レコードは?夜眠れないのでアナログとデジタルとをぼんやりと考えてみたら迷走した(9)
●レコードは?夜眠れないのでアナログとデジタルとをぼんやりと考えてみたら迷走した(9)ー媒体3
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今回は、音楽の媒体であったレコードについてです。(8)のCDの話の続きです。
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例えばレコード。
レコードは盤上に渦巻き状の溝(音溝という)があって、音溝には音に相応する形状が刻まれています。音の振動を音溝の形状で表現しているのです。
かつては音楽の媒体の中心的な存在でした。
レコードは、エジソンによる蓄音機(1877年)、そしてエミール・ベルリナによるSPレコード(1887年)の発明以来、1933年頃から高音質な「ハイファイ」を目指して、帯域幅の改善(1945年)とか、RIAAカーブ(1954年)、ステレオ化(1958年)、45回転のLP(1967年)、ドルビー(1968年)、ハーフスピードやダイレクト・カッティング(1969年)、再生歪み補正(1970年)、PCM録音!!!(1972年)、ダイレクト・メタル・マスターリング(1982年)等々と、レコードの材質や製造工程の改良を重ねて1980年までは順調に売上を延ばしてきました。
それと同じくレコードを再生するレコード・プレーヤー(のターンテーブル(の回転ムラやモータのノイズ)やアーム、針)やアンプ、それからスピーカーも進化してきました。現在も改善が続いていると言います。
そんなレコードなのですが、1982年に発売開始されたCDによって、あっと言う間に売上が落ちて市場から姿を消してしまったのです。
レコードを駆逐したCDも、現在ではダウンロードやストリーミングに置き換わってますけどね。栄枯盛衰。
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日本レコード協会のデータを元にレコードとCDの生産枚数のグラフを作りました。
横軸は1960年から2023年まで。縦軸は生産枚数で単位は百万枚です。つまりミリオン・セラーなレコードは目盛で1からです。「およげ!たいやきくん」は1975年の発売で累計460万枚。目盛では4.6になります。200であれば2億枚となります。
CDは昔は8cmと12cmがあったそうで、12cmの方は1999年からシングルとアルバムに分離してます。「CD S+A」はシングルとアルバムの合計です。
レコードは、CD発売が現実的になった1980年後は下降して、1990年にはほぼ0になりながらも、今でも生産は続いています。2009年以降は売上が上昇しているとか。グラフからは見えないですね?
1990年以後のレコードだけのグラフを作って見ました!
確かに2010年頃から増えています。検索すると、売上25倍でレコード人気がすごいという記事が幾つか見つかります。すごいけど。なんだかな。
アメリカレコード協会の資料によるとレコード人気は確かにあって、アメリカではレコードがCDの売上を超えているとか。「レコード・ストア・デイ」と言う2008年から始まった4月の第3土曜日のイベントね。
1970年代などの古いレコードが中古市場に出ていて、欲しければ買い集めることができます。というか中古レコードの買取は争奪戦状態と言う記事も。保存状態が良いとか、帯が付いているとかで、日本の家庭に眠っているレコードは売れるから人気があるそうです。懐古ブームか?
一方、中古のCDは買取終了する業者も出て来て対照的です。買取してもらえても1円とか。握手券を付けて売っていたからかな?
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今、新規に販売されているレコードの音源は、アナログな音をアナログなままで記録したものか、という心配をしました(余計なことですが!)。
デジタルなCDを20年30年と製造を続けた後にアナログを扱う技術が残っているでしょうか。便利なデジタル編集機器を使い始めたら元には戻れないと思うのです。DAW(Digital Audio Workstation)とか使うとね。
レコードの製造は大きく分けて3つの工程があって、
(1)「ラッカー盤」をカッティングする工程、
(2)ラッカー盤の型をとって「マスター盤」を作って、マスター盤から「マザー盤」を作って、マザー盤から「スタンパー盤」を作る工程、
(3)「スタンパー盤」を使ってレコードの原料をプレスして、レコードを量産する工程です。
(1)のカッティングは「スタジオ」と呼ばれる場所で行うものらしく、持ち込まれた音源を再生して、ラッカー盤に音溝を刻むのです。レコードにとって大切な工程。日本には数カ所あるらしいです。2014年までは3ヶ所で、その後は幾つか増えたとか(+7ヶ所を見つけたので少くとも10ヶ所ある)。ダイレクト・カッティングと言って、スタジオで演奏した音を直接にラッカー盤に刻むこともあるそうです。磁気録音テープを経由するとそれだけでも音質に影響するから。
(2)と(3)はレコード工場。量産ですからね。日本では2007年頃には東洋化成の末広工場だけになっていたそうです(アジアで唯一とも)。
その後、2017年にソニー社がプレス機を導入して、レコード工場を再稼働したので2社に増えて、今なら3社かな。
ちなみに、ラッカー盤は凹、マスター盤は凸、マザー盤は凹、スタンパー盤は凸。スタンパー盤でプレス(スタンプ)するからレコードの音溝はへこんでいるのです。マザー盤は、...いえ何でもないです。
何故にマザー盤やスタンパー盤があるかと言うと、スタンパー盤は消耗するからです。数百枚(〜数千枚?)で交換するとか。それで、マスター盤1枚から複数のマザー盤を作り、マザー盤から多数のスタンパー盤を作るのです。...、と言うことは同じアルバムでも最初にプレスした1枚と最後の1枚では音質が違うのか。レコードにはシリアル番号が必要では。レーベルによってはマザーやスタンパーに通番があってレコードに記号が刻み込まれているらしい。レコードを見つけたらよく観察しよう。
マスター盤を使ってプレスすることも可能らしく、これをマスタープレス方式と言って、凸凹を転写する回数が減るからノイズが減るらしい。でも量産できる枚数が2〜3千枚とかに限定されるって。
あと、ダイレクト・メタル・マスターリング(DMM)はラッカー盤ではなくて、銅盤にカッティングする方式。ダイヤの針で音を刻む。
ちなみに、アナログレコードの原盤となる「ラッカー盤」の製造は世界で2社しか残っていなかったのに、2020年2月にアポロ・マスターズ社の工場と倉庫が火災にあって全焼、残り1社になってしまったらしいのです。その1社は長野県宮田村のパブリックレコード社ですって(2023年の時点でも世界で1社のみのようです)。
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音源はアナログかなと心配して調べていたのですが、「今レコードの人気がすごい」って記事ばかりが目に付いて、そのレコードの実態が分ってきません。ただ、音源がデジタルであろうとレコードにすることに意味を感じる方がいる可能性がありそうです。
詳細は不明ですが、レコードにはデジタルにはない音の良さがあるとか。デジタル機器に囲まれているので、レコードを聞くとリラックスできるとか。レコードはかっこいいとか。そんな説明をレコード人気を解説する記事などで見かけました。
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次に心配した(!)のは、レコードプレーヤーなどの再生環境は真にアナログなのかです。アンプがDSP式ならデジタルなデータになりますし、Bluetoothでスピーカーに接続してたらデジタルですよ。
アナログ式のアンプとデジタル式のアンプでは、オーディオのマニアな方によれば、断然にアナログ式が優れているそうです。安価なオーディオシステムはデジタル式が多いみたい。コスパがよいから。
ということはマニア向けに高価なアナログ式の再生環境が販売されているかも。真空管とか使っていそう。アナログのアンプを使うならそれで良いです。はい。
でも、Bluetooth接続のスピーカーで聞こえる音を「あー、アナログなレコードの音は違うー、まったりするー」とか言っている記事を見つけて「ん???」と思った。
そしたらですね、USB端子が付いていてUSBメモリに録音できたり、パソコンに接続できるレコードプレーヤーを複数見つけました。
レコードをデジタル化すると取扱が簡単になって(これは本当でしょう)、しかもCDと比較してレコードならではの良質な音が聞けるらしいです。
アナログのレコードの良質な音を手軽にスマホで再現できて嬉しいとか。そうなのか?、...そうなのかもしれないけど。
再生環境はアナログかな?と言う心配をしていたのに、レコードをデジタル化してしまうとはどういうことなのでしょうか!
予想していたのは、レコードは大きなジャケットがインテリアに良いとか、取扱に手間が掛かるのが良いとか、針を落とす瞬間が好き、パチパチと微かに聞こえるノイズがイイとかだったのです。
それと原理的にデジタルなCDは音を切り刻んでいるから、アナログなレコードが欲しいとか。
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昨今のレコード人気は「アナログ VS デジタル」という原理主義的な争いかなと捉えていた私には、デジタル音源だろうがレコードとして聴くことに意味を見出したり、レコードをデジタル化して聴いてもレコードの良さが残る、という主張に打ちのめされました。orz...。
そんなんでしばらく気絶していた私ですが、再度調べ直して分かったことが2〜3あります。
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1つは「ハイレゾリューションオーディオ(ハイレゾ)」の登場です。
ハイレゾとは、CDのスペック(44.1kHz、16ビット)を超えたデジタル音源を意味するようです。そのような定義を2014年に電子情報技術産業協会や日本オーディオ協会が公開しています。
今なら、標本化周波数は352.8kHzや384kHzで、量子化ビット数は24や32ビットと言う音源もある。DXD(Digital eXtreme Definition)と言うそうだ。
CD以上のスペック(ハイサンプリングとハイビット)を求める「ハイレゾ」という言葉は1990年頃には既にあったようです。
最後はCDに入れるとしても、音楽制作時には余裕を持った音源を扱いたいという要望があったのです。音源が16ビットでは、ちょいと編集してミックスしただけで最下位ビットはノイズになってしまいますから。スーパービットマッピングとか量子化雑音の考慮によるCDの音質の改良とか、CDの次とかが議論されていました。
1999年にはSACDが出来たそうですけど。何だったのかな。DSDだってどこで編集したのさ。
今ならハイレゾ音源はネットでダウンロード販売されているのですね。音源はパソコンに保存して、USB−DACとかを使って聴く。CDとかの容器の話はもう要らない。
Bluetooth接続でもハイレゾ対応のスピーカーなら、ソニーが開発したLDAC規格などを使用すると、標本化周波数96kHzで量子化ビット数24ビットと、ハイレゾで聞くことができます。
レコードの音をパソコン等に取り込む際にも、ハイレゾで録音できるプレーヤーがあるようです。”PHONO” がキーワードらしいです。
ハイレゾ。知らなかったのですけど、これなら色々と不思議に感じたことが納得でき、そう、な気がします。...少し引っかかるけど。ハイレゾ音源なら人は暖かさを感じるのかな?
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もう1つは、CDに比べるとレコードの音には制限があることです。レコードのカッティングを始めたソニー社のスタジオへのインタビュー記事(2017年10月)を読んで知りました。
音溝という形で音を刻むためにできる制限です。ハイレゾ音源をそのままレコードにしようとすると、具合が悪いと、針が飛んだり、隣の溝とぶつかったりするとか。音溝は音が大きいと左右にうねるそうです。
レコードのカッティングの際には、職人さんが隣の溝との距離を調整したり、音量を抑えたり、左右の位相を揃えたり、強すぎる超低域とか超高域をおさえたりなどの調整をするそうです。最後は顕微鏡で見てチェック。
それ故にレコードにはレコードなりのデジタル音源とは違う音質があるらしいです。職人さんがそう言うならそうなのかと納得します。
レコード自体が物理的な音のフィルタとして機能することに気が付きました。
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レコードの音溝は一定間隔ではなくて、音が大きいと蛇行することもあるなんて、これがアナログなんだと感心します。
レコードを作るって興味深い仕事ですね(...、デジタルだって、物理層まで見に行くと色々やっているけどね)。
そもそもレコードには「RIAAカーブ」があって、低音の方が音溝が深くなる傾向があるから、音源自体やカッティングの際の調整で、低音を押さえて高音を持ち上げるそうです。知らなかったことが沢山でてくる!
このカーブはプレーヤー側でも共有していて再生時に戻すのでしょうね。
それと当時の磁気テープの特性も。時間によりテープの磁気は劣化していくから録音時には高音を強めにするとか。なのでアナログレコード用の音源をそのままCDにしたら硬くなるとか。
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それと、カッティングをする際の音源は、昔はアナログの磁気録音テープだったのが、現在はハイレゾの音源が持ち込まれるんですって。
磁気テープを持ち込んでレコードを作ることは無理ではないが非効率で音としてもメリットがない。
今なら、どこも96kHz・24ビットのWAVファイルなどのデジタル音源で保管しているだろうから、それを持ち込んでもらえばよい、と。
ソニー社のスタジオへのインタビュー記事にはそんなことが書かれていました。
東洋化成社もインタビュー記事(2018年6月)があって、音源はデジタルで仕上げた曲のデータで受け取ることが8割とか9割。
磁気テープやCDの場合もあるけれど、テープは古いアナログ音源から再発売(再発盤)する場合が多いって。
でも低音や高音が自然になるからLP制作にはアナログテープが向いているとの声も。
2017年にカッティングを開始したミキサーズラボでも、持ち込まれる音源は新譜ではハイレゾのデジタルファイルが多いとのこと。
フルデジタル技術によってレコードのカッティングができる機器を導入したスタジオも現れました(アルトフォニックスタジオ)。2023年2月のインタビュー記事があります。
既存のカッティング機は1970年代や80年代に製造されたもので現在は製造できず、入手がとても困難。そこで、このスタジオら10程からの投資で新規に開発されたカッティング機。その初号機ですって。
カッティングの前にデジタル音源をまるごと分析して、その解析結果によって音溝を細かく制御する。なので従来より音質が良くなるとか。
これまでは職人さんの技によってなされていたカッティングを、コンピュータ数値制御(Computerized Numerical Control、CNC)化したのかな。ならラッカー盤を大量生産して、マスター盤から直接にプレス(マスタープレス方式)に行けるのでは? デジタル技術でレコード製作の可能性が広がる気がする。
DAWな現在のためのカッティング機ですが、最後は顕微鏡で確認するって! やはりアナログ。
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最新のデジタル技術でアナログのレコードを作る、それが現在。
今どきのアーティストはPCM録音が普通なのでしょう。デジタルな録音機や機材は便利なので、使い始めたら元には戻れないですね。それにアナログ音源は保管もきっと大変なのです。だからデジタル化するのでしょう。大量の紙の書籍がある個人宅では床が心配でデジタル化を考えるのと似ているかも。
音楽を聴く側にとっては、ハイレゾのデジタル音源があればCDは要らないですね。あっても良いけど。
それでも、アナログであることを大切にして、磁気テープで録音してフルアナログでアナログレコードを制作する人もいる。
78回転、LPシングル、定価11000円!って見つけて感嘆した。
レコードは、レコード自体が「楽器」のような存在で、音溝と針によって(デジタル音源とは幾らか異なる)音楽を作り出している。そんな様なことをアルトフォニックスタジオへのインタビュー記事から読み取りました(インタビュー記事にはもっと具体的な指摘があります。流石はプロ)。
そこにレコードの魅力があるのかな? 原音への忠実とは何だったのか。レコードが好きな人はどう感じているのでしょうか。
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1960年代までのレコードは全てアナログでしょう。PCM録音は出来なかったのだから。
1970年代の後半から1980年代以降は「PCM RECORDING」や「DIGITAL RECORDING」などと書かれたレコードが見つかります。PCM録音したレコードなのでしょう。デジタルであることが何か価値のあることであった時代。今では暗黒時代だったと言っている人もいるけど!
これらのレコードは、デジタルって言うならデジタルでいいかなー?
最近になって発売されたレコードには、古いアナログの磁気録音テープを音源にしてカッティングされたレコードと、ハイレゾのデジタル音源を元にしたレコードの2つがあるようです。確りとした統計データは見つからなかったのですけど、この2つで大多数かも。
デジタル音源を使っているレコードを(「DIGITAL RECORDING」などのロゴがないから)アナログと言ってよいかは悩ましいです。
素材はデジタル音源だけど、それを職人さんが(アナログ的に)調整してレコードを仕上げているのだから、アナログと言ってよい...、気がしますか?
アナログの皮を被った実はデジタルなレコードと、本当のアナログなレコードの2つがあると考えるべきか。そう考える意味があるのか。
アナログ(なレコード)には魅力があるとか、独特の暖かさがあるとか。それは音楽の魂のような存在なのか。実在するのか。
アナログとは何なのか、いっそう分からなくなりました。
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調べ続けると知らなかった事が出て来て「ああ、分ってなかった!」と思うことが増えて、...でも戴いた感想を糧にして明日に向かって迷走を続けます! 応援とかいつでも歓迎です!
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間違いの指摘とか疑問とか、ご意見・ご感想とかありましたら、どうぞ感想欄に!
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2024.4.6 加筆により長くなった(8)を分割して(9)にしました。
2024.4.8 推敲とかしました。
2024.4.9 加筆と推敲しました。もう誰も読まないよね?
2024.4.10 推敲しました。
2024.4.22 加筆です。
2024.4.24 推敲です。長すぎるリストはカットしました。
2024.5.27 推敲です。