第7話:鈍色の輝き
ーーーーー!!!!
(うるさい――)
闇夜を切り裂き、耳をつんざくような音が、ウィリアムの鼓膜を激しく打ち叩く。
ーーーーー!!!!
(やめてくれ――)
その騒音は、彼がグラントの突然の死を悼み、悲しみに浸るわずかな時間すら与えてはくれなかった。
ーーーーー!!!!
(あぁ……そうか、これは……僕の声だ……。)
先ほどから、まるで怨霊の叫びのような、耳障りな慟哭。
それは、意味のある言葉を形作ることなく、ただ喉から絞り出され、感情にまかせて溢れ出るままに吐き出される、破壊的な音の奔流だった。
目の前に広がる、あまりにも残酷な現実。
変わり果てたグラントの姿がウィリアムの思考を完全に停止させ、言葉、感情、そして理性までもを吹き飛ばしてしまっていたのだ。
それは、ただの空気の激しい振動、本能の根源から湧き上がる獣のような咆哮、あるいは魂の断末魔の叫びにも似た、意味を持たない音の塊。
彼の内側で渦巻く、言葉では到底表現できないほどの絶望、深い悲しみ、そして抑えきれない怒りと衝撃が言葉という秩序だった形を取ることさえ許さなかった。
ただ、喉が文字通り引き裂かれるような痛ましい音だけが、静まり返った焼け跡に長く、そして虚しく響き渡っていた。
やがて、その叫びも途切れ、ウィリアムの体から力が抜け落ちるように、彼は焼け焦げた地面に崩れ落ちた。
ウィリアムの意識は、深い闇の中へとゆっくりと沈んでいった。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
かすかな光を感じ、ウィリアムは重い瞼をゆっくりと開けた。見慣れない朝焼けが、灰色の世界をぼんやりと照らしている。全身の痛みと、喉のひりつくような感覚が、昨夜の悪夢が現実だったことを否応なく突きつけた。
ウィリアムは、まるで抜け殻のようにゆっくりと起き上がった。目に映るのは、無残に破壊された村の姿と、そこに点在する動かない人々の影。
彼は、言葉もなく、ただ静かにその光景を見つめていた。
やがて、何かを決意したように、ウィリアムはよろめきながら歩き始めた。
瓦礫を避け焼け残った木材や石を集め、1つ、また1つと積み上げていく。それは、一人ひとりの存在を悼む、簡素な墓標だった。
力尽き、倒れてはまた立ち上がり、彼は黙々と作業を続けた。かつて共に生きた村人たちのために、弔いの場を作る。それが、今の彼にできる唯一のことだった。
あたりが深い藍色に染まり始めた頃、ようやくウィリアムは、粗末ながらも最後の墓標を立て終えた。
積み重ねられた石や木片は、この静寂の中に確かに存在した人々の証だ。
土に触れ、手を合わせるうちに、彼はゆっくりと、彼らとの別れを済ませることができたのかもしれない。
心の底から押し寄せる、どうしようもない喪失感と虚無感。
それを押し殺し、なんとか支配できるようになった頃、ウィリアムは、他の墓標とは少し離れた場所に立つ、育ての親の簡素な墓の前に力尽きたように座り込んだ。
「……ただいま、父さん。」
あたりはすっかりと夜の帳が下り、冷たい風が焼け跡を寂しく吹き抜けていく。
ウィリアムは、目の前の粗末な墓標に、まるで生前の父に話しかけるように、静かに言葉を紡いだ。
(生きてる間は、照れくさくて一度も"父さん"って呼べなかったな……)
「今になって、こうして独り言のように呟くなんて、本当に僕は親不孝者だ。」
(ご苦労さん――)優しい声が、心の奥底でそっと囁いたような気がした。
いつでも温かく、不器用ながらも深い愛情で自分を包んでくれた父なら、この焼け野原を見ても、きっとあの穏やかな笑顔を崩さないだろう。
そして今、この静かな闇の中で自分が心に決めた復讐という名の炎を知ったら、あの温かい眼差しを少し悲しませ、そしてきっと静かに諭すだろう。
そんなことを思い浮かべながら、ウィリアムは、長く固く閉ざされていた唇を、ゆっくりと開いた。その瞳には、夜の闇にも似た、静かで強い光が宿っていた。
「ごめんね、グラント……いや……父さん。」
喉の奥が焼け付くように痛み、掠れてひどく出しにくい声だったが、ウィリアムはそれでも言葉を紡ぎ続けた。
「あいつらが、何者かはわからない。どこにいるのかも……。」
(それでも僕は――)
「やらなくちゃいけない……! 奪われたままにしてはいけないんだ!」
全て、喪った……いや、全て奪われた。
そこまで大切だったわけじゃない。
むしろ、無くなってしまえばいいとすら、思っていた――。
手のひらにずっしりと沈む、冷たい感触。
ウィリアムは鈍色の石を強く握りしめる――。
「僕は……いや、俺は誓う! 奪われたみんなの輝石を取り戻すと!」
かつて、力を手に入れて見返してやりたいと、どこか諦めを含んだ表情で願っていた青年の面影は、そこには微塵もなかった。
今はただ、深い悲しみと、決して揺るがない決意が、彼の全身を支配していた。
夜の闇を写すような黒髪の隙間から覗く、その黒い瞳の奥底には、静かに、しかし確実に燃え上がる、復讐の炎のような光が宿っている。
そして、彼は、嗄れた声に力を込め、再び夜の闇に向かって誓いを立てる。
「皆の無念を晴らすと俺は誓う! たとえ輝かなくてもいい、この鈍色の石に誓って!」
掌の石は未だ輝かない。
しかし、それを気にする者はもはやどこにも居なかった。彼は、静かに夜の焼け跡を後にし、赤き焰の眠る炉がある場所へと歩き出す――。