過去
ある日、山の麓の小さな村が、モンスターの大群に襲われた。
村の住民たちが、どんどん殺されていく。
6歳になったばかりの赤い髪の少年は、両親と一緒に領主の城に向かって村人たちと走っていた。
その集団に、一体のオーガが襲いかかる。
反撃の手段を持つ者も持たない者も、悲鳴をあげて逃げ惑い、ただ走る。
あっという間に集団は半分以下になった。
――そして
少年の父親が、はらわたを抉り出された。
続いて、母親も首を切り裂かれた。
残ったのは少年一人。
目を見開いて、声も出せずに固まった。
2,3歩後退りし、オーガがその太い腕を振り上げたのを見ると目を瞑った。
オーガが腕を振り下ろす。
「ぅ・・・・・うわああああああああああ!」
何の呪文もなしに、赤い炎が巻き起こった。
炎が消えたとき、辺りは一面焼け野原になっていた。
少年は、訳が分からないまま城に走りこんだ。
城のホールに駆け込んだ少年を出迎えたのは村人や領主の屍。
そして、城内にまで入り込んで、村人や領主を皆殺しにしたオーガたち。
「わああああああああああああ!」
恐怖心が、少年の不思議な力を呼び覚ます。
炎が巻き起こる。
・・・しかし。
恐怖に混じる家族や友人を殺されたことへの怒り、オーガへの憎しみが、炎を黒く禍々しい闇に変える。
そのときから、その少年の心は光と闇の2つに分かれてしまった・・・・・。
その頃、その少年と同い年ぐらいの銀髪の少年が風のように山の中を走っていた。
一人で逃げたために、オーガに見つからなかったのだ。
しばらく走ると、銀髪の少年は立ち止った。
「どこにいるの?早く来て!!」
すぐに、音もなく木の陰から黒髪の青年が出てきた。
「どうした。」
銀髪の少年は、今にも泣き出しそうな顔で説明しようとした。
「村が、モンスターがたくさん、襲われて、だから、・・・と、とにかく来て!」
少年の慌てっぷりに驚きながらも、黒髪の青年は分かったというように頷いた。
「俺の手を離すなよ?」
「うん」
青年は、少年がしっかり手をつないだことを確認すると、目を閉じた。
瞬間、
二人はもうそこにはいなかった。
「これは・・・・」
二人が移動したのは、焼け野原になって何もなくなった村だった。
「少し遅かったか・・・」
「そんな・・・・・。みんなは・・・・。」
そう言いかけた少年は、人が一人立っているのを見つけた。
「あれは・・・!」
「待て!」
走りだそうとした少年を、青年が制する。
「いるんだろ?そこに。」
「ヒヒヒヒ・・・人間のくせに随分と察知能力が高けぇじゃねぇの・・・。」
赤髪の少年の真後ろに、異様な気配を発する男が現れた。
「ヒヒヒヒ・・・こいつはいい。とてつもなく大きな闇を感じるぜ・・・。」
男は赤髪の少年の目を覗き込んだ。
少年はさらなる恐怖に固まる。
「いいもんが見つかったぜ・・・ヒヒヒヒ・・・。」
そして、男は少年に手を伸ばした。
バチッ
黒い稲妻が男の体に走る。
「うお!?」
「そいつに触るな!」
青年が左手を突き出していた。
体からは漆黒の闇があふれ出している。
「てめぇ、魔術師か!?」
「失せろ、偽破壊神。」
「なっ」
偽破壊神と呼ばれたその男は、後ずさった。
「正体がばれているだと・・・?」
「貴様は破壊神ゼイロード。偽りの破壊者。」
「ちっ・・・、ばれちゃあ仕方ねぇ。てめぇは殺すぜ。」
少年2人は、ただならぬ空気に後ずさった。
「そう簡単にいくかな?」
「死ねええええぇぇぇっ!」
ときには星一つをも砕く程の威力のある破壊神の一撃が青年を襲う。
青年の姿が消えた。
「何だ?手ごたえがねぇ。」
「スコティア!」
「ごはぁ!?」
いつの間にか後ろに回り込んだ青年が、破壊神を吹き飛ばした。
「てめぇ・・・、人間かぁ?」
「さぁ、どうだろう。」
青年は、不敵な笑みをうっすらと浮かべた。
「・・・ちぃっ・・・。こっちも暇じゃぁねぇ、今回は見逃してやるぜ。」
破壊神は、闇の弾丸を置き土産にまき散らしながら消え去った。