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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: みみっく


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29話 甘い香りと、独占欲の特等席

 さらに、ボサボサだった髪を整えるべく、カズヤは人生で初めて美容院という場所へ連行された。散髪屋とは違う、心地よいハサミの音と洗練された技術。


 一通りの工程を終えて鏡の前に立った時、カズヤは自分の目を疑った。

 体格こそ大きいままだが、整えられた髪型と、レナのセンスで選ばれた上質な服、そしてさりげないシルバーの光沢が、カズヤに「清潔感のある大人の男」としての品格を与えていたのだ。


「……女の子に声を掛けられても……ダメですからね」


 鏡越しにカズヤを見つめていたレナが、急に頬を膨らませて釘を刺してきた。


「え、俺が声をかけられるわけないだろ……」


「……返事をしてくれないのですね。浮気性ですか……?」


「分かったって! 声を掛けられても相手にしないよ」


「はい♪」


 その言葉を待っていたと言わぬばかりに、レナはにぱぁと満面の笑みを浮かべた。

 彼女は、まるで自慢の宝物を披露するかのように誇らしげな顔でカズヤの腕に抱きつく。


「今のカズヤくん、とっても素敵です。……本当は、わたし以外には見せたくないくらいなんですけれど」


 小さな独占欲を滲ませながら、レナは軽やかな足取りで、新しく生まれ変わったカズヤを連れて歩き出した。



鉄壁のボディーガード

 髪を整え、上質な服に身を包んだカズヤは、190センチの体格も相まって、どこかモデルのような独特の存在感を放っていた。

 デパートのコンコースを歩いていると、すれ違う人々の視線が以前のような嘲笑ではなく、純粋な興味や驚きに変わっているのが分かった。


「あの、すみません……」


 不意に、若い女性の二人組がカズヤの前に立ち止まった。彼女たちは少し顔を赤らめ、上目遣いでカズヤを見上げている。


「え、あ、はい」


「この近くに、美味しいスイーツのお店があると聞いたんですけど……場所が分からなくて。もし良かったら教えていただけませんか?」


 カズヤが戸惑いながら口を開こうとした、その瞬間だった。


「この辺りの案内なら、わたしが承りますっ!」


 レナがカズヤの前に割って入り、鉄壁の守りを見せた。彼女はカズヤの腕をこれ以上ないほどぎゅっと抱きしめ、二人の女性に対して花のような、けれどどこか威圧感のある「完璧な笑顔」を向けた。


「そのお店でしたら、あちらの出口を出て左です。……ね? カズヤくん、行きましょうか♪」


「え、あ、ああ……」


 圧倒的なオーラで女性たちを後退させたレナは、カズヤを引きずるようにしてその場を離れた。角を曲がり、人影が少なくなったところで、レナは「ぷーっ」と分かりやすく頬を膨らませた。


「……言ったそばから、これです。カズヤくん、優しすぎます! あんなの、絶対道を聞くフリをしてカズヤくんを狙っていたんですよ!」


「いや、流石に自意識過剰だって……。本当に困ってただけだろ?」


「いいえ、女の勘です! もう……やっぱりカズヤくんを外に出すのは危険です。お家で、わたしだけが見ていられるように監禁……はダメですけれど、とにかくダメです!」


 レナはさらに密着し、カズヤの腕に自分の頬をぷにぷにと押し付けた。その独占欲全開の様子に、カズヤは困り果てながらも、彼女の必死な姿をどうしても愛おしく感じてしまうのだった。



甘い香りと、独占欲の特等席

「……もう、カズヤくんは無自覚なんだから」


 先ほどの女性たちの視線がよほど癪に障ったのか、レナはカズヤの腕を離そうとせず、足取りもどこか重い。琥珀色の瞳は少しだけ潤み、眉を八の字に下げて不満を隠そうともしなかった。


 (本当に、俺なんかのことであんなに必死になるなんて……)


 カズヤは彼女のそんな様子を放っておけず、フロアガイドの看板を見て一つの提案をした。


「レナ、あそこにあるカフェ……入ってみないか? 紅茶とフルーツタルトが有名らしいけど、レナが好きそうな雰囲気だと思って」


「……わたしの、好きな……」


 レナが顔を上げると、そこにはアンティーク調の家具が並び、落ち着いた照明に包まれた隠れ家のようなカフェがあった。

 カズヤがエスコートするように彼女の背中にそっと手を添えると、レナは少しだけ表情を緩め、「……はい、行きたいです」と小さく頷いた。


 店内の奥まったソファー席に座ると、レナはカズヤと正面ではなく、迷わず隣の席に腰を下ろした。


「レナ、さっきはごめんな。……でも、俺にはレナしかいないから。道を聞かれたくらいで、どこかに行ったりしないよ」


「……本当ですか? 本当に、わたしだけですか?」


「ああ。約束する」


 運ばれてきた色鮮やかなフルーツタルトを前にしても、レナの視線はカズヤに固定されたままだ。

 カズヤは彼女をなだめるように、フォークで小さく切ったタルトを差し出した。


「ほら、これ美味しそうだぞ。……あーん」


「……! あ、あーん……」


 レナは驚いたように目を見開いたが、すぐに蕩けるような笑顔になり、差し出された一口を頬張った。

 甘い香りが二人の間に広がり、レナの頬がぷにぷにと動く。

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