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ゴブリン帝国建国神話の第一話っぽい第八話

 領主邸───ルーヴォア公爵邸に帰り着くと、私に16匹のゴブリンを見ておくように言いつけて、イザベルお姉様は執務室に入っていった。

 執務室にいるお母様に、16人の奴隷を購入した事を報告する為だ。

 中央で財務卿の任にあるお父様に代わり、領地経営はお母様が一切を取り仕切っている。端的に言って、お父様がいなくてもどうにでもなると思うけど、お母様がいなかったら、たちまち生活が成り立たなくなる私たちの貴族生活だ。

 執務中のお母様は軍服を着ていて、ピシっとした感じ。ショートボブもあいまって男装の麗人めいて見える。おいそれとは話しかけにくい雰囲気だ。というか、大した用事もなく執務室に入ったら間違いなく怒られる。

 まあ今回は、16人もの奴隷を一気に大量購入という事だから、大した用事だろう。

 16人の奴隷が、実は16匹のゴブリンだという話を聞いて、あのピシっとしたお母様は、どういう反応をするだろうか。

 イザベルお姉様の事だから、隠し事などせずに、一切合切の全てを喋るのだろう。

 結果として、16人の奴隷を購入した事は、条件付きで認められるわけだが、その結論と、普段のお母様のご様子から類推して、その結論に至るには、結構な時間、瞑目して悩まれたのではないだろうか。結果としてつけられた条件に、怒鳴りつけたい感情を必死で理性で抑え込んで出したような、懊悩の跡が感じられる。

「一人につき、一ヶ月銀貨10枚の食費を納めるように、との事です」

 執務室から出てきたイザベルお姉様はそう言った。怒り顔なのはその条件が不服なのではない。むしろ、納得した表情と言っていいだろう。

 ちなみに、この違いを判断できるのは、「利きイザベルお姉様」を特技とする私───シルヴィー・ルーヴォアしかいない。イザベルお姉様教信者の妹、パトリシアにもまだムリだ。

 道理も、まあ、通っていると言えば通っている。自分たちが面倒を見ると判断して勝手に買い入れた奴隷なのに、その費用を親に負担させて、どこが「自分で面倒を見る」なのか、という話だ。そう考えると、むしろイザベルお姉様好みの道理と言えよう。

 しかし、だが、まあ。

 一人銀貨10枚なら、16人だと金貨8枚分という事になる。

 出せない金額ではないが、毎月となると地味に痛い。なにしろこちらの世界ではお小遣いという概念がない。必要に応じて必要なだけを出してもらう限りだ。

 ……いや待て。

 まさか、「今月の奴隷たちの食費を納めるので金貨をください」と言うわけではないだろう。それじゃあ、マッチポンプどころの騒ぎではない。

 という事は、何かにつけてお金をもらった折に、その中から少しづつピンハネしてチマチマ貯める? え、ちょっと待って、そんな事するの? 私たち、貴族だよ? しかも、公爵令嬢なんだけど。

 ちなみに、身の回りのものを売って金策する方法もあるが、これは言うまでもなく却下だ。毎月支払っていかないといけないのに、そんなの、いつまでも続けていられない。

 イザベルお姉様なら、ハロワのクエストでいくらかは調達できるだろうけど、それで毎月金貨8枚の支払いは、少し難しいのではないだろうか。クエストの支払いの相場は知らないが、平民の家事手伝いの素人仕事に、まさか金貨が支払われる事はあるまい。それが通ったら、さすがのドワーフだって、やってられるかと金槌を放りだすというものだ。

 イザベルお姉様も同様の事を考えているらしく、条件には納得しつつも、難しい顔をしている。

 難しい顔というか、平常時が眉間に皺の寄った表情なので、ことさらに難しい顔の雰囲気というか、これまた私にしか分からない、イザベルお姉様の表情の変化だ。

 そうか。普段はアレコレと何気なく散財しているが、親の金を当てに出来ないとなると、たちまち詰むな。公爵令嬢。

 貴族のお姉さんたちが口数を減らして悩むのを見て、ゴブリンたちも不安そうなざわめきを漏らす。

「あの、オジョウサマ。なにか、問題がありましたかね。なんでも言ってくれりゃあ、俺たち、その……」

 と、一番体格のいいカシラが、意を決したように口を開く。

 雰囲気だけで不安そうにしてるが、何が問題になっているかは理解していないようだ。

 イザベルお姉様はそれに対して、顔をしかめてカシラの頭にポンと手を置いた。

 それを見て「ああ、気にするなと言いたいのだな」と気付くが、それに気付く事が出来るのは私だけだ。

 代わって私がそれに答える。

「あなたたちが気を揉むような事は何もありませんわ。少し考える事が出来ましたけど。ああ、それよりも、そうですわ。まずはあなたたちの寝る部屋を用意しないといけませんわね」

 そう言われても心配がほぐれない表情のカシラは、サンに目配せをし、サンはそれに、うんと一つ頷いて口を開いた。

「あの、お、お気遣いありがとうございます。ただ、その……も、もしやお貴族様でも、私たちの食費が、ご負担になるご様子でしょうか」

「奴隷の身分で貴族のお台所事情をアレコレ言うのは不遜ですよ。どこで聞かれてるか分からないのですから、貴族の家に連なる奴隷となったからには、滅多な事は口にしないように」

 と、たしなめる風を装いつつ、返答を誤魔化す私。

「は、はい! どうも、その……申し訳、ありません」

「……」

「南側の森番小屋ですわ」

 続く言葉を失って、なんとなく気まずい空気が流れかけた所で、突然イザベルお姉様が声を発した。

 面食らった私は、なんですの、と反射的に問いかけようとしたが、先んじてイザベルお姉様の補足がされる。

「この子たちの寝る場所の話です。あなたもさっき、そのお話をしていたでしょう。お母様から言われていましたの。空いてる森番小屋を使えばよいと」

「え、森番小屋って、城壁の外じゃないですか。大丈夫ですの?」

「……森番小屋は基本的に、城壁の外でも安全なように作られていますわ」

 受け答えが一瞬遅れた事に、イザベルお姉様も、少し心配しておられるご様子がうかがえる。

「とりあえず向かいましょう」

 そうして私たちは、領主邸を出て、街の外に通じる西門に向かって歩き出した。

 空は茜色に染まり、夕刻が迫っていた。

 ゴブリンたちは、それぞれの手に、食料の入った麻袋を持っている。

 領主邸を出る前に、厨房で調達してきたものだ。

 暗くなるまで、もうそんなに余裕はないけど、森番小屋に行く前に、さっき一緒に奴隷商の馬車を襲った、もう一つのゴブリンのグループの所に寄って行くつもりだった。

「もりばんごや?」

「もりばんごや!」

「どこ?」

「しらない」

「おウチ?」

「おウチだよ。ちゃんとした、おウチ」

「ハチグモとか、入ってこない?」

 自分たちが今日から住む場所と聞いて、ゴブリンたちもガヤガヤし出す。

「街の外の小屋っていうと、もしかしてアレ、“お城”の事かな」

「えっ。俺たち、“お城”に住めんの? やったー!」

 “お城”とか言い出したよ、この子たち。

 話を受けて、森番小屋の外観を思い出す。

 安全の為に、結構な高さの石垣を積んで、その上に小屋を建ててるんだよね。なるほど、“お城”と言われれば、そう見えるかも。平屋だけど。

 あと、木製だけど、頑丈な塀に囲まれてるし。今も運用している森番小屋だと、この塀に魔物よけを一定間隔で釣って、魔物を寄せ付けないようにしていたはずだ。

 塀の内側は、石垣の土台と細い道以外、全部タイコー草の畑になっている。タイコー草は、魔物よけの原材料だ。でも、今からいく南側の森番小屋は、長らく使ってなかったから、この畑も、使えるようになるまで、ちょっと手間がかかるかも。

 ゴブリンたちの賑やかな声を聞きながら、そんな事を考えていると、カシラとサンの、ちょっと聞き捨てならない会話が耳に入ってきた。

「……なるほど。一人銀貨10枚かかるって事は、俺たち全員分だと金貨8枚になるのか」

「うん。……そ、それが、毎月だからね。平民だと、その、大人の人でも、かなり、キツイんじゃないかな。───お貴族様の事は、よく分からないけど。その……ご令嬢というお立場では……あっ! い、今の! 今の、なし。今のなしだからね? さっき怒られた、ばっかしだったんだから。い、今のなし、ね」

「なあなあ。それって、マジでどうにもならねえの?」

「え? いやあ、それは……うん……その…手は、なくは、ない、かも、だけど……」

 サンちゃんには何か打開策があるらしい。でも、それは、あまりお勧めしたくない案らしい。めっちゃ言いづらそうにしてる。

 その案、ちょっと聞いてみたいな、と思ったけど、さっき、「気にするな」といった手前、ちょっと聞きづらい。あんまり言いたくない様子だと、なおさらに。

 と思った矢先で

「そのお話、少しいいかしら」

 イザベルお姉様が躊躇なく声をかけた。

 恥もなく、外聞もなく、相手に対する配慮すらなく、イザベルお姉様はただ一直線に最短距離を掴みに行くのだ。

「え、いや、あの」

 戸惑うサンちゃん。そのサンちゃんに、グイッと顔を近づけて、威嚇するイザベルお姉様。

「採用するかどうかはワタクシの判断。そしてそれを採用したら採用したものの責任となるのです。成功したらワタクシの手柄、失敗したらワタクシのとが。あなたに責任を問う事はありませんし、当然、それをワタクシに話さないという権利もあなたにはありません。安心してべらべら喋ったら良いですわ」

「あ、あ、その、申し訳ありません。その、ほんのつまらない案で、うまくいくかどうかも」

 サンちゃんはもう、涙目だ。

「だからそれを判断するのはワタクシだと言っているのです。あなたにそれを判断する権利など一切ないと言っているのが分からないのですか? 」

 発言の責任は問わないと庇っている姿勢なのに、肩をつかんで揺さぶる姿は、どう見ても追い詰めているようにしか見えない。

 私は慌ててイザベルお姉様の腕に手をかけて諌めた。

「ちょちょちょっ、お待ちください、お姉様。サンがパニックを起こしてます。ともかく、その手をお離しになって」

 イザベルお姉様の逆だった眉がピクリとする。私の言葉で、ハッと気がついた、という反応だ。

 黙って手を離し、その手を胸前にもって行って腕を組む偉そうなイザベルお姉様は、そのままサンを睥睨する姿勢だ。

「あ、あの、あの、申し訳、ありません……」

「怒っているようにしか見えないと思うけど、これがお姉様のニュートラルな状態です。気にするなと言われても当面はムリだと思うけど、別に怒っているわけではないので、気にしないでくださいまし」

「は、はあ……」

「それで」

「ひぃ!」

 イザベルお姉様がちょっと口を開いただけで、サンが悲鳴を上げて飛び上がる。

「ああ、これはトラウマになりかけてますね。お姉様、ここは私がお話を聞きましょう。サン、あなたの案というのを話してくださるかしら」

「あ、はい、えっと、つまり……」

 ここでサンは、気を落ち着かせようとしているのか、一旦言葉を切って目をつむり、深呼吸をした。そして、その目を瞑ったまま、語り始めた。

「ま、まずは、他のゴブリンたちを、全員、その……私たちと同じように、お嬢様の奴隷にするの、です」

 目を瞑ったまま喋り始めたサンを見て、カシラがそのサンの手をとる。歩きながらだから、目を瞑ったままならエスコートがいる、という事だろう。だが、そういう事を自然に出来る辺り、このカシラという少年は、イケメンの可能性がかなり高そうだ。

「ん? 他のゴブリン、というのは?」

「わ、私たち以外の、ゴブリン、という事です。あ、その、そ、そうですね。とりあえずは、お嬢様のお家の領地にいる、ゴブリン全員、ということで……」

「え、ちょ、ちょっと待ってちょっと待って。それって、何人いるの?」

「何人、じゃない。何匹、だ。……ですだ」

 いきなりカシラが口を挟んできた。しかも、急に喋ったからか、語尾がおかしな事になってる。思わず口を出してしまったのだろう。顔が、しまった、と言ってる。

 私がクエスチョンを頭上に乗せてカシラに目をやると、カシラはビクリとして、言いにくそうに言葉をつなげた。

「あ、その、申し訳ありません。その……俺たちはゴブリンなんで、その、何人、じゃなくて、何匹、って数えてもらいたいんで」

「……それって、そんなに重要な事ですの?」

「まあ、その、俺たちは、ゴブリンなんで」

「でも、人間、ですわよね」

 すると、カシラは複雑そうに顔を歪めた。

「それは、その、なんていうか。あんまり、その……人間と一緒にされたくない、ってゆーか」

 ああ、そうか。この子たちは人間という生き物に失望しているのだ。

 自らの種を、否定して、誤魔化して、同じ種である事を拒むほどに、徹底的に、決定的に、絶望して、失望したのだ。

 イザベルお姉様や私も人間なんだけど、と思ったけど、そこは突っ込む所ではないだろう。

「失礼しましたわ。私も少し、気をつける事にしますわね」

「それはそれとして、お話の続きですけども」とイザベルお姉様が後の言葉を引き継ぐ。

「何人、いや、何匹いるかはともかく、16匹で金貨8枚。それだけでも苦慮しているのが現状ですわ。それを、あなたはそれ以上の数を面倒見ろと言っているのですけどは、それは理解していますわよね」

「は、はい。ですから、現状で金貨8枚を工面する方法と言われると、私も、これといって思いつく事はないのですが」

「あなた、人と喋る時は相手の目を見るものでしてよ」

 目を瞑ったまま喋るサンの言葉を、イザベルお姉様の面倒くさい所が折りにかかった。

 いや、私はそういう面倒くさい所も好きなんだけどね。ほら、ゴブリンたちとか、呆気にとられてるし。

 サンなんか、慌ててパチクリと目を開け

「あの、あの、どうも、も、申し訳、ありま、せんでして」

 ちょっと過呼吸気味に慌てて謝ってる。目を見ろというから、一生懸命イザベルお姉様の目を見ようとするけど、目つきが怖いからやっぱり目を泳がせてしまい、それでも、これではまた怒られると思って頑張って目を前に向けようとして、やっぱりムリと逃げてしまう。そんな気持ちが手にとるようにわかるほど、キョロキョロと目を泳がせながら

「あ、そ、その、あの、ごめんなさい。やっぱり私が間違ってました」

 とついに謝ってしまう始末。

「お姉様。少し、失礼しますわね」

 これではいけないと、ドレスの腰の後ろで結ばれた飾りリボンをほどき、サンの頭部に回して目隠しにした。

「これで、落ち着いてお話できるかしら」

「あ。ありがとうございます」

「……どういう事かしら」

「お姉様の目は他の人には、そう、刺激が強すぎるのです。もういっそ、お姉様は私だけ見ていればいいのではないかしら」

「……パトリシアはカッコいいと言ってくれるのですけれど」

「それは同意しますわ」

「…………あなた。先程の続きをお話しなさい」

 イザベルお姉様は、複雑そうな表情を浮かべて私を見た後、切り替えた口調でサンに続きを促した。

「あ、はい。その……」

 と目隠しされたサンの声は今度は落ち着いたものだった。

「き、金貨8枚、との事ですが。その、たとえば私一人で、とか、いいえ、その、こ、ここにいる16匹のゴブリンで、とかでも、これを集めるのは、む、難しいです。でも、ゴブリンが1000匹もいれば、お、お話は、別だと思うんです。その、……出来る事が増えるし、せ、選択肢が広がります、から」

 ……まあ、若干、ビクついているようだが、だいぶマシにはなっている。

「でも、それだと、1000人の奴隷を養うのですから、食費の金貨は8枚じゃなくて、500枚になるのですよ」

「え、あ、はい。その。で、ですから、お家の方には、50人の奴隷を買った、とご報告───」

「なるほど。採用しますわ」

「───されたら、良いのでは、ないかと…その…思ったり……思わなかったり……」

「え、ちょっ、はやっ」

 サンが最後をゴニョゴニョと濁している辺りで、イザベルお姉様は最後まで待たずに早々と結論を出した。

 あまりの決断の速さに、思わずイザベルお姉様を振り返ってしまう。

 これに慌てるのがサンだ。その前から既にちょっと慌て気味だったが。

「あ、そ、その。お話はこれだけじゃなくてですね。も、もう一つ、やらないといけない事が、あ、ありまして」

「え、待って待って。まだ私が追いついていませんわ。えっと、お母様には50人の奴隷を買ったと報告して、実際には1000人を奴隷になさるというお話、ですわよね?」

「そうですわね。何か問題が?」

「でもそれだと食費が……ああ、ゴブリンたちが1000人……1000匹いたら、8枚くらいの金貨ならなんとか出来るという話でしたわよね。いえ、50匹分なら金貨25枚ですか。だから、食べるものなんかも、自分たちで用意できると」

「そういう事です。というか、むしろ1000匹も集まったら、村が出来るでしょう」

「ん、あら? でもそれなら、わざわざ奴隷にしなくても良いという事では」

「奴隷にしないと、街に入れないでしょう」

「ああ、なるほど。つまり逆に言うと、街に入るだけなら全員奴隷にしなくてもいいと。───じゃなくて。全員奴隷にするけど、公式には最低限の人数でいいというわけ、ですわね。でも、それが50人というのは?」

 その数字を設定したのはサンなので、サンに視線を向けた。サンは目隠ししているから、私の視線を感じたわけではないとは思うけど、声が自分に向けられたと気付いた様子でこれに答えた。

「は、はい。じゅう……16匹とか、20匹くらいだと、さすがに、その、顔を覚えられてしまいます。でも、50匹くらいいると、さすがに、覚えきれない。だろうと……。つまり、入れ替わっても、誰も気付かない、とゆーか……」

 そこで言葉を切って、こちらの反応をうかがう様子。でも、まだ話の続きがありそうなので、こちらも黙っている。すると、サンは今度は慌てたように言葉をつなげた。

「あ、あの、それで、ですね。その、そうなれば、百……100匹だろうが、1000匹だろうが、何人増えても、同じ、だと、思うん、です。い、一応、街に、同時に入れる、その、上限を、50匹としますが、お、おそらく、10匹づつとかで、バラバラに入ったり、とかしたら、70匹くらい、街に入る事も、出来るんじゃないか、と……」

「なるほど。そこまで考えての50人の奴隷、ですか。たしかに、奴隷の首輪にルーヴォア公爵家の家紋でも押しておけば、街の人から邪険にされる事もないですしね。ゴブリンのままでいるよりは、身の安全を図れるかもしれませんわ。理解が及びました。失礼しましたわね。続きをお話になって」

「え? あ、その、もう一つ。もう一つ、やらないといけない事、というお話でした」

 サンは急に話題を振られて、一瞬何の話か、話の筋道を見失っていたようだったが、一端言葉を切って深呼吸をすると、あらためて話の続きをはじめた。

「奴隷1000匹!……て、お話、してましたけど、実際のところ、何匹になるかは、その、当然、分かりません。ともかく、そ、それだけのゴブリンを、奴隷にするのですから、その、同じ数の、つまり、物凄く、たくさんの、奴隷の首輪が、必要になるんです。あ、それと、あと、奴隷契約書。あの奴隷商……グレゴワールとかゆークソ野郎の所に、いた時に」

「え?」

 おどおどした口調の一部で、いきなり流暢な口調が差し込まれたかと思ったら、それまでとは打って変わって汚い言葉が混じってきたので、思わず声を上げてしまった。

 それに反応して、サンも「え?」と言葉を途切れさせる。

「あ、あの、何か……?」

「いや、えっと。今、なんて?」

「ど、奴隷契約書、ですか?」

「いや、そこじゃなくて」

「グレゴワールはクソ野郎で間違いないでしょう。いいから、サン、お話しを続けなさい」

「確かにそうですわね、お姉様。サン、ごめんなさい。続きをお話しなさって」

「あ、はい。それで、その、クソ野郎とかゆーグレゴワールの所に、いた時に」

 なんか語順が逆になっちゃってるけど、もう私も突っ込まない。イザベルお姉様が良しとしているのだし。たしかにグレゴワール=クソ野郎で正解だし、逆もまた真なりだし。

「わ、私も、契約書作る所、見ていたのですが、『クソ野郎』って印章さえあれば、わ、私たちでも、書き写して、複製する事は、で、できそうです」

 ああ、もう、サンちゃん、これはわざとやってますね。『クソ野郎』って印章はさすがにない。でも、OKだ。イコールで結ばれた以上は、右辺の変数は左辺の式に代入可能なのだ。

「なので、ゴブリンの頭数、そろったら。グレゴワールを。潰しに行きたい。です」


エア読者の名前が決まった。

大絶評香。普段は腰が低くて大人しいが、文章を書くとやたら攻撃的になる、隠れ攻性美少女の大絶さんだ。

架空の読者だが、今日からネームドなので、少しステータスが上がる。

あと、ちょっとだけサンとキャラがかぶってる。


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