彼女に振られた話
今日、彼女に振られた。
1年ほど付き合っていた彼女に放課後、帰り際に別れを告げられた。原因は話によく聞く好きかわからなくなったことらしい。そう告げられた時、俺はそうなんだという感想しか浮かばなかった。
彼女のことはもちろん好きだ。しかし、想いがなくなってしまった以上、そこにしがみつくのもお互いにとって良くないことだろう。今までありがとうというありきたりな言葉を告げ、目に涙をためながら袖で拭っていた彼女の前を去った。
別れてしまったことは残念だと思う。でも昔から切り替えが早かった自分なら明日にでも吹っ切れて普段のように過ごすことができるだろうという確信があった。引きずっていても良いことはない。すっと切り替えようと思いその日は布団に入った。
「朝か…」
冷たい空気が頬を撫でる不快感で目が覚める。表しようのないじめじめとした感情が体を這いずり回り、いつもより起きる気になれない。そんな自分を不思議に思いながらもなんとか体を起こし、学校へ向かう準備をした。
暖かいコーヒーを飲みながら家を出る時間を待っていた。しかし、時間になっても家のインターホンが鳴ることはなかった。そんなことに気づかなかった自分に笑ってしまう。
「そうだ…別れたんだ」
毎朝迎えに来てくれる君を当たり前に待っていたなんて本人に伝えたらなんて言うだろう。いつものように眼を細くして笑ってくれたんだろうな。昨日までなら。
家を出た後もなぜか思い出すのはいつもの彼女のことだった。通学している隣で寒いねと手をこすりながらこちらを見る彼女。寝ぐせついてるよと俺の髪を触りながら微笑む彼女。毎朝歩いている筈の道なのにいつもの心地よい時間はなく、肌寒い風に吹かれながら一人で歩く。いつもは気にも留めなかった雑談や笑い声などが耳に入り、こんなにも騒がしい場所だったんだなと気づいた。
彼女と二人の時間は周りの音が入らないくらい楽しかったんだなと今更気づいた。一人になっただけなのに、昨日までいた世界とは別の場所にいるような孤独感を感じる。空を楽しそうに飛ぶ鳥の声が嫌に耳に残った。
学校についても、授業が始まっても、頭の片隅にはなぜか君がいる。
教室の中を見れば笑顔で友達と話す彼女がいる。でも昨日までとは違い、話しかけに来ることもこちらを見て微笑んでくれることも一切なかった。今までの思い出は自分の夢だったのではないかと思う程、今日の学校は退屈だ。
帰り道でも昔のことが頭の中を何度もよぎる。彼女と手をつないで帰ったこと。寒いのか手をこちらのポケットに入れてきたこと。帰り際にさみしがる彼女を抱きしめたこと。その時に感じた体温や香りがとても心地よかったこと。
今の自分にはもう実現しないのだろうと分かってしまい、鼻の奥がツンと痛み双眸からは涙が流れた。別れを告げられた時に止めていればという後悔が溢れて止まらない。仕方ないと大人ぶっていた自分が大嫌いになりそうだ。それでもこの選択をしたからにはもう何もできることはない。家に帰ってからは布団の中から出ることができなかった。
あれから一月が経ったが、今でも隣に君のいない左側に慣れることができない。あの頃より眺めが良くなったはずなのに、その眺めを遮っていた1番美しい景色を見れないことが酷く痛いんだ。