17話 琥珀の特等席
カズヤの不器用な気遣いに、レナは満足げに目を細めた。
「……そうですかね? んふふ、そうしちゃいましょう! 夕飯は……自宅に頼んじゃいますね」
「え? 普通、こういう時はデリバリーじゃ……!? 自宅に頼むんだ?」
「は、はい。栄養もしっかり考えられていますし……自宅なので無料ですよ♪」
(無料では……ないと思う。それはご両親が雇ってるプロの仕事だよね……)
レナがスマホを操作し始めると、彼女は完全に安心しきった様子でカズヤに体を預けてきた。彼女の長い髪が、カズヤの腕にさらさらと触れ、くすぐったいような、それでいて胸が締め付けられるような感覚を呼び起こす。
「頼み終わりましたよ。……わぁ、寄り掛かっていましたね。すみません……」
「俺は気にしてないって。別に、重くもないし」
「……ホントですか? 気にしないですか?」
「全然……気にしてないけど」
「……えいっ」
レナは小さな、鈴を転がすような可愛い声を上げると、腕だけではなく、カズヤの厚い胸板に頭をぎゅっと押し付けるようにして寄り掛かってきた。
「ぷにぷにですぅ~……。すごく、気持ち良いです♪」
今まで「太っている」と散々バカにされ、コンプレックスでしかなかった自分の体型。けれど、目の前の美少女がこうして幸せそうに頬を寄せてくれるのを見て、カズヤは人生で初めて、この身体で良かったと、心からの感謝を捧げていた。
膝の上の体温
レナがカズヤの胸に頭を押し付け、その弾力を楽しむようにぷにぷにと動かしていた、その時だった。バランスを崩した彼女の体がズルリと滑り、カズヤの膝の上にコテリと転がり落ちた。
「きゃぁ、はわわわぁ……! ごめんなさい……。調子に乗ってしまいました……っ」
突然の膝枕状態に、レナはパニックを起こしたように手足をバタつかせた。
「あはは、良いって。……なんだか、可愛かったし」
「……バカにしているような言い方です……。うぅぅ……。子供みたいだとか思っていますよね……? 一人で勝手にはしゃいじゃって……」
レナは拗ねたように頬を膨らませ、恥ずかしさから逃げるように起き上がろうとした。その時、カズヤの手が自然と彼女の頭に触れた。
その瞬間、魔法にかけられたかのようにレナの動きが止まり、ふにゃりと力が抜けて大人しくなった。
「……頭を撫でても、いいかな?」
「……はひっ。お願いします……。ひゃぁ……っ」
レナの顔は瞬く間に熟れたリンゴのように真っ赤に染まり、彼女は両手で顔を覆い隠してしまった。
「綾瀬さんの髪の毛って、本当にサラサラで触り心地が良いね。ずっと触っていたくなるよ」
カズヤが指を滑らせると、彼女の髪は指の間をさらさらと零れ落ちていく。
「ん、そ、そうかなぁ……。気に入って……くれたのかなぁ? あの、だったら……いっぱい、触っていいですよ。わたしも、嬉しいですし……」
指先から伝わる彼女の熱と、甘い香りに包まれながら、カズヤは無意識のうちにレナを膝枕したまま優しく撫で続けていた。
ふと、自分が何をしているのかに気づき、カズヤの顔もまた一気に火照りだした。膝の上に預けられた、羽のように軽い少女の重み。その尊いぬくもりに、カズヤは胸が張り裂けそうなほどの愛おしさを感じていた。
琥珀の特等席
「え、わあ……この状況って不味くないか!?」
カズヤは今更ながらに事の重大さに気づき、裏返った声を上げた。心臓が肋骨を突き破らんばかりに暴れ、膝の上に伝わるレナの温もりが、急に熱を帯びたように感じられる。
「ん? この状況ですか? 夜月くんに膝枕していただいて……頭を撫でていただいていますね。不味いのですかね? 二人で仲よくしているだけですけれど……?」
レナは、カズヤの手が止まったことに不満を覚えたのか、眉を寄せてカズヤを見上げた。
「夜月くん、手が止まっていますけれど……」
「いや、だって……女の子を膝枕なんて、普通はダメだろ!?」
「……なんででしょう? 仲良しなら、これで良いと思いますけれど」
レナのあまりに純粋な、あるいはあまりに無防備な言葉に、カズヤは思わず確認せずにはいられなかった。
「え、綾瀬さんは……他の男子にも、こうやって膝枕してもらってるのか?」
その瞬間、レナの表情が険しくなり、琥珀色の瞳に強い光が宿った。
「……してもらっていませんし、してもらおうとも思っていませんよっ!」
心外だと言わんばかりの強い口調。レナはカズヤの膝の上でぷいと顔を背ける。
「だったら、やっぱり俺も不味いと思うんだけど」
「夜月くんは良いのです。わたしが膝枕をしてもらいたいと思っている方ですし、夜月くんも……良いと言ってくれました……よね?」
レナは再びカズヤを覗き込み、縋るような、けれど確信に満ちた瞳で問いかけてくる。
「俺は、その……嬉しいよ。綾瀬さんみたいな可愛い子を膝枕できて、頭を撫でられるなんて……夢みたいだ」
「んふふ、でしたら良いのではないでしょうか。二人っきりですし……わたしも、とっても幸せです♪」
レナは柔らかい笑みを浮かべ、再びその小さな頭をカズヤの掌へと預けてきた。カズヤは、もう迷うのをやめた。膝の上で自分だけに向けられるこの笑顔を守りたい、そう強く願いながら、絹のような髪に指を通し、愛おしさを込めて優しく撫で続けた。




