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魔道管局の検査機関  作者: 桐谷瑞香
第1話 おもちゃと公園
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第1話 おもちゃと公園(3)

 * * *



 事故現場は住宅街のど真ん中にある、公園だった。北と東は集合住宅、西は二階建ての一軒家、南側は車一台程度が通れる道路が伸びていた。


 夜や雨の日であれば、誰もおらず静かな場所だろう。だが、今は昼前の時間帯、公園は小さな子どもたちの声で溢れていた。

 笑いながら走り回っている子ども、滑り台やブランコなどの遊具で楽しんでいる子ども、砂場で黙々と砂を集めている子どもなど、思い思いに楽しんでいた。


 子どもたちの傍には、彼ら彼女らの親であろう、女性や男性が見守っている。保育園児もいるのか、同じ帽子を被った子供たちとエプロンをつけた女性もいた。

 ここで事故はあったが、特に張り紙など張られていないため、知らずに遊び続けている人も多いと思った。

 もともと事故は、ある子どもの所有物で起きた。公園の遊具などでなければ、気にかける必要もないだろう。


 タチアナはキムと一緒に、道路に近いベンチに腰掛ける。

 本当は公園内を歩き回りたいが、成人した男女が平日の昼間に歩くのは、妙な視線を受けそうで、少し気が引けた。子どもがいれば話は別だが、あいにく連れていける子どもはいない。


「タチアナさん、保育園の先生にでも話を聞きましょうか? いつも来ているのなら、事故当日もいたかもしれません」


 キムが提案してくる。それは悪くはない話だが、タチアナは首を横に振った。


「ただでさえ子どもの面倒を見るのに大変な中、こちらの話を受け答える余裕はないでしょう」


 十人以上いる保育園児の中に、先生と思われる人は数人だけ。友達同士で遊ぶ子もいれば、遊具を扱い慣れていない子どももおり、年齢幅は広い。

 怪我をしないよう、先生たちは誰もが子どもたちのことを気にかけている。

 もし、先生が他の大人と話をして目を離した隙に、事故でも起きたら大変だ。

 だから、話しかけるのは控えた方がいい。それに聞き取りしたことで、変な噂でも広まったら困る。


 だが、ここで何もせず、ただ状況を漠然と見ただけでは、来た意味がない。

 タチアナには一つだけ、現場に来たことでできることがあった。


 キムが公園内の様子をじっと観察している中、タチアナは目を閉じ、肌で風を感じた。

 穏やかに吹く風。少し暑くなってきたこの季節には、風が吹くと心地よさが感じられた。


 その中に――一瞬、違う空気を感じた。


 タチアナは目を開けて、周囲を見回した。公園内はもちろんのこと、周囲の建物など目で見える範囲まで、神経を尖らせて見た。

 そこである一点に目が止まった。服などの他に、シーツやタオルケットなど、大きな洗濯物を干している、集合住宅のベランダに。


 タチアナが目を凝らしてそこを見ていると、公園内で「わぁ!」と声があがった。

 キムはとっさに立ち上がり、タチアナもすぐさま視線をそちらに移す。

 小さなつむじ風が発生し、土を巻き上がらせていたのだ。傍にいた子どもたちが、驚きと歓声の声をあげたようである。

 風はすぐに収まり、子どもたちは何事もなかったかのように、再び走り出す。


「少しびっくりしましたね。また何か事故でも起きたのかと思いましたよ」


 キムはほっとした表情で座り込む。

 タチアナは口元に笑みを浮かべた。それに気づいた彼は、怪訝な表情をする。


「何ですか?」

「つむじ風が発生するには、いくつか条件がある。決して偶然起きることはない。一方、魔力と魔力が相殺する時にも、似たような現象が起きる場合がある」

「そうなんですか?」

「ええ。だから、例のおもちゃの魔力と他の何かの魔力が衝突すれば、その影響で強い風が吹き、ひっくり返る可能性はでてくる」

「ですが、こんな公園内で魔法を使う人なんて――」

「魔法がどこからか流れてきたら、どう?」

「いったいどこから?」


 タチアナは視線をベランダの方に向けた。キムも視線を向けると、目を大きく見開かせた。


 魔力の探知能力はタチアナよりは劣っていても、よく使われる魔法道具については、若手ながらそれなりに知識はあるようだ。



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