28話 美女と野獣、そして揺るぎない絆
「さあ、カズヤくん。公園まで、わたしをエスコートしてくださいね♪」
後ろから伝わってくる服を引く感触と、彼女の屈託のない信頼。カズヤは自分を卑下していた心が、少しだけ軽くなるのを感じた。
美女と野獣、そして揺るぎない絆
公園に足を踏み入れると、周囲の視線が一斉に二人へと注がれた。
190センチ近い巨軀に肉を蓄えたカズヤと、165センチのしなやかな肢体に幼さの残る可憐な顔立ちのレナ。その圧倒的な体格差と容姿のコントラストは、まさに現代に現れた「美女と野獣」そのものだった。
カズヤは、どうしても他人の目が刺さるように感じてしまい、無意識にレナから少し距離を置こうと肩をすぼめる。
並んで公園のベンチに腰を下ろした際も、カズヤは彼女に窮屈な思いをさせないよう、自然と端の方へと座り直した。
「天気が良くて気持ちが良いですね。お外に出るのは久しぶりなのでは? ずっと入院をされていましたし」
レナは、カズヤが開けた隙間など全く気にする様子もなく、滑るように距離を詰めて隣に座り直した。
「そういえば……まともに外を歩くのは退院した日くらいかな。って、レナはずっと一緒にいたんだから、俺より知ってるだろ」
カズヤは思わず吹き出してしまった。
病院で目覚めたあの日から、レナは文字通り片時も離れず隣にいてくれた。
初めての入浴時、慣れない体で動くのを躊躇い、周囲を気にして拒むカズヤを、彼女は「患者さんなのですから」と毅然とした態度で無視し、かいがいしく世話をしてくれたのだ。
「ふふ、そうでしたね。あの時のカズヤくん、とっても顔が真っ赤で面白かったですよ」
「……言うなよ。俺にとっては一生の不覚なんだから」
「不覚だなんて。わたしにとっては、カズヤくんとの大切な思い出の始まりです」
レナは屈託のない笑顔でそう言い切ると、ベンチの上でカズヤの手の甲に自分の指先を重ねた。
その温もりは、病院の冷たいベッドの上で感じたものと同じ、嘘のない優しさに満ちていた。
雑音をかき消す温もり
穏やかな公園の空気を切り裂くように、心ない嘲笑が風に乗って届いた。
ベンチから少し離れた場所にいる、同年代と思われる女子グループだ。彼女たちはあからさまにカズヤを指さし、顔を背けることもなく言葉を投げつけてくる。
「なにあれ、付き合ってるのかな?」
「いやぁ、ないでしょ! あれって、お金払ってるパターンじゃない? それしかないっしょ! あんな美少女が……あれを選ぶ意味が分かんなーい」
「あはは、わたしならお金貰っても無理だわぁ。キモいし、隣にも座りたくないって」
針で刺されたような痛みがカズヤの胸に走る。慣れているはずの悪意。それでも、隣にレナがいる状況で聞くそれは、自分の存在そのものが彼女の泥を塗っているようで、耐え難い屈辱だった。
カズヤが身を固くしたその瞬間。
「んっ……♪」
レナが、周囲に見せつけるかのような幸せいっぱいの笑顔を浮かべ、カズヤの腕にぎゅっと抱きついた。豊かな胸の感触が腕に伝わり、彼女は猫のようにカズヤの二の腕に頬を寄せ、うっとりと頬ずりをしてみせる。
「むぅ……。カズヤくん、服を買いに行きましょ。公園はちょっと暑いですし、冷房の効いたお店の方が快適ですよ」
彼女は女子たちの言葉など露ほども耳に入っていないかのように、あるいは完璧に無視するように、カズヤだけを見つめて提案した。
「ん? 服は持ってるし……。俺、ファッションセンスないしこだわりもないから。おしゃれにお金を掛けるくらいなら、生活費に回した方がいいかなって」
「退院祝いですから、気にされなくてもいいですよ。それに、……デートっぽくて良いじゃないですか」
レナはさらに力を込めて腕を組み、カズヤを立たせようとする。
彼女の琥珀色の瞳には、世間の冷たい評価など一欠片も映っていない。そこにあるのは、ただ一人、カズヤという大切な存在に対する純粋な独占欲と愛情だけだった。
「……分かったよ。じゃあ、少しだけ、見てみるか」
「はいっ! わたしが最高のカズヤくんをコーディネートしちゃいますから、覚悟してくださいね♪」
レナの明るい声が、女子たちの陰口を完全に塗りつぶした。カズヤは彼女に引かれるまま、重い腰を上げた。
磨かれた原石
半ば強制的に連れてこられたのは、格式高いデパートの紳士服売り場だった。
カズヤが気後れしている間に、レナは慣れた手付きで次々と服を選んでいく。彼女が選んだのは、体のラインを拾いすぎないゆとりのある黒のTシャツに、落ち着いたクリーム色や茶色のパンツだった。
「これも、似合いそうですよ」
レナが持ってきたのは、繊細な輝きを放つシルバーのブレスレットとネックレスだった。
「アクセサリーなんて……俺に似合うかな……」
「わたしからのプレゼントですから、付けてくださいよぅ……」
困惑するカズヤを、レナは少しだけ潤んだ瞳で見つめておねだりする。結局、断りきれずにその場で身に着けることになった。




