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人が集まるbir 夏物語

作者: 松武 重男

会社勤めが疲れ、引きこもる事に自宅へと戻る主人の光彦。

自宅には双子の弟、公彦が「家に引き込まれたら迷惑…叔父さんのbirで引きこもって」と言われて叔父さんのbirdへ

ちょうど叔父さんはbirを閉めるつもりだったので「好きに使いな…家賃は要らない代わりに光熱費は自分で払ってくれ」

結局、叔父さんのbirdを引き継ぐ事に。

「bar silent life」を開店を始め。

常連客の建さん、優しいヤグザの善さん、綺麗な女性?のミクと色々な客との物語。




静かなbird


いつもの水割り


カンパリ


ウーロンハイ


ジャパン


ビール


薄い水割り


ハイボール


ノンアルビール


9つのお酒を題材とした項目に分けてみましたが、それ程深い意味はありません。




『静かな bar』





都会ほど大きな街ではないところ、ショッピングセンターもある程度あるし、近くにもコンビニなんて数件ある、生活にはそれ程困らない住みやすい静かな街。


飲み屋街は百軒あるのかな…昔は三倍以上の賑やかな街だったらしい…まっ、何処の街も同じようなものだろうけど。


その飲み屋街の外れ辺りにひっそりと、入り口壁に取り付けた1メートルはない細い電光の看板、他の看板より目立たない『bar silent life』《バーサイレント ライフ》


静かにと穏やかに生活をしたいな…って思い、silentサイレント lifeライフと店の名前にしてみた。


今年の夏で5年…この商売にも慣れてきたし常連客も出来た…数人だけど。

でも、賑やかより静かでゆっくりと時間を過ごせるのが俺は好きだ。



俺は川奈かわな 光彦みつひこ38才、身長は190と体重は100キロ位とやせ形とは言えない体格…スキンヘッドに口髭…サングラス、白いワイシャツと蝶ネクタイに黒いスラックスをして何処かのアニメの…訳あってこの風貌。


身体かデカイために必ず「何かスポーツしてますか?」と会う人によく言われるけど、昔から「ザッ、帰宅部です。」

その質問は飽きるほど言われる。


本当は昔に柔道を少しやってたけど長続きしなかった。



この商売を始める以前は、普通の会社員…あの頃はちゃんと髪も生えて、好青年だと自分では思ってる。


一言で言うと、人間関係が疲れ、会社を辞めしばらく家で引きこもりをしてようと思っていた…だが、一卵性の双子の弟の公彦きみひこ、(現在高校の体育の教師)体格も顔も似ているけど、弟は俺と違ってスポーツ万能で柔道で国体にも出場し優勝経験があり、柔道の顧問もしている。


その弟の公彦きみひこに「家で引きこもられると邪魔なんだよね…おじさんのbar、そこ使ってないからそこで引きこもったらどうよ?」って、家を追い出された感じ…。


叔父に事情を説明して「この店にしばらく泊まらせて」と俺は頼んだ。


俺達と叔父は幼い頃から遊び相手にしてくれて、親に言えない悩みや相談も気兼ねなく頼れる存在で、また叔父も自分の子の様に接してくれた。


「ああ、良いよ…その代わり、光熱費と食事は自分で払ってくれ…無職なんだろ?収入無ければ暮らせないだろ?…どうだ?この店で働きながらどうよ?そうだ…よし!それが良い!…この条件なら住んでも良いよ!」


引きこもるどころか店をやる事に!


続けて叔父が

「大丈夫!…昔と違って客の出入りは少ないし…回転休業ってのもあるから、後は適当にお酒とスナック菓子でも出しとけばOKだろ…家賃は要らないし、店の利益はお前が好きしたらいい。」


この店は叔父がバブル最盛期に建てた店。

店の中は焦げ茶色の木の壁と所々にブロンズ調のランタン、天井は大きくはないシャンデリアが1つでわりと薄暗い。


席は4人座れる黒いテーブルが3つと5人座れるこれも黒いカウンター昭和時代の雰囲気がある、一言で言うとモダンな店内と言っていいのか…。


この店も昔は賑やかで繁盛して、朝まで客が途絶えなかったことも、

数年前から、店が暇になって叔父も高齢と言うこともあり、店を閉める事にしらしい。


そんな店を俺が…


酒は飲めるけど…経験が無いし自信がない。

「お酒の種類とか作り方なんて知らない…」

て、叔父に言ったら

「誰だって最初はそうだったよ…大丈夫!ある程度のレシピは書いておくよ!それに、ここに来る客は何処かで呑んいるので酔っ払って、まともな会話すら出来てないから適当!適当!」


適当って…。


小心者の俺、

「ちょっと怖い客や絡みだす客は面倒、トラブルや厄介な事起こると逃げ出したくなるしやだなぁ…。」


笑いながら叔父のアドバイスで、

「そうだ!光彦…お前は体格がいいからスキンヘッドに髭とサングラスで無口でいるだけで様になる…後は黙ってお酒を提供するだけ…楽で良い…」


そう言ってバリカンを片手に

「スキンヘッドにするなら誰でもやれるだろ!俺が刈ってやるよ」


「ああ~」

成されるままの俺はただ、刈られた髪を見ているだけだった。

髪はほっとけば、また生えてくる…試しにやっみよ。


最初はスキンヘッド抵抗あったけど…何だか悪くはない…サングラスは慣れなかったけど、慣れてしまうと何ともなくいられる。

それに、初めて来る客も一瞬フリーズしたり、時には「すみません間違えました!」と言ってドアを閉めて去っていく客もいた。


ある意味…楽。


最初は大変だった酒作りも、叔父に色々と酒のメニューと作り方を教えてもらったりで、酒もそれなりに作れるようになったし、接客も出来るようになった。


店内奥突き当たりの階段を上がり20畳程の部屋があっる、叔父が呑みすぎた時に寝泊まりしてた部屋、今はその部屋に俺は毎日生活して、生活に必要なシャワーもトイレもある…もちろん食材なんて下のフロアーで適当に食べれる。

この生活も悪くない。


朝…2階のベッドで目覚めた時間に俺は起きて好きな珈琲豆を挽いて飲む…

棚には色々な種類の珈琲豆をストック、今日はガテマラ…ほろ苦く薫りの良い、大きめなソファーに座りゆったりとした時間、今日もコーヒーが旨い。

朝食は焼いたトーストとバターに目玉焼き、普通であって簡単。

本当は料理が苦手、だから客に出すつまみは全て、近くのショッピングセンターから買ってきたつまみ。

居酒屋じゃないから、いいでしょ。


朝食を済ませ、店のつまみと酒に今晩の晩飯を買いにショッピングセンターへとママチャリで出かける。


朝…と言っても、もう昼前…。


天気の良い夏空…「暑いな…」空を見上げゆったりと自転車を漕ぐ。


平日の気持ちの良い青空…回りの殆どの人は仕事で動いている中、ゆっくりと自転車に乗り買い物へと出かける俺…。

ふっと、あの頃…サラリーマン時代、時間に追われてた、時間に遅れてはいけない…相手先へ、ペコペコと頭を下げての挨拶…発注のリストアップ…本当ストレス、色々とあったけど、今となっては過ぎた思い出だ。



いつものショッピングセンターに到着。

買うものは決まっている…叔父に開店当初から必要な品物を揃えてもらい、無くなったり補充しなきゃならない物は、それを買い足したり補充したり、商品の選択で悩むことなく済む。



買い物を終えた後は開店前の掃除…時間があれば、珈琲を飲んで好きな音楽を聴きながら開店の時間を待つ。



時計は20時、さっ…今夜も開店。





===================




『 いつもの水割り』



叔父が言うには

「昔はここの飲み屋街全体もこの店も毎日人が溢れてたよ…あの時代は、平日でも半分以上、週末でこのテーブルが客で埋まる程…連休なんて忙しかったな…

今は本当に暇…お前ならこの暇なのが丁度良いかもな…。」


開店当初は客が少なく安心してたけど、今は1人でも多く入店してくれたら何かホッとする…と、言うか逆に安心している自分がいる。


20時半過ぎ…

「そろそろかな…」


大体決まった時間にドアが『カラン、カラン~』と音が鳴り


「よっ!マスターいつもの!」と身長165センチ程で少し小太りの大きめな銀縁メガネにグレーのシャツと紺色のスラックス、殆ど変わらぬ格好で60代後半で白髪頭で少してっぺんがキテる…常連客だ。


いつも何処かで呑んで来ては、顔を少し赤らめ、ほろ酔いで背中丸めながら、決まって奥のカウンター席に座る。


「いらっしゃいませ。」

ウイスキーをツーフィンガーとあとは氷と水をコップで8割以上9割はない量…それがいつもの水割りっと言って出している…


「今日も静かだね…」


今日の客は彼だけ


「僕はねガヤガヤしたのがキライでね…カラオケとかなんだって、うるさいのが苦手だ」

と、水割りを一口飲む。


この常連客とはもう4年位の付き合いになるのかも…


開店して1年程は、本当に暇で開店休業だったことも…


「もう少しで1年かぁ…」

客の来ない店内、21時半過ぎそろそろ閉めようかと思っていたところ。


「どうもぉ~」


あの頃はまだ髪の毛が少し多かった様な…

「あれ?閉めちゃうところ?」

店内をキョロキョロと見渡して、俺はテーブルを拭いているところに入店してきたら、閉店の準備に見えみたいだ。


俺は久しぶりの客でつい、嬉しくなってニコニコしながら奥のカウンターの椅子へと案内して

「こちらにどうぞ!」


「顔に似合わないニヤケ顔だね~」

その客は椅子に座り

「水割りちょうだい」


水割りをちびちびと飲みながら店内の回りを見て

「雰囲気の良い店だね~静かで良いなぁ~僕はガヤガヤしたのがキライでね…カラオケとかなんだって苦手でね…」

と言いながら水割りを飲む。


3杯程飲んで

「じゃ…帰ろ」

お金をカウンターに置いて、一言

「ここが気に入った…また、来るね!」

と店を出た。


この後、常連客はほぼ毎日に大体同じ時間に来るようになった。


そして決まって同じセリフ。

「この店は静かで良いなぁ~僕はガヤガヤしたのがキライでね…」

と言って静かに水割りを飲む。



あれから、4年位…ボトルも入れず、同じ物を飲んでは帰る…

この商売は個人的な話は、本人が言わない限りはこちらからは聞かない方がいいと叔父が言ってたけど、この人の名前…名前くらい聞いてもいいのかな?…4年も来てるんだし。


物凄くモヤモヤしていた時


「あっマスター…ボトルキープしよっかな!」


おっ!4年目にして、初ボトルキープ!しかも第1号!俺の心の中では『パッパカパァーン』とファンファーレが鳴った。


「ありがとうございます。」


「いつもの飲んでるウイスキーを頼むよ…名前は…」

とボトルのタグにマジックで『建』と書いた。


けんさんですか?」


「うん!みんな、「建ちゃん」と言ってくれるからそう、今度から呼んでちょうだい」


4年目で初めて名前を知る、会社であるのら必ず名刺交換をして名前を知るのが常識だけど、この商売はアダ名でも何でもいいし、そもそも飲みに来る大半は、今日の疲れをふっ飛ばすとかストレス発散…または、めでたい事があって祝杯なんてのもあるだろう…時には、自分の身分を偽って…と言う人も。


とにかく、この人は建さんって言うのが分かっただけで今日の収穫ありだ。


「じゃさっそく…建さん…もう一杯飲みますか?」


「おっ!嬉しいね!早速名前を呼んでくれるなんて…貰うよ!」


「いつも、決まった時間にここに来てくれてありがとうございます。」

と言って「今後ともよろしくお願いいたします。」と、いつもの水割りを建さんに差し出す。


「ありがとう」とニコッと笑う建さん

「家にいても独りだから、淋しくって呑み歩くんだ…まっ、最初はどっかの居酒屋でのんで賑やかを楽しんで…でも、結局静かさをも求めてここに来ちゃうんだよなぁ~」


人生色々って、何で独りなのかを聞くのは野暮だ、毎日ここに来てくれるだけで俺も嬉しいよ…今日は俺も一杯飲みたくなった。


俺も自分が飲むための同じ水割りを作り

「ここで良ければ何時でも…いや、毎日来てください」と俺は笑顔で建さんに乾杯をする。


お互い「よろしくお願いいたします。」

と、グラスを合わせ『カチン』と鳴らす。


今日の建さんは、いつもより上機嫌だ。

建さんの自分の昔話やこの飲み屋街の昔話など、色々な面白いエピソード…誰も来ないこの店、俺と建さんの2人しかいないのに笑の耐えない会話で、賑やかな夜…この商売も悪くない。




===============================



「カンパリ色のドレス」


夏の夜…週末ともあって、いつもと違い外は賑やかだ。


人が溢れて、どこも満員御礼。


そのおこぼれでここ、「bar silent life」も客がいつもより入ってきてる、男性2人女性2人の4人テーブル1つ埋まりました。


そして決まって『カラン、カラン~』

「おっ、今日はお客さん4人入って賑やかだね」と、冷やかし混じりに笑う建さん。


「お陰さまで」とボトルキープの水割りを建さんに提供する。


「今夜はジャズが流れてるね」


俺の気まぐれで音楽はその日によって代わる、日替わりミュージックってやつかな(笑)



建さん「ここ最近、この町も賑やかになったね…以前は感染対策のため営業を自粛だとか、その影響で不景気になって、どこの町も静になった時もあったけど、ようやっと人が戻って来たって感じだね」


確かに…全国ニュースでも、感染対策で色々な店が倒産して景気が悪化って、町全体が元気が無くなった事もあった。


「景気は良くなった事は良いですけど、この店は暇でいたいです。」笑ながら俺は言った。


日にちが代わる頃、まだ外では人が溢れていて、これからタクシーに乗って帰る人もいれば、まだ三次会だ四次会と転々と店を渡り歩く人もいる中、真っ赤なハットを深々と被り大きめなサングラス、真っ赤なカジュアルドレスを着た女性1人、身長は175センチ程で女性としては背の高いまるでモデルみたいな体型、人混みの中堂々とした態度で道を歩き、回りの酔っぱらいも、その女性に気をとられて電柱にぶつかる程美しい人がここ、「bar silent life」のドアを開けた。


「いらっしゃいませ…」


綺麗な赤い色のカジュアルドレスの女性が店内を真っ直ぐ俺の方向へ歩き、会話が弾んでいた奥の4人席に座る客も注目する程で、躊躇ちゅうちょせず、カウンターの4つある席のいつも座る建さんの1つ空けた席に座る。


赤いハットを外し、肩まで届かない位の黒色の髪を頭を軽く振り髪を靡かせてサングラスを取る…

ボーイッシュな綺麗な女性と言うイメージだ。


そして、俺を上目遣いで見て少しかすれかかった声で

「カンパリソーダ…」


「かっ…かんぱり?」


ふっと笑みを浮かべ

「カンパリ…赤い色のお酒よ…分かる?」


叔父の用意していたストック棚には、色々な種類の酒とお酒のリスト表、それにそれぞれお酒の割る比率のレシピが書いてあり、カンパリが入ってあるのを確認。

棚の中に目当てのカンパリがあるか覗いた。

「かんぱり…かんぱり…」って、なんだ?


棚の奥に『CAMPARI』の赤い色のお酒が入ったビンがあった。

「あっ!これか」

とビンを取り出した。


「そう!…それ!」とカンパリのビンに人差し指を指した。


「ふぅ…」

ただ探しただけで変に緊張した。


「どうぞ」

グラスの中が綺麗な濃い赤色のカンパリ…ツーフィンガーと氷と炭酸の泡が入って少し透き通った赤色が踊っているようで綺麗なお酒だ。


「ありがと」

と、赤カジュアルドレスの女性は、スーっと半分位まで飲んで「美味しい」と小声で言った。


1つ席を挟んだ隣にいる建さん、ずっと彼女を見とれている…間違いなく一目惚れの顔だ。

赤ドレスが映える綺麗な人、この辺の人ではないのか、女優さんなのかも…仕草も美しい、この薄暗いモダンな店内も、偶然に選んだジャズの音楽がマッチして、彼女の赤い色が綺麗でまるで一輪の薔薇…美しいの一言。


彼女は店内の回りをみて

「静で雰囲気の良い店ね…ゆっくりとお酒が飲めるわ」


「ありがとうございます。」

素敵な女性に誉めて貰うのは嬉しい。


「もう一杯もらっていいかしら。」

カンパリのおかわりをし、視線はカウンターテーブルの端に置いてある鉄製でできた造花の装飾品を見ている。

新しくカンパリを提供すると

「可愛い飾り物ね…」と鉄製の造花を指差す。


「元々この店は叔父が経営してて、内装全てこのまま引き就いたもので、この飾り物も叔父の趣味で揃えた物です。」


「ふう~ん…良い趣味ね」


その後の会話が続かない…

気になるけどどの様に会話を切り出すか分からずただグラスを拭いて、きっかけ探している所、俺に熱い視線の先がそれは…建さん


「ん?」その熱い視線の意味は?


俺を見ている視線は彼女の方へスライドをして、また俺を見ている…もしかしてアイコンタクト?

建さんは彼女と何か話をしたいのかな…?

その熱い視線は…その意味かな?


え~っと……


もし、建さんが彼女と話をしたいために俺に何とかしてくれって言ってるのであれば……無理っス!


ただでさえ、人見知りの俺が一般方にでさえ話をするのも大変なのに、女性に話しかけるなんて…話しかけれたら、今頃俺はこの場所を利用して、来る女性に声かけはナンパの繰り返しでしょ…ごめんなさい建さん…ここは建さんを無視。


「ゴホン!」建さんが咳払いをした。

思わず、建さんの方を見てしまった…また始まったアイコンタクト…

ここは、首を何回も横に降り完全に拒否をアピール、そんなやり取りをしていると、おかしく思われるのは間違いない。


女性は「ねえ…水割りをおごってもらっていいかしら?」

と建さんの方向を向いて言った。


まさか彼女の方から声をかけて来るとは思わず、建さんは席から崩れ落ちそうになり「よっ、喜んで…まっマスター…あの方に水割りをお願いします」


おおおっ!これは建さん!何かの始まりかぁ~!

俺は彼女に水割りを提供した。


「ありがと…頂きます。」と建さんに水割りの入ったグラスを向けて乾杯した。


「どっどうぞ」建さん凄くドギマギしてる。


「私はミク…貴方は?」と聞かれて「けっ、建です!」と声が少し裏返った様に言ったその顔は気持ち悪いほど作られた笑顔で返し『クスッ』と笑って「建さんて良人ね…隣に座っても良いかしら?」


「どうぞ」とお酒でも、照明とかでなく建さんの顔は赤く見えて照れている様に見える。


「ここにいつも来るんですか?」

よくある質問、「ほぼ毎日来てます。」と、そっちもよくある答え。


建さんはかなりの緊張…お見合いか!

そんな建さんを見ているこっちは、変にウズウズする、ミクさんはシャイな建さに気を利かせてかたわいもない話をしてなごませてるけど、建さん…さっきのアイコンタクトは話のきっかけを俺に頼んだんじゃないのか?


奥のテーブルの客も帰り、ここには3人だけとなった。

ミクさんの服装を見てると何処かの店で働いているホステスかママさんかな?


「あの…ミクさんは何処かの店で働いているんですか?」

俺の質問に何故か建さんが

「この店より奥の『ナイトクラブ マリー』の専属歌手のミクさんだよ」と答えたところミクさんが

「お兄さん知ってたの?…意地悪ね…じゃあ、私の大体の話は知ってるの?」


大体の話?


建さんは首を横に降り続けて「2、3年前かな知り合いと一緒に一度、連れていってもらって…そこでミクさんの歌を聴いたよ…とても、美しい歌声で感動しました。」


「そうだったの?…美しい歌声って言ってもらって嬉しいわ…ありがと、でも一度だけ?」

クスッと笑ながら聞いた。


「ミクさんのショーは好きです、また聴きたいです…でも、回りの賑やかさが苦手で」と建さん。


「ありがと…じゃあ今度機会があったらここで歌わせてもらいたいわ…その時はマスターよろしくね」と俺にウインクして、会計をして「また来るわ」と出ていった。


建さんはミクさんが店を出ていくのを見送るかのように小さく手を降って、「綺麗だ…」と小声で言った。

もしかして、建さんの恋の始まりか~?!



しかし…カンパリってどんな味なんだろう…試しにストレートで一口飲んでみた。

「にっ苦い…」物凄く苦い。

見た目は綺麗で甘そうな色だけど、飲んだら苦い…もしかして彼女……。



====================



「ウーロンハイと烏龍茶」


お盆が近づき、回りは夏期休暇の所も入ってきて、いよいよ夏本番!

連休前の会社の納涼会などがあって、どこも店は満員御礼!

もちろん、ここbar silent lifeも満員御礼 、男女それぞれ酒を飲みワイワイと話が弾んでいる。


常連客の建さんも「初めての満員ですね」と喜んでくれてる。


嬉しいけど…俺としては暇な方が好き…。


店のドア が開き『カラン、カラン~』

紺色のスーツを着た男性客2人組

1人はやせ形、40代半ばで髪がヘアーワックスを塗りまくった髪がカキ乱してグチャグヂャ

相当飲んで来たんだろう足がフラついて支えられている。

もう1人は年下ぽい30才程で相方より背が高く、まだ身だしなみは崩れてはいない若々しい青年だ、この二人は先輩後輩と言った感じだ。

「すみません、2人ですけど大丈夫ですか」大丈夫じゃない…俺独りで今いる客の相手で精一杯…

俺は「すみません、今日は…」断ろうと言おうとしたところ、

建さんが立ち上がり「あっ…ここ、2席空いてますよ」

2人を誘導する…建さん…俺は建さんを恨めしく睨んだ。


建さんは、「こんなに、人が入るなんて良かったね…」とニコニコして俺に言う、そして「今日は大変だから、僕も何か手伝うよ」とサラリーマン二人を席に座らせる。


建さん…うるさいのが苦手なんて言ってたはずなのに、この状況を何か喜んでいる様にもみえる。


40代半ばの男性が

「なっ!俺が居るからこの会社は上手く回れる…お前は、俺の言う事を聞いていれば問題ない!分かったか!」やっぱりこの人は上司ぽいな…


30才程の男性

「はい、そうですね!はい!はい!」

こっちは後輩だな…


建さんは「何か飲みます?」注文を聞いてくれている。


先輩は椅子に座っていてもフラフラとしているが「ウーロンハイくれ、濃いやつ!」と口からヨダレみたいなのが出てるし、しかも目も座っているし相当酔っている…大丈夫か?


俺はもう片方の人に「何にしますか?」


後輩「ウーロン茶あります?…」申し訳なさそうな顔で俺を見る

「かしこまりました。」


大声でツバが飛び散り「何がウーロン茶だ!…お前もウーロンハイだろぉ!」

その声で回りの客も驚き二人を注目する。


先輩の右手が後輩くんの肩をグッと引き「俺が飲めっと、言っているんだから飲め!」


後輩「はい、じぁ…同じくウーロンハイを…」と先輩の言われたことに断れないイエスマン状態…後輩の顔はもう、飲めませんのという様な顔…


俺も昔あった…

サラリーマン時代この様な断れないイエスマンだったことが多々あった…気持ちが分かる、頑張れ後輩くん!…。


俺はその後輩くんに「大丈夫ですか?」と少し小声で聞く。


「はっはい…」まっダメですなんて、先輩の前では言えないか。


「なぁ…お前はじゅこしゅちょうがたりゅない」

もう、この先輩は呂律『ろれつ』が回ってない

「はい?」


「じゅこしゅちょう」

あっ、自己主張ね…

何だか、説教してるのに後輩くんに介助されてるなんて、カッコ悪な。


ウーロンハイを一口飲んでは説教、一口飲んでは説教、見ててめんどくさい人だな、説教される後輩も可哀想だな…多分「めんどくさい」と思ってるんだろうな。


俺はその後輩くんにソフトドリンクのグラスではなく、酒用のグラスに烏龍茶を差し出した。

多分先輩は酔っているから分からないと思うが、この後輩が可哀想だ…俺なりのサービス。

「ほら、お前も飲め」と先輩は酒を進める。


「はい…」と言いグラスに口を付け、ちょっとづつ飲むと後輩は「あれっ?」ウーロンハイでなく、烏龍茶?と気づいた顔で俺を見て、それに対し軽く頷く。


烏龍茶とウーロンハイは色的には烏龍茶が濃いが、暗い照明と酔っていることで分からないだろ。


ウーロンハイの様にチョビチョビと飲みながら先輩の話を聞きながら相手をする後輩くんもなかなか良い子芝居。


「ぶつぶつ……」

もう、何を言っているかも分からない。

何処の会社…いや何処にでもいいる苦手な上司…


俺も昔は愚痴やイヤミに終いにはダメ出しまで言われ、「この仕事が成功しなかったのはお前のせいだ」責任まで押し付けられ、今思えばパワハラだな…。



気付いたら先輩はぐったりと椅子に横たわり

「起きてください!帰りますよ松村まつむらさん帰りますよ!」

後輩くんが先輩の松村の体を揺さぶり起こそうと「他の人の迷惑になりますから!起きて下さい松村さん!」


「ああ!うるさい!寝てねぇよ!」

松村は目を覚まし椅子から立ち上がり、フラフラしながら出口のドアへと歩きだし「松村さん会計済ませてません!待ってください!」

と後輩くんが戻させようとするも、「お前が払っとけ!」と後輩くんを払い除けた。


俺の元へ慌てながら財布を出して「すみません!幾らになりますか?」財布と俺と松村の目の行き場が忙しく

「今日はいいよ…烏龍茶とウーロンハイの一杯づつだから…先輩のお守りが大変だから早く付いてやんな!」と後輩くんに手を振ると、「有り難うございます!」と深々と頭を下げて、松村を担ぐ様に出ていった。


日をまたぐ頃には、1人、1人と客も店を出て人は居なくなり、やっと静かな時間が戻ってきた。

「そろそろ、僕も帰ろっかな…マスター今日はお疲れ様だね…」と建さんは労いの言葉を俺にくれた。

「有り難うございます…建さんもバイトお疲れ様」と手伝ってくれたことに感謝をして、「じゃあ…またね」とドアを出ようとしたところ、バッタリと人とぶつかりそうになり「わっ!」建さんが驚く。

1人の男性が入ってきて建さんに「すみません」と会釈し

「先程はすみませんでした。」と松村を連れて行った後輩くん

「どうしても、お金を払っておかないとと思って来ました。」

夏の夜少し涼しくなったと思ったと思うが、この後輩くんは走ってここに戻って来たんだろ…息は荒く汗が青っぽいワイシャツの襟が濡れて変色している。

「お金はよかったのに…でも、せっかく来てくれてありがとう…喉渇いたでしょ…これは俺のおごり、烏龍茶どうぞ」

相当喉が渇いていた様だ、一気に烏龍茶を飲み干した。

「はぁ~美味しかった…有り難うございます…それでお金を支払います。」

若いのにしっかりとしている、ここで「いらない」と言うと後輩くんの面子がたはたないだろ…俺は通常料金を貰い

「ありがとうございました…」続けて「サラリーマンも大変な事もあると思う、頑張ってね!」と労った。


「はい…有り難うございます」深々と頭を下げてお辞儀をして

「俺…今の会社に勤めたのは6社目何です…何をやっても飽きちゃうって言うか…仕事はお金のため、お金が欲しいから仕事をする…だから、この給料でこの仕事では割に合わないと直ぐに辞めたり…給料が良くっても上司がイヤな人だったり、仕事内容がキツイと言って辞めたりで、今年で35才になるんです…

今の会社6社目、この会社に入るまで何件の会社に面接をしたけど、全部ダメで…結局6社目だと警戒されて落とされるんでしょうね…色々受けてようやっと決まったのが今の会社

仕事は大変でキツイけど、上司の松村さんは、とても好い人何です…仕事も丁寧に教えてくれるし、

「仕事は失敗は付き物!失敗を恐れると仕事が出来なくなる…恐れるな」

「まだ入社して1年もたってないんだから仕事は見て覚えるのも大変だろ、でも慌てるな仕事内容より場に慣れろ」

言われたことはもっともっとあるけど、この会社ならやっていけそうだと初めて思った。」

この後輩く熱く語るね。

「でも、松村さん…酔うとだらしなくなるから…」

それを聞いて、俺は大声で笑うそして後輩くんに「俺も昔はサラリーマンをしててね、君と同じ…何をやってもダメ!逃げたくなって会社を辞めた…家に帰るつもりが弟に追い出されて、居場所が無くここに居る所だ」

後輩くんにお代わりの烏龍茶を注いで

「またあの先輩の松村くんを連れて来な…ここはお酒だけを飲む場所じゃないから…烏龍茶でもジュースでも何でも構わない、皆と楽しく居れる社交場だよ!気軽にまた来てくれ…」


ニコッと微笑んで「ありがとうございます…俺、石村って言います!今度来た時に、烏龍茶をキープしてください」頭を下げた出口へと向かう石村くんに「ああ、何時でもおいで石村くん」と手を振り、出ていく石村くんを見送った。


付いて行くように「じゃあ僕も」建さんも手を振り出ていく。


「ありがとね建さん…またね」建さんにも手を振る。




==================


「ジャパン!」


連休の始まりは物凄く忙しかった…数日前までは満員御礼の店も今日は俺1人、嬉しいのか…嬉しくないのか…やっぱり、ちょと嬉しいかも。


会社が休みだと同僚とかお客さんとの接待と言うのが無くなるのか、大体は皆さん外飲みは少なくなるのかな?

ここ「bar silent life」は暇でございます。


珍しく、常連客の建さんは来ていない…建さんも家族そろってどっかお出かけかな?


『カラン、カラン~』ドアが開く


年齢30代位の男性客2人組…1人は170センチ位の細身で、肩までの茶髪のロン毛にジーパンと日焼けをしているから、白のタンクトップが目立つ、まるでサーファーみたいだな。

もう1人も同じ位の身長で短髪ヘアー金髪のハーフパンツに筋肉質の体格が黒っぽいTシャツの袖がキツそうに見える…わざと小さいTシャツ着て袖の間から少しタトゥーが見えている…

大分飲んでそうだけど俺全然平均ッスって言ってそうな2人、何か面倒くさそうだ…。


ロン毛「あれ、何か暗くね?」


短髪「この店、客いねくねぇくね?」


…ねくねくね…?ああ何かやだな…


ロン毛「あのぉ~この店やってます~」と言って2人で高々に笑い短髪が「それ、ヤベくね!」


…うるせぇ~

うっせぇ~うっせぇ~うっせぇわ!


この客面倒だから適当に相手にして「そろそろ、店閉めよっと思いまして…何か飲みます?」


ロン毛「ビールちょうだい」

短髪「あっ、俺も~」


カウンターに2人を座らせて、缶ビールをグラスに移し変え、適当なツマミを提供する。


『カチャン!』グラスが割れるんではないかという程の乾杯し「うぅ~す」と一気にビールを飲む

「このビールまずぅー!」ロン毛がこっちを睨む「このビール、何処の安物ビール?」

短髪「ダメだ帰るべ」と2人は席を出てドアへと向かう。


「あのぉ~会計を…」


2人は振り向き、ロン毛が「はぁ~?会計?…って言うか俺、ビールちょうだいって言ったよな?」


短髪も「ちょうだいって言ったら、普通タダでしょ!」


出たぁ~やっぱりそっち!何だかんだイチャモン付けて荒らす系ね…ここは「お代は結構です」って言って帰ってもらおうか…イヤ!今日このまま帰って行ったとしても、また来て「ビールちょうだい」って、何回も「ビールちょうだい」と言われても、他の客に迷惑かかるかも…客はそんなに来ないか…イヤイヤ…ここは、グーで「おいてぇめぇ~って」懲らしめるか…


ロン毛「おい!おっさん何をぶつくさ言ってんの?タダだよな?あぁ~!」俺の近くまで来て右手が俺の襟首を掴んだ…

とっさの反応で、その右手を掴んだままロン毛の懐に入り一本背負い…こんな綺麗な一本背負いは、現役時代でもなかなか無い…そして見事一本!


ロン毛「いってぇ~な!」ロン毛は起き上がり背中に付いた誇りを払い、「俺は客だぞ!無抵抗な客を投げ飛ばすて、ひでぇ店だな」


短髪「俺見たよ、ダチが何もしてねぇのに突然投げられるとこ…これって、暴力だよね?」


「いや、会計を求めた時にこの人が私の襟首を掴んできて手出そうとしたから、とっさに防御したら倒れたんでしょ!こっちだって危害を加えられる前に正当防衛で自分の身を守るでしょ!」ちょっと嘘ついたけど、正当防衛って言えば通用するかな?


ロン毛「正当防衛ってこっちは何もしてねぇのによ手を出しやがって!これじゃらちが開かねぇ隼人はやとさん呼ぶか!」


短髪はスマホを出して電話した「もしもし、隼人はやとさん、今あの店に居るんですけど」


あの店に?…はなっからこの店が狙われてたって事か、こりゃ厄介な事になりそうだな…何とか警察に連絡しなきゃな、俺はポケットに入ってるスマホを出して電話をしようとしたところ、『カラン、カラン~』とドアが開いた。

隼人「どうも~」紫のスーツにシルバーぽいネクタイ、やせ形の小柄165センチあるかな…白髪頭のオールバック、薄目の紫色のサンクスどう見てもヤバそうな人が俺の所まで、ピカピカの革靴が『コトッコトッ』と音を鳴らして来た。

サングラスの間から睨み付けるように上目遣いで隼人が「こんばんは」とニヤケ、クルッと背を向け短髪の近くに行き

「今ね、電話もらって…あっこの短髪の方、竜二りゅうじくんって言うんだけど、お兄さんが僕の仲間のたつくんを投げ飛ばしたって言ったもんだからね僕、慌てて走って来たの…タックん怪我してない?」


ロン毛の龍「あの人に投げられて背中が痛いッス」と言って右手を背中に当てて摩る。


短髪の竜二「あっ俺その時の写真撮ってました。」俺が一本背負いの瞬間の写真を撮ったスマホを隼人に見せた。


隼人「こりゃひどい!素人相手に柔道の技ですか?…こんな技をやられちゃ龍くんもこりゃ大ケガをするわけだ!なぁ龍!」


龍「息ができず苦しいです隼人さん」


隼人「おい!兄ちゃんよぉ!どうしてくれるよ!ああ?」


「すみません…でも…」


隼人は俺の方にまた近づき背が低いから、上目遣いで「「でも…」じゃないんだよ!なぁ!このままじゃウチらの怒りが収まらんのだよ!なぁ!…ウチの若い者に手を出しやがって」


隼人はまたクルッと背を向け「あっ!」またクルッと俺の方に体を向けた。

よくクルクリ回る奴だ。

隼人「柔道って思い出した!ここら辺の営業している店で兄弟が高校の先生をしているって聞いたことがあるな…何か柔道の顧問をしているとか…まさか~兄さんじゃないよねぇ~?もし、先生の兄弟がお客さんに暴力を振るったなんて言って噂が広がったら、先生なんて出来ないよなぁ…まさか、兄さんの兄弟だなんて…違うよね!」


こいつ、どこで情報を入手してるんだ?目的は何だ?


隼人「あれ?黙りって…あっ!当たちゃった?」

『ガチャン』

奥のテーブル席の方でコップの割れた音がした。

龍「あっごめんね、手が滑ってコップ割れたよ、手を怪我したくないから、マスター片付けてくれる?」


俺は奥のテーブル席に行き割れたコップを取るためしゃがみこんだ時、頭ににズシッと重い何かが乗っかった。

龍「あっゴメン!変わった椅子だと思って座ったよ」

3人の笑い声が高々と客のいない店内に響いた。

竜はまだ俺の頭に座り「俺…邪魔?」


「すっ…すみません…どいてもらえませんか?」俺は怒りで声が震えていた。


龍「邪魔かって聞いてんだよ!どいてくれって言われても…やだ!」と言って龍は笑う


隼人「おいおい、可哀想だろタックん退けてやれよ!」


龍「はい!」と言って立ち上がった瞬間、振り向き様に「どりゃ」と気合いの入った声で、俺の頭に回し蹴りをされ、俺はその場で倒れこんだ。


隼人「お~こりゃ痛い!」


蹴られた痛さでうずくまる俺に

龍「俺を投げ飛ばした仕返しだ」


隼人「ウチの若い者は怒ると怖いから~でね…ちょっと、相談だけど~兄さんこの店、出ていってくれないかな?」


うずくまる状態から顔を上げて、はぁ?と俺は隼人の顔を見る。


隼人「まあ、直ぐにとは言わないよ…3日以内で…この店人入ってないし、正直赤字でしょ?…だったら、僕にこの店明け渡して!…もし、ヤダと言ったら、何処の高校だっけかな~まっ、調べれば直ぐに分かるけど…先生のお兄さんは客に暴力を振るう人だとネットに拡散したら…弟さんは学校に居れるかな?それどころか…近々、柔道の大会があるみたいだし、生徒達出場出来るかな?」


俺は立ち上がり隼人に「それだけは勘弁してください」と頭を下げた。


隼人「じゃあ、決まりだ!ここを出ていってくれ!」と俺に近づき右肩をポンと叩いた。


隼人「物分かりの良い兄ちゃんだ、中の物は俺達が始末するから、あとは出ていってもらえば良いよ!じゃあ、この店の鍵をよこしてくれ!」


「えっ、さっき3日以内って」


隼人「気が変わった…邪魔なんだよお前が!早くドケロや!」

と俺の右の頬をグーで殴られ俺は倒れてしまった。

倒れた俺に隼人は襟首を掴み

「さっさと出ていけや!」と脅しにはいった。


『カラン、カラン~』とドアが開いた。


物凄く怖い顔でブルドックみたいな顔60才位身長は165センチ位、上下黒いスーツに赤いネクタイの人

40才位オールバックで180センチ程、銀縁の細め眼鏡が妙に冷めた様な顔のでシルバー色のスーツに白いネクタイ

この人も怖そうな…って言うかこの人達ヤクザだよな。

ああ…俺、終わったな隼人って奴に脅されて、最終的にこのヤクザみたいな人に殺されるのか…どっかの山に埋められるのか…。


隼人「ちっ!…これは、これは世善会よぜんかいの組長と若頭ですか…お疲れ様です、こんな店に何か用ですか?」


隼人に目も触れず、世善会の組長と若頭は風を切るようにカウンター席へと向かい、スッと座る。


組長が大声で「マスター!ジャパン!」


ジャパン?何だ?俺はこの状況で『ジャパン!』と言われて何をしたらいいのか…とりあえず「ヒロミGO!」といったその時の若頭が「ぷっ!」吹き出し笑いをして「マスター…日本酒の事です」と言った。


「はい!」と恐る恐るコップに一升瓶の日本酒を注ぎ、組長はその日本酒を一気飲みをしコップをテーブルに『ゴン』と叩き付け、その音でビクッと驚くと、組長が「ほら!酒よこせ!」と一升瓶をとり組長の飲んだコップに注いで大声で「マスター!お前も飲め!」と組長は日本酒の入ったグラスを俺によこした。

断ると殴られそうで怖い、これは飲むしかない、俺も一気飲みをした。


組長は立ち上がり隼人の方を向いて「よぉーし!これで、兄弟の盃を交わした!隼人!お前らチンピラにこの店は渡さねぇからな!もし、兄弟とこの店に手を出したら分かるよな!…ああ!」


若頭「兄弟よろしくお願いいたします。」と俺の方を向いて頭を下げた。


隼人「分かったスよ…面白くねぇな!オイ行くぞ!」と3人共睨めつけながら店からでていった。


兄弟の盃…!!


俺、ヤクザになっちゃったの!えっ!?


俺これからなにやらされるの?


組長は「オイ!座れ」組長の隣に若頭が椅子を引いて「どうぞ兄弟…」と言って座るように促された。


組長「悪ぃ~な」


何が ?悪ぃ~なって


組長がタバコを持つと若頭が直ぐにそのタバコに火をつける…よくテレビに見る光景

「ふぅ~つ」とタバコの煙がカウンターに広がり「お前の叔父さんに色々と世話になったから、ここで恩返ししてやんなきゃお前の叔父さんに申し訳たたね。

この店をお前に譲った事も知っている。」


それを聞いて俺は驚いた。

「叔父さんの事知ってるんですか?」


ジャパンをお代わりして飲みながら組長は「まだまだ俺が30代後半かな…

出会ったのは夜の街を飲み歩いてた時、向かいからフラフラと歩いて来て服が乱れ顔が傷だらけの女が俺にぶつかって倒れた…女は「助けて」と声がかすれ、最初は酔って怪我でもしたのかなと思ったが

「追われてるの…殺される」って…それがこの店の前、その時はまだお前の叔父さんとの付き合いはなかったが、女をこの店に放り込み匿ってもらった…その後にチンピラ連中が来てな、

この店の外で争いになってその時、お前の叔父さんも一緒にチンピラを追い払うのに加戦してもらった。

2人共に怪我をしたけどな。

女はこの店の中で泣き震えて、しばらくの間話もまともに出来やしなかった…このまま外にも出せないし、その時お前の叔父さんは見ず知らずの女とヤクザ者の俺を何も言わず迎えてくれて、しかも俺の無茶なお願い事、この女をしばらくかくまって欲しいと頼んだ、そしたら、「上の部屋が空いているから好きに使ってくれ」と言ってくれた。」



流石、叔父さん…身元の分からないだろ人まで面倒みるなんて凄い人だ。


組長「あの後に薬漬けになってたのが分かった…チンピラは必死に追いかけてたのはその事もあったからだな。

チンピラ連中が女を探すことを諦めるまで、半年はかかったかも…その間お前の叔父さんはずっとこの店で面倒をみてくれたよ…

お前の叔父さんにも家庭の事情ってのがあったはずなのに…

薬漬けの女を相当暴れてたのを叔父さん押し付けてしまった。

申し訳なかった、そのお陰で女は外の空気を吸えるようになった感謝してる、。

その後に俺の女としておけばもう手出しはしないだろうと。」


「それじゃ今は一緒に過ごしているんですね?」


組長は横に首を降った。

「殺されたよ…」


「えっ!…じゃあそのチンピラに」


「かもな」


「かもなって、じゃあ犯人は?」


組長は横に首を降って「分からね…なぜ、女はあの時服が乱れても逃げてたのか?、薬漬けにされてたのか?どんな組織にいたのか、何も話してくれなかった。

ただ俺はあの女を守るために一緒になってただけ…ただ最後に「お腹の赤ちゃんを助けて」と言って、俺も無我夢中で病院へ連れていって子供だけは何とか助かった、だけど女はダメだった…たった半年…俺はあの女を何にも分からなかった。」


「子供はどうなったんですか?」


「俺一人じゃ何にも出来ねぇ…ただでさえこのヤクザ者の俺だ…何かあってあの娘一人になったら可愛そうだからな、施設に預けたよ。」


「そうでしたか」


「だから、俺はお前の叔父さんに借りがある、あの隼人のバックにもウチらの敵対する組織が付いている、ここら辺の土地を買収して何かやらかそうとしているみたいだ。

この兄弟の盃を交わしたと言っても、ハッタリだと分かってるだろ…今回は大人しく帰ったがまたいつか手を出してくるだろ…しばらくここに顔を出させてもらう。

俺は山名世やまなせ ぜんこの飲み屋街ではぜんさんで通ってるよ…で、こいつ若頭の革島かわとうもここにこらせる…お前の名前は?」


川奈かわな 光彦みつひこです」


「じゃ、光彦みつひこだな」


革島かわとう「革島です、よろしくお願いいたします、光彦兄さん」と頭を下げた。


ぜん「光彦、じゃあな」と言って2人共出ていった。



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「ビール」


お盆を迎えて、ここ『bar silent life』を『お盆中は休ませてもらいます。』とドアにお知らせの張り紙をした。


色々ありすぎて疲れた…2日、3日程休みをもらい5年ぶりに実家へ帰り墓参りをする事にした。


お袋が病気で亡くなり今年で8年、七回忌の法要に参加できなくって…と言うか、行けなかった…どうしても体が動かなかった。

だけど今年は帰る…帰らなきゃと思った。


久しぶりに車を出して 、隣街の実家でのドライブ 、お盆休み道路も渋滞でノロノロ運転、30分程の道のりも今日は1時間もかかるなんて。


車から降りて玄関までは数メートル、4LDKの2階建だがそんなに大きな家ではない…築40年のこの家で俺達は育った。


久しぶりに見る家の外壁や窓ガラス、そして玄関…懐かしいけどもう古くなったな。


『ピッポーン』ドアチャイムをならし玄関のドアを開けて「ただいま…」と玄関の中に入ると双子の弟、公彦きみひこが無愛想に「光彦みつひこか…入りな」と言って後の会話は無く、リビングへと一緒に向かう。

弟だけど、昔から名前はお互い呼び捨てで呼んでいる。


「おおっ光彦!…元気そうだな!」今年の10月に60才となるが、年の割にはガッシリと大きい175センチになる親父、中学校の校長先生をしていてる…年をとったものの、それほど変わってないが、大分髪が白髪頭になったな…

「ただいま、久しぶり…」


「どうだった?店は繁盛してるか?」


「繁盛って程ではないけど、それなりに人は入ってるよ」


「そうか、10月は父さんの誕生日だから還暦祝いで光彦の店で誕生日パーティーでもしたいな!」


「ああ…いつでも構わないよ…」

と親父との話しをしていた所に「光彦…ちょっと2階に来てもらって良いかな?」と弟の公彦が言ってきた。


2階には2部屋があり、俺達の部屋で今は公彦夫婦とまだ小さい子供の部屋となっている。

「光彦の部屋の荷物だけど、処分したいけど要る物があれば言ってくれ」

俺の部屋中、懐かしい…壁には中学と高校の柔道で優勝した賞状とメダルがそのまま飾られていた。

床はベッド、机、棚が隅っこに集められていて、子供用のベッドとオモチャで占領されていた。


「ごめん…公彦…全部処分してくれ」


「処分か…あんなに頑張った柔道なのにな!光彦は全部中途半端なんだよ!」

公彦は俺に対しても怒りを込めて怒鳴った。


「柔道も高校の最後までやらない!大学も途中で辞める…社会人になって突然辞めて家に帰るとか…大人としてどうなんだよ!それなのに母さんはいっつも、光彦に甘い!柔道を辞めたいと言った時も大学を辞めたいと言う時も母さんは「光彦の好きにしなさい」と言いって

俺の時だけ「公彦がしっかりしないとダメでしょ」って、何で俺ばっかり…」


大声をあげていたのが聞こえたのだろう

「お前達どうした?」と親父が上がってきた。


「何でもないよ」と公彦が言うと、親父が「また昔の事を言ってるのか?大人になってもまだ…過ぎた事だろ!」


双子の俺達は小学生までは中の良い兄弟だと思ってた。


中学生となった俺達は体格に恵まれて2人共一緒に柔道部に入部、共に強く2年には県大会ではベスト8入りまで行けるレベル、親父が学校の先生と言うこともあって、学業も上位でこれも2人共に頑張ってきた。


高校も2人推薦で同じ学校を入学し共に柔道部へと入部して切磋琢磨しあっていた。

2年生の終わりに3年生が引退するにあたって部長を選抜する事に部長の何気無い一言が「光彦が兄だから部長で副部長は公彦で決定」と悪気はなかったと思う。


部長は何時も公彦を可愛がっていた、何かあると必ず公彦の名前を呼んで部長不在の時も公彦に頼んでいたのに…今回の部長選でまさかの光彦を、しかも兄だからって。


その何気無い一言が公彦にとっては許せなかったようで、勘違いをした光彦は「俺は人を引っ張っていくのが苦手だから、公彦が部長になってくれって」と言った時逆鱗に触れ「光彦は何も分かってねぇなぁ!」と一言、その後は暫く会話もしなかったのを覚えてる。


「その事で公彦は今でも怒っているのか?」と聞いたらまた、「そんなんじゃない!」怒らせた。


続けて

「その他にもっとある!中学校のマラソン大会でクラス代表で選ばれた時、偶然にも同じ区間…同じクラスの娘が好きになって、勝った方が告白するって、光彦はわざと負けたよな!どれも!俺と光彦が何か競うことがあるとわざと負けるか譲ったりする、そんな余計な優しさが嫌いなんだよ!」


余計な優しさ…。


俺は昔から競争とか順位や比べられるのが嫌いだった。

保育園の運動会、競争で俺が1位公彦が2位…俺は物凄く喜んだ母さんも褒めてくれたけど、公彦は悔しく泣いていたのを母さんは「2位でも立派!泣かない」と言ってた。


小学生の時もずっと俺は1位だったり何かで賞を取ると、2番手は公彦…それがショックなのかずっと泣いていた。

その度母さんは「2番でも良いじゃない」のそれだけ「光彦よく頑張ったわね」と、それが俺にとっては苦痛であって公彦にとっては、焼きもちだったのかも知れない…


公彦は「俺はずっと、光彦の背中を追いかけていた。いつか俺の実力で光彦を越すと決めていた…追い越して褒めてもらいたかった…」


親父が「そっか!すまなかった公彦!お前はもう十分頑張ったじゃないか!そんな、争いは止めて…」と、親父が2人の会話の間に入り込んできたが、公彦は横に首を振り「親父に褒めてもらっても嬉しくない!俺はお袋に褒めて欲しかっただけだ」


親父「………」


続けて公彦が「光彦が手を抜いているのも分かってた。」


「公彦、ゴメン」俺は頭を下げた。


「そのゴメンとかも本当は嫌い…でも、お袋の最後の言葉で俺は光彦を許せるようになったよ」


「結婚が決まってお袋と親父に挨拶をする事になって、親父は「良かったな」の一言だった。

だけど、お袋は「おめでと~!」と続けて嫁に「公彦はめげず頑張った子なの…目の前の事を諦めず、悔しい時も泣きながらでも食らいついた…だからどんな困難な道があってもこの子は絶対負けない自慢の息子です…どうかお願いします。」と、言ったんだ」


「俺は、母さんはちゃんと見てくれてたんだ…って」


親父が「昔からお母さんはお前達の成長を見て喜んでた…「光彦は気はが弱いけど、試合とかなると勝負強く、本番に強い子なんだけど、公彦の事になるととても優しい…いつも立ち止まっては公彦を見守るお兄ちゃん。


公彦は常に負けず嫌い…勝ち負けにこだわっては負けたらすぐに泣く、だけど諦めない精神と勝った時もおごらず、負けた人に礼が出来る紳士的な子、…2人の仲が悪いのも知ってる…でも、私たちの子だもの必ず仲直りする時が来る。」と言ってた…もうお母さんを困らせないで仲良くしてくれよ。」


公彦は「分かってる、あの頃は負けて悔しいのと、わざと負けた光彦に対しての苛立ちがあったけど、この歳になって…と言うか先生として生徒達の行動を見てて、俺の過去がどれだけちっぽけだと思ってたか…それにお袋の気持ちも今となって分かったよ…ただ、光彦が今まで頑張った証をあっさりと「処分してくれ」に対して、俺の頑張って来たことも台無しになってしまう事に怒ってしまった、だから…このメダル達は俺が預かる、これは2人が頑張ってきた「証」なんだから。」


俺は弟の公彦の本当の気持ちが分かって、自分が今まで逃げてきた事に後悔したのと、逆に安心したことに「公彦…ありがとう、そして、ごめん…今はこの2つの言葉しか出ない」と謝った。


公彦は「ふっ」と笑い。


公彦「明日…お盆だから、お袋の墓参り行くだろ?今夜は泊まって明日一緒に行こう、家で飯、用意してあるから食べよ…」


家族揃っての晩御飯、公彦の奥さんが作ってくれた川奈家の家庭料理、お袋の味に似ていて懐かしい。


『ドーン!ドドーン!』


外から花火の音が聞こえた。

公彦「今日は花火大会だったな!子供の時2階のテラスで見てたな!」


「じゃあ、2階でビール飲みながら見よう」と親父が誘う。


そして、花火を見ながら初めて兄弟でのビールを乾杯…ここにお袋がいたら笑って一緒に花火大会を見たんだんだろうな…。




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「薄い水割り」


お盆休みはどこも混んでいる、買い物をしていてこの街もこんなに人が沢山集まることに驚くよ。


買い物を終えて自転車に乗り帰りの途中、向かいから買い物袋を右手に持ち歩いてくる見慣れた男性。

「あれ?建さん?」


「あっ!マスター!」

手を上げる建さん。


「建さん!こんにちは~買い物ですか?」


「あっああ…買い物ですよ…墓参りと買い物してました。」


見つめ合う男同士。


俺「………」


建さん「………」


友達だとこの後の話は色々と会話があるはず、友達でもなく常連客…しかも建さんは無口で、俺も無口…そうなると街でバッタリ会っても「……」そう、無口だよね。


建さん「マスターの私服も初めて見ます、何だか新鮮ですね」


俺「そうですか!さすがに買い物とか用達は私服ですからね、」


建さん「……」


俺「……」


「………」


で、結局会話が無くなり「じゃ、また」


そして「マスター今夜行きますね」と言って返す言葉は「はい、お待ちしてますよ」と言って、お互いお辞儀してそれぞれの帰り道を行く。



俺の盆休みは終わり、今日から営業開始。


『bir silent life』のネオンが光る…今夜の飲み屋街は団体客と言うより友達グループと思われる人達が多くあっちらこちらと散らばって賑やかだけど、ここに何人入ってくるかな。


90年代の懐メロを聴きながら客を待っていると『カラン、カラン~』

「どーも」と建さんが入ってきた。


「ここに通って何年もなるのに、街でマスターに会うなんて珍しいもんで、言葉もでなかったですよ」

と言っていつもの席に座る。


「そうですね、平日だとこの街も人が少ないもので知り合いなんて滅多にないけど、連休とかだと人も多いですもんね、バッタリ会うなんて驚きました」

ありふれた会話だけど、店での俺と建さんはいつもこんな感じから始まる。


「やっぱり静かに酒を飲むのは良いな」

いつものセリフでニコッと笑みを浮かべ酒をのむ建さん


静かにBGM を聞いてお酒を飲む飲も悪くないと思う。


建さんの飲む水割りが2杯目、ゆっくりと流れる時間…しっぽりと飲むって言うのが合っているのかな…


街でバッタリと会った時は2人とも会話もそれ程なく、ここなら会話は無くっても良い…人それぞれ好きな時間を楽しんでもらいたい。



BGMが『木蘭の涙』が流れた。


建さんは天井に顔を向け

「木蓮の涙…懐かしいな…この歌を聴くと思い出すよ…」そして、下を向いて、飲んでたグラスを置く。

「僕ね10年程前に妻に先立たれてね…」

少し寂しそうに見える建さん、グラスの中の氷に指を入れ、ゆっくりと回し水割りと氷がゆっくりと回りだすのを見つめながら。

「僕の妻は強い人だと思ってた…笑顔が素敵でいつも笑って、僕は中学校の音楽の先生をしてて、僕も妻も歌を歌うのが好きで、いつも2人で歌う様な明るい家庭をおくっていた。

学校に行く時は、笑顔で「行ってらっしゃい!」と新婚の時から変わらず手を振って見送ってくって、帰ってきたら「お帰り!」って、ハグをし合って、自分が言うのは変だけどラブラブだったな…と思い出したのか少し照れて笑う。


性格はパサパサしてる人でね…ケンカなんてほとんどない…なりそうだとしても「はい!この事は終わり!」と、男の僕が折れずも妻の方が折れて仲直りをしてくれる、僕にはもったいない位の良い妻だった。

そんな妻が病気なんてする訳がないと思ってた。」


「そうでしたか…そんなに素敵な奥様だったんですね。」


「僕が退職をしたら、2人でゆっくりと旅行しないと妻が言ってくれた事があったんです…でも、それも叶わなくなっちゃった。」


建さんは少しニコッと微笑んでうなずいた。

「今思えば後悔している…ある時、胃薬を飲んでいる事に気づいて「大丈夫?」と聞いたら、「食べ過ぎたかも…腹痛かもね」って笑っていたけど、次第に胃薬を飲む回数が増えて、気づいた時には症状が悪くなっていた。


ある日、体を埋めて「お腹が痛い」と日汗が酷く救急車を呼んで病院に行ったら…「癌」と言われて…ステージ4の末期だった…治療も緩和治療でしか出来ず、僕に一言「ごめんね」って、何でごめんね…僕が早く気づいてあげたらて…

その後の治療って言う治療は無く、痛い時は結局痛み止だけの緩和治療のみ。


辛いのは妻なのに、僕には笑顔で「大丈夫!」いつも「大丈夫!」って大丈夫じゃないのに、相当無理をしてたんだな…って、もっと早く気づいてあげたら…と、思った。

最後の言葉は「ありがとう」と振り絞った小さい声で亡くなった。」


グラスに涙が数滴入り薄い水割りになった。


俺はそっとハンカチを差し出した。


建さんはそのハンカチを受け取り。

「ありがとう…聞いてくれて」

と涙を拭いた。


こう言う時は何か言った方が良いのかも知れない…今の俺はただ、建さんを黙って見守るだけが精一杯。


切り換えた様にニコッと笑って

「ああ…マスターに聞いてもらって、何だかスッキリした~!」

建さんは誰かに、自分の淋しさを吐き出したかっただろうな。


「俺で良ければ何でも言ってください。」

建さんと俺の分の水割りを作り

「これは俺のおごりです」

とグラスを合わせた。



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「ハイボール」



8月も後半…と言ってもまだ暑い。


盆休みも終わったようで、スーツ姿の人達が多く皆さん仕事帰りの一杯と言ったとこかな。


ここ『bar silent life』も変わらない客がいない平和です


『カラン、カラン~』

建さんが「どーも」と何時もと変わらず入ってきた


「いらっしゃいませ、待ってましたよ」


そして指定席へ座り、いつもの水割りを楽しんでいると

『カラン、カラン~』

黒っぽいワンピースドレスにショートヘアーの黒髪の女性「ミクさん」と言ったのは建さん。

「こんばんはー」

この前は真っ赤なワンピースドレスと赤い帽子だったけど、色が変わっただけで雰囲気も変わるが変わらず美しい。


建さんの隣にポンと座り「今日はハイボールにしよっと」

注文しミクさんにハイボールを提供すると「マスターお久しぶり…建さんお久しぶり。」と建さんとグラスを合わせて乾杯をした。


建さんも「久しぶりです…今日は店の方は?」


ため息をするミク「休み…そろそろ私も終わりかな…」とハイボールを一気飲みして「マスターハイボールお代わり」とグラスをよこした。


直ぐに一気飲み、そして終わった…とは何が終わったのか?ミクさんに何かあったのかな?


新しくハイボールを作り「聞いてもいいですか?終わったって…何が?」気になって聞いちゃった。


横に首をふり「何でもない…」グビグビとハイボールを飲むミクさん。


『カラン、カラン~』

またお客が

「おう!」ブルドックの顔…ぜんさんだ…

「お疲れ様です」思わず言ちゃった…

「ワハハハ!」と豪華に笑いながら近づき「そんなに固くならず良いよ!なぁミク!」


ミクの隣に来て「俺もハイボールくれ!」と言って座った。

「相変わらず人相悪っ!ぜんさんお久しぶり」と言って善さんにハイボールを提供するとミクさんと俺に向けて乾杯した。


「ここは狭い街、だからちょっと目立つ人が居ると直ぐに名前が知りわたるのよ…善さんは、組の者だけど強盗だの恐喝とかそんな怖い事はしない、この街のトラブルの収め屋さんみたいな人ね…名前が『善』だけに…」


ミクさんと善さんは知り合だったとはちょっと意外…


善「ミク!今日は歌わねぇのか?」


ミク「私の出番はもう終わりよ!…だって、新しい若い女の子が人気なっちゃって、私なんてお払い箱かも…もう終わりよ!」


終わりってこの事か


「若い娘が良いのか…それとも、本当の女が良いのか」


本当の女?


「失礼ね…でも、やっぱり男の私より女の子の方が皆食い付きが良かったもの…でも、良いの!あの店そろそろ辞めようと思ってたとこだし。」


えっ!男?

聞き間違えじゃなければ『男』って言ってたように聞こえた…まさか


善「俺はお前の歌が好きだけどな…どうも若い娘の声は苦手だ」


「それって私を口説いているの?」とにやけるミク。


「ばっ、バカ言え!お前が好きでなくお前の歌が好きなんだ…あのパワーと繊細のある歌声が良い…それだけだ」


善さん物凄くムキになっている…怪しい。


ミクは笑いながら「冗談…でもありがとね、あの店でも同じことを言ってもらえたら良かったけど…もう、終わり…」


「僕もミクさんの歌、好きです…」少し小声で建さんも言った


「本当、皆ありがとー…って、2人だけど」と言って俺の顔をチラッと見るミク。


「えっ…おっ俺もミクさんの歌聴いてみたいです」ちょっと回りに流された。


「だろ!なぁ…マスター…ミクをここで歌わせるのはどうだ?」と善さんが言う。


「えっここで?」と言ってもステージも無いしな…俺は回りのスペース見る。


「マスター困ってるじゃない…良いのよ無理しなくって」ミクは笑って

「それに…アカペラで歌っても盛り上がらないし」


建「マスターが構わなければ僕の家にスタンドピアノがあるんです…僕の演奏で良ければ…もちろんギャラはいりません!ミクさんの歌を聴きたいから…」


善さんが建さんに近づき背中をポンと叩き「おめぇ良いこと言うな…光彦が良いのなら俺達がピアノを運搬するよ!」

と2人盛り上がってるところミクが

「ちょーと!まだマスターがOK言ってないし、建さんがギャラ無しだと私もギャラなんて取れないわよ…それに私だって考えてることもあるんだから。」


善「そっ、そつか…ミクよその「考えてること」って何だ?」


ミク「…この業界、辞めよっかな…」


善さん「辞めてどうする?」


ミク「このまま歌ってもこの先の私は何もない…だから、パッと切り替えて親の洋服店やろっかなって、服も好きだし親も歳をとってきたから…諦めて、服屋をやります!」


善「じゃ…お前の歌はもう聴けないのか…寂しくなるな…お前の将来だ!俺には止める権利もねぇしな…頑張れ!」とグラスを持ってミクに乾杯する。


建「頑張って下さい」とミクに乾杯をする。


ミク「まだ…決まってないから…でも、もう少し少し歌いたいなぁ~」


「じゃ俺の所にたまに来て歌って下さい…お酒を飲む時の序でに歌って下さい…建さん、もし良ければピアノ貸してください、もちろんバイト代を払います。」


善「よし乗った!」


ミク「あんたじゃないでしょ!バイト代はいらないは…そうね、その代わりお酒を一杯、私と建さんの無料ってのはどお?ね…建さん」


「はい!僕はミクさんとセッションできるのなら、お金はいりません!」


「じゃ決まりだな…光彦、乾杯だ」と善さんがグラスを持ち上げ、全員でハイボールで乾杯をした。




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「ノンアルビール」


8月の終わりにこの街にも祭りがある。


この祭りが終われば秋…。


夏から秋に代わる青空物凄く青々した空、本当天気が良い。


平日でも祭りだと子供達は学校も休みで、出店だったり御輿をかつぐ子供達で賑やかだ。


暑さにも負けず子供達も大人達も楽しそうだ…子供の時から祭りは好きだ、屋台食べ物屋の匂い、御輿を担ぎ大きな声の掛け声

俺も子供の頃、弟とはしゃいだな。


祭りの夜は一段と町中が明るく賑やかだ。

この飲み屋街も子供と大人の騒ぐ声や笑い声…祭りだ!


祭りと言えば…


やっぱり俺は屋台…必ず買ってくるのが、お好み焼きと目玉焼きの乗ってるソース焼きそば…コンビニとかデパートでも売っているどこにでもある食べ物だけど、祭りは何だか特別な感じ。


あの屋台は…美味しそうだけど、店主が怖そう

あの屋台は…愛想の良いおばちゃんだけどちょっと量が少ないような…


昔から屋台を右へ左へとフラフラしながら品定めし結局、怖そうな店主の所で食べ物をゲット。


さて店へと帰って、今晩は晩飯として頂こう…

テーブルにお好み焼きと焼きそばを置いて飲み物を用意。


「うん~良い匂いお腹空いた~」

食べようとした時。


「やっぱり…祭りと言えば、お好み焼きと焼きそば…目玉焼きはやっぱり欠かせないですよね…」


「えっ?けっ建さん!」


と、既に建さんがいつもの席に座って待っている…いつから居たのだ?

「びっくりするじゃないですか建さん」


「祭りを見て町中歩いてきたら何時もの方向に足が向いて、ドアが開いてたから入りました…ハイ、これ差し入れです」と祭りの屋台で買った、たこ焼きと鳥の唐揚げを持ってきて「僕は祭りと言ったらたこ焼きと唐揚げなんですよ…一緒に食べませんか?」

たこ焼きと唐揚げが白いビニール袋に入っていて、それをテーブルにポンと置いた。


「良いですね!今日は祭りですからね、じゃ乾杯しましょう」とグラスにハイボールを作り乾杯する。


『カラン、カラーン』

「善さん…」


「よっ」白いコンビニ袋を両手2つに何か沢山詰まっている。


「やっぱり建さんもいたか…ホレ」とカウンターの上にその袋をドンと置いた。


建さんは袋の中味を覗き「あっ!焼き鳥ですか!」

焼き鳥5本入りプラスチック容器に、ねぎま、つくね、ハツ、鶏皮、等々の色々入った焼き鳥が10箱以上はあるかな


「うちの若い者が出店やっててな、その売り上げの貢献してやらんとな…大丈夫!まともなお金で払ったから心配するな!」


まともなお金?…まともじゃないお金も…いや、余計な事は考えず。


「じゃ遠慮なくいただきます!」

テーブルいっぱいにツマミが揃った。



ニコニコと建さんが「今日は皆と祭りですね」とコップを持ち乾杯の催促


3人は声を出し、水割りで「かんぱーい!」


善さん「ミクは今日は来ねぇのか?せっかくピアノを置いたのに、これじゃただの置物だな」と店の隅のピアノを見る…


そう、あの話が決まった時の翌日には、善さんの若い者達が大勢で運んできたのだ。


薄暗くこのモダンな店内に、スタンドピアノが絵になる


『カラン、カラーン』

上下黒いジャケットと長めのスカートを着たミクがずぶ濡れで店に入って来た。

「あっミクさんどうしたんですか?」その姿を見たミクに俺は驚いた。


建さんと善さんも驚いて

「祭りで水でも掛けられたか?」と善さんが冷やかしに言った。


「雨よ!大雨!少し前まで晴れてたのに突然よ!もぉ~せっかくのお気に入りの服がビチョビチョよ!最悪ぅ~!」


急いで俺はミクさんにバスタオルを渡した。


「ありがとー」と髪を乾かす。


「もし俺ので良ければジャージ着ますか?サイズがデカイけど風邪引くと大変でしょ?」


「ジャージ?私が?やだぁ~…あっ!マスターのそのシャツとスラックスある?」


「あるけどよ!…ついでにシャワーも浴びたら?2階にあるから」


「ありがとー覗きに来ないでね♪」


善さんが飲んでた水割りを吹き出す

「誰が覗くか…同じものが付いてるのに」と笑う。


確かに…ミクさんあんなに綺麗なんだけど男なんだった。


しばらくして…


「お待たせ~」

男達3人ミクを見る。


女性…女性じゃないけど、女性がサイズが大きいからダボダボの白いワイシャツに黒いスラックス、スタイルが良のが少し台無し…でも格好が良い。

「何ぃ~みんな、私の事をジロジロ見てぇ…ヤらし!」


いかん!ミクさんは男!…だけど、何故か女性として見ている俺がいる。


「ミクさんはどの服を着ても似合いますね、僕はその服装もアリだと思います。」


「あらっ、建さんありがとう。」

と言ってウインク。


薄暗い店内でも、少し建さんの顔が赤らめてるのが分かる。


「建さんよ、酔っ払ったて顔が赤いのか?それとも…」

と善さんはちゃかす


でも…ミクさんて本当、綺麗だな。

男と言わなければ、女性だと誰でも思う…思わず見とれてしまう


「何ぃ~マスターまで私を見てぇ…もしかして、マスターも私にホレちゃった?」


「惚れたって、言うか…本当、ミクさんて綺麗だな…って、

ミクさんは昔から、そっち側の人だったんですか?」

思わず聞いてしまった。


「おいおい…そこを聞くか?」善さんが言うと直ぐに。


「そうよ!」って、あっさり答えた。


続けて「まっ、大体の人は興味本意で聞くけど、聞かれるのもなれてる。」


男3人耳を立ててミクの話を聞く。


「私の家族は5人家族…婆ちゃん、父さん、母さん、10才上のお姉ちゃんと私。

私が幼い時、身体が弱く直ぐに風邪を引いたりで、保育園にもほとんど行けないほど休んでた。

男の子なのに元気に外で遊べない事にお姉ちゃんが私の世話をしてくれたの。


お姉ちゃんとそのお姉ちゃんの女友達の中で一緒にいる私はだんだん女性になりたいと思ってきて…女性として生きていった方が楽しいとおもった。


小学校に入学、その時に婆ちゃんからは「男の子なんだから男らしくしなさい」と言われて男の子の格好で登校をした。


最初は違和感があって、男としているのがとてもイヤだった。

年頃になって、私は無理をして男の子格好で振る舞っていたけど…イジメられたくないのと回りの目を気にしてた事もあった。

高校を卒業するまでずっと我慢してきたけど、タガが外れたと言うか、弾けちゃって…「もう女に成りたい」って、今に至るって事…親も子供の頃からの私を知っているし、苦しんでいたことも分かってる。


私がこの世界で生きたいと言った時「分かった」って、1つ約束で「整形や手術はしないでほしい…でも、もし手術をしたいと言うのであれば、私達親に事前に言ってくれ…反対はしない」と言う条件…だから、姿と心は女だけど身体は男…今のところは…多分この先も…」


「俺はミクが男だろうが女だろうが関係ぇねえ…俺はお前の歌が好きだし、一緒に飲んでると楽しいからな…ミクはミクらしいお前が好きだ…あっ、勘違いするなよ!告ってねえからな」と笑いながら善は言った。


「僕も善さんと同じでミクさんの事が好きです!」


「皆、ありがとね♪」


「さっ、皆さん各々屋台から買ってきた食材です!そして、今日は祭りです!お酒は俺のおごりです!乾杯しましょう!」と言って皆にハイボールを配った。


ミクさんの号令で「それでは~!乾杯~!」


「乾杯~!」


本日bird silent lifeも祭りが始まりました。


会話も弾み笑いの絶えず、俺も少し酔ってきた…今日は祭りだから、楽しければ良いか!


「僕も酔っちゃいました!気分が良いから、ピアノを弾いても良いかな?」

流石、音楽の先生だけあってピアノが上手い

この店内のムードに合っている…すると

「素敵なピアノね…私も歌いたいな!」


建の弾いているピアノの横にミクさんが立ちセッションが始まる。


ノリノリの善さん「良いね!ピアノの音とミニの歌声…そしてこの酒を飲みながら聴ける…楽しいな…」

店内に心地よく響くピアノにミクさんの優しい歌声、俺も2人のセッションが楽しく聴こえる。

今日は祭り楽しい夜、皆の笑顔が絶えない。


『カラン、カラーン』

店のドアが開く。

「いらっ…」

俺は声が失った。


ドアが開いて外は大雨の音、そこにはずぶ濡れの若い女の子、160センチあるか胸の膨らみもあまりない細身で幼く見える…肩で息をする程走って来たのか、黒いアニメの様な柄のTシャツに紺色のジーパンが大雨でベッタリと身体にまとわりついて、背中まである髪もペタンとして、祭りを見ていて強い雨で雨宿りに来たのか?


女の子が「はぁ、はぁ」と息を切らし「助けて!匿って!」と俺の所に駆け寄りカウンター裏の下の窪みに入り込み身を隠した。


「えっ?匿って?って?」


突然の事で皆が驚く

「どうしたんですか?」驚く建さんに

「建さん!ピアノを弾いてくれ…良いから黙って弾いてくれ」と言い、続けて

「光彦!お前も普通に振る舞え」と善さんが言った。


少し乱れたメロディーのピアノの音、善さんに「黙って弾いてくれ」の言葉に何が何だか分からないままピアノを弾き、ミクさんは何も動揺することなく歌う。



間もなく『カラン、カラーン』

若い男…あれ?

「おい!女入って来なかったか?」


建さんは驚いてピアノの演奏が止まり、ミクさんは「せっかくのムード台無しね」と言って善さんの隣に座りタバコを吸う。


見覚えのある男、茶髪のロン毛、派手な赤い模様のアロハシャツにジーパン、コイツもずぶ濡れで入って来た


目付きが鋭く以下にも何か獲物を捕えに来た様な顔…ロン毛で赤い服

はっ!秋田の男鹿にいる『なまはげ!』

わぁりぃ子はいねぇがぁ~

まるで、その様な入りかたで来た…ちょっと泣きそうになる。


「おい!女知らねぇかって聞いてんだろ!」


あっ思い出した…あの時、店を荒らしに来たチンピラのりゅうだ!

「女?ここには来てないね…」と、しらばっくれた。


「おかしいな…ここに入ったと思ったが…」と龍は床を見た。

「あれ?床が濡れてるな…ここに雨で濡れてる奴は居ねえのにな…」


くそっバレたか!


「ああ…さっき、どっかのおっさんが入って来たけど直ぐに帰ったぞ…なぁマスター」と善さんがフォローする


「そう、そうだお客さんが来て直ぐに帰ったよ!」


龍は俺達の話を聞かずその濡れた足跡をたどり、カウンターの裏まで来た。

「困りますよ、ここからは関係者意外立ち入り禁止ですよ…」

と追い出そうとしたが。


カウンター裏を覗き込む龍。


カウンターの下でしゃがむ七海なみを見つける。


「いるじゃねぇか!七海なみ!おい!こっち来い七海なみ!」


七海なみは「チッ」

舌打ちをしてカウンターの下から立ち上がって「うっせー呼び捨てするな!こっちに来るな!」


龍「良いから、来い」

七海なみに近付いて来たのを俺は入らせないように阻止する。


龍「どけ!オッサン邪魔なんだよ!」


狭いカウンター内で下手に暴られると酒のボトルやグラス達が割れたら大変だ。


「ここで暴ららても困る!ここから出てもらえる?」


龍が酒の入ったボトルを逆手に持ち俺を殴ろうとした。


七海なみ「やめろ!分かったよ出るよ!」


俺が邪魔と言わんばかりに片手で「どいて」と七海なみは龍の前に出た。


龍は七海の右腕を掴み引きずり出そうとし、七海は抵抗して左手で龍をビンタした。


『パシッ』


すごいビンタの音、店内に響いたて、建さんが『ビクッ』としたように見えた。


なかなか七海は気が強そうだ。


龍「イテッ…このヤロー!」右腕は離すことなく龍のもう片方の右手が七海の顔を拳で殴った。


あまりの痛さに七海は崩れ落ち、それを構わずカウンターの外まで引きずり出した。


「おい!オメェ隼人はやとの所の若いもんだろ…俺の兄弟の店で騒ぐなんて良い度胸だな…あぁ!」

善さんが席を立ち上がり龍を睨み付ける。


七海を離さないまま善さんを睨み返し

「うっせ、世善会よぜんかいだろうがヤクザだろうがオメェには関係ぇねぇよ!、俺の女を連れ戻しに来ただけだ!邪魔するな!」


七海は叫ぶくらいの大声で

「誰がオメェの女になった!手離せよボケ!」

右腕を握られたままでいる龍から必死に振り払おうとする。


修羅場だ…今、俺は修羅場の中にいる。


フッと気になって建さんを見た、ピアノの椅子に座る建さん暗闇でよく見えないが、手元にはスマホであろう、光って見えた…もしかして。


「やめな!」大声でミクさんが止めた。


「いやがってるじゃない!強引に外に連れ出してこのここ娘が大声で叫ばれて警察沙汰になるか…今、後ろで私の連れが警察に連絡するように言ったわ…まっ、どっちにしろあんた警察に任意同行されるわよね…私達が見てんだから…この娘の証人となって、あんたは傷害罪で捕まるとかもあるかもね…」

と言ってタバコの煙を龍に吹きかける。


七海を掴んでた左手は煙を払うように

「チッ」と舌打ちをしミクさんを睨み


「分かったよ…七海!覚えてろよ」と言って俺達を睨み付け出ていった。


「あんた…大丈夫かい?」ミクさんが聞く


「ありがとー、迷惑かけた…帰るよ」と濡れているジーパンのお尻の部分をホコリを取る様に払いドアまで歩き出す。


「おいおい!待てよ!」善さんが止め「今出たら、アイツがそこら辺で張ってるぞ、きっと。」


七海「だって、今警察に電話したんだろ、私もヤベェじゃん」


ミクさんは「フッ」と笑い

「電話する訳無いでしょ、あんた未成年でしょ…訳があって逃げて来たんだろうし、理由も聞かないで警察に補導されるのも可哀想じゃん」


七海「えっ…だって、あの奥に座っている人が通報したんじゃ」


「芝居よ…し、ば、い…あの時、建さんに「スマホの明かりを点けていて」て頼んだの…でも、本当は「警察ですか、事件です」

って聞こえるくらいの声を出して欲しかったのに、あの男に叩かれちゃったね…建さん、ビビっちゃったかしら…ねぇ!建さん!」


建さんはカウンターまで来て「すみません…嘘がバレたらもっと大事になるかなって、携帯を持って電話する振りだけで何とかなるかなって…本当ごめんなさい。」と言っていつもの席に座る。


「じゃあ…ちょっと、ここに居よっかな」

七海がカウンターに座ると


「あれ!七海さんて、竹石たけいし 七海ななみさん?」と建さんが言った。


ミク「あらっ建さんの知り合い?」


七海「あっ、ゲンゴロウじゃん」


ミクさんは笑いながら「ゲッ、ゲンゴロウって」


確かに先生に変なアダ名付けアルアル…建さんもその内の一人とは…


建「中学校の時の生徒です…1、2年の時に音楽の授業を僕が担当してまして、アダ名が「ゲンゴロウ」って呼ばれてたのが分かるよ…懐かしいね、でも七海さん何だか雰囲気変わったね」


七海「うっせ!」


善「中学の時の生徒か…相当ヤンチャしてたか?」


建「いや、本当に真面目な娘で…」


七海「ゲンゴロウ!余計!な事言うなボケ!」


善「超反抗期か…今の若い娘はそのぐらいの元気がないとな!」大声で笑う


七海「オメェ…ケンカ売ってンのか!」


ミク「善さん、茶化さないの…マスターあの娘に何か暖かいの飲ませてあげて、それと、シャワーと適当な服をよろしくね」


紅茶を飲ませた後に、ミクさんがシャワー室へと案内する。

「あんた達!年頃の女の子がシャワーするんだから近寄んないでね!」

俺達に人差し指を差し七海をシャワー室に案内をする。

「オメェもだろっ」と半笑いで善が言う。


何か微妙…


2階のシャワー室。

ミク「ここがシャワー室、体冷えてんだから温まりな…下着は無いから。」


クローゼットの中をあさり

「あのおっさんのTシャツ、デカいけどそれと…あっ、このジャージで良いじゃん…おっさんしゅうするけど(笑)風邪ひくよりはましだろ、着替えたら降りてきて…マスターに何か飲み物用意させるから…じゃあ。」


ミクは下のフロアへと降りて行く。


2階から降りてきたミク「何か少し身体が冷えたかな…マスター、ウオッカショットで」

と言ってカウンターに座る。


座って間もなく提供したウオッカを『グビ』っと一気飲みする

「かぁ~!しみるぅ~!」と声をだっす。


「マスターもう1杯!」

流石ミクさん、この人は相当お酒がお強いようで…



やがて、七海が降りて来た。


「ハハハ!私よりダボダボね」

ミクが笑う

子供が親の服を着たような裾が完全に伸び伸びでズボンの裾も何回折ったのだろうベーグルの様に見えた。

「可愛いじゃんここに座りな」とミクの隣に座らせ、左から善さん、七海、ミクさん、建さんと座った。


ミクさんが「マスターこの娘に何か飲ませて」


七海は少しムッとした様子で

「この娘じゃねぇ、七海。」


ミクさんは頭をコクっと軽く下げ

「ゴメン…じゃあ七海、何を飲む?」


七海はカウンターのテーブルを一点見つめて「ビール」


建さんはその場を立ち上がり七海を見て「七海さん!18才じゃなかった?お酒はまだでしょ!」


七海「良いじゃん別に!」

少しふてくさらた様子の七海。


善「光彦、ビール飲ませてやれ…ここで飲まないと言っても他所で飲んでるんだろ…なっ七海?建さんもこの七海の元教え子だけだっただけで、もっと大人として見てやりな!」


建さんは何か言ったそうだったが、また席に座った。


俺は「はい」

ビニールの入ったグラスを七海に提供したのを過剰に反応する建さんを無視をした。


直ぐにビールを飲み干す七海。


善「おっ流石良い飲みっぷりだ!」


あれっ?と言った様な表情をする七海

「これビール?」


「ああビールだよ…もう1杯飲む?」


コクっとうなずきグラスを出した。


グラスに2杯目のノンアルコールビールを出した。


「あれ?これビールじゃねぇ!」

七海は気付いた。


俺は思わず笑ってしまった「気付いたか!ノンアルコールビールだよ…ここは俺の店だ!、未成年と知ってしまった以上、俺が未成年にアルコールを提供したら捕まってしまうからな…ゴメンだけどノンアルコールで我慢しな!」


「皆して私をバカにして!、酒くらい毎日飲んでんだよ!」


「ひどいわねマスター…背伸びするのは誰でもあるわ…マスターもあったでしょ…もう少し、大人として見てあげたら。」


俺も未成年でも酒を飲んでいた、ミクさんの言っていることはよく分かる…だけど、それが大人としての成すべき事と俺は思ってノンアルコールを飲ませる…それでも、「飲ませろ!」と言ったら、今すぐに出て行ってもらうつもりだったが…。


でも…


「ここは俺の店だ…俺が決める!だからここでは未成年にはお酒は提供できない…悪いな。」


「ケチね…じゃねぇ、これはマスターからじゃなく私の物だから、これ一口飲んで見る…」

とウオッカの入ったショットグラスを七海に渡した。


皆が七海に注目をし、七海は私をバカにするなと言わんばかりの顔で、ショットグラスを持ち全部一気飲みした。


「うわっ!!…」


思ってた通りと言うか、吹き出さず飲み込んだのが驚いた。


「ゲホゲホ」


そうだろう…初めてのウオッカはむせるだろ。


「大丈夫?ほんのチョッと口を付ける程度だと思ったけど、全部飲むなんて…ほら、これ飲んで」とミクさんはノンアルコールビールを渡した。


『グビッと』


ノンアルコールビールを飲み干し

「こっちの方が飲みやすいでしょ」と笑みを浮かべる。


少しからかわれて、ウオッカを飲んでむせて、もうさんざんと言った顔をして、七海は今日最悪な日なんだろうな…


「大丈夫か?」

善さんが七海の背中を摩ってあげるのを俺達が声をあげる。


「善さん!」


声が揃ったのに対し、善さんは「えっ?」どうしたの?と言う表情


俺は「今の時代来やすく異性に触れたらセクハラと訴えられますよ!」


「別に、おっぱい触ってないから良いじゃねぇか!」

と少しご機嫌斜めの様子。


「いや、今の時代は言葉一言で相手が不快と思うと大変な事になり得るんですよ!」


「チッ…」

善さんの舌打ち…


スケベジジィに変貌したな。


「フッ」

笑う七海、そして一言


「ありがとう…」


「ほらぁ~」善さんが鼻穴前回のどや顔


七海「正直、背中を触られたはゾッとした。」


善さんはショックのご様子。


ミク「ほらぁ~」善さんの方を見て笑う。


七海「でも、この場の雰囲気…と言うか、皆がとても楽しい…」


ミク「でしょ…ここって何だか落ち着くし楽しいのよ~ねっ!」

それに対して、善さんと建さんもニコッと笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」

俺は皆にお礼。


七海「この店どうして始めたの?」



「どうして…うん~」



「ここを始める前は普通にサラリーマンをしてたんだ…疲れた、毎日しんどかった人間関係や仕事関係にそして時間が…辞めて逃げてしまった。


気付いた時、逃げた先は家の前。


俺は家に引きこもりをするつもりだった、イヤ、家しかなかった。


だけど、俺には双子の弟がいて「ここに居られるのは迷惑だ」って。


「引きこもるのなら、叔父さんの店に行っくれ」って言われちゃった。


叔父さんがこの店を閉めようとしてたから引きこもるつもりが、今度は叔父さんが「ここに住むのなら家賃は要らない代わり光熱費はこの店で稼いで払ったらどうだ」って。

人前に出るのも本当は嫌だったし怖かった。ここで1人で住むにはお金がいる…だから始めるしかなかった。


始めた当初は本当、ドキドキだったよ…


でも、建さん、善さん、ミクさん達に会えたことに今は感謝だね。


多分、弟は心を鬼にして俺を追い出したんだと思う。

それと叔父さんも、自分が働かなければ生活ができなくなる、だから強引に店を次がせたんだなって…

まっ、始まりはネガティブなスタートだったけどそれが始める切っ掛けだな。」


「あれ?」


「しーっ」


ミクさんが右人差し指を自分の口に当てた。



七海はカウンターテーブルに腕を伏せて顔はミクの方を向いて寝てた。

「どんなに背伸びしても寝顔は子供だね」


善「どれどれ」と寝顔を見ようと立ち上がる


ミク「ダメ!スケベジジィ~」小声で言う。


善「ケチ!」すねて座る。


建「そうだね…中学生の頃は真面目な良い子だったけど、卒業したその後何があったのかな…」


善「この子にも色々な事もあっただろうよ…」とハイボールを飲んだ。


ミク「今夜は泊まらせてさあげて…マスターがこの子にもイタズラしないように私が見守ってるから…毛布ある?風邪引いちゃうからちょうだい」


「誰がイタズラするか!」

七海を起こさない位の声で言って2階から毛布を持ってきた。


時計を見たらもう夜中2時を過ぎていた。

祭りもとっくに終わって、外の雨もすっかりと止んだようだ。



祭りの後の静けさ…もうすぐ秋だな。



気が付くと俺達、それぞれの椅子で寝たいた。



建さんは奥のテーブル席に、善さんはもう1つのテーブル席に足を乗せイビキをして寝てる。

ミクさんと七海はカウンターで

俺も店の隅にある小さい丸椅子で壁にもたれた寝てた。



『カチャカチャ』



何か音がする…


目を覚ますとカウンター内で、七海がグラスを洗っていて隣ではミクさんはコーヒーを入れていた。


ミク「あっ、目覚めた?コーヒー飲む?」


「あっ…おはよー」

回りを見ると、建さんと善さんはいない…もう10時を過ぎていた。


「あれ、建さんと善さんは?」


「2人とも朝早く出てい行ったみたい…年寄りは朝が早いから」ミクさんは笑い


「はい、コーヒーどうぞ」

ミクの入れたての温かいコーヒーをもらった。


「七海ちゃんグラス洗ってくれて有難う。」


七海「助けてもらったから、お礼…」


片付けも一段落したようで3人でカウンター席に座りモーニングコーヒータイム、しばらく無言で温かいコーヒーをすすり飲む音がするだけ。



しばらく沈黙の時間。


最初にミクが言葉を発した。

「じゃあ私帰るね」

ミクが席を立つ


「私も」と七海も立ち上がる。


店を出て俺は2人を外まで見送る。


空を見上げると青々した秋の空、気持ちいい天気。


ミクさんは両手を高く伸ばし

「あーっ…気持ちいいね…マスターお疲れっ!じゃあ!またね!」

俺に手を降って、七海も「ありがと…」と言ってミクさんの後ろに付いて行った。



「気をつけて行ってらっしゃい」

俺は見送った。


今年の夏は何だかバタバタしてたな…でも、何だか楽しい夏だった。


俺も両手を高く伸ばしおおアクビ


「さてと掃除をしなきゃ」

俺は店内に入った。



人が集まるbird 夏物語

終わり







私もたまに居酒屋、スナックに行ってお酒を飲む時があります。

人それぞれの飲み方、色々な会話。

楽しかったり。

悲しかったり。

この夏物語は自己紹介から始めようと思い書いてみました。

この後、秋物語や冬物語と続けて書けたら良いなと思います。

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