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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: みみっく


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33話 倒れた背もたれと、重なる鼓動

くすぐったいお返し

 カズヤは溢れそうな嬉しさを誤魔化すように、初日のお風呂に入った時の記憶を掘り起こした。

 サプライズと言って短パンにTシャツ姿で、突然レナが風呂場へ入ってきた。そして背中を洗ってくれていると、レナがいたずらっぽく笑いながら、カズヤの背中を指先でツンツンと突っついてきたことがあった。あの時のくすぐったさと、彼女の楽しそうな横顔。


 カズヤは今、膝の上で無防備に背中を向けているレナに対し、その「お返し」をしようと指を伸ばした。

 だが、その指先は運悪く、薄い生地越しにブラジャーのホックへと当たってしまう。


「ひゃっ、カズヤくん……!?」


 レナが跳ねるように驚き、肩を震わせて振り返った。

 カズヤは自分のしでかした事の重大さに気づき、血の気が引くのを感じた。


「ご、ごめん……! そ、そんなつもりはなくて……ごめん! 俺なんかが気軽に触れて……」


 嫌われた、軽蔑された。そんな恐怖で青褪めるカズヤを見て、レナは目を丸くした。


「どうしたのです? そんなに怯えたような顔をして……。ちょっと驚いただけなので、怒っていませんし……イヤでもないですよ」


「お、お風呂でレナに突っつかれたお返しをしようと思って……。でも、変なところを触っちゃって」


 カズヤが消え入りそうな声で白状すると、レナは少しだけ呆れたように、けれど愛おしそうに眉を下げた。


「お返しですか……むぅ。……いいですよ、ど、どうぞ……うぅーっ」


 レナは覚悟を決めたように再びうつ伏せになり、今度はくすぐりに備えてカズヤの足にぎゅっとしがみついた。


「……ひゃぁ……っ!」


 まだ指が触れてもいないのに、体を丸めて身悶えるレナ。

 カズヤの足に回された腕の力と、期待と緊張で小刻みに震える彼女の背中。

「嫌われていない」という安堵感と共に、カズヤの手は、今度は優しく、彼女の頭へと伸びていった。



ご褒美の書き換え

 カズヤが大きな掌で優しくレナの頭に触れると、彼女の身体がビクッ!と可愛らしく震えた。

 張り詰めていた身体の力がフワリと緩み、カズヤの膝にしがみついていた細い腕からも、抵抗するような力が抜けていく。


「俺は、こっちの方がいいかな……」


 そう呟いたカズヤに不意打ちを受けた形になり、レナは頬を熟した桃のような色に染め、膝の上で体勢を入れ替えてカズヤを仰ぎ見た。


「うぅ……また、不意打ちです。……うぅーっ」


 レナは口を尖らせて抗議しながらも、嬉しさを隠しきれない様子で体をもぞもぞと動かし、今度はカズヤの背中に腕を回して力いっぱい抱きしめてきた。


「レナ、それじゃ……頭を撫でにくいんだけど……」


「……今度は、背中でお願いします♪」


(それじゃ……まるで抱き合ってるような感じに……)


「それは、ダメじゃ……」


「わたしが嫌がっていたらダメですけれど、お互いが良いと思っているなら、良いと思いますけれど……? カズヤくんは、おイヤですか?」


 潤んだ琥珀色の瞳に見つめられ、拒絶できるはずもなかった。


「そんな訳ない……」


「ご褒美なのですから……ぎゅぅっと、してください」


「ん? 背中を撫でるんじゃなかったのか?」


「ご褒美に変更ですから、内容も変更ですよ」


 レナは茶目っ気たっぷりに微笑むと、膝の上から座り直し、自分からカズヤの胸に飛び込むように抱きついた。

 カズヤは震える手で、壊れ物を扱うように彼女の背中に手を回し、ゆっくりと引き寄せる。

 柔らかな体温と、青いリボンのついた琥珀色の髪の毛から漂う花の香りが鼻腔を満たす。二人の境界線が溶けていくような深い抱擁のなかで、カズヤの心臓は、これまでで一番大きな音を立てていた。



倒れた背もたれと、重なる鼓動

「そんなに、わたしに気を使わなくても良いのですよ……」


 腕の中に収まるレナの、あまりにも慈愛に満ちた声。カズヤは自身の奥底に沈んでいた不安を、掠れた声で吐き出した。


「レナに、嫌われたら……また、一人に……」


「大丈夫ですよ……。カズヤくんを一人になんてしませんから」


 その言葉は、呪いのようにカズヤを縛っていた孤独への恐怖を、優しく解いていく。触れたら壊れる、触れたら嫌われる。そんな怯えが消え去り、カズヤは自然と、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。


 抱きしめ合っていると、膝の上に乗っていたレナが、不安定な姿勢のままモゾモゾと動き出した。


「ん……このソファ、背もたれを倒せたような気がしたのですけれど……」


 レナが、さらりと破壊力のある言葉をカズヤの耳元で囁いた。甘い吐息が耳朶を擽り、カズヤの脳内は瞬時にショートする。


「え、なにを……?」


「このまま、ゴロンって……しようかと。その方が、お互いに楽ですし……」


「それは……ダメだって」


「また、それですか……。んしょっと……えいっ!」


 レナが座面の脇にあるレバーを弄ると、バタンっ! と音を立てて背もたれが水平に倒れた。


「わぁっ!」

「ひゃぁ!」


 予期せぬ勢いに二人は驚きの声を上げ、顔を見合わせて思わず笑い合った。

 フラットになったソファーの上。レナは迷うことなくカズヤの隣に潜り込むと、彼の腕を自分の首の下へと引き込み、腕枕をさせるような形でピタッと密着した。

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