初めましてミラージュです
発足後すでに12日。今まで多くの頻度で起こっていた怪事件もぱったりなくなっていた。
僕らは通常は他の班の下働き的な位置にいる。
「班長。僕やっぱり対策室に戻ってもいいですか?」
最初に音を上げたのは市田だった。それもそうだろう。今までパソコンしか触ってこなかった男が、聞き込みだのやらされる。エリート街道を通っていた彼にしてみれば、苦痛なのだ。
「何言ってんだよ。まだ何も起こってないんだぞ」
波多は当然のように他の部署の女性の手相やらなんやらで『占い』しながら反論した。
「市田さん思ったより打たれ弱いんですね。後輩として学べるところがある意味多くて助かります」
篠原が口からもくもくと邪悪な何かを漂わせていた。
「違いますから。その」
市田は先輩風を吹かせたことを後悔しているみたいだ。そこで電話が鳴る。
「はい。警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊、特別班篠原です。はい、内線○番ですね。新倉班長につなぎます」
駆け寄った僕に篠原が受話器を渡す。
「君が蒼也君? 初めましてミラージュです」
僕は市田に目配せをする。市田はこれまでの経験からなんとなく意味をさとり、会話記録を取るとともに、全員が聞けるように音を拡大した。
「皆さんにも聞こえるようにしましたか?」
ミラージュの見透かすかのような声。
「ええ。いわれるまでもないですよ」
「何言ってんのリーダー。馬鹿にされてんじゃない」
篠原が我を忘れたように僕の肩をついた。
「威勢のいい方々がそろったようで何よりです。私も張り合いが多いほうが楽しめそうですからね。さて、本題です。テレビをニュースに合わせて下さい」
その言葉に波多が反応してチャンネルを回す。火事のニュースのようだ。ショッピングモールが火事になったらしい。
「合わせましたか?」
うなずいてみせた。
「ちょっと待ってくださいね。はい」
火事のニュースが突然、煙の中逃げ回る人たちの映像に切り替わる。
「映りましたね? 私の作品いかがですか。この臨場感」
「これはそういうことでいいのか?」
映像は明らかにショッピングモールの内部であろう。僕は奇妙な感覚にさいなまれながらかろうじて彼に尋ねた。
「そういうことが、何を指しているかよくわからないようで、すごくわかりますよ。そういうことです。さ、立ち上がったほうがいいんじゃないですか? まさか場所がわからないわけじゃないでしょう? もう少し撮影続けていますから、間に合うといいですねえ。では」
笑いながら彼、ミラージュは電話を切った。
「班長。判別完了。多摩のはずれにあるショッピングモールです。去年できたあれです」
その言葉に僕らは一斉に部屋を飛び出した。
一時間後、僕らがショッピングモールにたどりついた時、そこはすでに鎮火された後だった。どういう仕組みだかわからないが、あれだけ派手に燃え上っていたのに鎮火を何者かが手助けしたがごとき火の消えようだ。僕はその場の指揮官らしき人物にコンタクトをとった。
「対策班の新倉です。連絡した通り今から現場検証を行いたいのですがよろしいでしょうか?」
「もう少し待てませんか? 鎮火したばかりで、まだ要救助者の救護が終わってません」
返ってきた答えは至極正しい言葉だった。そこに無理を通す必要がある。
「その全てが現場なんです。あなたがたの仕事の差しさわりにならないように気を付けますから」
僕の言葉にしばらく考え込む彼。その間にも救助隊員の報告に彼は指示を飛ばす。
「わかりました。ただ、傷病者には絶対に触らないと約束してください」
言葉を聞くなり、篠原と波多が駆け込んでいく。不安そうな顔をする隊長。
篠原は飛び込むなり震え立ち止まった。人が転がっている。それももうすでに息がないとわかる人々が。
「どいてください」
そばを担架が通りそうになり慌てて道を譲る。彼女にとって人から受け取れる信号が視覚に比べて少ないことは衝撃だったのだろう。
「篠原。何立ち止まってんだよ」
波多に背中を押され、ようやく我に返った。
「あ、あの人まだ生きてる」
生きている人間だけでも助けないと。彼女の頭に浮かんできた次の発想。彼女はその力によっていとも簡単にまだ息がある人間を見つけ駆け寄ろうとする。が、
「篠原。無駄だよ」
今度は波多に肩をつかまれとめられる。
「ちょっと! 何が無駄なのよ!」
自分でもわかっている。彼が言うとおり彼女の受け取った信号は、あまりにも微弱で消えゆきそうだったのだ。だから波多に対して思わず叫んでしまう。
「フラグがたってるんだ……」
「だったら何? あんた見えるんでしょ? まだ死んでないってわかるんでしょ。その力でなんとか未来変えられるんでしょ!」
波多は詰め寄る彼女の顔浮かぶ必死さを見て、静かに答えた。
「無理だ。あきらめるんだ篠原」
かぶっていた帽子で波多はせめて顔だけでも隠す。篠原は詰め寄ったまま波多を睨みつけている。
「篠原。波多。僕たちがやるべきことは命を救うことじゃない。犯人の逃げた方法を探ることだ。偶然と言ってもいいことに運び出された人間は僕らは全て確認できる状況にあった。
篠原、波多。おかしなところはなかったかい?」
僕は篠原が追及を始める前に口をはさんだ。篠原は最初何を言われたかわからないようだった。が、はっとした顔になった。
「すいません。あまりのショックにそこまで気が」
篠原が言う。波多も同じのようだ。もっとも彼に関してはそこまで探し充てる力はないだろう。
「わかった。気を落とさないでくれ。僕も衝撃を受けてる」
事実だ。ここに入ってくるなり浅井さんを遠ざけたのも、心の平衡を保つためだ。強い意志は遮断を強めても聞こえてきてしまうのだ。
「とりあえずそれだけわかったのならここを出よう。あとは九郎君に頼むしかない」
その言葉に波多は素早く、篠原は後ろ髪ひかれるように出て行った。




