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この聖女、初手から詰んでます

 あのお茶会から2日。私はようやく学園の門をくぐった。他の学生とは1ヶ月以上も遅れた初登校である。

 お茶会の後、お父様をなんとか説得した私は予定を3日繰り上げて登校することができた。もちろんまだまだ体力不足は否めないが、何度も言う。燃やされるよりマシであると。だけど


──やばい、この制服はちょっとテンション上がる…


 学園へと向かう馬車の中で、思わず口元が緩んだ。グレーを基調とした淑女らしいジャンパースカートの制服。首に巻いた上質な水色のリボン。ゲーム画面で何度も見た制服は本当に可愛い。


──って、ダメ! こんなことしてる場合じゃないって!!


 私は頬をペチンと打った。

 ……でもやっぱり、ファンとしては色々見逃せない。


──校門も噴水も校舎も……ゲーム画面で見たまんま!!


 死亡フラグ継続中にも関わらず、目の当たりにするゲームの世界に心が浮つく。馬車を降りて校舎に向って歩きながら、どうしてもキョロキョロ見渡してしまう。それでも口元だけはなんとか気合いで引き締めた。


「あら? エレナさん?」


 その時、きっと挙動不審だった私の名前を呼ぶ声がした。


「あ……えと、お、おはようございます!」


 振り返るとお茶会に来てくれたあの噂好きの令嬢、子爵家の娘であるアンナの姿があった。私は慌てて挨拶をする。


「ふふ、おはようございます」


 微笑まれると、挙動不審な姿を見られたことが少し恥ずかしくなる。


「今日からご登校なのですね。予定より少しお早いのでは?」


「ええ。先日のお茶会で皆さんのお話を聞いたら早く登校したくって、心配性の父に無理を言いました」


 そのまま私たちは話しながら校舎に向かう。アンナは私の挙動不審な姿を見て、初登校に緊張していると思っているようだった。


 こうして歩いていると、本当に好きだった世界に来てしまったのだと実感する。そして同時に怖くなる。ここは茜と何度も繰り返し、やり直してきたスマホの中の世界じゃない。私が今を生きる世界だ。やり直しはない。失敗の先に待つのはただ一つ。火炙りでの死、それだけだ。

 私はまた浮つく心を引き締める。その時


「……まあ!」


 まもなく校舎というところで、隣を歩くアンナが小さく声を上げた。思わず私は「どうされました?」と問いかける。


「ほら、あちら……」


 アンナは嫌悪感と面白いものを見たという楽しさの混ざった声である方向を指差した。その先には、栗色の柔らかそうなウェーブヘアを揺らす可愛らしい少女が、太陽のように輝く金髪のイケメンと歩く姿があった。距離があるため会話は聞こえないが、ニコニコと明るく笑う少女が、何度も男の肩に触れる様子だけははっきりと見えた。


──あのビジュアル……


 私はほとんど誰しもがスキップする、ゲーム起動時のオープニング映像を思い出していた。あそこに登場する少女が今、目の前にいる。確かにヒロインらしくとても可愛らしいのだが……


「あの方が、聖女様……」


「ええ、その通りです」


──あの執拗なボディタッチ。パーソナルスペースフル無視の距離感。いかにも女子と敵対しそうな女子って感じね。


 心の中で思わず苦笑いが溢れる。聖女はやはり、お茶会での噂に違わぬ女らしい。数ヶ月前までただの男爵令嬢だった女とは思えないほど、大胆に男に近づいていく。ついにはそっと、守りたくなるような華奢な腕をイケメンの腕へと絡ませた。


「お隣の男性って、隣国のユリウス様ですか?」


「ですわね。昨日はルーデウス様とご一緒でしたのに……」


──推しじゃないけど、やっぱり攻略対象は規格外のイケメンだわ。眼福すぎるし、ヒロイン羨ましすぎ……ってだからそんな暇ないのに!


 ガチ勢にはこの世界、少し刺激的すぎる。私は本日何度目かの鞭を心に打った。


 隣国の第二王子ユリウスに、宰相の息子ルーデウス。二人とも攻略対象で間違いない。

 そして確かに、全攻略対象の好感度を上げることは王太子ルートにおいて重要なことではある。

 

 がしかし、上げすぎは逆に悪手。


 なぜなら王太子ルートクリアには、王太子の婚約者 アナスタシアとの友情イベント達成も必須だ。しかし初日から自分の婚約者に手を出し、さらには他のイケメンにも愛想を振り撒く女とアナスタシアが友達になれると思うか? 答えは否だ。


──これって、誰かがプレイしてるゲームの中……? だとしたら思った以上に終わったプレイングね……


 やはり今は、あのメモにも書いたように一度この攻略対象たちと距離を取り、変に上がった好感度を下げなければならない。でなければ私の火炙りまっしぐらである。


 そしてもしこの世界が、誰かがプレイしているゲームの中だとしたら、噂にあった不真面目な授業態度のことが気になる。そんな選択肢や行動はゲームになかったはずだ。


──こうなったら、やっぱり聖女様に直接接触するしかなさそうね。


 幸い今日の午前中、聖女様は普通クラスの授業にご出席らしい。

 ここで私は、おかしな聖女に接触すると決意した。

6月17日 11時

誤字を修正しました。

ストーリーの変更はございません。


第5話「聖女が癖強すぎて、火炙りエンドが見えてきた」

聖女様に話しかけたら、開口一番「誰?」のひと言。この対応、どう考えても詰みフラグです!

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