最初はやっぱり王の間
「よいか!? 勇者よ」
へ?
何? 誰? ここはどこ?
「お主こそ、この世界の希望だ。お供の者と協力し、悪の限りを尽くす魔王を打ち倒すのだ!」
目の前には冠を被って、赤いマントを羽織り、どこぞやの貴族っぽい格好をした中年男が踏ん反り返ってた。
なんでこの人、王様みたいなコスプレしてんの?
しかもこのシチュエーション、昔ながらの王道RPGゲームで見かける感じだけど。だだっ広い広間に赤い絨毯、壁には刺繍の施された布。ここってお城?
「お主らもよいな? しっかり勇者の手足となり世界を救いたまえ」
誰に話してるのかと思ったら俺の後ろに安っぽい服を着た三人の女子が並んで立ってた。
見た感じ俺と同い年ぐらい? ちなみに俺は十七歳ね。
「へいへーい、わかってるってば」
最初に答えたのは俺から見て左の子。
薄い空色の柔らかそうな髪は後ろで一つに束ねられていて、目がトロンとしてるからか顔はおとなしそうな印象を受ける。
身長も俺と同じくらい? ただスラッとした立ち姿にちょうどマッチするバストとヒップのラインがなんとも堪らない。安物っぽい服が酷く残念に思えてきてしまう。
答える時のどこか不貞腐れたように頬を膨らませてたのがなんともカワイらしかった。
「了解しましたですぜぃ」
次に答えたのは真ん中の子。他の二人に比べて少し小柄。
目がパッチリしてるその顔立ちはいかにも元気いっぱいな子って感じ。肩まで届かないほどのオレンジ色ショートカットヘアーがその顔立ちによく似合ってる。
あの小ぶりな胸もこの子には抜群に相性がいいと思う。なんかスポーツ大好き少女っぽい感じがして。
眩しいほどの笑顔を浮かべながら敬礼して答える姿がなんともカワイらしかった。
「お言葉ですが王様。そんな偉そうに命令されると、こちらのやる気が削がれるんですけど」
最後は右の子。
紫味がかった黒髪はキューティクルが輝く綺麗なストレートで前髪はパッツン。切れ長の目がクールビューティーを醸し出す。
ただ何と言ってもあの爆裂おっぱいが目を引きまくる。あんなの見せられちゃ王様だろうと誰だろうと文句言われても仕方ないでしょ。
腰に手を当てながら呆れたように進言する姿がなんともカワイらしかった。
なーんかよくわかんないけど、とりあえず王様らしいね、この人。
「おい、お主ら! こういう時は皆で口を揃えて『必ずや使命を果たしてみせます!』などと言ってそそくさと旅立つのが筋というものだろう。そんなに個性を出したがるな!」
「なんでよ? そんな筋、知らないし」
「やーなこったー、パンナコッター」
「偉そうにしないでくださいと言っているでしょう。王様のくせに」
……ホントに王様なのかな? 言われたい放題になってるけど。
王様なのに『偉そうにするな』とか言われてるし。王様って偉そうにしてればいいだけの人間なんじゃないっけ?
「……もういい。ちゃっちゃと行け」
諦めちゃったし。
「勇者よ、此奴らのこともよろしく頼むぞ」
「は、はぁ」
「それからそこの宝箱に冒険の手助けになるものを入れておいた。持っていくがいい」
んー、確かに俺の右側にわっかりやすい宝箱が置いてあるけど。別に宝箱なんかに入れないで手渡しでいいんじゃないかな?
でも持ってっていいって言ってるし、ちょっと見てみよ。
蓋にはカギはかかってない。ガパッと開けて中を見てみると、玩具か模造品かと思えるほど安っちい木の剣が一本と、今着てるのよりかはほんのちょびっとマシっていう程度のシャツが一枚と、小さな巾着袋が一つ入ってた。
巾着袋の口を開けて逆さに振ってみると、出てきたのは五枚の銅貨。
「えー! たった500ギルー? 足んないよー」
声を上げたのは元気っ娘。
「しかもこれって木の剣じゃーん。この町で一番安い装備だよ。こっちのシャツもそう」
「王様直々の手助けって言うからさ、どんな凄い財宝くれるかななんて期待してたのに。ケチ」
青髪っ娘も同意見らしい。
「甘ったれるでない! そういうのは自らの努力によって手に入れなければ意味がないのだ。わかったか!?」
「そう責めても仕方ないよ。この王様の財力なんてこの程度ってことなんだから」
クールビューティーがひそひそ話で他二人に話しかけてるけど、あれは間違いなく王様にも聞こえるように言ってる。いわゆる嫌味ってやつだ。
「お、お主らーー!!!」
そりゃ怒るよね。財力が無いなんて言われちゃあ。
「もっとまともに旅立てんのか!? ここでこんな尺を使う必要なんて皆無なのだぞ。さっさと魔王を倒してこい!」
「へーい」
「ほーい」
「はーい」
「もっとやる気のある返事をしろ!!」
なんつーか……、コントか? これ。
「ねぇねぇ勇者、あんなジイサンと話してるのもめんどくさいだけだからさ。行こ」
あのー、青髪さん? いちおうあの人って王様なんだよね? ジイサン呼ばわりでいいのかな?
なんて思おうと思ってたらいきなり俺の手を引くんだもん。手の柔らかとひんやりとした冷たさのせいで俺の思考回路は一発でオーバーヒート。
「そうですよ。貰えるものは貰ったんですからここはもう用済みです。さぁ勇者様、行きましょう」
うげっ! もう片方の手まで引っ張られてる!? 女の子二人に引っ張られてるなんてなんか、なんかよくわかんないけど最高な気分だ。
「ちょっと待ってよー!! なんでウチが荷物持ちになってるのさー!?」
そんな声のするほうを顔だけ向けると元気っ娘が剣と布と袋を持って走ってきてた。
可愛らしい女の子三人に囲まれて、というより連れ去られるようにして俺は馬鹿でかい扉を通り抜け部屋を出た。
「ちょっと、ちょっとタンマ」
部屋を出て階段を降りたところで俺は三人を止めた。
「どっうしったのー、勇者?」
「いやいや、どうしたもこうしたも」
うわー。めっちゃカワイイ三人の女子に見つめられちゃってるよ、俺。テンション上がるわー。
でもそんなことばっかり思ってらんない。一体全体……。
「どゆこと? これ。なぜに俺が勇者なの?」
「なぜって? 知りませんけど」
一刀両断ですね、クールビューティーさん。
「えっと……。じゃあここはどこなの?」
「知ーらない。どっかのお城なんじゃない? モブキャラに聞けばわっかるよー」
モブキャラって……。もしかしてここって。
「ここってー、つまりゲームの中の世界だったりするのかな?」
「そうっぽいね。そういう設定なのかも」
わかったようで全然わからん。この三人もいまいちわかってないらしい。なぜに?
「今のところの情報を整理すると、あたしたちは勇者たち一行でこの世界を悪の力で蹂躙してる魔王とその手下を倒すために作られたキャラクター、ってことみたいだね」
青髪の言ったことはつまりこうか?
俺たちはRPGのメインキャラクターです!
そんな無茶苦茶な。そんな話があるか? だって俺は……。俺は……?
「……俺って誰だっけ?」
「勇者様ですよ。何を寝ぼけているのですか?」
「じゃなくって俺の名前! 勇者って名前じゃないだろ?」
「ステータス画面を見ればわかりますよ」
あぁ、そっか。それじゃあステータス画面を見てみよう。ステータス画面を見るにはスタートボタンを押してカーソルをステータスに合わせてAボタンを押せば……、って!
「そんなボタンあるわけねー! ステータスなんて見れないっつーの!」
「見れますよ。目を閉じてステータス画面を見たいと念じれば」
へ? ウソ? そんなわけないだろー。
目を瞑って念じるの? ステータス画面出てこいー、ステータス画面出てこいー。
うげっ! ホントに出た! 頭の中にしっかりとイメージが見えてる。
名前:勇者リクト
職業:無職
レベル:1
その他にもHPとか筋力とかいろんなパロメーターが並んでる。マジか。
「……俺の名前、リクトだって」
「そっかー、リクトくんね。ウチはレナだってさ。結構カワイイ名前だよねー」
元気っ娘も自分の名前知らなかったのかよ。ってかみんなまだ知らなかったの?
「あたしはミホかー。うん、なかなかかな。よろしく、リクト」
「ふむ、わたしはメグだ。よろしく頼む、リクト様」
なんたってこんなことになっちまったんだ? ここはゲームの中? 俺がRPGの主人公?
でもまぁこんなカワイイ女の子三人も引き連れて旅するんなら別にいっか。俺の長所は楽観主義なところだし。
一応無理やり納得したところでレナが勢いよく声を上げた。
「よーし! まずは街の人たちに聞き込みをするぞー! おー!」