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魔道管局の検査機関  作者: 桐谷瑞香
第1話 おもちゃと公園
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第1話 おもちゃと公園(1)

 一人の女性が大きな四角い机の前に立ち、腕を組んでいた。そして目の前に置かれたある物を見て、首を傾げる。

 置かれていたのは、幼児向けの乗用玩具。自転車のように前と後ろに車輪がついているが、足を置く踏板はない。

 座席に乗りながら地面を足で蹴ったり、止めたりすることで、進むものだ。動きが活発になってきた二、三歳の子どもが楽しめる、おもちゃと聞いていた。

 女性は口元に手を当てて、それに顔を近づける。


「うーん、何回見ても変なところはない気がする。どうして事故が起きたの?」


 おもちゃの傍に置いてある書類をぱらぱらと見返す。

 乗っていた幼児が突然、このおもちゃから振り落とされたという。幸い大きな怪我には繋がらなかったが、幼児は酷く泣き、両親も急いで病院へと駆け込んだそうだ。

 その後、両親は製造会社に問い合わせをし、原因究明の依頼と慰謝料を請求した。

 だが、会社側で調べても原因がわからず、結果として、ここ魔法道具(まほうどうぐ)管理局(かんりきょく)にある、道具検査課に話しが回ってきたのだ。


 道具検査課は、魔法道具に不具合がないかなどを、人間の手や機器を使って、検査する課である。今回のように異常があった道具に対し、その原因を追究して欲しいという依頼がくる場合もあった。



 女性は何度目になるかわからないが、そのおもちゃに触れて、目を閉じた。そして通っている魔力を感じ取る。微弱に風の魔力を感じた。

 このおもちゃは走りやすくするために、風の魔力がほんの少し込められている。それが売りでもあるが、今回に限っては裏目に出てしまったようだ。


「考えられる要素は、他の属性の魔力が実は込められていて、何かの加減で発動したとか……。けど、他の属性の魔力残滓は感じないんだよな」


 目の前にあるおもちゃは、実際に事故を起こした魔法道具。


 女性の魔力探知は課内でもかなり優れており、おもちゃに対して僅かでも他属性の魔法が使われた形跡があれば、察知できると自負している。

 それが感じられないと言うことは先ほど呟いた仮定は違うということだ。


「他の外的要因で事故が起きたとなれば、現場に行かないとわからない。とりあえず、わかっていることを報告してくるか」


 これしかわからなかったのか、と嫌みの一つでも上司に言われそうだ。

 だが、いつまでも一人で考え続けるわけにもいかない。あまり気乗りではないが、広げていた書類を持って、検査室を後にした。




「長かったな、タチアナ。何かわかったか?」


 女性が執務室に戻ると、眼鏡をかけた黒髪の四十代前半の男性が話しかけてきた。足を組みながら、分厚い書類を片手に椅子に座っている。


 タチアナは自分の机に寄らず、一直線に彼の元へと進んだ。近づくと、彼は書類を机の上に置き、足を下ろした。

 二十代半ばのタチアナにとって、彼は上司に当たる存在。おもちゃを観察し、魔力を探知し、色々と思考を巡らして疲れてはいるが、彼に報告をしなければならない。

 焦げ茶色の長い髪を乱雑に結んだ状態のまま、上司の前に来た。そして毅然とした様子で口を開く。


「この報告書に載っているとおり、風の魔力以外は感じられませんでした」

「ほう、わかったことはそれだけか?」


 嫌みだけでなく、挑発するような言い方。顔がひきつりそうになったが、なるべく感情を入れずに淡々と返す。


「はい、他におかしな要素は見当たりませんでした」

「そうか……、成果がなかったのは残念だ。タチアナに見てもらったにも関わらず」


 残念そうな顔をしているが、彼の表情から察すると、上司は既に何か掴んでいるように見受けられる。

 それならば、なぜ先に言ってくれないのだろうか。おそらくタチアナならわかると思い、敢えて言わないのかもしれない。


 ハーマンの意図を汲み取ることができなかった悔しさを飲み込みつつ、口を開いた。


「……ハーマンさん、もし報告書以外にわかっていることがあるのならば、教えてください。私は探知については、課でもできる方かもしれません。しかし、経験などを総合すると、ハーマンさんには遠く及びません。以前もこういう事故はあったのですか?」


 ハーマンは軽く机の上に乗り出してきた。


「その言い方だと、探知だけでなく、最終的な原因究明までやってくれるのか?」


 謀られた。


 タチアナはハーマンから、この道具に対し、どんな属性の魔力が込められているか確認して欲しい、と言われた。それ以上のことをして欲しいとは、まだ言われていない。

 だが、先ほどの会話の流れからすると、それ以上のこともせざるを得ないだろう。

 上司の手のひらの上で踊らされているかのようで、大変癪であるが、仕方なく首を縦に振った。


「私ができる範囲までは行いますよ」


 ハーマンは大げさに両手を叩いた。


「そうこなくちゃ! タチアナは真面目で良い子だ!」


 次に飲み会があったら、酒の中に大量に塩でも入れようかと思った。

 タチアナは息を吐き出して、左手を腰に当てた。


「それで、他に何がわかっているんですか?」

「わかっているというより、俺の推測なんだが……。せっかくだから同行してもらう彼にも一緒に聞いてもらおう。――キム君、こっちに来てくれ」


 ハーマンが呼ぶと、一番端にある机で作業していた薄い金髪の青年が顔を上げた。まだ若い、二十歳くらいだろうか。

 彼は立ち上がり、近づいてくる。背は低めで、割と小柄な青年だとわかった。タチアナは女性にしては背が高い方なので、彼と視線が同じくらいになる。

 彼のことをまじまじと見た。


「もしかして、彼はハーマンさんが以前お話しされていた方ですが?」

「そうだ。タチアナは朝礼には参加しないで作業していたから、挨拶が遅れたな。今日から道具検査課に異動してきた、キム君だ」


 紹介されたキムはおずおずと頭を下げる。


「道具認可課からの異動でしたっけ。この課に来るからには、少なくとも魔法使いということでいいのでしょうか?」


 確認のために問いかけると、キムはしっかりと首を縦に振った。


「はい、風の魔法を得意としています。わからないことばかりですので、色々と教えてください。よろしくお願いします!」


 勢いよく挨拶をされて、タチアナは目を丸くした。

 なんとまあ、やる気に満ち溢れた人間が来たものだ。



 魔法道具管理局内で、課から課への異動は時々ある。だが、検査課に来るには条件がいくつもあるため、この課に、しかも若手が異動で来るのは珍しかった。

 その条件の一つは、魔法使いであることだ。例外はあるが、検査課はほとんどの人間が魔法使いである。

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