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ラブコメフラグが立った女

面接二日目。面接室と化した取調室には僕と浅井さん。それからあと一人。

「いまいちわからないんだけど、なんで私が呼ばれたの?」

 ライアーディテクター篠原。連休を取って遊びに行こうと家を出たところ、呼び出されて機嫌が悪い。足を机の上に載せてやる気なさそうに腕を組んでいる。

「この班は信頼で成り立つからね。新しく仲間になる人間を一緒に選んでもらおうかと思って」

 僕の言葉に彼女はじっとこちらを見る。大丈夫だ。嘘はついてない。ただ僕は隠し事をしてるだけ。

「そう。だったら私がここに座るのも納得できるけど。私、肝心なところで嘘つく男は嫌いだから。覚えておいてよ班長さん」

こんっ。

一回だけのノックに彼女はばっと反応して足を戻して居住まいをただした。

「はい。お入りください」

 彼女のことをよく知るために。これが本当の理由だ。彼女は真面目で、きちんと仕事する。それが浅井さんが調べた彼女についての情報だった。昨日の面接の態度と一致しないから確かめたかったのだ。

 次の面接者が入ってきた。制帽を深く被って目元を隠したかっこつけてますってのが感じられる男だった。そいつが少し顔をあげてビクッと震える。恐らく視線の先、篠原を見て。

「はい、じゃあ席に座って」

 篠原はそれに気づかないのかやる気なさそうに席に座らせようと声をかける。しかし男は立ったままだ。

「どうしたの。立ったまましたいって言うなら止めないけど。それと帽子は取りなさいよ。ガキじゃあるまいし」

 いきなりのやる気のなさ。急き立てる言葉。見事なまでの圧迫面接だと思った。というか面接なのかこれ。

「えっと、すいません。面接するのってこの人ですか?」

 男はその状況にも動じずにそう言う。

「何。私じゃ不満? てか帽子をとれって」

 もう一度言っておこう。篠原は朝から僕に呼び出されて機嫌が悪い。おそらく彼の態度が腹に据えかねたのだろう。いきなり立ち上がったかと思うと机の反対側に立っていた彼に掴み掛り、帽子をはぎ取った。

「あ……」

 その顔を見た篠原が固まる。

「なんだよ。何とでもいえよ、ラブコメ女」

 少年だった。おそらく高校出たての新人なのだろう。そして彼と篠原は知り合いのようだった。

「波多くんだっけ。いい度胸だよねあんた。私の前に顔出せるなんて」

「篠原。面接だから。やる気ないのはいいけど、落ち着いて」

 僕がなだめると篠原は口をとがらせる。

「だってこいつよく当たる占いができる新人警官とか言う触れ込みで女性に手を出してる最低な男なんですよ!」

「いや、俺、女に手出したりしてないし」

 怒る篠原に呆れたような顔で反論する少年。

「は? じゃあさ、私に『遅刻しそうな朝はパンをくわえて走ると運命の出会いがあるかもしれない』とか言って、実際にそうしたら、ぶつかったのがあんたってどういうことか説明してもらえる? あんた私が乙女チックそうだからそういう出会いをしたら一発でおとせるとか思ってたんでしょ。そりゃ確かに最初はそんなラブコメ見たいなこと恥ずかしくてできるかと思ってたけど、ちょっとだけ期待して目覚まし三十分ずらして、起きたら焼けるようにパンをセットしておいたのに。乙女の純情を踏みにじる男は今すぐ逮捕されるべきよ」

 篠原。そんな占い信じるなんて、ちょっと残念なやつだったんだな。

「そのことだけど。びっくりしてるのは俺のほうなんですよ。フラグたてたはいいけど、まさかその対象が俺だったなんて。なんであんな占いなんかしちゃったかな。だいたいそんな計画するならもっとましな相手にしますよ流石に」

 椅子を引き出して座るなり少年は頭を抱えて机に突っ伏した。驚愕した顔の篠原。そりゃそうだ。人前で女としてレベルが低いと言われたようなものだから。

「じゃあ何。あれは自分でも予期しなかった偶然とでも?」

 そう問われて考え込む少年。そりゃそうだ。下手な答え方をしたら死亡フラグが立つかもしれない。

「どう考えても偶然だな。うん。あんな占い信じちゃう残念な女狙うとかありえないし」

「落ち着け篠原」

 立てた。騒ぐ篠原を何とかなだめる。浅井さんの報告にあるような落ち着きのある人間とはとても思えない。

「ふん。まあいいわ。私あんたなんかよりよっぽど素敵な人見つけたんだから」

 悔し紛れにそういいつつ、篠原は椅子にどかっと座りなおした。もはや最初の態度はどこへやら。不機嫌全開で。

「篠原、かわろうか?」

「いいです。こいつを採用とかされたら嫌なので」

「どうやら俺、不採用決まったみたいですね。だったらもう帰っていいですか?」

 売り言葉に買い言葉。相性は最悪らしい。けれど、僕の目的は達成したことだし、班長として自らの目で彼を確かめないと。

「いや、待ってくれ。僕がちゃんとした面接するから。篠原、交代」

 しばらくこちらを睨みつけたまま動かない篠原だったが、ようやく諦めたように席をたった。

「僕は新倉蒼也。採用が決まったら直属の上司になるからよろしく。まずは名前を教えてくれるかな」

 落ち着かせるためにたわいもない項目を2、3はさんで本題に入る。

「どんな力があるか教えてもらえるかな」

 そこで彼は黙る。

「黙ってちゃ面接にならないから話してもらえるかな」

 と、僕が言った時、篠原が動いた。

「班長。別にいいじゃない。話したくないんだったら不採用で」

 どうしても不採用にしたいらしい篠原。

「そんなにイラつくなよ。今日誰かと会う予定がここに呼び出されてつぶれたくらいで」

 そう彼は言った。

「は? 私がムカついてるのは、あんたに……」

「待った篠原」

「ちょっと。これくらい言わせてください」

「篠原。本当なのか? 誰かと会う予定があったって」

「間違いないね。おそらくさっき言ってた素敵な人とやらに」

 答えたのは彼。その事実に篠原は愕然とする。

「まさか。そこまでするなんて見損なった。ストーカーまでして、あんた本当に警察官なの?」

「篠原。落ち着いてくれ」

 僕は篠原をなんとか落ち着かせて、話の続きを彼にうながした。

「なんで篠原に予定があるってわかったんだ?」

「なんでってそれは……」

 彼は言いよどんだ。さっきと同じように。でも僕にはなんとなくわかった。

「わかった。信じるよ。なんだったら僕にだけ耳うちでもいい」

 ちらっと篠原のほうをうかがった彼の能力は、きっと例の占いに関係があるのだろう。

「ちょっと待ってよ。あんたの能力がなんなのかわからないけど、信じないほど私だってバカじゃないわよ」

 のけ者にされそうになった篠原はあわてたようにそう言った。

「それじゃあ言いますよ。篠原さんの頭の上のデートフラグが折れてるんです」

 きょとんとした篠原。自分の頭触っている。

「普通の人には見えないし触れません。あ、というかフラグってわかりますか?」

 たんたんと説明をする彼に篠原は頭を押さえたまま首を振る。

「そう言うことが起こるって確定した時に頭の上に立つ旗です。たとえば、人が死ぬときに頭の上には『死亡フラグ』っていうのが立ちます。失恋する時には失恋フラグっていうのが立ちますし」

 失恋って言葉に篠原がビクッと反応する。

「大丈夫。篠原さんに失恋フラグは立っていません。これでわかってもらえましたか?」

 篠原は釈然としない顔している。

「だったら占いは百パーセントあたるじゃないのよ。なんで

偶然とか言ったのよ」

 そう言うと彼は黙った。どちらかと言えば答えにくそうな感じで。

「わかった。篠原は怒らないから話してくれ」

「最初は篠原さんに見えたフラグが衝突フラグだったんです。例えばおでこを電信柱にぶつけるとかそういった」

「あんた、電信柱なんかにいい大人がぶつかるわけないでしょ」

「俺もそう思いました。だから彼女は車と衝突するんだなって」

 それを聞いた篠原は青ざめた顔をする。

「フラグって、あいまいなものが多いんです。ちょうど篠原さんは恋愛占いかなんかを希望してたんで、車ではなく人とぶつかるように操作しようかなと」

「なんだ、助けてもらったんじゃないか篠原」

「ちょっと納得いかない。だいたいもし今までの話が嘘だったら」

「ちぇっ、信じてないならいいよ。あーあ、ここまで話したのに損した。世の中結局こんなや」

「篠原。本当に彼は嘘をついてたのか?」

 彼の言葉をさえぎって篠原に確認を取る。いや取るまでもなかった。不機嫌そうにしてるから。

「嘘だったらよかったのよ。だから納得いかない。で、なんでそこまでできるのに私と衝突したの?」

「なんだよ信じてるのかよ。あんたら変なやつらだな」

「いいから。嘘じゃないからイライラしてんの。早くして」

 嘘じゃないと断定している篠原の剣幕に困惑したような彼。

「あんな占い信じるとは思わなかったから。それにフラグみただけじゃ誰が対象だかわからないんだよ」

 申し訳なさそうな言葉にため息をついて篠原は答える。

「わかった。許してあげる。でもいい? あんなシチュエーションで恋に落ちるほど私は乙女ちっくじゃないからね。覚えてなさい」


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