27話 触れた指先と、白のドレス
「いや、大丈夫だって。これくらい、男の俺が持つのが普通だろ。レナは日傘でも差しててよ」
カズヤは軽く肩をすくめて歩き出そうとしたが、レナは食い下がった。彼女はカズヤの前に回り込むと、少しだけ唇を尖らせて彼を見上げた。
「ダメです。二人のためのご飯の材料なんですから、二人で運ぶべきですよ。それに、カズヤくんだけに苦労をかけるのは……わたし、嫌なんです」
「苦労なんて大げさだよ。ほら、指に食い込むし、結構痛いんだぞ?」
「だったら、半分こにしましょう。ほら、こうすれば……♪」
レナはカズヤの右手に持っていた袋の持ち手、その片方を自分の手で握った。一つの袋を二人で持つ形になり、二人の距離は必然的にゼロになる。
「これなら、重さも半分ですし、カズヤくんとずっとくっついて歩けます。名案だと思いませんか?」
「……ああ。そうだな。名案だな」
カズヤは降参するように苦笑した。隣から伝わってくる彼女の柔らかな熱量と、時折触れ合う肩の感触。
確かに腕にかかる重さは半分になったはずなのに、胸の奥に込み上げてくる幸福感で、心の方はパンパンに膨らんでいた。
帰り道二人で寄り添いながら荷物を持ち歩いていた。カズヤは思い切ってレナを誘ってみた。
「帰ったら、時間もあるし……公園にでも行ってみないか……? 少し、外の空気も吸いたいし」
カズヤは自分から人を誘ったことが無くて、視線を逸らして緊張で手が震えていた。突然のカズヤからの誘いにレナは嬉しそうに目を輝かせてカズヤを見上げた。
「わぁっ、良いですね。カズヤくんと……公園ですかぁ……行きます。行きたいですっ!」
カズヤは想定外のレナの喜びように戸惑いと嬉しさが込み上げてきた。レナは嬉しそうに何度もカズヤの顔を見上げては嬉しそうに微笑みを向けてきた。
触れた指先と、白のドレス
家に戻ると、二人は並んでキッチンに立ち、買ってきたばかりの食材を冷蔵庫へと移し始めた。
「これは冷蔵庫のここ……あ、カズヤくん、そのお肉はチルド室が良いですよ」
「ああ、分かった。……あ」
狭いキッチンのなか、一つの棚に手を伸ばした瞬間、カズヤの手の上にレナの柔らかな手が重なった。
吸い付くような肌の感触と、指先から伝わる彼女の体温。至近距離で見つめ合う形になり、レナの琥珀色の瞳が揺れた。
「あ……ごめん」
「い、いえ……こちらこそ。……んふふ」
カズヤが慌てて手を引くと、レナは顔を林檎のように真っ赤に染めながら、照れ隠しのように小さく笑った。沈黙の中に二人の高鳴る鼓動だけが響き、室内の温度が一段階上がったような錯覚に陥る。
気まずさと愛おしさを振り払うように、二人はそれぞれの部屋で着替えを済ませた。
リビングに戻ってきたレナの姿を見て、カズヤは思わず息を呑んだ。
清潔感あふれる純白のワンピース。袖と襟にあしらわれた繊細なレースの隙間から、彼女の透き通るような白い肌が覗き、清楚ななかにも、どこか毒のような色香を漂わせている。
「……まさに、お嬢様って感じだな」
「本当ですか? カズヤくんにそう言っていただけると、勇気を出して着た甲斐があります」
カズヤの何気ないTシャツとジーンズ姿とは対照的な、圧倒的なオーラ。
けれど、レナはそんな格差など気にする様子もなく、嬉しそうにカズヤへ駆け寄ると、その袖を指先でちょんと摘んだ。
「さ、行きましょ」
レナがニコッと微笑み、さらに距離を詰めてくる。
玄関の鍵を閉め、外へ出ると、彼女は当然のようにカズヤの腕に体を寄せた。夏の午後の日差しを浴びながら、白いドレスを風にたなびかせるレナと、その横を歩くカズヤ。二人の影はアスファルトの上でぴったりと重なり、公園へと続く道をゆっくりと進んでいった。
恋人のふり、僕の自信
「俺と一緒に歩いて……恥ずかしいんじゃないのか?」
並んで歩く自分の影の大きさと、隣を歩く可憐な白いワンピースの対比に耐えきれず、カズヤは俯き加減に問いかけた。レナは少しだけ意外そうに目を瞬かせると、頬を微かに染めて答えた。
「ちょっと恥ずかしいですね……。周りの方に、恋人同士って見られちゃいますかね? えへへ……」
レナの「ちょっと恥ずかしいですね……」という言葉を聞き、カズヤの心臓は一瞬止まりかけた。
「いや、俺が言いたいのは……。こんな、デブな俺と一緒に並んで歩いて、周りの目が気にならないのかってことだよ」
自虐的な響きを含んだカズヤの言葉を、レナは歩みを止めることで遮った。
彼女はカズヤの正面に回り込み、琥珀色の瞳に強い光を宿して彼を真っ直ぐに見つめた。
「カズヤくんの良いところが分からない人は、放っておけばいいじゃないですか。好みは人それぞれですし、個人の自由です」
「レナ……」
「それに、わたしが一緒にいたいと思うのは、他でもないカズヤくんなのですから」
レナは再びニコニコと柔らかな笑みを浮かべると、カズヤの背後に回り込み、彼のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。そのまま、彼を盾にするような、あるいは彼に寄り添うような足取りでトコトコと後をついてくる。




