日本語訳とカタカナ表記の間で乙女心を揺らすお嬢様の単元
お嬢さまが俺に噛み付いてきた。
「納得いかないわ先生!」
「どうしました? お嬢様」
I wait the bus.
「これって、『私はバスを待つ』で合っているわよね」
「そうですね」
I wait the car.
「なぜこれが『私はカーを待つ』でバツなのよ! それなら前のだって『私は乗合自動車を待つ』じゃなきゃダメなはずなのよ」
また面倒くさいところに絡んできたな。
「『カー』は一般的に使用しないからじゃないですか?」
「リヤカースポーツカースペランカー はい論破」
「何か違うの混じってますよ。ところで、何でわざわざ『車』と書かないで『カー』って書いたんですか?」
「かっこいいからに決まってるからじゃない! 『ポケモンゲットだぜ!』が 『ポケモン入手!』じゃかっこよくないでしょ? あら、『ポケモン入手!』のほうが知的でかっこいいかしら」
「自己完結なさいましたね」
「とにかく、日本語とカタカナ表記の境がわからないのよ!」
「試験の場合はなるべく日本語にしたほうがいいでしょう。まあ、そもそもカタカナ表記が一般的な単語を問題に出してくる教師のほうが頭悪いんですけど」
「先生、攻撃的ね」
「同業者には容赦しませんよ。でも、学校の先生に向かって言ってはだめですよ。内申点が悪くなりますからね」
「じゃあ『I go to Paris. 』は、『私は巴里に行く』って書かなきゃだめなの?」
「巴里は当て字です。海外の地名はカタカナで問題ありませんよ」
「そっか。面倒だわね」
「この会話自体が面倒です。そういえば、お嬢様よりも強硬な手段に出た方もいらっしゃいますよ」
「どんな人?」
「『理解できない外来語が多く使用されていることによって精神的苦痛を受けた』と天下のNHKを訴えた方です」
「そうなんだ。どんな言葉なの?」
「訴訟内容での例では『ケア』『コンプライアンス』『リスク』『トラブル』『コンシェルジュ』『「アスリート』などですね」
「『ケア』と『トラブル』はわかった!」
「では、これはわかります? 『サマリー』『シーズ』『スキーム』『センサス』『ソリューション』……」
「やめて! 何よ! その呪いの言葉は!」
「自分のことを『アナリスト』とか語っちゃう基地外どもが使う言葉ですよ」
「先生、これ以上敵を作るのはもうやめて!」
「それもそうですね。それではランチにしましょうか」
「『お昼ごはん』よ、先生」
はい俺一本取られました。