黒狼
帝都郊外、ロンスバッハ村。
ロンスバッハ村には、騎兵、弓兵、歩兵など総勢6千名の帝国兵を従えた将校が駐留していた。
「さぁ、行こう。」
馬上の将校が静かにいうと、兵士が「門開きます。」と返し、村を守る門を開ける。
大胆にも、護衛を一人も付けずに単騎で外へと進んだ。
そこには、
(ーーーーなんて数だ。)
将校の眼前には、敵国の将兵が視界に入るすべての光景に布陣していた。
おのずと身体に力が入り、右手に持っていた騎士槍を握り締め、深く息を吐く。
(緊張しているのか、私よーーーー。)
将校は眼前の敵を凝視する。
敵との距離は、一刻あるかないか。
将校の姿は敵方からも見えていた。
「帝都が陥落してもなお、まだ戦うか愚か者共。」
王国軍大将アランソン伯スールト・ポドワン、王国軍随一の勇将としてその名を轟かせていた。
スールトは激しく抵抗する帝国軍に、苛立ちを募らせていた。
「小賢しい、押しつぶすのだ。第一陣、前へ!!」
スールトは右手を高々に上げて叫ぶ。
これに呼応して軍楽隊が演奏をはじめ、第一陣が帝国軍の布陣するロンスバッハ村へと進みだした。
第一陣は機動力・突破力のある騎兵を主力に、歩兵、彼らの突撃を援護する弓兵で編成されている。
だが第一陣にも問題があり、数では優位に立っているものの、ロンスバッハ村は小高い丘の上にあるため、帝国軍の出方によっては騎兵の機動力・突破力を生かせず苦戦する恐れがある。
しかしスールトはこれを承知しており、あくまで数で押し切ろうとしていた。
将校は、士気旺盛な大軍が迫りくるにもかかわらず、動揺するしぐさも見せず、ただ王国軍を眺め続けていた。