石ころ勇者
今、最終決戦が始まる。
俺は魔王城の前で聖剣エクスカリバーのグリップを強く握り自らを鼓舞した。
思えば長い戦いだった。
それが今日終わる。
15歳だった俺も今や三十路……思い出に浸っていると、
俺の元に金髪でホストチックな姿をした魔王城からの使いが現れた。
聞くところによると、魔王から伝言があるという。
内容は………
「勇者さん、私に攻撃の意思はもうありません。示談で済ませませんか?」
俺は思わず絶句した。
俺はこの15年間、みんな大好き日本から不慮の事故で転生したのにも関わらず、魔王を討伐したら元いた世界に帰してやるとだけ言われ、神からのチートボーナスを貰えず、仲間も作れなくて1人でここまで強くなり、後一歩で世界を救い、愛しのゲームや漫画がある自室へと帰還出来るというのに…
魔王を殺せなかったら帰れねぇだろぉおおぉぉぉぉお!!!!
俺は声を出さずにその場で転がり込みジタバタした。
「あのぉ、勇者さん、とりま魔王さん呼んでるんでぇー着いてきて貰っていっすか?」
なんだこのギャル男みたいなノリの魔族は…って言うか金髪でスジ盛りってただのギャル男なんですけど!ギャル男から角生えただけじゃねーかコイツ!
なんてツッコミどころ満載だがそんな事より魔王だ!
俺は謁見の間へと案内され、そこで衝撃の光景を目の当たりした。
なんとご馳走が用意され、綺麗なサキュバス達がダンスなど出し物をしていたのだ。
そして、魔王が座っている椅子より明らかに煌びやかで豪華な玉座に座らされ、多分本来の玉座はこれなんだなと思いつつ用意された食べ物に手をつける。
すると、魔王が腰を低くしながらそそくさと近づいてき目の前で正座をし話し始めた。
初めて見た魔王は想像とは遥かに違い、背が低く、か弱そうな黒髪ロングの女の子だった。
「わざわざこんな辺境の地まで御足労いただきありがとうございます。早速でなんですが、今後についての話し合いの方をさせて頂きたいのですが?」
「(待て待て待て、めちゃくちゃ礼儀正しいんですけど。俺が日本人だからなのか正座してるし。ていうか、ほんとにこんな子に世界滅ぼされそうなのか?)」
俺は困惑しながらも、しっかりと、日本に帰るために討伐しなければならない事を伝えた。
不意打ちで倒してしまう事も考えたが、それじゃ、どっちが魔王なのか解らなくなる。
「なるほど、左様でございますか。でしたら私の宝物庫にある伝説級アイテムの1つである。次元を超えることの出来る魔道具があります。ただしそれを使うには生贄が必要で、かなりの魔力を持つ者を生贄にする必要があるのです。」
「でも、そんな生贄なんてどこにいるんですか!?……あ!もしかして用意してるんですか!?」
俺は帰れる兆しが見えて思わず、勇者で有るまじき発言をした。
その様子に若干魔王も引いていた。
「目的のためなら手段を選ばないタイプですね……えっと、生贄には私がなるので御安心を…」
驚き過ぎて空いた口が塞がらない。
しばらく口を開いたまま言葉を発せずにいると口が開いたまま魔王に宝物庫へ案内された。
俺は魔王の言葉が信じれず、本当に生贄になってもいいのか聞いた。
すると、魔王は不敵な笑みを浮かべながら口を開く。
「大丈夫です。私にとってもその方が都合が良いので…」
絶対に怪しかったが、別に元の世界に帰れるのであればこの世界がどうなろうと問題ない。
さっさと読み切れなかった漫画やゲームの続きをしたくてたまらなかった。
「やったぁぁぁあぁ!!!!帰れるぅぅぅうううう!!!」
思わず叫び喜んでしまい魔王の冷ややかな視線を感じた。
そのまま魔王は何も言わず再び案内をし始めたので少し気まずい。
宝物庫に着くと想像してたより地味で全然煌びやかではなかった。
なんなら埃っぽい。というかどちらかと言うとここは倉庫のような感じがする。
一見ガラクタの山にしか見えない所から絶対に雑に扱ってはいけないであろう魔道具をいくつも投げ飛ばす。普段から片付けられないタイプなんだろうな……。
「こちらです。こちらの魔道具で貴方を元の世界へ返して差し上げます。」
探すのにかなり手こずっていたのにも関わらず、涼しい顔をしてまるで元から準備していたものを紹介するかのような言い回しをした、かなりプライドが高い変な奴。
俺はとにかく帰れることで頭がいっぱいで早く魔道具を使うように急かした。
「ちょ、早く!もう!お願い!早く帰りたいんっすよ!」
「肉体だけ年をとって、精神年齢は時が止まっているみたいですね……哀れな人……」
魔王は毒を吐きながらも、魔道具の首輪の様なものをつけ自分を媒体にし、鎖の先に繋がっている水晶のような魔石からプロジェクターのように光を発し光の扉のゲートを出現させた。
「さぁ、ゲートを潜るのです。さすれば元の世界に帰れるでしょう。」
「ほんとにありがとう!じゃぁッ……」
ゲートを潜り抜けようとすると体が突然動かなくなった。
宝物庫の扉が開き、俺を嘲笑いながら金髪スジ盛りのチャラ男が現れた。
「残念だったっすねぇ。さっきのご馳走様に麻痺毒を盛ってたんっすよ〜。まさか何も疑わずに食べちゃうとは思わなかったっす。馬鹿っすねぇ〜。でも、こんな簡単に邪魔な勇者を片付けれるのってチョーラッキーっすわ〜。あ、あと、1番邪魔なお前も消せるっす。魔王ミルスフィア」
俺は困惑した。どうやら魔王に嵌められたのではなく、チャラ男の反逆だった事、それにチャラ男は俺を狙っていたのではなく、1番の狙いは魔王だったのだ。
「貴方、裏切るのね…」
「当たり前っすよ。アンタの支配はチョーしょーもないっすからねぇ、ここらで俺ちゃんが魔王になってこの世界をもっと面白可笑しくしてやるっす!」
「私を魔道具の代償で封印しても安心しない事ね、必ず復讐してやるから。」
「あー、その事なんスけど…俺ちゃん色々考えたんッスよ。アンタを異世界に吹き飛ばして〜、勇者を封印したら〜、ど〜なるッスかね?チョー楽しみじゃないっスか?いっちょやって見るッスね!」
俺と魔王は必死に抵抗したが、体が全く動かせずされるがまま立場を入れ替えられた。
「お前、何やってるんだよ!魔王を封印して俺を元の世界に返せよ!!別に封印出来るならそれでいいじゃねぇか!頼むから元の世界に返してくれぇぇぇぇ!」
「だーかーらー、それじゃ俺ちゃんに色々問題があるんッスよ。つーか勇者として有るまじき発言っすねぇ」
「貴方!本当にそれでも勇者なの!?本当に人々を守る気で今まで戦ってきたのかしら、つくづく反吐が出るわ!」
「うるせぇな!好きで勇者やってんじゃねぇぇんだよ!このクソロリっ子魔王が!!!!」
「なんですって!!私はこう見えても何百年もいきてるのよ!!ロリじゃないわぁぁああぁ!!!!!」
「あー、そーいうやり取りダルいんでさっさと消えちゃってもらっていいッスかね?」
チャラ男は仏頂面で首輪を俺につけてきた。
その瞬間意識が朦朧とした。ただ、魔王の激怒した金切り声が頭に響き頭痛がする。
そしてぼやけた視界からかろうじでゲートを見つめていると、魔王がチャラ男にゲートへ放り投げられ消えてしまった。
「チョーリーーーッス!」
刹那、俺は地面に顔面が引っ付いていた。
意味がわからず起き上がろうとしても手も足もない。
すると、チャラ男に拾われた。
息のかかる距離に顔を近づけられた時、ふと冷静に顔を見たらコイツなかなか不細工だなと思った。
そんなことを考えているとチャラ男が何か騒ぎ始める。
「チョーリーーーッス!勇者っち!おつかれっした〜。てな感じで、これから一生何も出来ない石ころの姿で過ごしてくだサーーイ!」
必死に抵抗しようとしたが、ピクリとも動けず。なんと、言葉すら発せない。俺は城の外まで持っていかれ宙を舞った。
「じゃ!勇者っち、いってらっしゃ〜い!!」
雲を切り、風を切り、今まで経験したことの無い速度で空を飛んだ。チャラ男からしたら一瞬で星になっただろう。
「フォォォオオォ!チョー速いじゃん!!マジ一瞬で星だって!チョーイカしてんだけど!俺ちゃんの肩つっっよ!俺ちゃんセンスいいわぁ………ってな感じでぇ、今日から俺ちゃんが魔王だからよろぴく〜。世界のみんな〜!俺ちゃんチョー支配するから〜よろぴくねぇ〜!!!」
それからどれだけの時が経っただろうか。気がつくと俺はどこかの森のような場所に不時着していた。
幸い山道のような場所だったので、来る日も来る日も冒険者達が通りがるのだが、誰も俺に気が付かない…。動くことはもちろん、声も出せないのだ。完全に詰んだ。死んだな。もう終わりだ。最終回だな〜。なんて事を一年近く考えてたら、ある日気弱そうなヒョロヒョロの15歳ぐらいの青年が山道をなにかブツブツ言いながら歩いてきた。
「ぼ、僕は死なない……まだ詰んでない…終わってもないぞ…!」
なんか、変なヒョロがりモヤシだなと思いながらも、いつものように人に気づいてもらうよう念を送っていた。
「(ここだ、気づけ、拾え。)」
すると、不思議と少年は俺の念を感じ取ったらしく当たりをキョロキョロし始めた。
「なんだ!?だ、誰だよ!!驚かそうったってそうはいかないぞ!僕は冒険者なんだ!返り討ちに、し、し、してやる!」
「(お、念が聞こえるのか?てか、ビビりすぎだろお前。本当に冒険者なのか?)」
少年は石ころの俺を見つけると、びっくりして腰を抜かした。
「石が…!しゃ、しゃべ、しゃべって、る!!え、は?えぇえええ?!?!」
「(いちいちうるせぇなこのガキは…。)」
「す、す、すみません!!!!」
「(本当に声が聞こえるんだなぁ、ま、いいや!とりあえず拾ってくれ!)」
「はぇえ?!」
少年は戸惑いながらも石を拾い上げた。
少年は恐る恐る話しかけてきた。
「こ、こんにちわ…」
「こんにちわ」
「うわ!!ほんとに喋ってるッ!!!」
少年は絶叫し俺を草むらに投げ捨てた。
「て、てめぇ!何しやがんだ!!!」
「ひぃ!ごめんなさい!!」
情けないが少年に拾ってもらうよう説得し、なんとか普通に会話ができる状態まで落ち着かせた。
まずはお互い自己紹介だな。
俺が勇者ってことを教えてやってビビらせてやるか。
「俺は黒川ヒイロ。今は石ころだけど元はちゃんとした人間なんだ、一応この世界を救う勇者だったんだ。」
簡潔に自己紹介を済ませ、俺は勝ちを確信した。数秒後のこのガキの反応は目に見えてわかる。俺を崇め奉り、あまりの感動に涙すら流すだろう。少しカリスマ性を出しすぎたのかもしれないそう思っていた。
だが反応は180度違った。
少年は目を丸くしたまま固まり、しばらくすると俺は信じられない事実を告げられた。
「勇者…?伝承でなら聞いたことありますけど、おとぎ話ですよね?からかってるんですか?」
え、仮にも俺、魔王討伐直前まで世界救ってきたよね?確かに俺は仲間はいなかったし救った街の住人とかとはあんまり話さなかったけど、それでもさ存在ぐらいはさ…え、今までの15年の冒険なんだったの……
少年は悪気なく俺に追い打ちをかけてきた。
「というか、勇者って伝承では付き人の女神様と降臨なされて選ばれし仲間を集めて魔王を討伐し世界に再び光を与えてくれる存在って言われてますけど、もし仮にあなたが勇者だとしたら、仲間や女神様はどこにいるんですか?あ、あと勇者って石ころになる能力とかあるんすか?もしモンスターにでも石ころにされたんだとしたら「弱すぎ」やしませんか?」
俺は返す言葉が無かった。なぜなら「その通り」だからだ。
本当は俺にもサポートしてくれる女神がいるはずだった、だが俺は異世界転生したその時まだ15歳の思春期少年だった。それがいけなかったのだ。神に呼び出された時、同時に担当の女神も呼び出されていた、その女神の露出度の高い衣裳と2次元にも優る圧倒的美貌と豊満なボディに俺はテントを貼りっぱなしだった。勿論平然を装いクールな顔つきで人生で1番のキメ顔をしていた。まぁ、腰を引きながら……それを見た女神は俺を軽蔑しあろう事か神には「テントの勇者」などと変なあだ名を付けられ勇者でありながら不純な魂の持ち主という理由でチートボーナスが貰えなかった……。
まじでふざけんなよ。クソムカつくんだが、あの髭ハゲ親父あいつも女神のケツ追っかけてただろ!
絶句し1人で考え込んでいると、少年は不安げに口を開いた。
「あの、もう行ってもいいですかね…?」
「ちょ、待てよ」
というか、そんな話どうでもええわ!!
俺が今聞きたいのはこの世界がどうなってるかとかそんな話なんだっつーの!!!
俺は少年にまた話の主導権を握られると厄介なので、質問攻めした。
「てか、お前名前なんて言うんだよ」
「ぼ、僕はリュカって言います。あ、その」
「どっから来て何をしにここを歩いてたんだよ!」
「え!、いや、ココヤシ村という所から新しく魔王になった白鳥沢流聖と名乗るアークデーモンを倒すため旅をしています。あの〜」
「で!その魔王ってどんな奴なの?!」
「あ、金髪の髪の毛がスジになって特徴的で人間のような姿をしているだとか、で、」
「でさ!異世界転生者っているの?
てか君ステータス低いのになんで冒険に出てるの?
他にも魔王討伐に向かってる人いるの?
お母さんやお父さんは?
あと、シャンプーなに使ってる?
風呂入る時はどこから洗う?おれ右足
ラーメン食ったあとって何故か咳き込むよな!
マック食べたあとのオナラって臭くね?」
「ァァアアアァアアァアアァアアアァアァ!??????」
少年は発狂し俺を投げ捨て逃げ出して行った。
しまった、今の姿の俺は身動きが取れない上に誰ともコミュニケーションを取ることができない。
あのガキが世界でただ1人の俺の理解者なのだ。
俺は無我夢中で念じた。
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
あのガキを追いかける
すると、不思議と体が宙に浮き自由に空を飛ぶことができるようになった。
颯爽と飛び立ち全速力でガキを追いかける。