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ただ今、新ルート開拓中につき

 聖女を断罪すると心に誓ったものの、本当にそんなことができるか、不安がないと言えば嘘だった。

 

──今の私は、ただのモブキャラだもんね……


 ヒロインと違って、本当は自分の進む道を自分の意思で決められない。ゲームでは誰にも注目されない、背景でしかない私はどれだけそのストーリーに抗えるのだろうか。  


──それでも有紗は、ヒロイン像ぶっ壊した。


 これは間違いなく、リサの中に有紗の魂が入り、リサの行動が変わったせいで起きた変化だ。


──だったら私だって、やれるはずよ!


 確証はない。だが、やれるはずだと私は私を奮い立たせる。


──今はとにかく時間が惜しい。まずはお父様にお願いしないと。


 既に作戦は思いついた。これをやれるかやれないかは、私の努力次第だ。


 勝負はまず1ヶ月後。

 6月のイベント「定期テスト」


◇◇◇



 「エレナさん! 素晴らしいですわ!!」


 あの決意から1ヶ月。私は抜けない疲労のせいでいつもより遅い登校となっていた。そんな私が普通クラスの校舎にたどり着くと、アンナが私を見るなり嬉しそうな声を上げる。


「ど、どうされました?」


 アンナの様子に、半分はその答えを察しつつも、何も知らないふりで私は尋ねる。


「どうも何もございませんわ! 一先ず行きましょう!」


 そう言ってアンナは私の手を引いてカフェテリア前のスペースに向かう。この辺りは、普通クラスの生徒も特別クラスの生徒も利用する共用エリアだ。


「ほら! こちら!!」


 カフェテリアの前は小さな人だかりとなっていた。その先には、人の名前が並んだ大きな紙が貼り出されている。そう、つい先日行われた、6月のイベント「定期テスト」の結果だ。

 人混みを進んで、私も結果を確認する。


 第1位 ルーデウス•カールハイン 498点

 第2位 アナスタシア•デイトランド 482点

 第3位 エレナ•アーレン 465点

 第4位 レオンハルト•ルーベイル 458点

  …


 上から順に確認していくと、3番目に自分の名前を見つけた。


──ゲームでは毎回1位だったけど、リアルだと流石にこれが限界ね。


 ゲーム内のテストは、世界観に関する4択×10問の簡易的なものだったが、今回の私は5教科のテストを普通に受けた。だがこの結果は、十分すぎる成果だ。


「エレナさん、本当にすごいわ!!」


──いや、ほんとすごいわ、私。


 口には出さないが同意する。だから自分のことのように手を叩いて喜ぶアンナに「ありがとう」と返しながら、私は私を褒めてやった。

 お茶会を開いたころはただの近しいだけの貴族令嬢だった彼女も、最近は気のおけない友人の一人である。彼女のこうして人のことにも一喜一憂する姿は可愛らしい。


「でも本当に、頑張ってよかったわ」


 私はほっと安堵のため息を吐いた。


──無事に一つ目の作戦成功ね。


 私が考えた一つ目の作戦とは、6月のイベント「定期テスト」で3位以内に入ることだった。このテストは普通クラスと特別クラスの共通科目で行われるテストだ。


 つまり、ただのモブキャラである私が、特別クラスと関われる本当に貴重なチャンス。


 だから聖女の断罪を心に誓った日、私は父に2つのことをお願いした。そのうちの1つは、優秀な家庭教師をつけてもらうこと。1ヶ月の遅れを取り戻したいと言って、父に取引のある家から優秀な人材に話をつけてもらった。


──だけどまあ、その授業が厳しいのなんのって……


 間宮遥香の知識のおかげで、社会科や帝国歴史学、数学は元から好成績ではあったが、国語と経済学はかなり壊滅的だった。それを数週間でトップクラスまで引き上げてもらったのだから、とにかく授業は大変だった。

 

 そのせいで今もフラフラである。


「エレナさん、ここ最近とても頑張ってらしたものね」


「ええ、頑張ってよかったわ!」


──ほんとに頑張ったよ、私……もう安心してこのまま寝ちゃいそう。


 おそらく家庭教師がいなければ、せいぜい取れても6割がいいところだった。それを考えれば、私は十分頑張った。


 そしてこの満足行く結果に、私は確信した。


──やっぱり、私にもストーリーを変えられる。


 ゲームではどのルートを進めていようが、上位の3人は2つのパターンしか存在しなかった。

 

 ルーデウス > アナスタシア > レオンハルト


 この順位か、ヒロインがレオンハルトを押しのけ上位3人に入る2つだけ。だが今回、私の介入で3つ目のパターンが生まれた。


──さあ、この結果がストーリーにどう影響する……?


 私と有紗の動きによって、ストーリーは少しずつ変化している。この先は私にも予想がつかない。


 本来、このテストイベントはストーリーの分岐点の一つだ。TOP3に入ると、最も好感度の高い攻略対象から賛辞を受け、全対象の好感度を上げられる。反対に下位だと好感度が下がってしまう。


──そしてさらに王太子ルートなら、ここでアナスタシアと接触する。


 だがこれからは何が起こるか、私にももう予想がつかなくない。未知のストーリーは既に始まっている。


──これからは常に状況とキャラの性格から展開を予想して、慎重に動かないとね。


 私は茜との日々を思い出していた。私たちは攻略サイトなんて一切見ずに、多くのエンディングとスチルを解放してきた。それにはキャラクターの性格から先を予測し、行動を選択する力が必要だ。これからはより一層気が抜けない。


──よしっ! また状況を整理して、作戦を考えないと。


 私はまた気合いを入れる。その時だった。


「え……どういうこと……?」


 結果に一喜一憂する群衆の中に一つ、困惑する声が紛れた。声の主は紛れもなくリサだ。


「レオンハルト様が、4位……3位はエレナ•アーレン……?」


 続けてそう口にする。

 驚くのも無理はない。上位3人の中に、モブキャラの名前があるのだから。


──ちなみにリサは……


 第198位 リサ•ハートフィリア 324点


──下から数えたほうが早いじゃん。上から探して損したわ。無駄に上げた攻略対象たちの好感度も下がるわね。


 点数を見るに多少は勉強したようだが、なかなかに酷い。思わず鼻で笑ってしまいそうになる。


──まあ、有紗はそもそも勉強も努力も嫌いだし。


 そう考えれば当然の結果だろう。

 満足のいく結果と困惑するリサの姿を目に焼き付けて、私は教室へ戻ることにした。だが、


「アーレンって、1ヶ月の休学をしていた人ではないのか……?」


 一人の男が口にする。名前はおろか顔も知らない男だった。リサの隣に親しげに立つ姿から、リサの取り巻きの一人だろうとは予想がつく。


──だから何?


 私は思わずムッとした。アンナも同じような顔をしている。

 しかし周囲の空気はおかしかった。リサの取り巻きたちが「たしかにそうだ」と「何かおかしい」と騒ぎ始めると、他の人たちもざわつき始める。「カンニング」なんて言葉も出る始末だ。1ヶ月も休んでいた人間にこんな成績が取れるわけないと、私に疑念の目が向けられ始める。


「……そんな……私は本当に」


 努力をしたのだと口にしたかったが、大きな集団の圧力が私にのしかかる。唇を噛み締め、拳を握ることしかできなかった。


──悔しい……悔しい、悔しい……!


 顔が徐々に下を向く。

 そんな時だった。


「楽しそうね、なんの話かしら?」


 はっきりと通るその声は、ざわめきで揺れる空気を一瞬で凍らせた。顔を上げると、凛とした女性が真っ直ぐに男たちを見据えている。


「……ア、アナスタシア様……?」


 私は思わず口にする。彼女はチラリと私を見た。


──嘘……アナスタシアが来たってことは、王太子ルートが継続してるってこと?


 だが、アナスタシアは間違いなく私を見た。つまり、本来のストーリーとは確実に流れが変わっているということだ。


 新たなこのストーリーは、動き出した。もう後戻りはできない。

次回6月27日21時更新

第9話「まさかのアナスタシア様の友情イベント、私に発生!?」

ピンチの私を救ったのは氷の令嬢・アナスタシア様!?

え、これってもしかして──友情イベント、私に発生してません!?

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