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【読切】「片思い」3

「と、いうことなんですっ!」


 翌日、猫耳メイドのレベッカはレストランのオーナー兼店長のリュージ・オキタに昨日の出来事を話した。アロハシャツのオキタは腕を組んで、

「それは困ったお客さんだな」と、猫耳のメイドに同情した。

 

 オーナーの隣でその出来事を聞いていた、店のマスコットキャラクター兼オキタの愛犬で柴犬の、シバちゃんは険しい顔つきで指摘する


「そいつ、ストーカーってやつじゃねぇか?」

「えっ?! ロックホールさん、ストーカーなの?」


 飼い主の目が見開く。首に巻く愛と刻印された額当てがトレードマークの柴犬は、人語を話す犬で、生まれも育ちもオキタと同じ大和国であり、その正体は大和を守護してきた精霊、式神の戌神様だ。

 レベッカは顔をくしゃりと潰した。


「前にも待ち伏せされたから、ストーカーかもと思ったけど、ロックホールさんは悪い人ではないんです。わざわざ週末になるとお店に来て私を指名してくれるし、チップだっていっぱいくれる。ただ、心の距離感がわからない人なだけなんです」

「それをストーカーというんだ、レベッカ」


 うーん、経営者であるオキタも悩ましいよう、目を瞑って唸っている。

「ストーカーって言ったら、ライバル店に浮気するだろうし、難しい問題だな」

「そーなんですよ! 他の子たちにも相談したんですけど、どうにかこうにか、なんとかかんとかで、店の売り上げのために乗り切れって言うんですけど」


 二人の共通認識はこうだ、金持ちの客は逃したくない。なぜなら、オキタは訳あって十億円の借金がある。しかも、一か月前に懲らしめたギャングからメイドレストランを買収した際、ミュージカル女優を夢見るメイドに専用劇場を建てる約束もした。

 猫耳のレベッカもそのメイドの一人で、金持ちの客を逃せば店の売上に響き、約束の実現も遠のいてしまうとわかっていた。


 はあ~、二人は重いため息を漏らす。お座りする柴犬が見かねて助け船を出す。

「オレ様がかみついてやろう。そしたら、ストーカー野郎はビビって来ねぇよ」

「他の客も逃げるわ! 新聞に『メイドレストランで犬が噛みつく』って一面に載ったらどーすんだよ、シバちゃん! 店が潰れちまうって」

「記者に金渡して黙らせればいーじゃねぇか」

「マフィアかよ! 俺たちがマフィアになってどーすんだよ!」


 オキタはガイア帝国のマフィアを逮捕する賞金ハンターでもある。柴犬はその相棒だ。

「じゃあ、土方に相談して捕まえてもらうか?」

「シバちゃん、ロックホールさんは悪いことしてないよ。私にしつこいだけだし、もしもお客さんが捕まったら、ライバル店が悪い噂流すに決まってんじゃん」

「土方に頼むぐらいなら、自分で解決するしかねーだろ」


 オキタが経営するメイドレストランは駅前のライバル店としのぎを削る。

 その店長は、ニューフロンティア州知事のダーリン・ネルソンが経営していた居酒屋チェーン店で、スゴ腕店長として有名だった男だ。しかし、ネルソン知事はマフィアの幹部との噂があり、ガイア帝国軍人かつロスシティ警察署長のビビリア・ネイビーロットから、オキタはその証拠を掴むよう依頼されている。

 

 首に巻く額当てが痒いのか、柴犬は喉元を掻きながら提案した。

「自分で解決する前に、マックさんに相談してみよーぜ。客とのトラブルは面倒だ。ここは一つ、飲食店経営者の先輩から知恵を借りよう」




 カウンターに座るオキタはランチ休憩中、車椅子の店主、マックス・ドルナルドが経営する《マックス☆バー》を訪れた。店内はそこそこ賑わっている。


「と、いうことなんですっ!」

 マックス☆バーは大衆居酒屋でありながら民間魔術師、賞金ハンターに依頼を斡旋する仕事案内所でもある。

「小細工なしに、ちゃんと話すしかないわよ」

 ご自慢の剛腕で豪快にソバを打つ、ハチマキ『愛情注入』を巻く店主が答えた。

 口ひげを生やし、見た目が強面で貫禄のあるマックスは元ガイア帝国軍人だ。南方戦線で左足を失い、軍人をやめてから男や女といった括りにこだわることも辞め、己の道とソバを極めている。ソバの腕前は大和人のオキタも唸るほど美味しい。


「ちゃんと話してライバル店に取られたら、店の売上が減るじゃないですか」

「そらそうでしょ。メイドレストランなんて、酒がない安いキャバクラじゃない。客は新たなメイドを求めて他の店に移住するだけよ」


 マックスは車椅子でありながら器用にソバを打ち、包丁を入れ、茹でていく。

「メイドレストランはメイドちゃんがいないとやっていけないでしょ。売上を取るか、メイドちゃんを取るかはオーナーのリューちゃん次第でしょ」

 

 店主はカウンターの端っこ、お決まりの席に座る男にざるソバを出した。

「お待たせ、ダーリン。ラブかけソバよ」

「いつもありがとう、マックスさん。お代は必ず払いますので」

「いいのいいの、あなたは食べる横顔を見せてくれれば。それが私の幸せだから」

 

 店主が瞳を輝かせる蒼い眼の軍人、男の名はタツヒコ・ヒジカタ、かつてオキタと同じ江戸幕府の精鋭部隊、大和守護隊に所属していたが、総長の近藤美虎を暗殺し、部隊を裏切ってガイア帝国軍に寝返ったニンジャだ。現在はロスシティ警察署で警察署長のビビリア・ネイビーロットの補佐官を務める。階級は准将で、騎士の称号を持つ。

 

 マックスはヒジカタに恋をして推しまくっている。どこか陰を醸し出す彼の流し目が母性本能をくすぐるらしい。しかし、ヒジカタの愛はそのソバのよう冷めているが。


「今の話聞いていたでしょ? ダーリンはどう思う?」

 答えを待たず、オキタが遮る。

「マックさん、ヒジカタさんには聞いていません」

「あら、まだあなたたち喧嘩しているのね」


 姉御と慕っていた恩人を殺され、オキタはヒジカタを恨み、このガイア帝国へ仇討ちに来た経緯があるからだ。しかし、その仇討ちは残念ながら失敗し、そのとき軍港に停泊していた軍艦三隻を大破させ、しかも軍施設にも損害を与えたため、損害賠償金という借金を背負い、現在は賞金ハンター稼業とメイドレストラン経営で返済をする。


 会社名は《サムライ・セキュリティ・サービス》、通称『3S』だ。

「俺も答えるつもりはない」とソバをすすり、「で、マフィア捜査はどうなんだ?」と依頼の進捗を尋ねた。

「ボチボチですね。メイドレストランが忙しくて、なかなか奴らのケツを追えません」

「なんだ、てっきり新情報があるから、店をサボって来たのかと」

「すみませんね、土方さんと違って無能で。土方さんもたまにはメイドちゃんに会いに来てくださいよ。一緒に萌え萌えキュンキュンゲームしましょーよ」

「あーら、ダーリンの萌えキュンが見られるなら課金するわ。いくらよ?」

「100GLゴルです」

「うっそ、やっすっ!」

「萌キュンなんざ誰がするかっ!」

 と、ヒジカタが怒って席を立った。国を裏切ったとはいえ、硬派な性格だ。


 初めてメイドレストランを訪れたとき、萌えキュンゲームをメイドと一緒にしたが、かなりの羞恥心と屈辱感を覚えたらしく、それ以来レストランには行かないと決めた。

 とはいえ、メイドからは蒼い眼のニンジャとして人気があり、デートしたい軍人ランキングで一位を取っている。メイドが他の軍人を知らないだけだが。


「短気だな、土方さんは」

 男はソバを素早く食べ終え、隣接する警察署へと戻っていった。

「大変だぞ、リュージ!」

 すれ違うよう額当てを首に巻く柴犬が慌てた様子でオキタを呼びに来た。

「例のストーカーが来たぞ!」

 店のオーナー兼店長は気合で両頬を何度も叩き、覚悟を決める。

「よし! シバちゃん、ここに呼んでくれ」

 


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