスの子なんだけど・・・。」
ライアの話によると、とんでもなく強い奴らしい。でも、何故かほとんどしゃべろうとしないし、話しかけてもあまりしゃべんないしで、みんな近寄らないらしい。そして、そういう奴には面倒な奴が付き纏うようになるのが普通だ。けど、あいつの場合は、1回構ってみたらその後の授業の1対1練習でボコボコにされて、それ以来全く構われなくなったらしい。・・・じゃあ、なんでまた構われているんだ?
「噂によると、それからも何回か対戦してその度にボコされて頭に来たらしくて・・。それで、こうやって仕返ししてるらしいけど・・・。あ、ほら、やって来た。」
「何が・・・?」
あ、あれか。いかにも頭悪そうな3人組が、隅っこの奴のところにやって来た。
「あらあら、朝からボッチで朝飯ですか。悲しいですねぇ。」
「仕方ねーだろ、こいつ不気味だから友達いねーもん。」
「あ、そうか、お前ボッチだったっけか、ヒャハハハハ。」
丁寧語バカと不良2人か・・・。
全く動じす、気にも留めずに朝食を食べ続ける、三人組曰くボッチ君。
3人組はそれがものっすごく気に入らなかったようで、トレイを持って立ち上がったそいつの足を引っかけた。
「おっとごめんよ、引っかかっちまった。」
引っかけられたほうはといえば、驚異のスピードでそれに対応したらしく、トレイはテーブルの上にあって、本人は今、床についた手を無表情ではたいていた。それから一言。
「何の用だ。」
わー、超絶無愛想・・・って、こんなやつらに絡まれたら、誰だってこうなるか。
「何の用って、一人だから遊びに来てあげただけじゃないですか。いっつもボッチな君のために話し相手になってあげてるんじゃないですか。」
「どけ。」
「えー、せっかく話しかけてあげたのにそれはないですよー。」
・・・ならお前ら、さっき足引っかけたのは何だ。
「邪魔だ、どけ。」
「あれぇ、人にものを頼むとき、そんなんでいーのかなぁ?」
「・・・。」
あー、こりゃあ人が寄ってこないわけだ。
「あの三人組は、なるべく会わないほうがいいよ。面倒だから。」
ライアの言う通りだ。こいつらめんどい。・・・でもさぁ。
「え、ちょっと、ルアザス?どこ行くの?」
・・・・悪いなライア。おれは、一度決めたら止まんないんだ。
テーブルを回って、奴らのいるところまで移動する。
「おい、お前ら。」
一人が振り向いた。
「あ?何だてめぇ。邪魔しに来たんならどっかいけ。」
なんか、こいつ、どっかで会った気がする。話したことすらないのに。
「そいつから離れろ腐った野郎め。」
真ん中のリーダーらしき奴が大げさにため息をついた。
「おやおや、君は初対面の人に向かっていきなりそんな口を利くのですか。無礼にも程があります。」
「人を弄って喜んでるやつに言われる筋合いはないぜ。」
こいつ、丁寧語なんか使ってきやがるのが頭にくる。
「弄る・・・?君は何を言ってるのかな?」
「へぇ、違うのか?なら、さっきのは何だ?」
奴はフンと笑った。
「少しお話をしていただけですが、何か?」
さっきのが話だったら、口喧嘩は真面目な話し合いか何かか?
「とりあえず、どいてやれ。」
「僕たちの朝のおしゃべりを邪魔するのですか。」
「お前らが今さっきやってたことがおしゃべりに見える奴なんて、いると思うか?」
「君の目が悪いからそう見えるだけじゃないですか?」
残念、おれの目はどこも悪くないぜ。
「とりあえず、どけよ。おれはお前らの後ろにいる奴に用があるんだ。」
「へえぇー、こんな居ても居なくてもいい人間に用がある奴なんていんのかよ。」
「黙れ負け犬。」
「なっ、何だとこの野郎!」
「事実だろ?」
・・・さて、そろそろ本気でどいてもらおうか。
「負け犬が次こそ勝てるよう努力しようともせずに、ごちゃごちゃうるせぇ。さっさとどきな。さもないとお前ら、おれに朝っぱらからボコられることになるぜ?」
「このっ・・・・。」
「返す言葉がないようだな。言いたいことはそれだけか。」
・・・・ここじゃあ、引っ張り出すのも難しいな。周りに迷惑になる。
「・・・・君・・・。今日の夜、裏庭においでよ。そんなに負け犬呼ばわりするくらいなら、僕ら3人に1人で勝てる自信があるんだよね・・・?」
おー、夜中に3対1するつもりか。
「1人でやってろ。あ、お前ら3人か。」
「叩き潰してやるっ・・・。」
「夜中は外出禁止だろ?お前らに付き合って怒られましたってことにはなりたくないからな。拒否する。」
「・・・なら、今日の昼に・・・。」
随分とお急ぎのようで。そんなにボコボコにされたいか。
「外出禁止時間じゃなかったら好きなだけボコってやる。だからどっか行け。」
「ちっ・・・・。行こうか。」
やっとどっか行ってくれた。これからは、休んでる時も周りに注意しなきゃな。油断してたら殴られそうだ。
ふぅ、とため息をつき、改めてさっきまで弄られていた奴のほうを見る。
「・・・なぁ、お前・・・。」
すると、そいつはハッとしたようにおれを見た。
「「どっかであった?」」
声が重なった。どうやら、あっちもおれに見覚えがあるらしい。
「そのどっかが分かんないんだよな・・・。」
「・・・お前、なんでオレを助けた?」
「何でって、そうしないとお前と話せなかっただろ。」
「・・・・・・。」
さぁーて、頑張って思い出してもらおうか、おれのざる頭よ。人の名前くらい、覚えてるよな?
・・・・・だめだ、出てこない。
「お前、名前は?」
「おれか?おれはルアザスだ。」
「オレはシュルースレイラー。」
随分と長い、変わった名前だな。急いでるときとか、短縮しないと間に合わなさそうだ。
「ルアザスー?あ、いたいた。」
「あ、ライア。」
「・・・えーと、こっちは・・?」
ライアはシュルースレイラーのほうを見た。
「こいつはシュルースレイラー。」
「あたしはライア。よろしくね。」
その時、おれの腹がグ~と鳴った。
「あー、悪いちょっと朝飯取ってくる。」
「あ、じゃああたしの分もよろしく。」
ええええええ、おれにお使い頼むのか、お前。どーなっても知らんぞ。大量の握り飯だけ取ってきても文句言うなよ。