第9話 解放
私が目を覚ますと、私の両手は後ろで縛られていた。
私は即座に現状を理解した。
恐らく私はさらわれたのだろう。
私が前を向くと、そこにはメルクがいた。
「やあ、やっと俺の物になってくれたな」
そうにやりと笑う。
隣にはレファもいる。
彼女はおびえている表情だった。
私と同じように、奴隷にするために購入してたものだったんだと、理解した。
「お前は正規の方法で買った奴隷だ。そしてとなりの俺の婚約者もな。お前は気が付かなかっただろうが、丸々三日間眠っていたんだ」
つまり私が攫われた後、三日間眠った。その間にすべてが終わっていたという事。
そんな。私が何もできない間にこんな目になってるなんて。
そして、妻の方は何も知らなかった。
何も知らずに笑っていたんだわ。
私が今いるのは地下牢だろうか。レファ以外にも多くの人達が鎖につながれている。
今の状況を一言で表すなら地獄以外の言葉はないだろう。
「貴方は最低ですね」
「何とでも言うがいい。俺がここまでの大豪邸を生み出すのにどれだけの時間がかかったと思う。中でもお前は特別だ」
そう言い、メルクは私の肌をしたで舐めた。
気色悪い。
何をしているんだ。
「私は貴方には屈しない」
「そう言えるのも今の内だ」
私の頭の上に重みが来た。足で踏んずけられたのだ。
私は、私は……
「こんなことしていいと思っているの?」
「いいさ。だってすべて正規の手段で手に入れた奴隷たちなんだから」
そう言ってメルクは高笑いをする。
私の中の気持ち悪いという感覚はぬぐえない。
「貴方は絶対に――」
「なんだ?」
「なんでもありません」
絶対にミルト様が倒してくれる。
私の首にある首枷。パーティが終わった後つけなおしててよかった。
これさえあれば地獄の中にいてもミルト様とのつながりを感じられる、
私は一人じゃない。
ミルト様がこれを通じてそばにいてくれるのだから。
「あの」レファが話してくる。
「その、ごめんなさい。あの日笑ってしまって」
そう、私と同じように手を後ろ手で拘束されてるレファが言う。
「あんな優しそうな人が、まさか裏ではこんな計画を立てているなんて気が付かなかったものだから」
「大丈夫。それは私も一緒だから。でも大丈夫、きっと衛兵たちが助けに来てくれるわ」
「本当に助けが来るでしょうか」
「大丈夫、信じて」
そう言って私は笑顔を見せた。
そうこの首枷が私の希望だ。
きっと彼は私を見つけてくれる。
私はその日から数日間、あの男から喰らう苦痛を耐えながら、必死で耐え抜いていく。
ミルト様が助けに来てくれることを信じて。
そうして待つこと二日。
「今日もお前を愛でようじゃないか」
またか。
私は心の中で呟いた。
いつの間にか、私の心の疲れが見え始めている。
いつミルト様が来るかもわからないような状況に。
私は少しため息をつく。
レファは段々と生気を失ってっているのが目にとってわかった。
絶望しているのだ。
私はミルト様という希望を持っているが、元妻は信じていた人に裏切られたのだ。
私もミルト様という希望が無かったら耐えきれていなかったかもしれない。
それほどにこの状況は絶望的なのだから。
その時上から物音がする。
「何だ!!」
メルクが叫ぶ。
その瞬間、複数人の男たちが来る。
「あの男。盗賊と共謀して奴隷を無法に作り出した罪で、逮捕状が出ている」
そう言う正面の男。その隣にミルト様がいる。
「ミルト様、やっぱり来てくれたのね」
「ああ」
ミルト様がいう。
私の隣にいるレファは今も泣いている。
私は、ミルト様たちをじっと見る。
「すまない。説得するのに時間がかかった。流石に俺一人では無理そうだったからな」
「来てくれるだけ、ありがたいです。私はこれ以上耐えられなさそうでしたから」
もうメンタルが壊れかけていた時に来たのがミルト様だ。
「頼む」
「ああ」
そしてメルクは迅速に逮捕され、私たちはすぐに解放された。
「私」屋敷に帰ろうかという時に、元妻が話しかけて来た。
「もう誰を信用したらいいのかわかりません」
そう、泣きそうな声でいう。
私も今の状況でミルト様がいなかった場合、どうしたらいいのかわからなくなっていただろう。それほどに裏切られた傷は大きい。
それは私もよく知ってるもの。
「私は愚かでした。好きだと言われ、婚約しました。でも……」
彼女は顔をゆがませる。辛そうだ。
「私はある日、言われたんです。借金を背負えと。その時は私は理解できなかった。でも、あれよあれよという間に奴隷になっていました。そしてまさかのメルク様に買われ、こうなってしまいました。何が正解だったのか今も考えています。だって私はこうなるくらいなら貧しい生活の中で生きてたら良かった。今も何が正解だったか分からない。信じない方が良かった」
「私も一緒ですよ」
私はそうにこやかに言った。
「だって私も途方に暮れたから。たぶんミルト様が居なかったら碌な目にあってなかったと思うし。非合法だとばれたから逮捕されたけど、それは貴方には関係ないよね」
彼女は頷く。
「良かったらだけど」
私は彼女に言う。
「私たちのところに来ない? いいですよねミルト様」
ミルト様はきっと歓迎するはずだと、私は思う。
「ああ、俺は構わん」
ミルト様の承認が得られた。
「いいんですか? 私は何もできない弱虫……」
パーティ会場でのあれは何だったのあkと思えるくらいの弱弱しさだ。
「私は歓迎するよ。だってともに一緒に牢獄の飯を食べた中だしね。帰る場所があるならそっちでもいいですけど」
「ついて行きます」
「決まりね」
そう言って私とミルト様は笑った。
そして私たちは平穏無地な生活に戻った。しかし唯一違うのはそうまさに、新たに一人加わったという事。
「よろしくお願いしますわ」
そう、新任メイドさんが言う。
「拾ってもらった件、ぜひお礼しなきゃならないしね」
そうにっこりと笑った。
その二か月後、ミルト様の表彰式が行われた。理由はもちろんメルクの悪行を発覚したこと。
それはかなりの功績として表彰されていた。
そのおかげで、ミルト様に対して称賛の声が上がった。
これを見ると、全面的に嫌っている人ばかりじゃないという事がわかって嬉しくなる。
皆にミルト様はいい人であるんだよと、知ってもらえてうれしい気持ちになる。
これから何があるかは分からない。でも、上手く行きそうだという予感がする。
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