茶番劇はよそでやって頂戴(ため息)
息抜き程度に……さらっと読んでいただければ。
今日も今日とて素晴らしい茶番劇が正門前で繰り広げられております。
せめて校舎内でやってくれればまだ外聞が悪くなることはないのに……
誰が見ているかもわからない正門で繰り広げるのはやめて頂戴。
わが校の評判が~~~~~~~~~!!
しかし、誰一人として茶番劇に石を投じる者はいない。
そう、毎朝毎朝私が投じるまで、誰も彼らの迫真の演技(?)に声を掛けられないのだという。
盛大なため息を吐く私に隣にいた妹が心配そうに顔を覗き込んでくる。
私はにっこりと笑みを浮かべ妹を安心させると一歩踏み出す。
毎朝のことながらウンザリ。
いったい何パターンあるのかしら……この茶番劇。
そしていつまで続くのかしら……
パンパン
比較的大きな音を立てて手を叩くと視線が一斉に私の方に向く。
正門前で繰り広げられている茶番劇を観客していた人たちがさっと舞台までの花道を空ける。
私はその花道を堂々と歩く。
なんで私がこんな茶番に付き合わなきゃ行けないのよ!
まったく。
私は平穏な日常が送りたいのに……
舞台役者たちの元にたどり着くと、男優たちは一斉に顔色を変えた。
まったく、毎日のことながら反省がないわね。
そんな死神に会ったような顔をするくらいならこんな茶番劇を毎日繰り広げるのを辞めればいいのに……
唯一の女優である彼女はキッと私を睨みつけてくる。
「毎朝毎朝、あなた方はわが校に泥を塗っている自覚が全くないのですわね」
大きなため息とともに吐き捨てると唯一の女優は顔を真っ赤にさせて
「あんたには関係ないでしょ!部外者は引っ込んでなさいよ!」
私に向かって指差し威嚇する。
周囲からは息をのむ音と、クスクスと笑う声。
そして何より残念なものを見るような視線が女優に向けられている。
あーあ。
もういい加減うんざりしているからここいらで制裁してもいいかな?
私は後ろを振り返り妹に視線を送る。
妹はびくびくしながらも小さく頷いた。
それをしっかりと確認した後、スーツの内ポケットから一通の手紙を女優に渡す。
「本日をもってあなたを退学処分と致します」
私の声ははっきりと響き渡ったようです。
私が言い終わると周囲から歓声が一気に上がったのだ。
おやおや。
これは一体……と遠い目をしていたらいつの間にか妹が傍に来ていた。
「お姉様。ありがとうございます。これでやっとこの学校も平穏が戻ります」
「おや、女優一人退学にしただけで元に戻るのかしら?」
チラリと男優たちの方に視線を向けると顔を真っ青にさせながらも女優を慰めていました。
あいつら、自分が置かれている立場分かってねえな。
「あら、お姉様。退場するの女優だけではないのではないのですか?」
「ん?」
「たしか、そちらの本来の仕事を放棄している男優たちのご家族からも根性を鍛え直すためという理由で『自主退学』の届けが出ていると、秘書の方が仰っていたように記憶しておりますが……」
「ああ、確かに届は出ていましたね。しかし、彼等には1か月の猶予を与えると伝えてあったと思うが……」
「まあ、お姉様。猶予の1か月はとっくに過ぎておりますわ。今日で3か月目に突入していますのよ」
クスクスと笑う妹。
「あら、そうだった?ここの所、海外研修やら会議やらが続いていたから気づかなかったわ」
「お姉様、お仕事……大変なのは分かりますが無理はしないでいただきたいですわ」
うるうると瞳を潤ませる妹に思わず言葉が詰まる。
周りからは『理事長の妹……健気~かわいい~守ってあげたい』とかよくわからん言葉が飛び交っている。
ふっ。
お前ら分かってないな。
この茶番劇のシナリオは妹達の作品なんだよ。
幼少期に男優の一人に惚れられ、手を変え品を変えアプローチされた妹も満更でもないと思ってか中学から付き合いだした。
もちろん、裏の調査は完璧にしてある。
この男なら大丈夫だろうと渋る父親を説得したもんだ。
今となっては後悔しかないけどな!
過去に戻れるなら父親を説得していた時に戻って阻止したい!
しかし、高校に入学し、季節外れの転校生が入ってくるとその男優は態度を一変。
べったべたの甘い雰囲気をまき散らしていた妹カップルはあっさりと破局した。
理由は男優の心変わり。
いや~、見事だよ。
見事に季節外れの転校生ちゃん(女優)は金持ち男(男優)を次々と誑し込んでくれたよ。
金持ち男達(男優たち)の恋人も婚約者も傷を負いながらも離れていった。
女優から定期的に理事長あてに送られてきた『イジメ報告』なんて起きてない。
すべて女優の自作自演。
おお、まさに女優!
報告書を読むたびに拍手を送っていたモノだ。
しっかり裏付け調査はしてあるので彼女の自作自演であることは明白。
調査員も呆れるほどのモノだったらしい。
で、今回の茶番劇は妹達の元彼への復讐である。
散々アプローチしてラスボスを説得して手に入れた各家の宝をあっさりと手放したことに対する復讐なのだよ。
妹達を溺愛する家族が起した復讐なんだよ……これが……。
たまたま私が妹たちの通う学校の理事長ということもあり、多少融通は利かせた(つもりだ)。
私と妹は正真正銘の10歳以上年の離れた姉妹だが、親が離婚したため今は別々の家で暮らしている。
私は母に、妹は父に引き取られたのだ。
離婚したからと言って全く交流がないわけではない。
むしろ『こいつらなんで離婚したんだ?』という位にアツアツカップルだったりする。
……どうでもいい情報だが。
まあ、男優・女優の方々は私の存在を知らなかったみたいですが……
うん、自分たちの学校の理事長(学校案内パンフにもデカデカと顔載っている)を知らないのはいかがなものかしらね~
ましてや大企業の御曹司である男優たちは何度も社交の場であっているというのに。
この際、母親の再婚で金持ちの家の娘になった女優の事はどうでもいいわ。
中学の頃から上流階級で頻繁に行われている社交の場にパートナーとして出席していた妹たち。
お年寄り連中には将来のパートナーと見られていたことは当然だ。
それが、高校に入った途端に破局。
妹たちは社交界で肩身の狭い思いをしている……かと思いきや爺様方を味方につけて次なる婿候補を探していた。
まあ、しくしくと泣いているよりかはましだな。うん。
あえて称するなら『ロールキャベツ男子』ならぬ『ロールキャベツ女子』?
いや違うな。
可愛い子猫と思ったら凶暴な肉食獣だった……が一番あっているかも……
さて、時間を現在戻そう。
「なんで私が退学なの!?」
「あら、自覚がないようね」
クスリと笑う私に周囲の気温が数度下ったと妹が呟いている。
「毎朝毎朝、くっだらないことで正門で騒いでご近所様からの評価をガタガタに落しているのになぜ気づかないのかしら……一年に一~二度くらいなら以前にもあったけど。さすがに毎日は……ねえ」
片頬に手を当てて首を傾げる仕草をする。
「そこの男子生徒達は家族から『退学願い』が出ているので今日中に処理をしますが、あなたは学校の備品は壊すわ、与えられた資材を破損するわ……いくら指導しても他人のせいにして態度を改めない。咥えて成績は常に赤点どころか全科目0点。そこの男子生徒達と勉強しているというのにありえない成績よ……」
「!!」
「あなたが壊した備品等はご家族に弁償してもらうことも決まっています。ええ、正式に弁護士を通して請求していますので反論がある場合は受けて立ちますわよ。もっともあなたのお義父様とお母様は土下座して謝ってきましたけどね」
あれはすさまじかった。
理事長室で仕事をしていた時に警備の制止を振り切って入室してきたかと思ったらスライディング土下座をされたからね。
実はその時に『退学届』(一応本人直筆。義父があれこれ騙して書かせたらしい)を受け取っていたけど、改心するならばと男優たちと同じだけの猶予期間を与えたが……ダメだったらしい。
昨夜、涙ながらに母親と義父が謝りに来た。
もう、自分たちでは手が負えない。好きなように処分してくれって。
親としてそれはどうなのかと思ったが……退学後は精神病院に入れると言われたので了承した次第である。
どうやら女優は電波娘だったらしい。
家の自室で『私がヒロイン!この世界のヒロインなのね~!キャッホー!男共を手玉にとって……』と声高らかに吠えていたらしい。
ああうん、もうご両親にはご愁傷様としか声を掛けられなかった。
朝の騒動は瞬く間に近隣校にも知れ渡った。
近隣の学校の関係者との懇談会の時にいろいろと聞かれたが適当に濁す。
男優たちが転入した学校関係者もいたからね。
男優たちは親達による再教育(かなりのスパルタ教育)が行われ、なんとかまともになったと妹たちが大学を卒業するころ連絡があった。
女優だった彼女は……
未だに精神病院特別室で『なんでヒロインの私が精神病院に!?』と喚いているとか……
「お姉様!聞いてくださいな!」
儚げな面影とは正反対の性格をしている我が妹。
どうやらまた何やら悪戯を思いついたようだ。
どうでもいいが……私を巻き込まないでほしい。
私はこの学校の評価を元に戻すのに忙しいんだから~~~~!!
私が逆らえない人達からのお願いだから我慢していたけど……
あいつら……
制裁後の後始末を全部押しつけやがったー!!
もう二度と……
もう二度とあいつらの『お願い』は絶対に聞かないから!
しかし、そうなると寄付金が……確実に減る。
ああああああああああああ!
どうすればいいんだ!
寄付金は諦めるしかないな……
うん、寄付金無しでどれほどの損益が出るか算出しよう。
確実に赤字だろうけどな……
もう、上流階級のお坊ちゃんお嬢ちゃんに振り回されるのは面倒だ。
なんで毎年毎年問題児が入学・転入してくるんだよ。
この学校呪われているのか!?
お祓いしてもらったら多少はマシになるのかな……
うう、今日もまた胃薬片手に仕事しますか……
私は知らなかった。
妹もまた『電波娘(悪役に転生Ver)』でこの世界が『二次元の世界!悪役!なんて素敵なの!』と瞳を輝かせていたことを……
休憩時間に勢いだけで書きあげた作品です。
いろいろと突っ込みたいでしょうがスルーでお願いします。
【蛇足】
主人公と妹では家の格差があります。
妹(父親の家)の方が格上なので姉(母親の家)は『お願い(命令)』されたら立場上逆らえません。
主人公が理事長をしている学校は母親の一族が経営している学校の一つ。
日本各地に兄弟校があり、どの学校も問題児に頭を抱えています(笑)
そのせいか、理事長同士の繋がりはかなり強いです。
(互いに苦労話をして慰め合っている模様)
主人公の学校はまだましな方。