篠原音羽の人間観察日記(音羽視点)
視点は篠原音羽。彼女について書きます。
制服を着替えて町へ繰り出す。
今日は面接の関係で有休取ってるから午後は久し振りに駅前のファーストフードで人間観察。面接でやらかしちゃったぽいし、気分転換もかねて。
この世界には色んな人間がいる。色んなことを考えながら街を歩いてる。そして私から見れば固有の振動数を持つ波を放ってる。一般的にはオーラって言われるやつ。で、なんで私が人間嘘発見器とか呼ばれているかと言うと。それが嘘をつく瞬間だけひゅっと消えるわけ。なんて言うかその人の隠さなきゃって意識がその人の固有の振動を抑制する。それがわかるの、ビビビッて。そんな感じ。
ちなみに外に出ると皆固有のもの以外に相手に向って共有の波を発してる。それは他者へ対しての安心してください的なサインみたいなもので。で、たまに共有の波を発さない人がいるんだけど、それは例えば今日の面接官見たいな人付き合いに無頓着な人たち。変人とか言えば聞こえがいいけど、ぶっちゃけ警戒してくださいって言ってる訳で。そんな人を探して私は人間観察をしてる。たまに後ろから声をかけてみたり。
今日は一人。スーツ姿の男で一見周りに溶け込んでるように見える。確かに気にしなきゃわからない程度。だって普通の波長が出てるから。ただ彼の場合、固有の波長が今までに会ったことがないほど特徴的で……気味が悪かった。だって出てないの。固有の波長が。
「お一人ですか?」
篠原音羽通常モード。男に落ち着いた感じで声をかける。普通の人かもしれないし。
彼は振り向いて私をじっと見る。端正な顔立ち。どこかで見たような。
彼はしばらくしてにやっと笑う。そして……固有の波長のようなものを放ち始める。
「ええ。となり空いてるけど、座ります?」
そのまま彼は右の一人掛けの椅子を引出し私に勧める。私は腰掛け彼のほうを見る。
「久しぶりに来てみるとこういうとこもいいもんだね。緊張がほぐれるよ」
彼から話し始める。私は様子を見ながら聞き流してゆく。
「君みたいにかわいい人に声をかけられるし。そうだ名前聞いておこうかな」
「音羽って言います。音に羽で音羽。あなたは? どこかで見たことが」
「よく言われるんですよ。あの一時期流行ったマジシャンの霧野森次に。名前は紅夜って言います。口紅の紅に夜で」
言われてハッとする。マジシャンの霧野。メンタルマジックを得意としていて、三年前突如消えた男。時期から『ミラージュ』の最有力候補とされている。
「紅夜さんは何をされていますか?」
「僕はただのサラリーマンですよ。あなたは?」
波長はぶれない。嘘はないようだ。私は肩の力を抜く。
「私ですか? ただのOLです」
「お互い普通の人間ですね。僕もこの顔生かした職業につけばよかったかな。そうだ、なんかの縁ですしアドレス交換とかしませんか? 僕あなたに興味があるんです」
あなたに興味があるんです。思わず笑ってしまいそうになる直球。でも、なんだか許せる。
「いいですよ。はい」
携帯を取り出しアドレス交換を終えた。彼は嬉しそうにポケットにおさめる。言い出せてほっとした。そんな表情が彼の女性なれしてなさをうかがわせる。
「わたしも興味が出てきました。お暇でしたら場所移してもう少しお話しませんか?」
いつの間にか昼すぎ。駅前のファーストフードはこみ始めていた。




