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第一話 奴隷落ち

「メルク、これはどういう事ですか?」


 私は彼に言う。

 私はとある契約書を見つけてしまったのだ。



 それは、自分の妻に借金を全て押し付けるという物だった。


 その契約書には、私のサインが書いてあった。


 私は書いた覚えなんてないのに。


「その通りだ。お前は俺の借金をすべて負うのだ」


 彼は、私と恋愛的に結婚した彼は、極度のギャンブル依存症だ。

 私欲のために金を使う。物や食料。

 それだけならよかったかもしれない。

 だけど、もっと恐ろしいのが、


 ギャンブルだ。


 スポーツの勝敗を賭ける物がある。

 それは見る方も、する方もだ。


 そして金をなくしたメルクは、私に借金を押し付けたのだろう。



「それと、婚約破棄もな」


 忘れないとばかりにそう言われた。


 最初は互いに好きだったと思う。途中から、少し彼の心が私から離れてるかもとは思ったが、まさかこんなことになるとは全く思っていなかったのだ。


 彼の中には恋愛感情という物は実のところはなかった。

 しかもそれに加え、私は所詮利用するものとしか思われてなかったのだ。


 私の両親は半年前にはやり病で無くなった。頼れる人なんていない。


 私は家を出ていくことになった。


 私には後ろ盾がいない。

 私には一瞬で金を大量に稼ぐ方法なんて持ち合わせていない。



 私に残された手は一つしかない。自分を売って、お金を稼ぐ事だ。

 本来私にとって一番選びたくない手だ。

 自分を売るという事は、奴隷になる事。つまり、人権が凍結されてしまうという事だ。

 そうなってしまっては法とは関係のない存在になる。


 つまり、私がどんなひどい仕打ちを受けたとしても、その相手は法で裁かれないという事だ。


 しかも、私が売られる先が良い人とは限らない。


 もしかしたら私は性奴隷として買われてしまう恐れもある。

 その場合、性の発散に使われ、碌な末路をたどらないだろう。


 ストレスの発散のために暴力を振るわれる可能性もある。

 人道的でない、労働をさせられる可能性もある。

 それは絶対に避けなければならない事態だ。


 だけど、このままでは借金だけが増え続けてしまう。厄介なことにメルクは、利子が高い金貸しそうなったら奴隷になるよりも恐ろしいことになる。その場合、強制的に、最もお金が払われる人のもとに行くことになる。

 端的に言えば、自分から志願して奴隷になる志願奴隷の方が、破産して奴隷になる破産奴隷よりも扱いがいい。


 もう仕方ない! と思い、奴隷商人の元へと歩いていく。


「すみません」


 私は奴隷商人に話しかける。


「私を買ってください」


 そう告げた。


「お金がないのか?」

「ええ、借金苦で。だからそのお金で借金を返そうと」


 そう言いながら、私は自分の腕をぎゅっと掴む。

 奴隷なんてなりたくない。

 自由でいたい、だけど、もはや、奴隷にならないなんて手が無いのだ。


「分かったよ。その契約書にサインしな」

「……分かりました」


 ここにサインをすれば、その瞬間に私の人生は私の物じゃなくなる。

 ああ。嫌だな。

 でも、もう決めたことだから。

 仕方のない事だもの。馬鹿な私が騙された結果なんだから。


 メルクを許せないと思う。

 あんな過ちを犯さなければ、こんな目には合わなかったのに。


 私は震える手を抑えながらサインをする。

 文字が震える。ああ、こんな状況になっても、心の底では、私は奴隷になることを拒んでいるのだろう。


 でも、仕方ないの。仕方ないの、仕方ないの。もう、仕方のない事なの。そう、震える心に何度も言いかけた。


 そして、サインの最後の部分。名前を書き終えた。

 この瞬間、私の人権は本当の意味で凍結された。私に残っているのは奴隷として、物として人から扱われる。そう絶望しか残らない人生だ。


 ああ、これで私の人生は終わるのか。これからは私は、誰かの所有物になるのだ。


「それでは、拘束しますね。覚悟はいいですか」


 その言葉に私は黙って頷いた。頷く以外に選択肢はない。


 そして、私の前に手枷足かせ、そして首枷が渡された。


「自分で自分を拘束してください」


 志願奴隷だからか。自分で拘束しなければならないようだ。

 これが、どれだけきつい事か、目の前の男は理解していないようだ。

 私は無表情でその枷を手にはめ、足にはめ、


 そして首にはめた。


 鉄が硬い。そして冷たい。きついとはわかっていた。だけど、思ってた以上に、枷が重い。

 まるで、奴隷の証明書みたいなものだ。


 そして、これからのことが教えられる。今から私は所有者、つまり新しいご主人様が見つかるまで、牢で暮らすのだそうだ。

 その間、枷ははめられたままだ。


 しんどくないか、しんどくないわけがない。

 ただ無為な時間を過ごす。これほど精神的にきついことはない。

 牢の中で私は座り込み、ただただ時間が過ぎるのを待つ。


 正直かなり暇だが、人権が凍結された私には、文句を言うことは出来ない。


 あれから一時間程度が経った。先ほどまで、何も思っていなかったが、段々と緊張してきた。

 所謂ご主人様ガチャだ。いい人か悪い人かによる。


 当然奴隷は人権を凍結されているので、扱いは家畜と同様なのだ。

 檻の中でご主人様が決まるまで待つというのが、ここまで暇で緊張するものなのだと、数日前までは微塵も思っていなかった。


 ご主人様が見つかった後からだと思っていた。地獄が始まるのは。

 ふと、首から垂らされた鎖をいじる。

 ご主人様によってはこの鎖は未来永劫外されることもないのかなと、ふと思索にふける。


 そんな時、「おーここが奴隷市場かあ」という声が聞こえた。偉く上機嫌な人だなあ。


「しっかりと選ばせてもらいます」

「分かりました。ここから自由に見てもらっていいですが、逃がさないでくださいね」

「分かってる。気に入ったものがあれば買う。それだけだ」


 そんな声が聞こえ、男の人はずんずんと牢を一つずつ見ていく。もしかしたら私が選ばれたりするのかなあ。そんなことを考えながら、ここに来るのを待った。


「この子はだめだ、次行くぞ」


 そんな声が何回も聞こえる。もし、私が彼のお気に召さなかったら私もあんなことを言われちゃうのかな。そう考えると、少し怖くなってきた。私は別に彼に買われたいわけではないのだが。


 そして私の番が来た。


「ん、こいつは」


 そう、私をまっすぐと見ている。ああ、緊張する。嫌だな、なんだかこう物色されているのは。


 そして、牢の中へと入ってきた。


「君の名前は?」

「私ですか?」

「ほかにあるか?」

「えっと、メア……です」


 フルネームで言おうとしたが、よく考えたら奴隷は苗字が凍結されているのだ。言ったらだめだ。


「そうか、俺はミルト・ラングレンだ」

「ミルト様」

「ああ、それでだ、君、俺の奴隷になる気はないか?」

「それはミルト様が決めることでは?」


 私の遺志関係なしで、ミルト様が私をご所望したら私はミルト様のものになるというのに。


「屁理屈は無しだ。俺はお前が欲しいが、もしお前が俺のことを嫌いなんだったらダメだなと思ってな」

「私は……あなたのことは嫌いではありません。好きかどうかは分かりませんが」

「ふむ、面白いな。よし気に入った。俺はお前を買う!」



 そう言って私の手をがっちりとつかまれた。


 その瞬間私は少しだけほっとしたのと同時に、もし仮に私を性処理に使うような人間だったらどうしようという漠然とした不安が私を襲う。

 ああ、さっき聞いておけばよかったかもしれない。いま、そんなことを考えても無駄なことだが。


 そして、何やら手続きがあるという事なので、その間、イスに座って待っていた。絶対に逃げられないように、首の鎖を壁にくっつけられ、手も後ろ手で縛られた。


 暇だなと思いつつ、商談を待つ。


「お待たせ、行こうか」


 少し経った頃彼が出てきた。どうやら商談は成立したみたいだ。


 そして私は、彼について行く。


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