第三話 家族として、兵士として、師として/終
お久しぶりです。色々忙しかったので投稿が遅れました
「…………」
アイリス先生を止めるため、ね。
ヒムラー長官は、《《昔から変わってなかった》》のか。
……。
…………。
………………。
彼なら。
彼なら、託せるかもね。
私には出来ないことがヒムラー長官には出来るかもしれない。
大ドイツ銀翼突撃党に呑まれきらず、フリューゲル一族でもない彼ならアイリス姉さんを最後の最後で止められるかもしれない。
「ヒムラー長官」
「何かな?」
「私は、あなたの事をあの日からずっと誤解していました。申し訳ありませんでした」
椅子から立ち上がった私は、頭を深く下げた。
すると、優しい口調でヒムラー長官は私に頭を上げるように命じる。
「別に構わない。誤解させるような行動をしていた自覚はある。ほら、席に座りなさい」
「了解です」
「さて、私はもう話すことはないが、君はどうかな?」
「……ヒムラー長官。いえ、ハインリヒ・ヒムラーさん」
「改まって、どうしたのかな?」
彼は、真剣な表情で私の方を見る。
「ヒムラー長官としてではなく、ハインリヒ・ヒムラーという人間個人にお願いがあります」
私は、ついにそう口に出す。
あぁ、やっと見つけた。
復讐国家の飼い犬にしかなり得ない私が決して出来ない事を頼める相手を。
これで心おきなく……。
姉さんと総統閣下の計画した狂った戦争に行ける。
「私個人に、か。これは、大変な内容のお願いをされそうだ」
「ヒムラーさん、もしナチズムや銀翼党の復讐戦争主義の観点から見てさえおかしな事をアイリス姉さんがしようとしたら止めて欲しいのです。殺してでも」
「……なるほど。ちなみに、君自身はやらないのかい? 君は国防の軍人だ。私たち親衛隊より良い武器だって持ち出せるだろう? それに、確かに私は先生に心酔しているし、忠誠だって誓っている。しかし、あくまで他人だ。その点、君は先生の実の妹だ。家族だ。止めるなら君自身の方が良いのではないかな?」
「……家族で、軍人だから止められないのですよ。私は家族だから姉さんほどではないけど、旧協商国や革命を起こしてそれを支持したドイツの自由市民に対する復讐心があります。それに、私は軍人です。そして、軍人とは国家の暴力装置であり、中央政府の指示に絶対従わねばなりません。もし、私一人が武力を用いてドイツ国政府要人であるアイリス・フォン・フリューゲルを排除したら、それを理由にやがてドイツ国防軍全体が軍人ではなく野蛮人化することは明白です。故に、私には出来ないのです。姉さんを止めることは」
その発言を聞いたヒムラー長官はしばらく目をつぶってしばらく考えていた。
その後、覚悟を決めた表情を顔に浮かべながら口を開く。
「……私は基本的に親衛隊の秩序を乱すような事はしたくないが、今回はアイリス先生に関する事だし、君の頼みだ。良いだろう、君の代わりに先生のブレーキ役を務めて見せよう」
「ありがとうございます、長官」
「では、私はこれで帰らせてもらうよ」
こうして、私とヒムラー長官の対談は無事に終了した。