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魔道管局の検査機関  作者: 桐谷瑞香
第1話 おもちゃと公園
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第1話 おもちゃと公園(4)

 * * *



「どうだった、現地は?」


 局に戻ると、にこにこした表情のハーマンが尋ねてきた。何もかもわかっていて聞いてくることに対して、若干腹立たしく思ってしまう。

 だが、そこはぐっと言葉を飲み込んで、タチアナは口を開いた。


「結論から言えば、こういう理由で起こったのではないか、という考えが強まったくらいです。それが正しいとは限りません」

「そうか。だが、何かしらの成果があったようだから、その内容について話を聞かせてくれ」


 タチアナは軽く息を吐き出してから、現場の状況と推論を述べ始めた。



「まず現場の公園では、集合住宅と一軒家で囲まれていました。その公園に行った際、小さなつむじ風が発生しました。それとおもちゃが接触し、横転という事故が起きたのではないかと考えました」

「つむじ風か。それが発生すれば横転は起きそうだが、そう簡単に起きる事象ではないと思うが?」

「自然現象であれば、なかなか起きません。つむじ風は、強い日射で暖められた地上近くの空気が、上昇する際に周囲の風の変化を受けて、発生するものです。事故の日も今日も、そこまで暖かい空気が流れたとは考えにくいです」


 タチアナは一拍置いて、核心に入っていく。


「しかし、条件が揃えば、魔法と魔法の衝突で、つむじ風に似たような現象を起こすことは可能です」


 タチアナは魔法で、左の手のひらの上に、うっすらと目で見えるくらいの小さな風の渦を発生させる。そして右手から魔法で風を吹かせた。それらが衝突した瞬間、つむじ風のようなものが発生したのだ。


「なるほど、種類の違う風の魔法同士を衝突させて、つむじ風を発生させたのか」


 ハーマンが顎に手を添えながら、まじまじと見ている。

 つむじ風を発生させるのに、それぞれの魔法の強弱の調整が難しかったが、一発で成功することができて、少しほっとした。

 タチアナは話を続ける。


「今回起こした左手側の風は、事故が起きたおもちゃにかかっている風の魔法に似させています。周囲だけに風を発生させて、乗り物を走りやすくさせるという魔法です」


 一呼吸置いて、右手を見る。


「次に右手側の風の発生源です。これは私の推測になってしまいますが、おそらく洗濯物を素早く乾かすために、近隣の住民が風を吹かせた魔法道具ではないかと思っています」


 この類の道具は誰でも扱えるため、持っている人間は多い。

 ただし高価な物から安価な物まで、幅広く価格が設定されている。

 性能がよく、安定性があるものは、製作する際に行程が多くなるため、その分値段は高くなる。一方、他の魔法道具からの干渉を阻害する術が劣っている道具については、値段としては安いと言われていた。


 タチアナは地図を開き、事故があった公園の隣にある集合住宅を指で示す。


「この集合住宅のベランダは、公園に面していました。何かしらの風の魔法道具を使えば、風向きによっては公園に流れる可能性が高いです。実際、今日は微風でしたが、風は集合住宅から公園に向かって吹いていました。おそらくつむじ風の発生原因のもう一つの魔法は、ベランダで発生したものだと思われますが……」

「そのような漠然とした推論だけで、住民たちから聞き取り、魔法道具を確認していくのは難しい。しかもその魔法道具が原因だと決めつけるには、細かな検査なども必要となる。だから、あくまでもタチアナの推論だけで終わると言うことか」


 タチアナが言葉を濁したところを、ハーマンは簡潔に言ってのけた。


 風が吹く魔法道具を使用したからといって、毎回つむじ風が起きるわけではない。

 そうであったら、あちこちでつむじ風の発生報告を受けているはずだが、そのような話は聞いたことがなかった。


 今回の場合、道具の相性によっては発生する可能性もある、というところだ。

 風を発生させる種類の道具は、多くの企業から売られている。それらを一つ一つ組み合わせて事象を起こさせるには、おそらく何百通りの可能性を調べなければならないだろう。


 さらに魔法道具は、その時の天気や気温などにも影響を受けるときがある。

 特に風の魔法道具については、他の属性と比べて、影響を受けやすいと言われていた。


 だから、本当にすべての事象を考慮して、事故があった時の状況を生み出すのは、ほぼ不可能であった。

 よって今回、現地を確認したが、ただ推測が強まっただけで、依頼者が満足のいくような結論は得られなかった。


 念のために、タチアナは恐れていることを聞いてみる。


「あの、まさか集合住宅の人たち全員に、聞き取り調査を行うなんてことはしませんよね?」

「しない」


 ハーマンは即答した。


「この程度の事故といっては失礼だが、今回はそこまでする必要はないだろう。却って不安を煽るだけだ。事件性が疑われるのならば、聞き取りをする可能性もゼロではないが、今回は事故だ。むしろ事件だったら、警備団が調査は実施するさ。どちらにしても私たちの出番はない」


 魔法道具管理局の道具検査課にも、必要に応じて工場や会社等に立入できる権限はある。

 しかし、度を越したことはできない。道具を検査している際に、疑義が発生した場合に限って、強制的な立入は認められている。原因者を特定するために立入するのはやりすぎた行為だ。


 ハーマンは腕を組んで、うーんとうなり声をあげた。


「さて、報告書の内容はどう書こうか。推論を伝えただけでは、事故が起きた子どものご両親が原因を調べるために、集合住宅に直接問い合わせをするかもしれない。それは避けたいところだ」

「集合住宅のことは伏せて、おもちゃの魔法道具と相性が悪い魔法が付近で使われた可能性がある、という内容でさらっと済ませては駄目ですか?」

「その場合、いつ、どこでその魔法が使われるかわからないから、彼らは今後そのおもちゃを使うのを控えるだろうね。そしてそんな危ない可能性を秘めたおもちゃを売るのをやめるよう、製作側を訴えてくるかもしれない」


 それも避けたいところだ。今回は偶然が重なって起きた事故だろう。この程度で訴えられたら、企業側もたまったものではない。


「詳しいことは課長とも相談するが、やはり推論とはいえ、ある程度の内容は伝えた方がいいだろう。その上で集合住宅には問い合わせをしないで欲しいと言おうと思っている」

「仮に、そのおもちゃに対して、いくつかの種類の風の魔法を当てて、つむじ風が発生することができれば、報告に追加することはできますよね?」


 思いつきであったが、悪くはない考えだった。ハーマンは眉間にしわを寄せて、タチアナのことを見てきた。


「できるのか? つむじ風が起きるきっかけとなった魔法を起こすことを。相手側に報告するまで、あまり時間はない」

「魔法道具の元となった魔法は、私の中でいくつか候補があがっています。その魔法をさらに派生させれば、少なくとも十種類以上の魔法は出せますよ」


 数としては若干少なく見積もっているが、下手に期待をかけるよりは、予め少ない方がいい。

 ハーマンは逡巡した後に、立ち上がった。


「できると言うのならば、お願いしよう。発生できなかったら仕方ないさ。では、課長と話をしてくるから、つむじ風を起こすかもしれない魔法の検証を早速進めていてくれ」


 タチアナはしっかり頷いた。


「わかりました」




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