つまらない僕らの日常
帰宅途中の公園。ただ、ベンチに座って何か起こらないかと見ていた。別段、暇なわけではない。やらなければいけない宿題は当然残されたままだ。ただ、おもしろいことが起こるのを待ち続けている。宿題はつまらない。そういうことだ。
視界の端から中学生くらいの男子が五人、公園に入ってくるのが見えた。一人は肩を抱かれ居心地悪そうにしている。
それ以外はなんか、いかにも不良。よくわからないが『カツアゲ』の構図が見える。俺はその不良の中のリーダーらしき男に精神を集中させる。なるほど、実に気分がよくてすがすがしい。金も手に入るし劣等感を刺激してくれるうっとうしい奴も自分の支配下における。
俺は彼を吊るしあげている連中に近寄っていく。
「ああ? なんだてめえ俺らはこいつと今から楽しく遊ぼうとしてんだよ」
リーダーらしき男がこちらを向いてそう怒鳴る。
俺もあんたと気持ちは同じさ。最高にすがすがしいその行為を止めるつもりはない。止めたら俺の胸がむかむかしてしまう。
「そうだな。楽しく遊んでいるようだから俺もご一緒させてもらおうかと」
楽しむのなら俺も楽しませろ。暗にそう言ったのだったがその言葉は頭の悪そうなそいつらには伝わらない。困惑が伝わってくる。
「なんだあ? 邪魔しようってんなら容赦はしねえぞ」
「なら勝手にやらせてもらう」
俺の言葉に身構える男たち。どうやら多人数に挑んでくる俺を警戒しているようだ。そういうことらしい。いや間違いなく警戒している。俺は気にせず楽しいことをしようと口を開いた。
「おいお前。金を出せ。有り金全部出さねえと俺たち全員でボコるぞおい」
俺は目の前でおびえた顔をしてる少年に向ってそう脅す。
「はあ?」
隣で何が起こったのかわからないと言った顔でリーダーがそう声を上げる。俺は丁寧ににこやかに教えてやった。
「金を巻き上げるの楽しいからさ、やってんだよ。そうじゃねえのかてめえ」
「なにい? 調子のいいことぬかしてっとまずてめえから巻きあげるぞ、おらあ」
そうなのか。取り分が減る。なるほど確かに。だが俺がうっとおしいと言うのは心外だ。皆で楽しもうというのに。
襲ってきた右腕を手のひらで受け止める。寸止めか。脅し、ね。
「な、てめえ!」
次は左手で腹にブロー。か。やられる前にそれをやつにぶちかます。
「ぐっ。う、くそ、強え」
リーダーが倒れる。呆然として立っている不良たち数人。が、我にかえったらしい二番目に発言権がある男が叫ぶ。
「兄貴! くそっ、てめえらたたんじまえ!」
叫び声をあげるやつに精神を集中させる。なるほど実は弱いんだな。口だけで使えねえ。
そいつの声に同調して襲いかかってきた別の男に集中する。
右。なるほど。そう見せかけて左か。
「な、見破られただと!」
そこで左ローキック。やつの思った通りやつを転ばせる。
なんか体が熱くなる。なるほどこれがこいつらの『楽しい』か。
「いやあ、楽しいねえ。お前らもっと来いよ。ひゃはあっ」
集中しすぎた俺の思考も馬鹿になっている。でも楽しければそれでいい。
「な、なめくさりやがって!」
残りが一斉に掛かってくる。
結果は一目瞭然だった。でもまあなかなかに楽しかった。
倒れている不良たちを尻目に俺は少年に向き直る。
「おい、さっさと金出せ。出さねえと俺らがボコる、って残ったの俺だけかよおいっ」
やってしまった。つい楽しくて全員。これじゃ『カツアゲ』が楽しめない。
「なんかおもしろくねえ」
というかそもそも楽しいのかが今の俺じゃよくわからない。
「楽しいわけないでしょ」
ふと急に目の前の少年が俺に向ってそう言った。よく見ると俺にそっくりな男だった。
「なんだお前かよ」
「助けてもらった礼は言うけど、『カツアゲ』は楽しくないよ。わかった?」
「なんだ、楽しくねえのか。いや、楽しくないのか本当に」
「人助けのほうが楽しいよよっぽど」
俺を『兄』と呼ぶ双子の『弟』。俺とは違ってよくできてるってのがむかつく野郎らしい。ただ、やつに集中すると少し嬉しくなった。
これが僕の覚えている『兄』の最後だった――