第七のルート『聖女断罪』、開幕
決意を固めた私は、とりあえず教室に向かって歩き出した。しかしチラリと目を向ければ、中庭の時計塔はすでに遅刻だと伝えている。授業開始から20分が経過していた。
──サボりみたいになっちゃった……
せっかく上位の成績を出したというのに、すぐにサボったとなればまた変な噂が立ちかねない。
── 一応今からでも教室に顔出して、先生に一言伝えてから帰ろうかな……
『聖女断罪』というゴールに向けて意志は強く固まったものの、消化しきれない怒りや悲しみ、悔しさといった感情は未だ頭の片隅で渦巻いている。そのせいでため息は出るし、体は重い。
「はぁ……」
それでも私は頭を振って、乱れた感情に蓋をすると一歩一歩と前へ踏み出す。決めたからには、やらなければならないことが幾つもあるのだ。これからのことを頭の中でぐるぐると思考しながら、私はとにかく足を進めた。
「あなた、こんな時間に何をなさっているの?」
その時、背後から鋭い声が飛んできた。考えながら歩いていた私は、人の気配に全く気が付かなかった。思わず肩が震える。
「あら、アーレン嬢でしたのね。今は授業中でしょう? どうしてこんなところに?」
振り向くと、アナスタシアが鋭い視線を私に向けていた。震えた肩が今度はすくむ。
「……デ、デイトランド様……」
圧倒的オーラと、意図的ではないがサボっているのを見られたこの状況に、続く言葉が見つからない。アナスタシアはただじっと私を見つめた。
「……っ!!」
しかし、アナスタシアの表情はすぐに驚きへと変化した。それからすぐにグッと眉に力を入れて私を睨むような顔に変えると、グングン私の方へと迫ってくる。
「ひっ……!」
次の瞬間、私の肩をアナスタシアが掴んだ。
──なに!? なに!? なに!? わかんないけど、とりあえずごめんなさいぃ!!
私は思わず息を呑み、ギュッと目をつぶる。恐怖で思考はこんがらがった。
「あなたもしかして、また誰かに何かを言われたの?」
しかしそんな私に降ってきたのは、優しげなアナスタシアの声だった。それから頬に手を添えると、親指で優しく目元を拭ってくれる。今は私を労るような顔をしていた。
──え、なに? なに? なにが起きてる?
美しい顔があまりにも近くにあるせいでパニックだ。