第三話 初デート
「んん」
目が覚めた。周りを見る。昨日と同じ奴隷にはふさわしくない豪華な部屋だ。
「今日も無事に生きてる」
取りあえず、無事に目を覚ませたことに感謝をしよう。
宗教なんて信じてないけど、とりあえず神様に感謝だ。
そして起きたのはいいんだけど、何をしたらいいんだろう。
勝手に外に出てもいいのかな?
でも、首枷の長さ的に、移動できないわ。
とりあえずは待っていることにしよう。
この首枷を見たら、私が奴隷であることを再確認してしまう。
何しろどんなによくされていたとしても、私は所詮奴隷なのだから。
そんなことを考えていると、ドアが開かれた。
「おはようございます。お嬢様」
そうメイドみたいな人に声をかけられた。
……お嬢様? 私はただの奴隷ですけど。
とはいえ、状況的に私以外の可能性なんてない。とりあえず、「はい、……おはよう……ございます」そう返しておく。
「お着換えを出してもいいでしょうか」
「あ、はい」
そして服を着させてもらう。かなり高そうな服だ。
そして食事処に案内された。
今も鎖は長く、繋がれる感じでいる。
「おはよう」
「おはようございます」
そして用意された椅子に座る。朝ごはんとは思えないくらいの豪華な食事だ。
相変わらず食べるのも躊躇われるような豪華さだ。
まだこの豪華さに慣れない。
「どうした? 食べていいぞ」
私のその様子がバレてしまったのか、今日もそのようなことを言われてしまった。
そして今日も美味しい料理をパクパクと食べる。
「そう言えば、鎖どうだ?」
「なんだか不自由さは否めないですね」
行動範囲が束縛される。
勿論私は奴隷なのだから仕方はないのだけど。
「嫌なら外すが」
「え?」
まさかそんな提案をされる思ってなくて、びっくりとしてしまう。
「でも私は奴隷ですから」
「いや、これは俺の問題なんだ。俺から逃げられると思って首枷から鎖をたらした。でも、それじゃダメなんだ。鎖なんて管理してるみたいなものじゃないか」
そう言う彼。
「私は管理されてるなんて思ってません。ミルト様が私に逃げられるのが怖いと思うのは当然なのですから。それに機能ミルト様はあれ行こう、私に何も手を出さなかったじゃないですか。それだけで信用に値しますよ」
奴隷という物は人権を凍結されているもの。もし仮に私に危害を与えたとしても、犯したとしても、ミルト様が、罪に問われるなんてことはないのだ。
「ありがとう。……逃げないよな?」
「逃げませんよ。だって私にはほかに行くべきところがありませんから」
例え、もしミルト様の元から離れたとして、その先私はどうやって生きて行けばいいのやら。
何しろ、私はお金もなく、頼れる人もいないのだから。
「分かった」
そう言ってミルト様は鎖を解いた。
「首枷はそのままにしてください」
あくまでも私は奴隷の立場。ミルト様が花嫁にするつもりでも、奴隷の証はつけたままの方がいい。
「分かった」
ミルト様はかるく咳払いをしてそう答えた。
そして再び静かにご飯を食べていた時、
「ところで、今日一緒に出掛けないか?」
「え?」
唐突に言われ、またびっくりした。しかも緊張した麺持ちで。
これは、私をデートに誘ってくれてたりしているのか?
彼の、ミルト様の声、それは確実にデートに誘おうとしている。
ミルト様は奥手だ。だからこそ、先ほどの会話で、私の心が離れていないことを確認してから、私をデートに誘ったのだろう。
「別に嫌ならいいんだが」
「……嫌じゃありません」
ミルト様は自己肯定感が低いからそう思うだけだ。私は嫌じゃない。
いや、むしろ行きたいくらいだ。
私はミルト様のことをもっと知りたい。
そんな自分がミルト様とデートするなんて、断るわけがない。
「それでだ。今日は君の行きたいところに行こう」
「え? いや、良いですよ。そもそも私ミルト様のことをあまり知らないですし、どこに行ったらいいか分からないですし……」
「そんなことを言ったら俺だって君の行きたいところは分からないぞ」
「なら、私たち似た者ですね」
「……」
あれ、言葉が無くなった?
もしかして私間違っちゃった?
奴隷なのに図に乗りすぎた。……やってしまった。
「ごめんなさい……」
「え、なぜ謝る」
「だって、似た者同士ですね、なんて行き過ぎた言葉を言ってしまいましたし」
「いや、言葉をかみしめてただけだ。こんなに君の笑顔はまぶしいのかって」
「……」
いや、この人は私を照れ殺す気なのかな……。
「まあでも、私はどこでも楽しみますよ」
「ほう……それは楽しみだ」
そして食後、私達は外へと行き、デートへと向かう。マフラーをして首枷を隠し、ミルト様の隣に立っても不自然じゃない格好で外に出た。
結局目的地はミルト様に決めてもらうことにした。そもそも奴隷の身分でどこに行きたいなんて言うのが無礼な気もするし。
……いや、この状況自体、奴隷としてはありえない状況だけど。
「……手を結んでいいか?」
「え?」
「……だめならいい」
「……いや、いいですよ」
そう言って、自ら手を差し出す。とは言っても、こういう時どうしたらいいのかわからないので、私自身もかなり混乱しているのだが。
そして、私達は手を繫いだまま、歩いていく。
うぅ、無理だ。恥ずかしすぎるよ。こんなのもう完全にデートじゃん。完全に恋人じゃん。
デートというのがこんなにも恥ずかしいものだとは思っていなかった。
思えばメルクともデートなんてそこまでしてなかった。
久しぶりだから慣れないのだ。周りの目も気になるし。
なんだか恥ずかしすぎて死にそうだ。
「大丈夫か? 顔が赤いぞ」
追い打ちですか? もう私すでに恥ずかしくて死にそうなんだけど。
だめだ、もう。心を無にするしかない。
「しんどいなら休もう」
っもう、この鈍感ミルト様は。
「大丈夫です!」
「……ならいいんだが。しんどかったら行ってくれ。いつでも休むから」
「……はい。分かりました」
そう、真顔で言うのがもうしんどかった。手を繫いだだけで、顔が赤くなるとか、どこの処女よ!!
私は一応経験済みなのに。
そして歩いていくと、繁華街に来た。
「ここに来た理由って……」
「俺は、メアの趣味なんて知らないから、誰でも楽しめるところって言われればここしか思いつかないかった」
「……ふふ、なるほど」
「……悪かったか?」
「いえ、ミルト様らしいなって」
ミルト様らしさと言ってもあまり良くは知らない。だけど、不思議とそう思うのだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「ああ……なぜ急にテンションが高くなったんだ?」
「いいじゃないですか」
そして私はミルト様の手を引っ張る。
なんだか、少しずつデートという雰囲気に慣れてきた。
奴隷がご主人様の手を引っ張る。少し馴れ馴れしいかなと思って、びくびくはしていたけれども、
ミルト様は見事に楽しそうだ。
そして早速、ポテトを挙げている店を見つけた。そう言えば最近ポテトと言ったたぐいの料理は食べられていない。
ミルト様の家で食べる料理もおいしいのだが、こういうのもありだろう。
だけど、それを口にするのも何となくはばかられた。ミルト様からどう思われるのか怖くなってしまったのだ。
「メア、これが欲しいのか?」
そう、ミルト様はポテト屋さんの方を指さした。普通にポテトが食べたいことがばれてしまっていた。
「食べたいなら買うが、どうする?」
こうなってはもう欲には勝てない。
「食べたいです」
そう言い放った。そして、ポテトをハムハムと食べる。だが、早く食べ過ぎたのか、手を噛んでしまった。
そしてそんな私を見てミルト様は笑っている。かわいいやつめとか思われているのだろうか。
「別に見世物じゃないです」
見られているのが恥ずかしくて、そう言った。
そしてポテトを完食した後はもうm欲に忠実に、食べたいものを指さして、それを買ってもらった。それはもう、お腹が膨れるほどに。
……もしかしてこれ太ったりするかな。それは嫌なんだけど。
「満足したか?」
街を出るときにミルト様が言った。
「はい」そう言い返す。「私、奴隷なのにこんなに食べていいのでしょうか」
「……俺はお前が幸せそうに食べる姿を見るのが好きだ。だから、俺はお金でお前の笑顔を買っているんだ」
「……」
ポカーンと、ミルト様の顔を見る。すると赤くなっていた。不器用成りの彼の愛情表現なのだろうか。
「もういいだろ」
あまりにも私が見つめ過ぎたのか、照れながらそう言って、歩いて行った。