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情報収集は聞き込みで

 まぁ確かにRPGのセオリーといえば町の人たちに話しかけて情報を集めること。


「まっずはー、このお城にいる兵士さんたちに聞き込みをしてみよー」


 レナさん、テンション高いっすねー。剣とか持ったまま飛び跳ねちゃってるよ。

 ありゃ、剣を持ったままじゃん。


「ゴメンよ。成り行きで剣とか待たせちゃってたね。俺が持つよ」


 んー、俺って紳士。俺ってかっこいい。やっぱ女の子には優しくしとかないとね。そうすりゃ後々いいことあるかもしれないし。


「ホントー? アリガト! さっすがは勇者だね」


 うわー!! 笑顔が眩しい! 首を(かし)げた感じもまたズルいくらいカワイイ!

 うん、俺、勇者になる。よくわかんないけど勇者になる。誰が何と言おうと勇者になる。この笑顔が見れるなら俺は勇者になってみせる。

 優しくしといてよかったー!

 とは悟られないように紳士的に受け取る。


「さぁ! 聞き取り調査だ! 行くぞ!」


 そりゃ乗り気にもなっちゃうって。


「あっ、あっちに兵士がいるよ。ちょうどよかったね」


 ミホの指さした方向には確かに鎧を着こんだ兵士がいる。

 確かにいるけど……、いるんだけど……、あれはちょっと……。


「んー、あの人は強面(こわもて)過ぎない?」


 その男、顔は鬼の形相、体つきは筋肉隆々、手には物騒な槍、ゼッッタイに話しかけたくないパターンの人間なんですよね。


「ミホ? 別の人にしない?」

「え? なんで?」

「だってあの人、怖そうじゃん」

「そんな冗談言っちゃって。怖いわけないでしょ? だって勇者なんだから」


 うげっ! そんな理由アリ?

 えーっと。やっぱ俺、勇者じゃなくてもいいかな。あんな人に話しかけるぐらいならモブキャラとして一生を終えてもいいんですけど。

 と言えるわけもない! 男として。そしてレナの笑顔のため。


「も、もちろん冗談だよ。ほら、勇者にはみんなをまとめていくためにもユーモアのセンスが必要不可欠なんだよねー。騙されちゃった?」

「うん。迫真の演技だったよ」


 そりゃ迫真だったろうね。心の奥底からの気持ちだったんだから。


「それじゃ気を取り直してみんなで話しかけに行こうか」

「ウチはいいや」

「うん、あたしも」

「わたしもここは遠慮しておこう」


 なんだ? その息を合わせたかのような即答っぷりは。


「え? なんで? どうして?」

「だってあたしはあの人怖いんだもん」

「ミホちゃんと同じでーす」

「同じく」


 まさかの勇者に丸投げ? 裏切りだー!


「いやいやいや、そんなこと言わないでさ。俺たち四人で勇者一行らしいじゃん? だからみんなで一丸となって行動したほうがいいよ。うん。絶対にそう! 間違いない!」

「ですが、話を聞きに行くぐらい一人で足りるのではありませんか? リクト様」


 メグさーん。お願いだから一刀両断で俺の絞り出した言い訳を切り捨てないでくれー。


「まぁ……、そりゃ……、足りるけど……」

「それではお願いします。勇者様」


 まさかこの三人、勇者って呼べば何でも済むとでも思ってるんじゃないよな?

 それでもカワイイ女の子に勇者って呼ばれて嫌な思いなどするはずもない俺は強面兵士に聞き込みしに行くのであった。


「はぁ」


 そもそもなんだよあの兵士。あんな怖いのが存在していいのか? ここはゲームの世界なんだろ? それも昔ながらのRPG風。怖くて話しかけづらいモブキャラなんて嫌だよ。

 まさかのあの槍で刺されまくって無様な死に様を(さら)して『実は残酷な描写がありまくりの18禁バイオレンスゲームでしたー』なんてオチになったりしないよな? よな?

 なんて考えてるうちに会話可能圏内まで近づいちゃってるよ、俺。話しかけなきゃダメなんだよね? 勇気出さなきゃダメなんだよね?

 後ろを振り返れば女子三人が柱から顔だけを覗かせてる。

 よし! 男なんだから! 根性見せないと!


「ぁ……。あのぅ」

「ぁあ!? 誰だてめぇは!? 俺になんか用だってのか!? あぁ!!?」


 五秒後。


「ハァ……、ハァ……」

「ありゃりゃ? リクトくん? どうしたの?」

「えっと……、えっとね……。あの人、有力な情報、持ってない、みたい」

「そうなのですか? 見てた感じだと会話してるようには見えなかったのですが?」

「会話を、会話しなくてもわかっちゃったからさ。さっさと戻ってきたんだよ、時間の無駄だと思って」

「そうなの? でもちゃんと話したほうがいいと思うよ。意外な人が重要な情報を持ってたりすることだってあるんだから」


 俺を(おとし)めたいの? そんな俺にあいつと話してほしいの?

 話しかけた瞬間あんな態度を取るか? ヤバいだろ、あいつ。あんなのと話すなんて無理無理無理。チョー怖かったもん。まだ顔が引き()ってるもん。

 でもこのままだとヤバい。またあいつに話しかけなくちゃいけなくなる。何か打開策は……、打開策は……。

 そうだ!


「あれだよ! きっとあの人、全員で話しかけないと情報を教えないような設定になってるんだ。だから今度はみんなで話しかけに行ってみよう。うん、そうしよう」

「えー、ヤダよう。怖いよー」

「…………でも確かにリクト様の考えも一理ある気がします。レナ、ここは一緒に話しかけに行こう」

「えー!! そんなー!」


 あれれ? 俺の考えだと……。


『えー、ヤダよう。怖いよー』

『わたしも怖いですわ。別の人を探しに行きましょうよぅ、勇者様ぁ』


 なんて感じでツンとした雰囲気のメグがデレな一面を見せると思ってたのに。残念です。

 しかもやっぱりあの兵士に話しかけるの?


「いやいや、メグ? そんな怖がってまであの人に話を聞く必要ないんじゃないかなー、なんて」

「そんなこと言ってられません! わたしたち勇者一行の旅立ちの時にどうして臆することがありますでしょうか。あんなやつ屁でもありません!」


 待て待て、メグ! 俺としては端麗な容姿に似合った上品な言葉使いをしてほしいんだが! 屁でもないとか言ってほしくないんだが。

 一人でズカズカ兵士のほうに歩いて行っちゃうし。


「メグって怒らせたらあの兵士より怖そうじゃない?」

「そんなこと言いなさんな、ミホ」


 勇者よりも勇敢な女子一人を放ておくわけにもいかない。後に続いて俺たちも兵士のもとに歩み寄る。


「ちょっといいかしら?」

「ぁあ!? 今度は誰!…………ですか?」


 えーー!! 最初の威勢は俺の時と同じだったのに、メグに話しかけられたと分かった瞬間おとなしくなりやがった! 

 しかも『ですか?』とか丁寧だし。俺の時は『あぁ!!?』だったのに。


「わたしの名前はメグ。勇者と共に世界を救わんとする者よ」

「そうでございましたか。何かわたくしに御用でも?」


 あーー、こいつ!! この兵士、メグの胸ばっかり見てやがる! 微妙にニヤついてるし! 色目使って親切にしてんだな、このエロ兵士!


「この世界の情勢。あとこの城と町について聞きたいんだけど」

「はい? なぜ今更そんなことを聞きたいのですか?」

「理由なんて必要ないでしょ? 言いたくないのなら別に結構ですけど」

「話します! 話しますとも!」


 ホントに俺が話しかけた奴とこいつは同一人物なのだろうか。女子の胸って偉大だなぁ。


「世界の情勢と言えばやはり魔王復活でしょう。長年封印されてきた魔王が復活してしまい、それによって魔物たちが活発化。被害が後を絶たない状態です」

「対策は何か講じてるのかしら?」

「いえ、いまだこれといった対策は各国とれておらず防戦一方の状態です。ただ噂によると大昔に魔王を封印した伝説の勇者様の子孫が世界を救うため近いうちに立ち上がってくださるとか…………。あれ? さきほどあなた名前と共に何とおっしゃられましたっけ?」

「勇者と共に世界を救わんとする者。ですか?」


 その兵士の驚きっぷりといったら。ただでさえ怖い顔がバージョンアップしたかのようだった。

 そんでその顔のままメグの手を掴むんだもん。メグの顔一面に広がる嫌悪感は同情せざるを得ない。あんなの間近で見せられたと思ったらね。


「まさか……、あなた様が……、あなた様が世界を救ってくださるのですね! そんな高貴な考えを持つ方と出会うことができただなんてありがたき幸せです! して、勇者様は一体どちらに?」

「そ、その前に手を放して!!!」


 あっ! 今のメグ、ホントに怖かった。ミホの言ったことも(あなが)ち間違ってないのかも。


「す、すいませんっ! とんだご無礼を!」

「ふぅ……、いいえ、そんなお気になさらず。それでこちらの方です」


 メグが俺のことを紹介するように手を向けた。


「はい? このガキがどうしたのですか?」

「ガ、ガキとは無礼な! こちらの方こそ勇者リクト様だ! 口を慎め!」


 兵士さーん。どフリーズしてますよー。もしもーし?


「…………いやいや、そんな御冗談を。このガキが勇者なわけありませんよ。明らかに弱そうですし、こんなのが魔王に勝てるというなら俺が戦えばコテンパ…………」


 兵士の言葉が途絶えた。

 その理由はメグが俺の手元から木の剣を奪い取って兵士の兜に渾身の一振りを与えたから。

 そして倒れた兵士にメグから一言。


「黙れ!! この糞ゲス野郎!!!」


 …………。

 俺は何も見ていない。俺は何も聞いていない。俺は何も見ていない。俺は何も聞いていない。

 あの床で泡噴いて倒れてる男は幻だ。きっとそうだ。そうに違いない。

 隣を見るとレナとミホも不審な動きで明後日の方向を見てる。

 剣を持ったメグが近づいてきた。どーしよー。


「申し訳ありません、リクト様。勝手に剣を使ってしまいました」

「えっ? あぁ。うん、別にいいよ。剣は使うためにあるんだからね」


 わけわかんないフォローしてるよー、俺。この空気どうすりゃいいんだー?

 とりあえず凶器……、じゃなくって剣を受け取る。


「やはりリクト様の言う通り、皆で話しかけなければいけなかったのですね」


 いいえ。メグが一人で話しかければそれで万事(ばんじ)オッケーだったと思います。


「そ、そうだね。じゃ、じゃあ他の人にもさ、話を聞きに行こうよ。な、ミホ」

「へっ? そ、そうしよー。ね? レナ」

「はわっ! そ、そーれがいいねー。えへへ」


 三人とも棒読みなのはまぁ仕方のないことでしょ。


「はい。では他にも兵士はいるようですし……」

「ストーップ!! ストップだ、メグ! 兵士はやめよう。というより城から出よう」

「賛成!」

「賛成!」


 もう兵士は懲り懲りだ。その前にこの惨状から離れないと俺たちだいぶ不味(まず)いことになるんじゃないか?


「城下町って何あるのかな?」

「人いっぱいいるんだろうな」

「おっいしい食べ物とか売ってるよねー」


 三人の思惑は一致してる。メグを押すようにしてその場を離れる。


「そんな押されなくても自分で歩けます」


 無視無視。少しでも早く城から出たい! もうここにはいたくない!

 はぁ……、もう初っ端からなんなのさ!? ここがゲームの世界ってだけでも意味解ってないのに、モブキャラとの会話にこんなイベントが設定されてるわけ? もしかしてあの兵士モブキャラじゃなかったとか? もう、よくわからん!

 わかったことといえば俺は伝説の勇者の子孫であること。そしてメグは怒らせたらいけないということだけだな。

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