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【読切】「片思い」8

 く、しゅん!

 

 可愛らしいくしゃみに、市長の男は笑みを向けた。女の肩には白い鳩が乗る。

「風邪ですか? レモンティーでも入れましょうか?」


 ソファーの向かいに座る鷹の目の女は謙遜した。

「いえいえ、私なんかにお気遣いなく、ボスなんですから」

「いえいえ、夜逃げは大変ですよね。すぐに犬は来ますし」

「いえいえ、全然、平気なので大丈夫です。く、しゅん!」


 警察が来る前に、真夜中、占い師の女は借りていた店舗を大慌てで片づけた。

 まさか、売った当日に注射を使うと思わなかったのだ。それで男が勝てばよかったのものの、あっけなく負けてしまい、ご主人様に報告して、店舗から痕跡を消した。

 人肌程度の甘めなレモンティーを口にする女に、男は新たな任務を与える。


「実は、予期せぬ事態が起きそうなのです。その事態に備えて、ブラツカヤさんにお願いがあるんですが」

「なんなりと、この私におっしゃってください!」


 エレーナ・ブラツカヤは身体と気持ちを前のめりに答えた。

 雪国からの移民である彼女は、盗みで生き延びてきた。ある日、腹が空いたので居酒屋で食い逃げを試みたが、店長に捕まった。その店長がベリアール・キャバリアだった。

 それ以来、ブラツカヤは彼の忠実な部下となり、数々の技術を取得した。

 すべては自分の罪を許し、助けてくれ、なおかつ自分を信じてくれた恩人のためだ。

 彼女にとって、もはや上司と部下の関係ではなかった。そう、これは恋だ。

 キャバリアの薄目笑いだが、愛らしい笑顔に心を奪われ、恋する乙女となったのだ。

 そんな彼、ご主人様の依頼は簡単なものだった。


「リュージ・オキタが経営するメイドレストランに潜入してほしい。早い話がスパイだね。メイドとして働き、奴らの情報、とくに土方について調べてほしい。もしかしたら、サムライを仲間にできるかもしれないので」

「承知しました! ボスのご期待に応えられるよう、頑張ります!」

「ありがとう、ブラツカヤさん。ゴッドブレス、マザー」

「ゴッドブレス、マザー」

 と、二人は心臓に親指を立て、金色の時計を見せ合う。

 

 忍び寄る魔の手を、大和国のニンジャとサムライはまだ気づかなかった。




 へっ、くしゅ!

 しかしながら、どこからかのくしゃみがオキタに伝える。

「風邪か、リュージ?」


 歩くのが面倒なので飼い主に抱いてもらう柴犬が気遣う。なら、自分で歩けだが。

「いーや、誰かが噂したんだよ。土方だな」

「いーや、ハツメだよ。あいつ、くしゃみするときすげー豪快だもん。そうだ、ハツメに手紙出してやれよ、ガイアには妖怪みてーな悪魔がいるってさ」

「手紙か、ありだな。店にも戦闘にも人手は欲しいもんな。ハツメ、元気かな」

「ハツメによ、妖怪の巻物を持ってきてもらって、悪魔を退治してもらおうぜ」

「シバちゃん、いいね! ついでにマフィアも退治してもらおう、大百足姫に」

「大百足姫か、いいね! マフィアも悪魔も泣いて逃げ回るぞ」

 

 その日、沖田は大和国にいる幼馴染でくノ一、服部ハツメに手紙を出す。

 忍び寄る魔の手とモノノケに、マフィアもまた気づかないでいた。

 複雑に絡み合う人々の欲望の果て、野望を叶えるために、今日もガイア帝国には眠れない夜が続いたのだった―― 


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